公式回答は「計画なし」だが……

ホンダ「GB350」爆売れに続け! 「GB500」が登場する可能性はあるのか状況証拠を検証

ホンダ「GB350」が発売され、空冷単気筒の鼓動感やサウンドが気持ちいいと話題に。4月上旬に行われたメディア向け試乗会の会場には開発者も姿を現し、インタビュー記事はヤングマシン6月号に掲載している。だが、見逃せないのはそこに展示された超ロングストローク設定のクランクやシリンダーヘッドかもしれない。


●文:ヤングマシン編集部 ●写真:真弓悟史、ホンダ

[証拠1]ライバルのロイヤルエンフィールドには500ccがあるッ!

ホンダ「GB350」が発売された。SNSでは早くも納車されたユーザーや連休明けの納車を心待ちにしているといった報告も多く、さらには受注が多すぎてオーダーが一時休止という事態にもなるなど、その人気ぶりはとどまるところを知らない。

そんなGB350は、そもそもインドで昨年9月に発表された「ハイネスCB350」がベースになっている。インドのファンバイク(非コミューター/趣味のバイク)領域では国産メーカーのロイヤルエンフィールドが大きなシェアを握っており、税制などにより主流の350ccクラスにはクラシック350やブリット350、新作のメテオ350といった人気車種をズラリとラインナップ。ここにホンダが投入したのがハイネスCB350というわけだ。

日本仕様ではGB350へと改名され、ハイネスCB350のベースモデルであるDLXと装備関連はほぼ共通。ちなみに上級モデルのDXL Proが採用するダブルホーンやスマートフォン接続機能は見送られたが、USB充電ソケットはオプションで装着可能だ。

このバイクの魅力は、なんといっても超ロングストローク設定の単気筒エンジンに尽きる。348ccの排気量は、厳密にいえばビッグシングルではないが、KTMのLC4という600ccオーバーの単気筒エンジンを搭載したマシン(660SMCおよび690SMC)を乗り継いだ筆者も“ビッグシングル感あるなぁ”と思えるだけの鼓動感や野太いサウンド、ストライドの長い蹴り出し感を備えているのだから驚く。メディア系の他のライダーも同様の意見が多かったので、個人の感想というわけでもなさそうだ。

とはいえ、やはり実際の排気量にはかなわないところもある。ロイヤルエンフィールドのインド本国ラインナップは350系が中心だが、輸出モデルには500系も取り揃えている。その中で、日本でもまだ店頭在庫が残るクラシック500に比較試乗できたのだが、まさしく好対照だった。車体もまるごとクラシックな造りではあるが、なにしろエンジンの1発1発が柔らかくも力強く路面を蹴る感覚には、やはり499ccならではの余裕がある。もちろん、2つのバランサーを備えたGB350に比べれば振動をはじめとした雑味もだいぶ多いが、それもまた味のひとつと思える不思議な魅力がある。

【ROYAL ENFIELD CLASSIC 500】空冷OHV単気筒を搭載するリアルクラシック。ボアストローク84.0×90.0mm=499ccの排気量から最高出力27.2bhp/5250rpm、最大トルク4.21kg-m/4000rpmを発揮する。車重は195kgあり、重いクランクや鉄リムのホイールなどからジャイロ効果も大きめだが、それもまた味。万人向けではないが、趣味性の高さはたまらないものがある。

いっぽうのGB350は、雑味を徹底的に排除したクリアな鼓動感によって、路面の蹴り出し感や爆発(正しくは燃焼)によるヒット感、排気サウンドなどが強調され、これがビッグシングル感につながっている。いわば引き算の産物だ。

雑味も包括した大きな味わいか、引き算で際立つ芯のはっきりした味わいか、好みによるところはあるものの、誰にでも安心しておすすめできるのは、もちろんGB350のほうだろう。

だかしかし、この気持ちいいエンジンに、さらに大きな排気量を与えたら……。そうだよ、ロイヤルエンフィールドに500があるならGB500もあっていいんじゃないの? なんて思いたくなるのが人情というもの。計算上なら、348cc単気筒の70.0×90.5mmというボアストロークはスクエアまでボアアップすれば90.5×90.5mmで約582ccになるはずだから、そこまではいかなくても500ccくらいは……と考えてしまうのだ。『火のないところに煙を立てる』でおなじみのヤングマシンとしては、ここを検証しないわけにはいかんのである。

[証拠2]試乗会場に鎮座したシリンダーヘッド

4月上旬に開催されたメディア向け試乗会では、会場にクランクとシリンダーヘッドが展示された。大きく重いクランクに前後非対称コンロッドという組み合わせにも語るべきところは多いが、とにかく見たかったのはシリンダーまたはシリンダーヘッドである。

