カワサキからメグロK3が登場し、瞬く間に年間計画台数の200台が売れてしまったという状況の中、そのご先祖様にあたるメグロK2に乗る機会を得たのでインプレッションをお届けしたい。36psの最高出力を発生する496ccの空冷並列2気筒エンジンは、“単車を転がす”ということの意味を教えてくれるかのようだった。
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:真弓悟史
1965年モデル、56年前のカワサキ・500メグロK2に感動!
エンジンを始動する、それだけで感動できるようなバイクに出会う機会はめったにない。思いのほか柔らかいパルスに威風堂々のサウンド、それでいて煩いとは感じない496ccという排気量。1965年に発売されたカワサキ「500メグロK2」は、ただ走らせる行為そのものに『バイクに乗っている』という実感があふれる名車だった。
筆者は1974年生まれなので、メグロどころか、直接的な後継モデルであるW1シリーズも現役の時代は知らない。Z1/Z2ですらも、この業界に入ってから初めて触れる機会を得たくらいだ。出版社に中途採用で就職した1999年は、新たなWシリーズとしてW650が登場した年でもある。
そんな筆者にとって、白バイなどの歴史を振り返る際には必ずその名が登場するメグロK2は、畏敬の念すら抱かせる存在だ。ブランド名の基になった目黒製作所の創業は大正13年(1924年)で、1960年発売のメグロ スタミナK1の後、紆余曲折を経てカワサキに吸収合併された。ブランド名を残した新体制で初めて手掛けた4ストロークビッグバイクがメグロK2だという。
現車はオーナーのご厚意で貸し出されたものであり、見ためには56年前のバイクとは思えないコンディションの良さ。元々は白バイだったものが民間に払い下げられ、写真のような車体色に塗装されたのちに代々オーナーに継承されてきた1台だという。マフラーが後継機種であるWシリーズのものに換装されている以外は、基本的にノーマル状態を保っているようだ。
たたずまいは、現代のメグロK3と似ているようでけっこう違う。K2はエンジンの上にちんまりと収まった燃料タンクやフラットで厚みのあるシート、相対的に低く見えるステアリングヘッドと高く堂々とした位置にあるハンドルといったところがアイコニックで、いかにもリアルクラシックバイクなのだ。ところがライダーが跨り、シートに収まると、K2とK3はかなり似通った雰囲気になるから面白い。
メグロK2のシートは、現代のバイクに慣れた身からすると独特だった。意外と幅は狭くオフロード車のような感じもするが、ユニークなのはシートクッションにスプリングが使われている点。サスペンション性能が優れているとは言えない時代のバイクだけに、路面からの衝撃はシートとの合わせ技で吸収するわけだ。ハンドルグリップ位置やステップ位置は旧車のそれで、いわゆる殿様乗りのライディングポジションである。
さて、乗って走り出すまでに様々な儀式を行うのが旧車と現代のバイクとの大きな違いと言っていいが、このメグロK2は車両コンディションが良いためか、拍子抜けするほどイージーだった。まずは燃料コックをONにして、続いてメインスイッチをONに。淡いオレンジでメーター横にほんのりと光るニュートラルランプでギヤがニュートラルに入っていることを確認したら、普通にキックペダルを踏み下ろすだけだ。
気温や放置期間に合わせて、チョークを使ったり始動前にアクセルを何度か回したりすることもあるようだが、今回は(暖機していないにもかかわらず)あっけなくエンジンに火が入った。2気筒で圧縮行程が分散しているためか、単気筒のように上死点をシビアに出す必要もない。4ストロークの重いクランクをしっかり加速させながら回すことさえ意識していれば、気難しく感じることはないんじゃないだろうか。
ハンドルの右手側にウインカースイッチがあり、左手側にはライトスイッチとホーンボタンが配置されている。アクセルをひねれば重厚かつパルス感のあるサウンドとともにエンジン回転が上がり、エンジンが暖まってアイドリングが安定するまでアクセル操作に気を遣っておけば、とりあえず何も問題はなさそうだ。
よーし、走り出すぞ!
おぉ、普通に乗れる!? ……いやいや、そんなことはなかった!
