2020タイヤ戦線の新潮流

’20新作ラジアルタイヤ ピンポイント解説〈前編:ブリヂストン|ミシュラン〉

バイク本体以上に個性豊かで挑戦的では? そう思えるのが近年の最新ラジアルタイヤだ。特に今年は、従来と異なる潮流が見え隠れする。訪れつつある“タイヤ作りの変換期”について掘り下げるとともに、5ブランドの新作について解説する。■ブリヂストン バトラックスRS11|ミシュラン パワー5

何でもできる…は言い過ぎとしても、最新のラジアルタイヤは構造や材料、解析技術などの進化により、ドライグリップとウエット能力といった本来はトレードオフにある性能が、かなりのレベルで両立可能になっている。

その結果として近年では、カテゴリーの垣根を超えた”タイヤのクロスオーバー化”が著しい。ハイグリップ顔負けのスポーティなツーリングタイヤとか、サーキットで使える能力を持ちつつ極寒や雨天も安心といったタイヤが多く出現しており、すでに市場でも珍しい存在ではなくなっているのだ。

【近年のキーワードは”クロスオーバー”】ラジアルタイヤは、耐摩耗性や扱いやすさを重視したツーリング系、峠道でのグリップ力を求めたスポーツ系、レースやサーキットが前提の3カテゴリーに大別できるが、その境界線が以前ほど明確ではなくなったのが近年の傾向。メーカーによってはスポーツ系にサーキット寄りとツーリング向きという複数銘柄を設定するなど、多様化も進んでいる。

そんなマーケットで、いかに次の新しい魅力を訴求するか…、各タイヤメーカーは今、そこに躍起になっていると言っていい。その結果、’19年中盤以降に投入された製品は、強いメッセージ性やキャラクターを備えたものが非常に多くなっている。ベースがワイドレンジなのは不変だが、各社ともある一部分をピックアップしそこを意図的に尖らせているのが、ラジアルタイヤの新潮流と捉えていいだろう。

最近のタイヤは以前よりもモデルサイクルが短くなり、3〜4年で新製品が登場することも珍しくない。これは近年、車両側の電子制御等のアップデートが著しく早く、それに伴ってOEMタイヤの開発スピードも早まっていることが関連する。近年のアフターマーケットタイヤはOEM品がベースとなっている場合が多いからだ。

いずれにしてもこのジャンルは競争が激化していて、ユーザーにとっては非常に興味深い状況を呈している。そんな激戦区に名乗りを上げた、最新のラジアルタイヤ5種を解説しよう。

ブリヂストン バトラックス レーシングストリート RS11:とにかくドライグリップに特化

前輪と後輪それぞれで、身内のいいとこ取り?

先代のRS10も含めて、既存のブリヂストンのタイヤは、オールラウンドに使えることを前提としていた。しかしながら、’20年から販売が始まったRS11は、ドライ路面でのグリップと運動性能に特化している。もちろん、耐久性やウエット性能、冷間時への配慮は行われているのだが、同社のストリートタイヤの基準で考えれば、RS11のキャラクターはかなり尖っていると言える。

BRIDGESTONE BATTLAX RACING STREET RS11

実際にRS11を体感したライダーが最初に驚くのは、リヤタイヤの絶大なグリップ力だろう。コーナーの出口でアクセルを開けた際に、後輪が路面にしっかり食い付き、車体をグイグイ前に押し進めていくフィーリングは、レース用タイヤであるR11に通じるどころか、R11そのものなのだから。

一方のフロントに関しては、走行ラインの自由度の高さが感心すべきポイント。ハイグリップタイヤにありがちな操作時の重さが、RS11にはまったく感じられないのだ。これはリヤがR11と同等のフィーリングを目標とし、実際にその技術を投入しているのに対し、フロントはストリートでの扱いやすさを重視しているから。具体的には先代RS10より尖ったプロファイルの採用に加え、スポーツタイヤであるS22と同様のコンパウンドを採用することで、R11とは方向性が異なる軽快感を構築しているのだ。

もちろん、RS11は完全無欠のタイヤではなく、絶対的な運動性ではR11、守備範囲の広さならS22に軍配が上がる。ただし、ワインディングが大好きで、年に何度かサーキット走行会に参加するライダーにとって、RS11はベストチョイスになり得ると思う。

【前はスポーツ、後ろはレーシング?】RS11のフロントコンパウンドはS22用がベースで、プロファイルは先代のRS10と比較すると尖っている。対してリヤにはR11が採用している、ベルトの編み方を部位に応じて変更するV-MS BELTを導入している。

【路面への食い込み性も向上】リヤタイヤのグリップ感に貢献する技術のひとつが、左右ショルダー部に採用された微粒径カーボン。路面への食い込み性が大幅に向上する。

サイズラインナップ:税込メーカー希望小売価格

【カテゴリーごとに頻繁に新作投入】’18年にT31とR11、’19年はS22、そして’20年にRS11と、近年のBSは1年ごとに新世代ラジアルタイヤを市場投入。T31とS22は前作(T30EVO/S21)から3年でモデルチェンジと、そのスパンも短い。

(左上)レーシングR11 (右上)レーシングストリートRS11 (左下)ハイパースポーツS22 (右下)スポーツツーリングT31

ミシュラン パワー5:サーキットは行かないがハイグリップは履きたい

一般公道を主体としながらサーキット走行にも対応できるハイグリップ系として、’17年に発売されたパワーRS。スリックタイヤを含むこのシリーズが’20年に「パワーエクスペリエンス」としてラインナップを一新。主力銘柄のパワーRSは、一般公道での使用に特化した「パワー5」と、よりサーキット性能を高めた「パワーGP」へと2つに分流することになった。

MICHELIN POWER 5

公道において避けて通れないのが、降雨や低気温時の走行だ。新シリーズでは全銘柄がリヤに簡素なシングルカーカスを採用し、軽さとしなやかさを同時に達成。

さらにパワー5は溝の比率をRSの前10%/後6.5%から前後11%に増やしたり、リヤのコンパウンドをオールシリカにするなどして、温まりの早さとウェット性能を引き上げることに成功した。

実際にRSと乗り比べてみると、ハンドリングはよりナチュラルになり、コーナーへ進入する際のトレース性が向上。さらに乗り心地もアップしている。

そして注目のウェットグリップについても、トレッドパターンから受けるイメージから想像できないほどしっかりと食い付いてくれるのだ。

ここまでウェット性能と乗り心地が良くなると、ツーリングラジアルのロード5とキャラがかぶりそうだが、ミシュランは用途に応じたタイヤ選択を推奨しており、ツアラーにパワー5を履かせても問題ないという。もう溝の比率でウェット性能を語る時代は過ぎ去ったと言えるだろう。

【従来モデル=RSから”5″と”GP”に分流】シリーズ一新でパワーRSは一般公道向けの「パワー5」と、サーキット性能を底上げした「パワーGP」に分流。なお、パワーカップ2はパワーカップEVOの後継で、ほぼサーキット仕様と言える。

【見た目の安心感のための“点々”】乗り手に視覚的な安心感を与えるため、細溝のスクエアパターンとディンプル模様が刻まれる。摩耗して消えても機能上は何ら問題ないという。


●文:中村友彦(ブリヂストン) 大屋雄一(ミシュラン) ヤングマシン編集部 ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。

’20新作ラジアルタイヤのラインナップ。次ページではメッツラー スポーテックM9RR、ダンロップ ロードスマート4、ピレリ GTIIについて解説する。

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