なにを見るかといえば、シリンダー径と、シリンダーヘッドを固定するボルトの距離だ。ここに余裕があれば、それはすなわちボアアップのマージンが残っているということになる。

そしてやはり……! シリンダーヘッドの外周から見たφ70.0mmはシリンダーと同径で、そこからメジャーで計測してみるとスタッドボルトとシリンダー外壁には約23mmもの厚みがあることがわかった。ということは、安全マージンとして15mm程度の厚み残した場合、ボア径はφ86mmになり、排気量は約525ccに。500ccから逆算した場合で言えば、ボア径はφ84mmあれば足りることになる。

左が試乗会場で明らかになったシリンダーヘッドの燃焼室側。スペック表にはSOHCのみの記載だったが2バルブということも判明した。バルブ径の大きい方が吸気バルブ、小さいほうが排気バルブだ。燃焼室の径はφ70mmで、四隅にあけられたヘッドボルトの穴からは約23mmのクリアランスが確保されている。ここからボアアップのマージンを検証してみた。右はヘッドのカム側で、バルブ間にオイルを流すことで積極的に冷却していることがわかる。ある意味この部分は油冷と呼べなくもない。写真下方の空間はカムチェーンが通る。

もちろんこれは状況証拠に過ぎず、ホンダ関係者に聞いて回ったところで公式回答は「その予定はない」とつれない。ではあるが、GB350の売れ行きと評判次第ではその可能性が高まることもあり得るという手応えを感じた。

じっさい、ホンダのエンジンは昔からある程度のマージンを残して設計されている例も少なくない。たとえば2012年に発売されたNC700シリーズから2016年発売のNC750シリーズにモデルチェンジした際には、73.0×80.0mm=669ccから、3mmボアアップの77.0×80.0mm=745ccへと排気量が拡大されている。

左は2012年発売のNC700X、右は2016年に発売されたのち2021年にフルモデルチェンジを果たしたNC750X(写真は最新版)だ。排気量アップとともに鼓動感が強調され、2012年[669cc・50ps/6250rpm]→2016年[745cc・54ps/6250rpm]→2021年[745cc・58ps/6750rpm]とパワーアップ。

また、1994年に発売されたRVF/RC45は72.0×46.0mm=749ccだったが、1998年に発売されたVFR800Fでは2mmストロークアップの72.0×48.0mm=781ccになっている。ギリギリの設計であるはずのスーパーバイクレプリカですらマージンが仕込まれていたのだ。

左は1994年発売のRVF/RC45で、当時の馬力自主規制により749cc・77ps/115000rpm。右は2018年にニューカラーとなったVFR800Fで、781cc・107ps/10250rpmだ。1998年のVFR(800)登場時は自主規制もあって781cc・80ps/9500rpmだった。

これらに比べると、GB350のボア径にはかなりの余裕が意図的に持たされているように思えてならない。

もちろん、500cc化にともない大きくなったトルクに対しケースの強度が耐えられるかどうか、またバルブ径を最適化した新作ヘッドが必要になるといった課題も想定されるが、一方でロングストローク設定の小径ボアでオフセットシリンダーを採用したことにより必要となった湾曲コンロッドが不要になる可能性も考えられる。

こうした状況証拠はかなり理にかなったもののように思え、もしかするとストレートコンロッドの500ccを想定した基本設計をしておいて、348ccで成立させるために湾曲した前後非対称コンロッドを採用したのでは……と勘繰ってしまうほどだ。

いちばん右が件のクランク&湾曲コンロッドだ。

じゃあ、本当にGB500が登場するとしたらどうなるの?

GB350のエンジンフィーリングは本当に素晴らしい。この点を絶賛する試乗インプレッション記事を制作したあと、知り合いのYouTuberに「本当のところ、どうなの?」と聞かれたりもしたが、迷わず「忖度は一切なしだよ」と答えたぐらい、気持ちのいい鼓動感を誠実に造り込んでいる。開発者インタビューでも『この人たちは本当にバイクが好きなんだなぁ』と何度も思った。

もしGB500が開発されるとしたら、同じメンバーで引き続きやってもらえないだろうか、と思ったりもするが、たとえそうでなくてもGB350の持つ気持ちよさを純粋に伸ばす方向で仕上げてくれたら、きっと大満足の1台となるにちがいない。

