
走行距離や保管状況によって、絶版車のコンディションは千差万別。ましてや20年以上にもわたって続く絶版車人気の中で、程度の良いベース車両は年を追うごとに減少。その結果、価格上昇だけでなく車両を販売するショップの負担も増加している。そうしたなか、エルオート(京都府)では、整備はもちろんフレームのパウダーコーティングやバレル研磨による磨き作業まで自社内で行うことで、クオリティを向上させリピーターを増やし、ユーザーの期待を上回る満足度を提供することを心がけている。
●文/写真:栗田晃(モトメカニック編集部) ●外部リンク:エルオート
整備部門に加えて塗装や磨き作業まで社内で行うエルオート。コンディションに応じた最善策で販売車両を製作できるのが最大の強み
数ある絶版車の中で頂点に君臨し続けているカワサキZシリーズ。人気車種ゆえ大物の外装からシート/電装類までリプロダクトパーツも豊富で、オーナーにとっては安心して所有できるといえるだろう。
だが車両購入を考えている人にとっては、昨今の絶版車相場は気が気でないはず。コロナ禍時期のような大高騰は若干落ち着いたとはいえ、台数の減少とベース車選びの難しさは専門店にとっても悩ましい問題だという。
西日本最大級の絶版車専門店として50台以上の車両を展示するエルオートも、細心の注意を払って海外からの仕入れた車両に関しても入念なチェックを欠かさない。
「たとえばエンジンなら、ピストンリング交換で済むのかボーリングが必要なのか、吸排気バルブはシートカットで大丈夫かバルブガイド交換も必要かなど、1台ごとに対応が異なります」と語るのは店長の吉本さん。
そんな中で、整備力と並んで強みとなっているのが、フレームや外装ペイントやバレル研磨など、車両製作に不可欠な作業を社内で行っている点。
これにより品質が安定するとともに車両製作も安定し、ユーザーのメリットにもつながるという。ホームページでは1台ごとに作業内容が明記されているので、気になる車両がどのようなプロセスで完成しているのかを確認してほしい。
KAWASAKI Z1:人気のイエローボールで塗装済み
「昔はもっと安かったのに…」という話をしても何の意味もないのが絶版車の世界。昔は昔、今は今なのだ。このZ1は1974年式で純正ならタイガーカラーの年式だが、人気のイエローボールでリペイントしてある。
エンジンもオーバーホールに合わせてブラックにペイントされ、フレームやスイングアームなどはパウダーコーティング済み。リムやスポークは新品にした上でホイールハブやアウターチューブはバレル研磨で仕上げてある。マフラーは自社工場で製造する機械曲げのショート管だが、キャブレターは純正だ。
【KAWASAKI Z1】●価格:550万円
KAWASAKI KZ1000MkII
エルオートの販売車両は、1台ごとに異なるコンディションに応じて作業内容を決めて仕上げられている。このMkIIの場合、フレーム/足まわり/外装パーツは再ペイントを行っているが、走行距離が8700マイル(1万4000km弱)と比較的少なく状態が良かったため、エンジンはブラックペイントとカバー類のバレル研磨に留めてある。オーバーホールが必要なら迷わず行うが、確認の結果その必要がないと判断できるのも経験豊富なメカニックのなせる技だ。角Zならではのシャープなデザインが魅力的。
【KAWASAKI KZ1000MkII】●価格:495万円
KAWASAKI Z550FX
Z-FXにせよCBX-Fにせよ、日本国内の絶版車市場では400の人気が高いが、輸出仕様の550ccの方がパワフルで乗りやすく、おまけに価格も控えめというのはよく知られた事実である。この550はKZ550Aでフロントシングルディスク+リヤドラムブレーキとなり、トリプルディスクのKZ550Bとは異なるものの、エンジンオーバーホール済みでカバー類はバレル研磨仕上げ、フレームやスイングアームはパウダーコーティングした上で外装パーツはE2仕様となっているため、リーズナブルな印象が強い。
