いまどきのバイクは滅多に壊れないから信じられないかもしれないが、以前は安全に乗るために1日1回の「運行前点検」が法律で義務づけられていた! そして漏れなく点検するために生まれた呪文が「ネンオシャチエブクトウバシメ」。コレ、本当に毎日やるんですか?
●文:伊藤康司 ●写真:カワサキ、富樫秀明、YM
想像以上に多い日常的な点検箇所
平成19年(2007年)4月の道路運送車両法の改正で、バイク(二輪自動車)の点検基準が見直された。それまで総排気量125cc超のバイクの使用者は、1日1回の「運行前点検」が義務づけられていたが、改正以降は使用者自身の判断で走行距離や運行時の状態などから適切な時期に「日常点検」を行う義務に変わったのだ。
……少々わかりにくいが、じつは「運行前点検」も「日常点検」も点検する内容自体は基本的に同じ。製造技術や生産管理などの進歩によってバイクの信頼性が高まったため、点検の義務(頻度)が1日1回から「適切な時期」に変わった、と考えれば良いだろう。これ自体は改正の前後でずいぶん差があるな……、という気がしなくもない。
それでは使用者(ライダー)に義務づけられている「日常点検」とは、バイクのどこを点検すればいいのだろう? じつは明確な決まりは無いが、ありていに言えば「ほぼ全部」。
これを語呂合わせというか呪文のような合言葉で覚えやすく表したのが『ネンオシャチエブクトウバシメ』で、教習所で教わった記憶のある方もいるのではないだろうか。いつからかは定かではないが、おそらく1970年代には言われていたようで、現代ではメジャーな水冷エンジンの冷却水やラジエターが含まれていないところに時代を感じる。
ネンオシャチエブクトウバシメ
ところで、この項目をどこまで点検すればいいのか? たとえばタイヤなら、減りや異物が刺さっていないか目視で良いのか、さらに空気圧も測らなければならないのか?
じつはこの辺りも規定があるワケではないが、90年代中頃くらいまでのバイクの取扱説明書(ハンドブック)には、運行前点検の項目と内容をかなり詳細に記したものもあり、手際よく行っても30分くらいかかるのでは……という内容の濃さで、これを1日1回行うのはちょっと……というのが正直な感想。
とはいえ安全にバイクに乗るために必要なので、現在はライダー自身の判断で適切な時期に行う「日常点検」になっているが、忘れずに点検するようにしたい。
コレだけは毎回チェックしよう!
現在は1日1回の運行前点検の義務が無いとはいえ、乗る前に最低限チェックしたい点検項目としてJAF(日本自動車連盟)も推奨するのが『ブタと燃料』だ。
ブタと燃料
なんらかのトラブルでバイクが動かないと困るが、「動くけど止まらない」のは困るだけでなく猛烈に危険なので、ブレーキの効き具合は必ずチェック! できればブレーキパッドの残量も確認。タイヤも、少なくとも異物が刺さっていないかは目視しよう。
ライトやウインカー等の灯火類は、従来の電球タイプの「タマ切れ」なら出先でもガソリンスタンドや自動車・バイク用品店で購入して修理可能だが、近年のLEDタイプは要注意。LEDは転倒など外的要因がなければ点灯しなくなることは滅多にないが、反対に点灯しなかったらアッセンブリー交換になる場合も多いので、出先での修理はほぼ不可能だ。
燃料に関しては、近年は燃料計はもちろん残燃料での走行可能距離を表示できるバイクもあるので、それほど心配ないかもしれないが、高速道路に乗るなら忘れずにチェックしよう。
快適なバイクライフを送るために、日常点検は欠かせない
繰り返しになるが、運行前点検や日常点検は、安全にバイクに乗るために最低限必要なチェックだ。愛車のパフォーマンスを存分に楽しむには、(スピードに関係なく)きちんと性能を発揮できるように、各部に渡りもっと細かく丁寧にメンテナンスする必要もあるだろう。
そういった実際の整備作業はバイクショップのプロにお任せするのが間違いないが、タイヤの減りなど目視でわかるような「愛車の健康管理」はライダー自身が行うべき。そう考えると『ネンオシャチエブクトウバシメ』は、現在も役立つ大切な呪文といえるだろう(唱えるだけではダメだけど)。
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