
元MotoGPライダーの青木宣篤さんがお届けするマニアックなレース記事が上毛グランプリ新聞。1997年にGP500でルーキーイヤーながらランキング3位に入ったほか、プロトンKRやスズキでモトGPマシンの開発ライダーとして長年にわたって知見を蓄えてきたのがノブ青木こと青木宣篤さんだ。WEBヤングマシンで監修を務める「上毛GP新聞」。第38回は、マレーシア・セパンサーキットで行われたMotoGP公式テストからヤマハ、ホンダ、アプリリア、KTMを総ざらい!
●監修:青木宣篤 ●まとめ:高橋剛 ●写真:Michelin, Suzuki
短期間でよくぞここまで……! のヤマハV4
マレーシア公式テストの現地ナマ情報第2弾は、ついにV型4気筒エンジンにスイッチし、スーパーバイク世界選手権(SBK)チャンピオン、トプラック・ラズガットリオグル(Prima Pramac Yamaha MotoGP)の加入によって大注目を集めているヤマハ情報から。
トプラックの囲み取材を聞いていたのだが、彼自身としてはMotoGPマシンのブレーキングにはうまく順応できている、とのこと。SBKでのピレリタイヤからMotoGPのミシュランタイヤへのスイッチに関しては、「スロットルを開けた際の後輪のスピンの仕方が違うので、ここは学習が必要だ」と語っていた。
そして強調していたのは、「コーナリングスピードが異常に速い!」ということだった。「SBK(スーパーバイク世界選手権)ではうまくやっていたと思うけど、MotoGPでは全然足りてない」とトプラック。実際にコースサイドで見ていても、ブレーキングは確かにピカイチだったが、高速コーナーのスピードは不足していた。
「うまく行った時のように走ったつもりでも、タイムが出なかったりするんだ。何が何だか分からないよ」と苦笑い。ちょっと自信を失ったようだが、基本的にはとても上手なライダーで、特にコーナー進入で後輪をスライドさせながらも倒し込んでいけるのがすごい。通常はスライドが収まるのを待ってから倒し込むのに、トプラックはスライドしていようがお構いなしだ。
大柄な体格と好みもあって、トプラックはハンドルポジションが高い。ちょっとしたアップハンドルぐらいの高さにセットしてある。しかもシートポジションはできるだけ低い方がいいそうだ。しかし、シートをヤマハYZR-M1でもっとも低くできる位置にすると、レギュレーションに引っかかってテールカウルのリヤウイングが付けられなくなってしまう。リヤウイングの高さの規定はシート座面から何cm、と決められているから、シート座面が下がるとレギュレーションに抵触してしまうのだ。
リヤウイングなしで走ったトプラック・ラズガットリオグル。
ヤマハファクトリーのエースライダー、ファビオ・クアルタラロ。
最初はシートの低さにこだわり、リヤウイングなしで走行したトプラックだったが、「羽根付きも試してみっか」とシートの低さを諦め、リヤウイングありで走行したところ、「コッチの方が全ッ然いいじゃん!」となったらしい(笑)。
これほどの空力マシンになっているからこそ、トプラックは「高速コーナーでコーナリングスピードが足りない」と感じているのだろう。一般的にはしっかりとブレーキングしてコーナーに進入した方がいいのだが、高速コーナーでは高いスピードを保ったまま飛び込む方が空力パーツは高い効果を発揮するのだ。もはや四輪レーシングマシンのような、空力ありきの走り方である。
トプラックは総合19番手だったが、さすがにポテンシャルは高そう。MotoGPマシンの走らせ方を習得できれば、早いうちに上位進出を果たしそうだ。以上、ヤマハの話でした。
……えっ? ああ、V型4気筒エンジンの話もありましたね。ズバリ言ってしまおう。ストレートスピードは遅かった。トラブルが出て2日目の走行をキャンセル、という事態も起きた。現時点では、V4になったから圧倒的によくなった、と言えるような状況ではない。
しかし、ですね……。ワタシの場合、スズキのMotoGPマシン開発でV4から直4へのスイッチを経験しているが、そんなに簡単な話ではないのだ。「新しいエンジンを作って載せりゃいいんでしょ?」と思われるかもしれないが、エンジン開発そのものも難しいし、重量配分が変わるから車体とのマッチングに至ってはさらに難しい。本当に苦労した。
そういう経験をした者としては、現時点でのヤマハについてとやかく言うつもりは毛頭ない。むしろ、「この短期間でよくここまで仕上げてきたものだ」と称賛したいぐらいだ。他メーカーがすべてV4を選んでいる今、ヤマハには可能性しかないのだから。
いかにしてドゥカティに迫るか……のホンダ、アプリリア、KTM
