
クルマのカスタムを錬金術に例えるビルダーはさほど少なくありません。本来、錬金術は等価交換が原則ですが、クルマの場合はイコールでなく「化ける」ことのほうが多いかと。つまり、鋼のマンガでは死んだ人間に錬金術を用いて大変なことになってしまいましたが、クルマの錬金は意外なほどうまくいったようです。なにしろ、大衆のアシだったワゴンRがハマーに化けたのですから。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:Bonham Cars
ワゴンRはイギリスでもバカ売れだった
その名もずばりアルケミスト(Alchemist=錬金術師)」と名付けられたカスタムカーは、1998年式のスズキ・ワゴンR。ご存じの通り、スズキが誇る歴史的ヒットモデルで、トールボーイタイプの草分けといっても過言ではないでしょう。
完成度の高さはイギリスでも評価され、日本と同じくファミリーやビジネスユースで大人気を博したとされています。もっとも、イギリス仕様はボディがいくらか拡幅され、engineも1.0、または1.3リッターユニットが搭載されました。今に続く、ジムニーと同じ手法といえるでしょう。
当然、イギリスのビルダーたちもワゴンRが秘めた可能性に注目し、さまざまなカスタムモデルが登場したのですが、極めつけはやはりアルケミストにとどめを刺します。作ったのはアンディ・ソーンダースというイギリス人ですが、彼は自身のことも「自動車錬金術師」と呼んではばかりません。
ともかく、意欲的というか魔改造というか、個性的な作品ばかり作ることで超有名。たとえば、屋根を極限まで切り落とし「閉所恐怖症」と名付けられたミニは車高の低さ(87.63センチ)でギネスブックに載り、「ピカソ」と名付けられたシトロエン2CVはパースが狂ったかのような造形、など枚挙にいとまがありません。
どこからどう見てもワゴンRですが、製作者のソーンダース氏の錬金術によってハマーに見えなくもありません。
背面のロゴはアルケミスト、錬金術師のこと。デザインはイギリスの著名デザイナー、ジョン・ラングダウン氏によるもの。
錬金術で20倍の価値を狙ったものの…
ソーンダースはワゴンRを題材に選んだ理由を「古くなって忘れ去られそうになっているクルマに20倍の価値を持たせたかった」とコメントしています。で、彼の中でワゴンR×20=ハマーという計算がなされたといいますが、ちょっと常人には理解しかねる計算です(笑)。
とはいえ、イギリス仕様のワイドボディを考えればあながち見当違いでもありません。レンジローバーからヘッドライトを移植し、ビレット風グリルやスムージング風リヤバンパーとなったワゴンRは、どこからどう見てもハマーには見えません。ですが、アルケミストのロゴやタイヤハウスからはみ出すホイールなどを見れば「気持ちはわかる」と肩をたたいてあげたくなります。
ちなみに、アルケミストのロゴを製作したのは同じアーティスト仲間のジョン・ラングダウン。彼はダン・ブラウンの著作すべてでタイトル文字をデザインしており、イギリスでは名の通ったデザイナーなんだとか。たしかに凝った造形ではあるものの、それこそ魔法ではないので後ろ姿がハマーに見えてくるわけでもありません(笑)。
ハマーというわりに、インテリアは庶民的なワゴンRそのまんま。ただし、イギリス仕様なのでいくらか幅は広がっています。
ずいぶんコンパクトに見えますが、製作者はあくまでハマーに仕立てたと言い張ります。
アルケミストの落札価格はハマーの1/20
ともあれ、イギリス人はこういうジョークじみたクルマが大好物ですから、ワゴンR・アルケミストはオークションに出品すると同時に1687ポンド(約35万円)という値段で落札しています。
ソーンダースの労力やラングダウンのデザイン料にも満たない値段かもしれませんが、およそ30年落ちのマイクロカーとしては健闘しているかと。
ソーンダースの錬金術が成功すれば、ハマーH2のイギリスにおける相場(500~800万円)に届くのですが、はたしてどこをどう間違えてしまったのでしょうか。
リヤバンパーはスムージング風のカスタムが加えられ、カスタムビルダーとしての面目躍如といったところ。
ハマー2ご本人とは似ても似つかないアルケミストですが、お値段はおよそハマーの20分の1で落札されています。
ソーンダース氏の代表作とされる「ピカソ」。歪んだデッサンかのようにカスタムされたところが特徴です。
ギネスブックに認められた世界最低車高のミニ。その名も「閉所恐怖症」だけあって、ドライバーは完全に前屈姿勢を強いられます。
ANDY SAUNDERS氏。
製作の様子。
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