【KAWASAKI Z550FX】●価格:220万円
磨きや塗装まで社内で手がける徹底ぶり
【単品オーダーも人気のバレル研磨】エンジンカバー類やホイールなどのアルミパーツはバレル研磨機を活用。手作業のバフ研磨と比較して細部までムラなく均等で、固形の研磨メディアでアルミ素地そのものに光沢を与えるのが特長だ。バレル研磨もホームページから作業を依頼できる。
【純正仕上げが得意な塗装部門】車両販売店にプッシュプル型塗装ブースがあることが珍しい上に、塗装スタッフが常駐しているのがエルオート。純正カラーによるペイント経験が豊富で、ストライプやロゴマークなどはカッティングマシンを活用して作業を行っている。販売車両だけでなく、ホームページ内のエルオートメンテナンスページを通じてユーザーからのオーダーも受け付けている。その技量はペイント前(左)とペイント後(右)を見れば一目瞭然だ。
【フレームやホイールは強固なパウダー塗装仕上げ】エルオートが製作するレストア車両の多くは、フレームやスイングアームがパウダーコーティング仕上げで、社内の専用ブースで施工する。サンドブラストで金属下地を露出させたら、粉体塗装の前に密着性と防錆能力が高いハイブリッドプライマーを施工し、温風循環焼付乾燥器で焼き付けを行う。この工程がパウダーコーティングの品質向上にとって重要なのだ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
バイクいじりの専門誌『モトメカニック』のお買い求めはこちら↓
モトメカニックの最新記事
熱膨張率の均一化によって様々なアドバンテージがある 2ストローク/4ストロークエンジンを問わず、エンジン性能を向上するためには様々な課題や問題がある。特に大きな課題は、“熱膨張率”に関わる問題だ。 「[…]
クニペックス製と瓜二つ!? アストロプロダクツの新製品「プライヤーレンチ」 ボルトやナットの2面を隙間なく掴める、平行に移動するジョー、グリップを握る力が増力される独自のジョイント構造、全長に対して著[…]
ドロ汚れだけではなく油汚れにも効果てきめん。分解前には周囲の汚れ落としが基本 台風被害による河川越水時にエンジン腰下まで水没したカワサキW1‐SA。その後、放置期間がしばらく続いたが、嫁ぎ先が決まった[…]
ガソリンタンク内部は処方前に現状把握から 今回登場するカワサキエリミネーター250は、モトメカニック編集部の友人が所有する車両だ。ガソリンがオーバーフローするため、その相談で編集部ガレージに持ち込まれ[…]
ユニバーサルソケット:手が届かないボルトやナットもナットグリップ機構でホールド スチールボールによるフリクションでボルトやナットをホールドするコーケン独自のナットグリップソケットと、ユニバーサルジョイ[…]
最新の関連記事(メンテナンス&レストア)
熱膨張率の均一化によって様々なアドバンテージがある 2ストローク/4ストロークエンジンを問わず、エンジン性能を向上するためには様々な課題や問題がある。特に大きな課題は、“熱膨張率”に関わる問題だ。 「[…]
「消えないブレーキランプ」は他人ごとじゃない 街中をバイクで走っていたところ、前を行くスクーターのブレーキランプがなんか明るいな~と思ったら、どうやら点灯しっぱなしになってるぽかったのですよ。 毎度乗[…]
クニペックス製と瓜二つ!? アストロプロダクツの新製品「プライヤーレンチ」 ボルトやナットの2面を隙間なく掴める、平行に移動するジョー、グリップを握る力が増力される独自のジョイント構造、全長に対して著[…]
軽量で取り扱いやすく、初心者にもピッタリ 「UNIT スイングアームリフトスタンド」は、片手でも扱いやすい約767gという軽さが魅力です。使用後は折りたたんでコンパクトに収納できるため、ガレージのスペ[…]
