ついに登場した3代目ハヤブサ。その心臓部は従来型の超熟成仕様といった構成で、1340ccの排気量や81mm✕65mmのボア✕ストローク、12.5の圧縮比といった基本構成を踏襲しながら、エンジン内部パーツのほぼ全てが改良されている。最高出力が197psから190psへと下がったことを気にする向きもあろうが、そこにもれっきとした理由があるのだ。詳細を解説していこう。
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トータル性能での無敵化へ
新型ハヤブサのエンジンに求められたテーマは下の4項目。
①耐久性と寿命の向上
②低中速域でより大きな出力とトルクをスムーズに発生すること
③最新電子制御による快適性の向上
④最高速度を犠牲にせずユーロ5に対応
特に②で明確だが、“世界最速”が必達目標だった初代と2代目に対し、3代目はその追求から一歩引いている。従来型と同等の最高速度は保ちつつ、スポーツバイクとしての総合性能を引き上げることを重視しているのだ。2代目の197ps/9500rpm ・15.8kg-m/7200rpmから、190ps/9700rpm・15.3kg-m/7000rpmへと改められた出力&トルク値はその表れ。実際、2代目に存在したトルク谷はほぼ完全に消し去られており、トップエンドのごくわずかな領域を除けば、3代目はあらゆる場面で実質的に速く快適なはずだ。
左は全3世代ハヤブサのパワー/トルクカーブを重ねた図。3代目は2代目に対し、中速域の落ち込みが大幅に解消されている。実際にトルクを発生している「面積」の比較では、右図のように3代目が2代目を上回る。 [写真タップで拡大]
念願の電スロをゲット!
新型のパワートレーンで最も大きな変更は電子制御スロットルの採用だ。これにより後述するパワーモードやトラクションコントロールなどの最新制御システムを導入可能としているが、スロットル径を44→43mmへと小径化し、吸気管長も12mm延長して低中速指向とした部分に3代目のコンセプトがよく表れている。
スロットル関係では、従来型で2枚だったスロットルバタフライを1枚とし、直角に刺さっていたサブインジェクターの角度を斜めに変更、ここから吐出される燃料を吸気管内に新設した反射板に当てて燃料を微粒子化する「スズキサイドフィードインジェクター(S-SFI)」も新たに採用された。これは出力にも寄与するだろうが、燃焼効率向上による効率アップという側面が大きいはずだ。
本体は内部パーツをフル改良
エンジン本体は従来型をベースにほぼ全てのパーツを見直し、耐久性や排ガス性能の向上、フリクションロス低減などを達成している。その微に入り細を穿つような細かな改良は執念すら感じるものだ。エンジン上部から順に見ていこう。
カムシャフト
吸排気バルブのオーバーラップを減らし、低中速指向とした新プロファイルを採用。作用角が小さくなって(=カムが尖る)スリッパー面の負担が増すため、カムロブの幅を広げて耐久性にも配慮する。プロファイル変更に伴いバルブスプリング荷重も増加。2代目から採用の吸排気チタンバルブは継続採用されている。また、カムチェーンテンショナーもチェーン振れを抑えるべく新設計され、スリッパー表面にテフロンシートを追加してフリクションロスも低減している。
燃焼室
スズキ独自の多球形燃焼室・TSCCを踏襲しながら形状を変更。混合気のスワール(横方向の渦巻き回転)をより高速化するなどで燃焼効率を改善しており、ユーロ5への対応にも貢献している。
ピストン
従来型と同じ鍛造構造を引き継ぎつつ、燃焼室の改良に伴いトップ形状を変更、CAE解析で26gの軽量化も達成している。また、ピストンピン穴には応力を軽減する機械加工が施されており、ピストンピン自体も長さを短縮して軽量化される。
コンロッド
大端部/小端部の幅狭化で3gの軽量化を達成しつつ、大端と小端をつなぐアーム部分をボリュームアップさせることで剛性を向上させた。
クランクシャフト
内部のオイル通路を変更してコンロッド大端部へのオイル供給を改善。オイルポンプには手を加えず、オイル流量と圧力を54%もアップさせている。これはGSX-R1000で採用された技術の転用とのことで、定評のある耐久性や信頼性のさらなる向上に寄与。また、クランクケースはジャーナルボルトの締め付け方法をトルクから角度管理へ変更した。
クラッチ
操作力を低減しつつ圧着力を高めるアシスト&スリッパークラッチを採用。それに伴いカウンターシャフト右端部の長さも変更された。
トランスミッション
メインシャフト(クラッチと同軸のシャフト)を保持するニードルベアリングのローラー長を2mm延長して耐久性を向上。また、シフトカム&シフトカムプレートもアップ/ダウン対応のクイックシフター装備に伴い新形状とされたほか、トランスミッションギヤのベアリング幅を改めてシフトフィールも向上させている。
エンジン周辺パーツも徹底改良
排気系は1、4番エキパイ間に連結管を追加して低中速の出力/トルクを高めたうえ、触媒を集合部の1箇所から、左右サイレンサー内にも分割配置した2段システムに変更。また、先述したカムプロファイルの変更などでマフラー容量を従来型から1.98L削減でき、サイレンサー内部構造を従来の3室構造→2室とするなどで排気システム全体の重量も2054gの軽量化を達成している。また、スズキ独自のプログラムで音質を評価することで、従来モデルを上回る排気音質を実現したというから楽しみだ。
吸気系ではエアクリーナーボックスの容量を増大(10.3→11.5L)し、フタの形状を変更して内部の支柱を排除するなどで良質な吸気音も実現。ラムエアダクトもより圧力損失を低減する形状へと変更されている。さらにスタイリング変更でラジエターにはより効率的に空気が流れるようになり、冷却ファンの改良で冷却効率は全速度域において向上したという。
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