日本のネイキッドはコンサバティブ

【Q&A】「ネイキッド」って、ゼファーからじゃないの? 一大ブームとなった90年代400ccネイキッドを紹介!【バイクトリビア009】

クルーザー(アメリカン)やオフロードモデルを除けば、カウリングを装備しないスポーツバイクの総称として使われる「ネイキッド」。バイクのジャンルとしての呼称は、カワサキからゼファーが登場したことがキッカケだと思っていたけれど……違ったの!?


●文:伊藤康司 ●写真:ホンダヤマハスズキカワサキ

1980年代初頭まで、カウリングが無いのが普通だった

市販量産車初の4気筒エンジンを搭載したホンダのCB750Fourや、もはやレジェンドとして君臨するカワサキZ1などの威風堂々としたスタイル。そして1970年代後半から始まった空前のバイクブームも、免許制度の兼ね合いもあって250~400ccを主軸としたスポーツバイクはカウリングが非装備だった。もちろんレーシングマシンはフルカウルを装備していたが、こと日本車の公道用国内モデルに関しては、「暴走行為を助長する」という理由で、カウリングに認可が下りなかったからだ。

だから当時隆盛を誇った400cc4気筒も2ストローク250ccも、そして憧れのナナハンもカウリングが無いのが当然の姿なので、ネイキッドという呼称は存在しなかった。

しかし1982年の中ごろに、規制緩和でカウリングの認可が下りた。そこから盛り上がった「レーサーレプリカ」ブームが、ネイキッドの誕生のキッカケになったのだ。

現在大人気のホンダCBX400F(1981年)。’80年代前半は400ccクラスに4気筒モデルが出揃い、250ccクラスはヤマハRZ250やホンダVT250Fが人気を博した。カウリング非装備がスタンダードな時代なので(国内モデルでは認可されなかった)、まだネイキッドの呼称は存在しなかった時代のバイクである。

1982年中頃にカウリングが認可され、スズキRG250ガンマ(1983年)が登場。量産車初のアルミフレームを採用し、45psは250ccクラス最強。WGPで主流だった前輪16インチやアンチノーズダイブ、リンク式リヤサスなど先進のメカも装備。ここから本格的なレーサーレプリカブームが始まった。

レプリカブームの陰で、非レプリカ車の存在感は薄かった……

国内で中心的な存在だった400ccも250ccも「高性能スポーツ=レーサーレプリカ」の流れになった1980年代中盤。スポーツバイクはすべからくカウリング装備になったワケだが、そうなると「カウルの付いていないスポーツバイクが欲しい」という層も出てくる。

そこでヤマハが世に放ったのがレーサーレプリカFZ400Rからカウリングを剥ぎ取った「FZ400N」だが、果たしてこのバイクをどうカテゴライズし、どう呼ぶのか? そこで生まれたのが「剥き出し」や「裸」を意味する『ネイキッド』の呼称で、同車のカタログに記載されていた。

そしてホンダもVFR400Zを発売したが(やはりカタログに「ネイキッド・マシン」と記載)、なぜか当時はネイキッドという呼び名もジャンルも浸透しなかった。なんとなく「FZのカウルの無いヤツ」、「VFRのカウルの無いヤツ」みたいな、少々不遇な呼ばれ方をしたのが実情ではないだろうか。

1984年5月に、ヤマハがTT-F3レース参戦マシンを強くイメージしたFZ400Rを発売。翌1985年3月にカウリングを装備しないFZ400Nが登場し、カタログには「美しきネイキッド、FZ400N」のフレーズが記載された。

ホンダは1986年3月にフルカウル装備のVFR400Rと、カウリング非装備のVFR400Zを同時発売。VFR400Zのカタログには「体感してほしい。ネイキッド・マシンの痛快さを。」のキャッチコピー。

1989年に発売されたホンダCB-1。エンジンはCBR400RRベースで、なんとカム駆動はギアトレーンという本格派。スチール製のダイヤモンドフレームやタンク、シートなどの外装類は専用品だ。革新的なネイキッドモデルでパフォーマンスには定評があったが、いまひとつ人気を得られなかった。

カウルを持たないロードスポーツが復権!

半年毎にモデルチェンジするような空前のレプリカブームも、1980年代後半になると徐々に落ち着いてきた。あまりのスペック競争(当然プライスも上昇)に、食傷気味となるライダーが増えたのが影響したのかもしれない。そんな1989年、カワサキが時代に逆行したともいえるバイクを発売。2世代ほど前のローパワーな空冷2バルブ4気筒エンジンを鉄パイプのフレームに搭載し、スタイルはいたってオーソドックス。バイク業界や関係者が「なぜ今、このバイク?」と首をかしげる中で発売されたが、そんな予想を覆して大ヒットしたのが「ゼファー(400)」だった。

揺るがぬ人気のゼファーは750や1100など大排気量モデルもラインナップし、当然のようにライバルメーカーもこの流れに追従。こうなるとジャンル名が無いと不自然というか不便。そこで浮上したのが「ネイキッド」の呼称で、今度は瞬く間に浸透していった。

……が、ゼファーもライバル車も、レプリカ登場以前のオーソドックスなスタイルをしており、「なにか(レプリカとか)」から剝がしたり裸にしたワケではないので、いま思えばネイキッドという呼称は少し違うような気がしなくもない。その意味ではFZ400NやVFR400Zの方が、まごうことなきネイキッドだったはずだ。

しかし、ゼファーこそが「カウリングを持たないロードスポーツ」を復権させ、確かな一時代を築いたのも事実。だからゼファーがネイキッド発祥のバイクではないけれど、それくらいインパクトがあった、ということなのだろう。

1989年に登場したカワサキのゼファー(400)が爆発的にヒットし、ネイキッドの呼称が一般化。翌90年にゼファー750、そして1992年にはゼファー1100が登場し、いずれもロングセラーモデルとなった。

1992年に初代登場のCB400スーパーフォア。「プロジェクトBIG-1」の流れを汲む、力強く、かつオーソドックスなスタイルはCB-1と打って変わって大人気。何度もリファインを重ね、現在も400cc唯一の4気筒モデルとして販売を続けるが、先日生産終了を発表。

レプリカに負けない俊足、空冷最速を目指して1993年に登場したヤマハのXJR400。ブレンボ製キャリパー&オーリンズ製リヤショックのXJR400Rや、ビキニカウル+液晶メーターのR2など、よりスポーツ性に振ったモデルもラインナップした。

オリジナリティ溢れる鋼管フレームのバンディットで戦ってきたスズキが、最速のミドルネイキッドを目指して1994年に発売したGSX400インパルス。80年代にAMAスーパーバイクで活躍したGS1000Sを彷彿させるビキニカウルとカラーを纏ったタイプSも販売。

カワサキはライバル車に対抗すべく水冷エンジンを搭載し、ローソン・レプリカことZ1000Rをイメージさせる「角Z」スタイルのZRX(400)を1994年にリリース(写真は2008年のファイナルモデル)。不動の人気を誇る空冷のゼファーと二本立てでミドル市場を牽引した。


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