サーキットでスピードを落とす練習をする

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.41「“ブレーキングポイント”の本当の意味」

  • 2020/9/15
世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.41「“ブレーキングポイント”の本当の意味」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第41回は、公道ではけっしてスピードを出さない自身の走りについて。

MICHELIN

今夏は多い時で2日に1回はツーリングに出掛けた

間もなくモナコに帰るところです。この夏は久々に日本でゆっくり過ごすことになりました。新型コロナ禍が少し落ち着いてきたのを見計らって日本に来たのは6月下旬。仕事をこなすためでしたが、7月、8月と新型コロナウイルスの感染が再び勢いづき、予定していた仕事もほとんどがキャンセルになってしまったんです。

かろうじていくつかの仕事はこなせましたが、時間が余る余る! そんなこともあって、釣りに行ったりゴルフをしたり……。でも、とにかくバイクに乗りましたね! 多い時なんて2日に1回はツーリングに出かけてたんじゃないかな。行き先は房総半島がほとんどで、もう何度茂原街道を走ったことか(笑)。もともと千葉出身の僕は10代の頃しょっちゅう房総半島を巡っていましたが、改めてツーリングしてみると「こんないい道があったのか!」という発見がまだまだあるんです。

原田哲也

今年は日本の夏を満喫! ツーリングで外房の海へ。

気温が35℃を超える日もありましたが、走っていると気持ちいい! 僕が乗っているセロー250は発熱量も少ないので、あまり熱くならないんです。特に房総半島は市原より南に下ると信号もほとんどありません。止まらずに延々走り続けられるので、爽快そのものです。なーんにも考えずにゆったりとセローで行くツーリングは、ただバイクで走っているだけだし、飛ばしてもいないのに、ものすごく楽しいんですよね。

そりゃあ、少しは考えます。今でも、コーナーではいろんなリヤブレーキのかけ方をトライしてみたりもします。でも、基本的にはなーんにも考えていません。リラックスの時間ですからね。そしてゆっくり走るにはセローが最高! 僕としては「一家に1台セロー!」と提案したいところですが、残念ながらヤマハは7月31日にセローの生産を終えてしまいました。厳しくなる規制をクリアするためにコストをかけても、それを回収するだけの販売台数が見込めない、という経営判断があったのでしょうが、本当にもったいない!

僕なんか、「今乗っているセローが経年劣化したらどうしよう」と心配で仕方ありません。保存用に1台、観賞用に1台、パーツ取り用に1台買っておこうかな(笑)。というのは冗談ですが、生産中止は本当に残念。ゆっくり走って楽しめるバイクは、とても大事な存在だと思っているからなんです。

ヤマハ セロー250ファイナルエディション

YAMAHA SEROW250 FINAL EDITION[2020 model]】主要諸元■全長2100 全幅805 全高1160 軸距1360 シート高830(各mm) 車重133kg■空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ 249cc 20ps/7500rpm 2.1kg-m/6000rpm 変速機5段 燃料タンク容量9.3L■タイヤサイズF=2.75-21 R=120/80-18 ●価格:58万8500円 ●色:白×緑、白×赤

このコロナ禍、もしもバイクがなかったら……

コロナ禍にあっても、バイク業界は比較的堅調だと聞きます。車両メーカーはかなり厳しいとも耳にしますが、ショップやカスタムパーツメーカーなどは巣ごもり需要もあって、結構モノが動いているとか。コロナ禍でバイクの楽しみ方が少し変わり、これを機にショップでメンテナンスをしてもらたり、家でカスタムする楽しみをする方が増えたのかもしれません。趣味があるのは素晴らしいことです。どんな形であれ、趣味としてバイクに触れられていれば、きっと心が満たされますよね。僕だって、もしバイクという楽しみがなかったら、心が萎えていたかもしれない。改めて、バイクが好きでよかったと思っています。

ただ、残念なのは、今夏はバイク事故の報道がとても目立ったこと。事故の状況はさまざまでしょうから一概には言えませんが、報道を見ている限りでは飛ばしすぎが原因というケースが多かったようです。コロナ禍でいろいろとストレスが溜まり、ついスピードで発散してしまったのでしょうか……。

僕が声を大にして言いたいのは、公道ではとにかくスピードを出さないでほしい、ということです。僕もバイク乗りですから、スピードを出すことの気持ちよさは理解できます。でも、スピードには常にリスクが伴うということを忘れないでもらいたいんです。

