あのS22を超えるとは……! 『BATTLAX HYPERSPORT S23』の全方位アップグレードに驚嘆
あまりに高性能な公道用スポーツタイヤ、S22。これを超えるタイヤはもう現れないのではないか──。だが、ブリヂストンはやってのけた! 全面的に性能を高め、さらに「楽しさ」という新たな価値観まで備えたS23の登場だ。ノブ青木が熱烈レポートする!!
●テスト:青木宣篤 ●まとめ:高橋剛 ●写真:ブリヂストン ●BRAND POST提供:ブリヂストン
感性にまで響くタイヤ造りに感動を覚える
日本GPで、ちょっと面白い出会いがあった。その方はウォークマンの設計者、とのことだった。久々に聞いたウォークマンの名。カセットテープ以降、最近のウォークマン事情には疎かった私だが、「コレを設計しました」と見せてくれた最新機種に、一気に興味をそそられた。
大きさはざっとスマホぐらいだが、ずっしりと重い。聞くところによると酸素銅を削り出したシャシーで、金メッキを施しているそうだ。低インピーダンスを狙ってのことらしいのだが、オーディオのことがまったく分からないワタシは「インピーダンス? どんな踊り?」とクエスチョンマークだらけだった。
その方いわく開発には3年の年月をかけ、高音域から重低音まで明らかに高音質なのだそうだ。重量は450g以上あるが、価格もヘビー級。なんと40万円するのだとか。もはやシロウトには想像もつかない世界だが、マニアな方たちは「音の艶やかさが……」「音の粒立ちが……」と、感覚や感性の部分で高く評価しているようだ。
「最新デジタルオーディオ機器でさえ、最後は人のフィーリングに行き着くんだな」とちょっと感動しながら、私はブリヂストンの最新スポーツタイヤS23のことを思い出していた。
詳しくは追って語っていくが、性能に関しては驚くばかりのアップデートを果たしている。しかしS23は。ただ性能アップしただけではない。無酸素銅を削り出したウォークマンのように、使う人の感性にまで響くタイヤに仕上がっていたのだ。人の感覚に訴えかけ、心を揺さぶるという点において、意外にもオーディオとタイヤは同類なのかもしれない。
さて、性能面の話をしよう。前作S22が発売されたのは2019年のことだが、それ以降、恐らく私が世界で一番このタイヤを履いたのではないかと思う。主にはサーキットを舞台に、晴れの日も雨の日も暑い日も寒い日も、S22を履いてきた。
そして私は、S22に99.99点をつけていた。もちろん、100点満点で。つまり非の打ち所がほとんどないのだ。グリップ力は申し分がないし、コントロール性も高い。ウエット路面でも安心感があり、幅広い路面温度にも対応してくれる。
唯一0.01点マイナスしたのは、フロントタイヤが若干つぶれやすいからだ。それゆえに、ブレーキングから倒し込みにかけてわずかな重さを感じる。ただ、この重さは分かりやすい手応えでもあり、安心感と捉えることもできるもの。ほとんどデメリットにはならないので、減点するとしてもわずか0.01点だった。
そしてS22を履くたび、いつも勝手に心配していた。「これ以上のタイヤは、果たして登場するのだろうか……」と。タイヤメーカーは、新製品を開発するのが宿命だ。しかし、S22以上のタイヤ開発は至難の業だと想像できた。というのは、私自身かつてブリヂストン・モトGPタイヤの開発ライダーをやらせてもらった経験上、タイヤ開発の難しさをイヤというほど知っているからだ。
“全方位”を実現させることの凄み
タイヤ性能は、いくつかの項目に分かれたレーダーチャートで示される。そのうちどれかひとつの性能を高めることは、比較的容易だ。生々しい話だが、ひとつの性能に特化したモデルほど、新製品として売り出しやすいという面もある。アピールポイントが明確だからだ。
