限界領域で走ってみないと本当のところはわからない

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.37「タイムは1秒“も”違ったらまったくの別世界」

  • 2020/7/15

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第37回は、ようやく開幕するモトGPと、50歳で始めたYouTubeについて。

MICHELIN

 

開幕する前から移籍話が盛り上がっている

2週間の自宅待機がようやく解けました。家の掃除が終わったらやることがないので、ずっとAmazonプライムでスラムダンクを観てましたが、これで外出OKです。さっそくミーティングなどの用事があり外出しましたが、まだちょっと怖いですね……。マスクをしている人、していない人が混在していて、「これは揉めごとになっても仕方ないよなぁ……」なんて思いました。

そしていよいよ19日にMotoGPが開幕しますね! 久々にレースが観られるのは本当に楽しみです。僕は日本でのテレビ観戦になりますが、がっつりとチェックしようと思います。

それにしても、開幕前から移籍話で盛り上がってますよね。来季はポル・エスパルガロがKTMからレプソルホンダに行き、まだ1レースもしていないアレックス・マルケスがレプソルホンダからLCRホンダに移ることになっています。

弟アレックスは、兄マルクと同じチームだと、セッティングや走り方を身近に教えてもらえるというメリットがあります。その一方で、勝たなければならないというファクトリーチームの重圧と戦わなくてはいけません。Moto3、Moto2時代のアレックスを見ている限りでは、兄マルクのようにいきなりバーンと行くタイプではなさそうなので、サテライトチームのLCRで時間を過ごしても無駄にはならないと思います。

アレックス・マルケス

2020年シーズはレプソルホンダでゼッケン73を付けて走るアレックス・マルケス選手。

でも、もしかすると今季何戦かするうちに、どんどん自信をつけていく可能性もあります。そうなると、一気に開花するかも。MotoGPライダーはハッキリ言って天才ばっかり。特に弟アレックスのようにまだ若いライダーほど、ほんのちょっとしたメンタルの変化で大化けするかもしれません。注目ですね!

ポルは結構速いライダーなので、ホンダ入りは楽しみです。正直、マルク・マルケスを相手にどこまで戦えるかは未知数ですが、いい走りを見せてくれるのではないかと思います。ただ、今のポルの速さはKTMとのマッチングがいいから、という可能性もあるんですよね。今のホンダRC213Vはかなり尖ったマシンで、マルク以外乗りこなせない、という見方も根強い。ポルはV4エンジンのKTMから同じV4エンジンのホンダへの移籍なので、うまく行くかもしれませんが……。

ポル・エスパルガロ選手

2020年シーズンはKTMファクトリーチームでゼッケン44を付けて走るポル・エスパルガロ選手。

限界域のコンマ2秒落ちで走って、ようやく勝つためのセットアップができる

ただ、僕はV4エンジンのMotoGPマシンに乗ったことがないので、詳しいことは分かりません。「市販車のV4と直4は両方乗ったことがあるだろうから、傾向は分かるんじゃないですか?」とよく聞かれるんですが、レーシングマシンは限界で走ってナンボ。限界領域で走ってみない限りは、本当のことは語れないんです。

例えばですが、MotoGPマシンに試乗したとして、トップタイプから10秒も遅く走っていたら、そりゃあ「乗りやすくてスムーズ」と印象を持つかもしれません。でも、それは偽りの姿(笑)。タイムを上げれば上げるほど、本当の姿が見えてきます。

僕の感覚では、トップタイプから1秒も遅かったら、やはり何も分からないのと同じだと思います。そこからは、コンマ1秒ごとにバイクの様子はガラリと変わって行く。そしてあと0.3秒、あと0.2秒と限界に近付くほど、ものすごく細かくてシビアなセッティングが必要になります。その辺りからが、僕の考える「バイクの本当の姿」なんです。

少しでも速く走ることがレーシングマシンの宿命ですから、当然ですよね。遅いタイムで走っている状態のことを取り沙汰しても意味がありません。マシンのベース作りは、速く走らなくても可能ですが、勝つためのセットアップとなると、少なくとも限界域のコンマ2秒落ちぐらいでは走らなければならないんです。

マルク・マルケス選手

フリープラクティスやテスト走行でも常に限界域を探るマルク・マルケス選手だからこそ、レースではマシンを本当の意味で「自分のもの」にして走る。

……な〜んてことを語り始めると、現役時代を思い出してソワソワしてしまいます(笑)。今になって振り返れば、よくあんなに研ぎ澄まされた世界で戦っていたな、と自分でも思います。路面温度やタイヤの摩耗といった外的要素や、自分自身の体調などの内的要素が組み合わさって、1周たりとも同じラップはないわけですが、それをすべてピリピリと感じ取っていたんですから、我ながらどういうセンサーだったんだと(笑)。

絶好調の頃は、リヤサスペンションのイニシャルが1/4回転余分に掛かっていただけでもすぐに分かりました。要は、「あのコーナーのどの場所でどれだけリヤが沈んでほしい」というように明確なイメージがあるので、そこからちょっとでもズレるとすぐに気付いてしまうんです。

今? まったく何も分かりません(笑)。だって、公道の速度域でバイクを走らせている分には、限界よりずっとずっと下の領域なので、センサーを働かせる必要がないんです。ずっとピリピリと神経を研ぎ澄ませていたら、疲れちゃいますしね(笑)。それよりも、まわりの交通に注意を払うとか、景色を楽しむとか、そちらに気を回した方がずっといいと、僕は思う。ユルユルと気持ちに余裕を持たせて、あたりに気を配る。そんな走りをしています。

原田哲也さんと鈴木忠男さん

忠さんことSP忠男の鈴木忠男社長とツーリング(写真は2016年)。サーキットとは異なり、いかに余裕を持って走れるかが大切だ。

YouTubeチャンネル、はじめました!

そういえば、先日50歳になったのを機に、YouTubeチャンネル「31チャンネル」を始めました。「31」はご存知の方も多いと思いますが、僕の現役時代のゼッケンです。ぜひご覧ください。

今の時点では2本の動画がアップされていますが、いや〜、大変ですね! スタッフが(笑)。僕は「アレやりた〜い」「コレやりた〜い」と言いながら撮りたいものを撮っているだけですが、動画編集は本当に大変な作業です。アイデアはたくさんあるし、こまめにアップしたいんですが、なかなかそうも行かず……。どうか気長に構えていただければありがたいです。

僕がバイクとどう向き合っているか、日本でどんな活動をしているのか、モナコでどんな暮らしをしているのか……。いろいろと気になることがあると思いますので(笑)、そのあたりをYouTubeで発信していくつもりです。今のところはトークが中心ですが、企画ものにもどんどん取り組んで行きます。

自分の情報発信源を持つというのは、結構楽しいものですね。好きなことができるし、言いたいことが言える(笑)。皆さんには、僕がバイクで遊んで、楽しむ姿を見てもらい、ご自分のバイクライフに何かプラスになるといいな、と思っています。STAY HOME中にYouTubeを見まくった経験を活かして、皆さんに喜んでいただけるチャンネルにしていきます。

それにしても、欲しい機材が多くて困る! パソコンも買い替えようかな〜と思ってるし……。動画沼にハマりかけています(笑)。

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