公道ではいつ何があるか分かりません。僕はたぶん人より少しはバイクを操るのが得意だと思いますが、それでもスピードを出して見通しの悪いカーブに進入して、先に予期しない何か──あり得ない場所に停まっている車や、突然のコケや、いないはずの歩行者などなど──が待ち受けていたら、100%避けられる自信なんかまったくありません。ライダーのスキルに関わらず、スピードが高ければ高いほどリスクが高まるものなんです。

岡田忠之と原田哲也

全日本ロードレース時代からバチバチのライバルだった岡田忠之さんともツーリング。ふたりともまったりと……。

僕はプロのレーシングライダーとしてスピードを追求し続け、たくさん怖い思いをして、たくさん痛い思いもしました。スピードをコントロールすることの難しさは身をもって体感しています。でも、それはレースが仕事だったから。公道では、「速いライダーがえらい」なんてことは絶対にありません。僕は無事に家に帰るライダーがえらいと思う。僕自身、たいしてスピードが出ないセローに乗っていてさえ、いつも「無事に帰ろう」と注意しています。

「スピードを出すな」と言うのは、サーキットでのスクールや走行会などで一般ライダーの皆さんの走りを見ていると、ちゃんとブレーキングができていない方が非常に多いからなんです。スピードを出すことは、アクセルを開けるだけで誰にでもできます。特に今はエンジンも車体もタイヤもよくできていますから、スピードを出すことは簡単です。でも、そのスピードを落とすことは難しい。いくらABSが付いていても、ロックを防ぐだけで、スピードコントロールは一切してくれません。しっかり減速できるかどうかは、ライダーの操作次第なんです。減速ができないのに、スピードを出すべきではありません。

サーキット走行では、よく「100m看板がブレーキングポイント」という具合に目安を設定します。多くの方たちは100m看板をめざしてそろーっとブレーキをかけ、100m看板でもっともブレーキを効かせている。でも僕は逆。100m看板の手前までにフルブレーキングして、減速は早めに終わらせておく。そして100m看板が近付くにつれてブレーキをリリースしていきます。「ブレーキングポイント」と言いますが、そこは曲がり始めるポイント。それまでの間にブレーキングは済ませておく、という考え方です。ちょっと意外かもしれませんが、めざすのはスローイン・ファストアウトです。

ブレーキングによってあまりにフロントに荷重がかかっていると、バイクは曲がりにくくなるからです。車体が起きようとして、寝かしづらくなる。だからブレーキングポイント=曲がり始めるポイントではブレーキをリリースし、フロントから適度に荷重を抜いてリヤに移し、前後の荷重バランスを適正にしてやる。するとスッとバイクは曲がってくれます。

これを公道に置き換えると、オーバースピードでコーナーに突っ込んでパニックブレーキをかけても、バイクは曲がってくれない、ということ。曲がり切れずに事故になってしまいます。だからコーナーの手前でしっかりと減速しておくことが必要なんです。そしてしっかり減速するためには、できるだけていねいに、なおかつできるだけ短時間のうちにブレーキングを済ませておかなくてはいけない。ここが大事なんです。

僕はブレーキングの練習をするには、サーキットが一番だと思っています。サーキットなら思い切ったブレーキングができますから、過荷重の状態ではバイクは曲がってくれないこと、リリースしていけば曲がっていくことを体験できます。速く走るためにサーキットに行くのではなく、スピードを落とす練習をするためにサーキットに行っていただければと思います。

そしてできれば、サーキットでのライディングスクールに参加してほしいですね。やはり先生に教えてもらうのが一番の近道。自分では気付かないクセや問題点も、外から見たらすぐに分かるものです。先生にはいろいろなタイプがいて、自分に合う・合わないがあります。いろいろなスクールに積極的に参加して、自分に合う先生を見つけてほしいと思います。

大好きなバイクですから、皆さんにも末永く乗ってほしいんです。僕もSP忠男の鈴木忠男社長と林道に行くと、「林道も公道なんだから飛ばすなよ!」と言われます。いろいろな経験をしてきたバイクの大先輩にそんな注意をしてもらえると身が引き締まりますし、本当にありがたいことだと思います。でも僕は自信がないから、もともと飛ばさないんですけどね(笑)。

岡田忠之と原田哲也

箱根のバイカーズパラダイスで対談させてもらいました

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TEXT:Go TAKAHASHI
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原田哲也

原田哲也

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1993年ロードレース世界選手権(WGP)250の世界チャンピオン。1992年に全日本で同クラスのチャンピオンを獲得し、翌年に初挑戦のWGP250で戴冠した。現役当時のニックネームは「クールデビル」。'02年に現役を引退し、現在はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。