しかし、ひとつの性能が際立つということは、例えその他の性能が以前のレベルを維持していたとしても、相対的に劣っているように感じやすい、ということでもある。これをよしとするかしないかはタイヤメーカーの考え方次第だが、本音を言えば、レーダーチャートの全項目で性能を引き上げたいはずなのだ。つまりは、全面的な見直しと改善である。手間も時間もかかる、大変な開発だ。
だが、ブリヂストンはその道を選んだ。タイヤメーカーとして、徹底して正常進化を狙ったのだ。あらゆる面でS22を超えるタイヤを作ろうと、本気で取り組んだ。S22で99.99%満足していた私からしてみれば、もはや想像もできないレベルのシビアな開発が行われたのだろう。
時は訪れた。10月30日、筑波サーキット・コース2000で、私はついに出会ってしまったのだ。S22の性能を全面的にアップデートした、S23と。まさか実現するとは思っていなかった。しかしそれは現実のものとして、私と一緒に筑波サーキットを走っていた。
ただグリップが高くなっただけじゃない
フロントタイヤ、リヤタイヤともパフォーマンスが高まっている。まずフロントだが、S22でわずかに0.01点のマイナスとしていた重さが、見事に解消していた。細かい話になるが、センター部のケース剛性が高まっているかのような印象(実際はパターン剛性で作っているというから驚き)で、ブレーキング時のつぶれ量が抑えられている。その分、アジリティ(敏捷性)が向上しており、よりクイックで軽快なハンドリングになった。
剛性が高く、ブレーキング時のつぶれ量が少なく、軽快なフロントタイヤは、ややもすると軽々しすぎて不安感をもたらしかねない。しかしS23はグリップ力が増していることもあり、むしろ安心感が増している。軽快さと安心感は反比例してもおかしくない要素なのだが、その両方を満たしているのだ。
リヤタイヤは、エッジからトラクションエリアにかけてのグリップ力が確実に高まっている。簡単に言えばタイヤの端から少しセンターにかけての部分で、主にスロットルを開けて加速する時にグリップ力が欲しくなるエリアだ。ここでのグリップ力が増しているから、ハイパワーモデルでもコーナー出口で躊躇なくスロットルを開けていける。
ここがまた難しい話で、ただグリップ力が高まればいいというものではないのだ。一般的にグリップ力を高めると、滑り出しのポイントを掴みにくくなりがちだ。するとライダーはいつスライドが始まるか分からないという不安から、思い切ってスロットルを開けることができなくなってしまう。
だがS23からは、一切そういった不安を感じない。グリップ力と滑り出しの分かりやすさ、その両方を高めているからだ。コンパウンドを改良したからなのか、グルーブの角度が適正だからなのか、細かいところは分からないが、絶妙なチューニングが施されていることは間違いない。
グリップ力、ブレーキングから倒し込みの軽快感、クイックな旋回性、そして立ち上がり加速の頼もしさ。サーキット走行時のあらゆるシーンでパフォーマンスが高まっていることが確認できる、S23。サーキットに限って言えばフラッグシップのRS11とほぼ同等レベルの出来栄えで、今度は次期RS11の開発が心配になってしまうほどだ。これで公道走行にも対応しているのだから、恐れ入ってしまう。
モトGP用タイヤ開発の際に痛感したのだが、ブリヂストンはコンパウンドを進化させるのが本当にうまい。量産車用タイヤ開発者に聞いたのだが、タイヤを劣化させる最大の要因は、温度の高さだそうだ。ブリヂストンは、コンパウンドの配合を調整することで、温度上昇の抑制と高いグリップ力を両立させている、とのことだった。
上がろうとする温度を制御するのはかなり難しいことらしく、そこが耐摩耗性とスポーツ性を両立させなければならない量産車用スポーツタイヤ開発の難しさだ、と。ブリヂストンはコンパウンドの配合に関して豊富なノウハウを持っているからこそ、S23のような高い次元でバランスの取れたタイヤを生み出せるのだ。