ドロ汚れだけではなく油汚れにも効果てきめん。分解前には周囲の汚れ落としが基本 台風被害による河川越水時にエンジン腰下まで水没したカワサキW1‐SA。その後、放置期間がしばらく続いたが、嫁ぎ先が決まった[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車 | カワサキ [KAWASAKI])
カワサキZ1、伝説のディテール デザインは後にGPZ900Rなども手がけた多田憲正氏によるもの。完璧なバランスのスタイリングだけでなく、ディテール面でも後世の車両に大きな影響を与えた。反り上がったテー[…]
あの頃の中型 青春名車録「4気筒再び」(昭和54年) それまで全盛を誇った2気筒のブームを収束させたのが、カワサキのZ400FX。CB400フォア以来途絶えていた待望の4気筒は、DOHCヘッドを採用し[…]
【TESTER:青木タカオ】片岡義男小説で魅了されて以来、W1SAを25年間にわたって2台乗り継ぐバイク業界きってのWフリーク。 世界市場へ挑戦した当時最高の運動性能が魅力 前後に光る太鼓ウインカー、[…]
マッハIIIで目指した世界一 大槻氏はZ1開発当時、川崎重工単車事業部の設計課長で、Z1を実際に設計した稲村暁一氏の上司にしてプロジェクトの中心にあった指揮官。技術者としての観点からZ1の開発方針、す[…]
規範を完全に凌駕した動力性能と信頼性 BSAのコピーか否か。これはW1シリーズの生い立ちを語るときに、よく使われる言葉である。そしてシリーズの原点となったメグロ・スタミナK1は、たしかに、BSA・A7[…]
人気記事ランキング(全体)
ミルウォーキーエイト117に3タイプのエンジン登場! ハーレーダビッドソンの現行クルーザーモデルには、シリンダーヘッド/スロットルボディ/インテークマニホールドを刷新した3タイプのミルウォーキーエイト[…]
ブランド名は「南北戦争」に由来 1991年、成功を収めた弁護士、マシュー・チェンバースが興したバイクメーカー、コンフェデレート。 和訳すると「南軍」を意味する社名は、創業地がルイジアナ州バトンルージュ[…]
軽量で取り扱いやすく、初心者にもピッタリ 「UNIT スイングアームリフトスタンド」は、片手でも扱いやすい約767gという軽さが魅力です。使用後は折りたたんでコンパクトに収納できるため、ガレージのスペ[…]
みんながCBを待っている! CB1000Fに続く400ccはあるのかないのか ホンダの名車CB400スーパーフォアが生産終了になって今年ではや3年目。入れ替わるようにカワサキから直列4気筒を搭載する「[…]
「ワインディングの覇者を目指すならCB-1」のキャッチコピーだったら評価は変わった!? カウルを装着したレーサーレプリカが出現する以前、1970年代までのスーパースポーツはカウルのないフォルムが一般的[…]
最新の投稿記事(全体)
夏ライダーの悩みを解決する水冷システム 酷暑の中、ヘルメットやライディングウェアを身につけて走るライダーにとって、夏のツーリングはまさに過酷のひとこと。発汗や走行風による自然な冷却だけでは追いつかない[…]
コスパも高い! 新型「CUV e:」が“シティコミューターの新常識”になる可能性 最初にぶっちゃけて言わせてもらうと、筆者(北岡)は“EV”全般に対して懐疑的なところがある者です。カーボンニュートラル[…]
ホンダCB1000Fコンセプト、カワサキZ900RSへの「負けん気」を胸に登場か? 鈴鹿8耐でデモ走行を披露したホンダの「CB1000Fコンセプト」は、生産終了したCB1300シリーズの後継として期待[…]
熱膨張率の均一化によって様々なアドバンテージがある 2ストローク/4ストロークエンジンを問わず、エンジン性能を向上するためには様々な課題や問題がある。特に大きな課題は、“熱膨張率”に関わる問題だ。 「[…]
50ccでも実用カブとは別系統のOHCスポーツ専用エンジンを開発! ホンダは1971年に、50ccではじめてCBの称号がつくベンリイCB50を発売した。 それまで50ccにもスポーツモデルは存在したが[…]
- 1
- 2