旧車って、意外と簡単なんじゃないの? ……と思ったのも束の間、最初の洗礼を受けることになった。
チェンジペダルが右側にあるのである。あいや、情報としては知っていたけれど、実際に操作するとなると想像以上に頭がこんがらがる。さらに、スペック的には常時噛合式ロータリー4段変速だが、シーソー式ペダルの前側を踏み込むとシフトアップする逆シフト。踏み込むことでN→1→2→3→4→N、というふうにつながっていくのだ。
冷間時にはオイルが硬いせいか、クラッチの切れが悪く1速に入れる際に「ギャーーッ」と音がするのも心臓に悪いが、これはそういうものと割り切っていいようだ。エンジンが暖まるとともに、次第に解消していった。
それにしても、ただ加速してギヤチェンジをこなしていくことが、すでにスポーツである。右足のシフトアップと左手のクラッチ操作がなかなかスムーズに連動しない。また、現代のバイクよりも回転の上昇/下降がゆっくりで、各ギヤのレシオも離れているので、スパスパとギヤチェンジしていくというよりは、少しだけ間を意識しながら操作する必要がある。
なんとか交通の妨げにならないように走り出したところで、次の難題が降りかかる。そう、交差点だ。
減速して停車するためにはリヤブレーキも使う。これを左足で操作するのだ。幸いなことにクルマの運転では左足ブレーキもできるように練習したことがあったので、ブレーキ操作そのもののハードルはそれほど高くなかったが、右足のカカトを使ってシフトダウンしながら、となると話は別だ。
最初のうちはリズムよくいかず、次の交差点で右左折があろうものなら脳みそはフル回転。右手レバーでフロントブレーキ、左足でリヤブレーキをかけながら右足カカトでシフトダウンし、右手元スイッチでウインカーを作動させる。シフトダウンではカッコよく回転を合わせたいと欲も出るので、アクセルもあおったりする。それらを自分の脳で統合して操作するわけだが、どうにもこうにも円滑に走らせるだけでひと苦労である。
だが、次第にそのハードルを乗り越えていくと、エンジンの気持ちよさが際立ってくる。360度クランクによるサウンドはW800系のメグロK3とよく似ているが、エンジン回転の重厚さと意外なほどの振動の少なさ、そして重たいクランクがピストンの往復毎にブンブンと加速していくさま。そして電子制御のフィルターを通すことなく、アイドリングより少し上の回転から生々しいトルク感が味わえるのは、K2ならではだ。それを右手で操っている実感も濃い。大きめに開ければ排気音は力強くなり、パーシャル気味なら柔らかいサウンドになる。
高めの回転を使っていくと、4.2kg-mの最大トルクを発生する底力感も発揮してくれた。都内の一般道では全くパワー不足を感じることもなく、どフラットに回転上昇していくなかにも、野太いサウンドと相まってドラマチックな加速をしている気分が味わえる。ガバッと開けても角のないトルク特性で、戻したときのエンジンブレーキも意外なほどスムーズ。後継モデルのカワサキW1が荒々しい特性で知られているだけに、K2が、繊細とは言えないまでもある種の上品さを備えていたことは、正直言って予想外だった。
当時のビッグバイクとして高性能を狙ったエンジンであることは明白。最高出力と最大トルクの発生回転数が6500rpm/5500rpmと近く、高回転型を狙っているのは間違いないだろう。一方で、このK2のエンジンはどこか余裕を残しているようにも感じられた。のちのW1では8mmのボアアップで排気量を624ccとしているが、そこまで限界を突き詰めなかったことがK2の“上品さ”のようなものになっているのかもしれない。
ただ交通の流れに乗って、なんの目的もなく走っているだけで気持ちいいし、なんだか誇り高い気分になって、わくわくする。昭和レトロの高級感が漂う、スプリングが仕込まれたシートの上でボヨンボヨンと揺られながら、なんて贅沢な乗り物なのだろうと思わずにはいられなかった。これが昔に聞いたことのある“単車を転がす”ということなのか……。
もちろん現代的な基準で見ればけっして速くはないし、ブレーキの利きもそれなりに気を遣う必要がある。それでも、ハンドリングは(少なくとも街乗りレベルでは)十分にニュートラルだし、なんなら以前に乗ったことがあるホンダCB750Fourよりも自然に感じた場面もあるほど。ブレーキも唐突さはなく、レバーへの入力に比例して、やや控えめに制動力を発揮する。英国車を規範としたエンジンや車体は、現代の基準をもってしても十分に扱いやすく、そして面白いものだった。
残念ながらワインディングロードで試乗することは叶わなかったが、それは近日公開される丸山浩さんのインプレッション記事を御覧いただきたい。
この機会を逃したら、もしかすると一生乗ることはなかったかもしれないカワサキ500メグロK2。貸出しを快諾してくれたオーナーには感謝しかない。
KAWASAKI 500 MEGURO K2[1965 model]
KAWASAKI 500 MEGURO K2[1965 model]写真ギャラリー
最後に余談ではあるが、500メグロK2の誕生年がSR400と13年しか違わないことを知って驚いた。SRの長寿っぷりと、本当のクラシックモデルの生き残りだったのだなという実感に、K2と同じような敬意を抱いた次第。
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