また、ブリヂストンはアルティメット アイというタイヤ踏面(タイヤと路面の接地面)を可視化する技術を持っている。四輪F1やモトGPタイヤの開発にも生かされたこの技術、私もブリヂストンのモトGPタイヤ開発ライダーを務めていた時、アルティメット アイ自体の開発を目の当たりにしたが、すごいことを考えるものだと感心したし、その後、しっかりと量産車用タイヤ開発にフィードバックされていることにも驚かされた。S23の開発にあたっても、アルティメット アイはもちろん活用されただろう。
真の高性能スポーツタイヤ、だからこそ誰もが楽しさを享受できる
特筆したいのは、S23が非常に楽しいタイヤである、ということだ。S23を履いていると、気持ちがどんどん高揚してくる。今回の筑波サーキットでの試乗にあたって、私はメディアの皆さんの先導役という業務も託されていたのだが、ライディングマインドを刺激され、仕事中とはいえすっかり楽しんでいることが自分でも分かった。
先にも書いたように、1項目だけの性能を高めるのは比較的容易だ。しかしそれでは性能アップしていない項目が不安に感じられる。だがS23はすべての性能が高まっているから、同時に安心感も高まっており、それが楽しさという人の感性をも満足させる仕上がりにつながっている。
これは私の推測にすぎないが、恐らくブリヂストンは、S23の開発にあたって楽しいタイヤ作りをめざしたのではないと思う。本当にすべての性能を高め、真の高性能スポーツタイヤを追い求めた結果、副産物として楽しさがついてきたのだろう。つまりS23は、本気で技術を極めたことで、人の感性に訴えかけるタイヤに仕上がったのだ。
最後に強調したいのは、S23の素晴らしさは誰もが享受できる、ということだ。これもスキなく性能を高めたことによる恩恵だが、ライダーのスキルやペースに関わらず安心感や楽しさが得られるタイヤになっている。タイヤの特性からして、たまに自走でサーキット走行会に参加するようなライダーには、現時点ではこれ以上のタイヤはない、と断言できる。
冒頭に書いた、40万円のウォークマンを改めて思い出す。技術の粋を尽くした製品は、カテゴリーに関わらず、人の感性、人の感覚に寄り添うものだ、ということを。S23を履いて感じる楽しさは、ブリヂストンが持てる技術力を惜しみなく注ぎ込んだ証である。
そして、今こんなことを言うのはおかしな話だが、タイヤ開発に携わった経験のある私としては、S23を超えるタイヤは果たして生まれるのだろうか、と、早くも心配している……。
全方位の性能を強化し、中でもドライエッジグリップを高めている
内部構造とプロファイル形状をS22から継承したまま、新開発コンパウンドの追加とパターンデザイン刷新で全方位的に性能を高めたのがBATTLAX HYPERSPORT S23だ。ポイントとなるのは下記の5つ。
- 新開発コンパウンドでエッジグリップを強化
- パターンデザイン刷新でトレッド剛性を最適化
- 新採用パルスグルーブで排水性を高めた
- ウエットの制動距離を3%短縮
- 摩耗ライフ8%伸長
下記では、これをもう少し詳しく解説していこう。
BATTLAX HYPERSPORT S23 サイズ一覧
用途 | タイヤサイズ(フロント用1サイズ、リヤ用5サイズ) |
フロント | 120/70ZR17M/C(58W)TL |
リヤ | 160/60ZR17M/C(69W)TL |
リヤ | 180/55ZR17M/C(73W)TL |
リヤ | 190/50ZR17M/C(73W)TL |
リヤ | 190/55ZR17M/C(75W)TL |
リヤ | 200/55ZR17M/C(78W)TL |
発売時期 | 2024年2月(北米は2024年1月) |
※本記事はブリヂストンが提供したもので、一部プロモーション要素を含みます。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。