レースとは無縁な最高出力100馬力という適度な性能のミドルツインエンジンと、フラッグシップモデルと比べても遜色ない最新の電子制御を組み合わせる。ありそうでなかった新たなコンセプトで誕生したイタリアンミドルスーパースポーツ「アプリリアRS660」が、待望の日本公道デビュー! ヤングマシンテスターでおなじみ丸山浩氏の試乗レポートをお届けする。
●まとめ:田宮徹 ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:アプリリア
回して楽しいエンジンと誰でも楽しめるパッケージ
たとえば250ccでバイクの世界に踏み込んで、スポーツライディングの楽しさに目覚めたライダーがステップアップする場合、本来は受け皿となるべきなのは600cc前後のミドルクラス。ところがこれまでのラインアップには、ちょうどいいモデルが本当に少なかった。レースでの使用を前提に設計されたモデルだと、1000ccほどではないとはいえやっぱりハードルが高すぎるし、そうではない車種だとスポーツライディングに特化して考えると物足りなさもあって…。という現状に一石を投じるかのように、海外市場では’20年から、そしていよいよ’21年春から日本にも導入が開始されたのが、アプリリアのRS660だ。
エンジンは水冷並列2気筒。その事実だけを切り取り、これまでのミドルクラス2気筒モデルをイメージして落胆する人もいるかもしれないが、それは間違いだ。4気筒と比べてもまるで見劣りしないほどスポーツ性が高いエンジンなので、公道でスポーティに走らせるときに穏やかすぎると感じることはまずないし、ラップタイムはともかくとして、サーキットに持ち込んでも確実に楽しさを得られるだろう。
パラレルツインエンジンだが、高回転まで回して楽しい。これがキモ。低回転域ではマイルドなので市街地でも扱いやすいのだが、一方で高回転域にはパンチがあって、その領域を使う快感が秘められている。これは4気筒の特性に近いが、4気筒スーパースポーツだと600ccでも楽しい領域まで公道で使うのは法規と道徳の面から不可能に近い。対してRS660の2気筒エンジンは、同じ”高回転”という表現でももっと低いところから盛り上がり、なおかつ600ccスーパースポーツよりは馬力がやや少ないので、公道でも十分気持ち良さを味わえる。
ストリート用に用意されているライディングモードは3種類で、このうちプリセットは2種類。”コミュート”のほうがマイルドな味つけだが、操作に対して不自然なフィーリングはないので、市街地を移動するときや、ツーリング後半で疲労からスロットルワークがややラフになってきたような場合には、こちらを選択するのも悪くない。
一方でワインディングを満喫するなら、スロットルレスポンスが鋭くパワフルな”ダイナミック”を使いたい。あるいは、多彩な電子制御の設定を個別に任意設定して保存しておける”インディビジュアル”を呼び出せば、自分好みの電子制御セッティングで走れる。
シートは高めで、これが唯一とも言えるネックだが、これを下げてしまうと本格的なスーパースポーツの雰囲気にはならない。ここは割り切って乗りたい部分だし、シート高はあるが相対的にハンドル位置も高めにセットされているので、前傾姿勢はキツくなく、ツーリングでも疲れにくい。
ハンドリングは、そんなライディングポジションの影響もあり、近年のスーパースポーツみたいにフロント荷重をガッツリかけて曲がる特性ではない。寝かし込みは軽快かつ早いが、前輪荷重をかけにくいことから最初にグイッと旋回するイメージはないのだが、スロットルを開けてリヤ荷重を加えてあげると、2次旋回でおもしろいように曲がる。フロントに乗るようなスーパースポーツの車体姿勢だと、今度はリヤに荷重をかけるのが難しいのだが、RS660はちょうどいい場所に座っているという印象で、リヤへの荷重移動もしやすい。スロットルのオンオフあるいは荷重移動によってバイクがどのように旋回するのかを学ぶのにも最適なバイクだ。それと同時に、このハンドリング特性であることで、スーパースポーツスタイルだけど市街地でも扱いやすい。
電子制御は非常に秀逸。公道用のプリセットは初中級者向けというような印象だが、任意設定モードもあるし、メニュー画面でサーキット向けに切り替えればさらにアグレッシブなモードも選べるので、上級者でも満足できる。ちなみに、クイックシフターの制御も非常にハイレベルで、市街地走行時にもストレスなく使えるほど低回転でもスパスパとシフトが入った。
リッタースーパースポーツというのは、ちょっと特殊な乗り物。各社のフラッグシップなので高性能化が進み続けるのは当然のことかもしれないが、200馬力オーバーでとてつもなく高価なバイクを誰にでも薦めるという気にはなれない。対してRS660は、外国メーカー製であることをネガティブに感じていないなら、ぜひ多くのライダーに乗ってもらいたい、公道で誰もが楽しめるバイクだ。
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