そんなGB500が登場する(かもしれない)条件は、とにもかくにもGB350がよく売れること。それも日本だけではなく世界中で、である。GB350(ハイネスCB350)は今のところインドと日本のみの発売だが、開発者によれば欧州や米国、さらに世界中のあらゆる国から問い合わせが止まない状態とのことだったので、芽はありそうだ。特に税制や法規の関係で500ccでも問題ない国から強い要望があれば、可能性はさらに高まるだろう。400ccで区切られてしまう日本は、悔しいことにこの点でやや参考にされにくいかもしれないのだが……。

というわけで、ちょっと先走り過ぎているような気もするが、500cc化されたGBの乗り味を想像してみたい。

ストロークが同じ90.5mmでボアアップのみとなった場合、レブリミットはGB350と同等の6000rpmか、やや下がった5750rpm程度になるんじゃないだろうか。ピストン重量が増すぶんを技術やグレードアップした素材などでで相殺してもらうとして、リミットやピークが同じ回転数と仮定してみると、期待できる数値は最高出力28ps程度/5500rpmに、最大トルク4.3kg-m程度/3000rpmになる。アクセルをひねったときの蹴り出し感はかなり強くなるだろうし、サウンドもさらに野太くなるはずだ。

トラクションコントロールシステムに相当する「ホンダセレクタブルトルクコントロール」はキャンセル可能。ダート上でも力強いダッシュを見せたが、500cc化が実現したあかつきには……。

アイドリング(1000rpm前後)~1500rpmの蹴り出しも如実に強まり、官能的な鼓動感とダッシュ力は一段と高まるだろう。ここで2つのバランサーをどのように味付けするかがキモになるかもしれないが、個人的には、ややワイルドさを出すためにGB350よりも振動を残し気味にしてもいいのではないか、と思わないでもない。または4バルブ化せず2バルブのままなら、いい感じに収まるのだろうか。

あと、GB350のように加速時は気持ちのいいパルス感に彩られながら、アクセルを戻すと“ルルルルッ”と静かで柔らかいフィーリングへと変化する美点も残ると嬉しいから、このあたりのバランスをうまく取るか、エンジンブレーキの電子制御でうまいこと(略)

いずれにしても、まだ妄想の域は出ないのだが、状況証拠から見ればGB500は実現不可能なものではない、ということだけは間違いなさそうだ。

500cc化しても引き算の美学を貫くのか、それともワイルドさも身につけた新しいビッグシングル像を提案するのか。その答えは数年のうちに明らかになる……かもしれない……。

【参考】ハイネスCB350が登場した際にロングストローク設定のマシンを比較したもの。ちなみに、ロングストロークで知られたカワサキ「エストレヤ(250)」の66mm×73mmはボアスト比1.106だった。

HONDA GB350[2021 model]

これぞ、みんなが待っていた新世代の単気筒スタンダード! 丸型ケースに収められたLEDヘッドライトにシンプルな造形の燃料タンク、そしてダブルシートへの流れるような水平ライン。ほぼ垂直に立った単気筒エンジンのシリンダーには冷却フィンが刻まれ、空冷であるこをと誇示している。2本ショックのリヤサスペンションにスチール製の前後フェンダー、リラックスしたライディングポジションなど、普遍的なバイクらしさをたたえたこのバイクの名は「GB350」だ。

単気筒トラディショナルバイクとして43年の歴史を刻んできたヤマハSR400がファイナルエディションとなったこのタイミングで、入れ替わるように登場することになるGB350。かつて存在したSR500をも超えるロングストローク設定の空冷単気筒エンジンを搭載し、“バイクらしいバイク”を求める層だけでなくシングルマニアにも注目されている。

灯火類はすべてLEDで、ホンダセレクタブルトルクコントロール(HSTC=いわゆるトラクションコントロールシステムに相当)など装備も現代的だ。

【HONDA GB350[2021 model]】主要諸元■全長2180 全幅800 全高1105 軸距1440 シート高800(各mm) 車重180kg(装備)■空冷4ストローク単気筒SOHC 348cc ボアストローク70.0×90.5mm 20ps/5500rpm 3.0kg-m/3000rpm 変速機5段 燃料タンク容量15L■キャスター27°30′/120mm ブレーキF=φ310mmディスク+2ポットキャリパー R=φ240mmディスク+1ポットキャリパー タイヤサイズF=100/90-19 R=130/70-18 ●価格:55万円 ●色:青、赤、黒 ●発売日:2021年4月22日

HONDA GB350[2021 model]マットパールモリオンブラック

HONDA GB350[2021 model]左から、キャンディークロモスフィアレッドマットジーンズブルーメタリック、マットパールモリオンブラック


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