こちらは#10 ルカ・マリーニのマシン。
ヤマハとくればホンダ。ジワジワとよくなっている。テストの総合結果でもジョアン・ミル(Honda HRC Castrol)が5番手につけた。スロットルを開けた時にしっかりと前進している印象で、トラクション不足がだいぶ解消されたのだろう。聞いたところではエンジンもフレームも空力パーツもそれほど大きなアップデートはないそうだ。
例え小さなピースでも、それらを正しく組み合わせていけば、確実に進化していくのだ。逆に言えば、それだけ今のMotoGPはシビア。小さなピースの掛け違えで、あっという間に転落する恐れもある。怖い怖い……。
総合2番手は、アプリリアのマルコ・ベゼッキ(Aprilia Racing)。全体的なまとまりのよさが目立った。人一倍マシンが寝ているし、寝ている時間が長いし、しかもそれが旋回力につながっている。ベゼッキとの相性はかなりよさそうだ。チャンピオン争いに絡んできそうで、ちょっと期待。
KTMは、良くも悪くも本来の姿を取り戻しつつある。つまり、「リヤ頼みのKTM」だ。昨年は「フロントももうちょっと使えるようにする〜?」と言いながら迷走してしまった感があるが、今年は割り切って長所を徹底的に伸ばす方向のマシン作りになっている。ブレーキングでリヤを振り出すことで制動力を増そうとする開発姿勢が明確だった。
ベテランの域になってきたが貪欲にテクニックを追求するマーベリック・ビニャーレス。
KTMと言えば、マーベリック・ビニャーレス(Red Bull KTM Tech3)のメンターとして、彼をトレーニングしているホルヘ・ロレンソと話す機会があった。「8の字はどういう狙いだったの?」と尋ねると、「ライディングテクニック全般だよ。ブレーキングはもちろん、おしりから情報を得る術など、8の字からは多くを学べるんだ」とのことだった。やっぱり大事なのは基本です!
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 青木宣篤の上毛GP新聞)
派手なタイムからは見えないファクトリーチームの“本気” 今年も行ってまいりました、マレーシア公式テスト! 現地ナマ情報第1弾のしょっぱなからナンですが、今年もマルク・マルケス(ドゥカティ・レノボ・チー[…]
ブレーキ以上の制動力を求める進入、スピンレートの黄金比を求める加速 ライディングにおけるスライドは、大きく分けて2種類ある。ひとつはコーナー進入でのスライド、もうひとつはコーナー立ち上がりでのスライド[…]
実は相当ハードなスポーツなのだ 間もなくマレーシア・セパンサーキットにMotoGPマシンの咆哮が響き渡る。1月29日〜31日にはテストライダーやルーキーたちが参加するシェイクダウンテストが行われ、2月[…]
車体剛性を見極めるホンダ、V4を投入するヤマハ ホンダは終盤にやや盛り返した感もあったが、依然不安定だ。それでもシャシーはだいぶよくなった。恐らく車体剛性のカンを押さえることができてきて、剛性を落とす[…]
バニャイアにとって「新しいモノはいいモノ」じゃなかった MotoGPマシンがあまりにも速くなりすぎたこともあって、再来年にはレギュレーションが大きく改定されることになった。 エンジンは850ccに、空[…]
最新の関連記事(モトGP)
現行レギュレーションは最後になる2026年 2月27日に開幕を迎えたMotoGP2026シーズン。注目のトピックスはたくさんありますが、僕が注目しているのは1000ccエンジンとミシュランのワンメイク[…]
SHOEIが1名増、「X-Fifteen マルケス9」はまさにリアルレプリカ WSBK(スーパーバイク世界選手権)で3度頂点を極めたトプラック・ラズガットリオグル(プリマプラマックヤマハ)のMotoG[…]
開幕戦タイGPを前に WRCで大活躍している勝田貴元選手と食事をしました。彼は’24年からモナコに住んでいるんですが、なかなか会う機会がなかったんです。実はMotoGPもかなり好きでチェックしていると[…]
派手なタイムからは見えないファクトリーチームの“本気” 今年も行ってまいりました、マレーシア公式テスト! 現地ナマ情報第1弾のしょっぱなからナンですが、今年もマルク・マルケス(ドゥカティ・レノボ・チー[…]
ブレーキ以上の制動力を求める進入、スピンレートの黄金比を求める加速 ライディングにおけるスライドは、大きく分けて2種類ある。ひとつはコーナー進入でのスライド、もうひとつはコーナー立ち上がりでのスライド[…]
人気記事ランキング(全体)
ふだんバイクに触れない層へ! スズキ×VTuberの挑戦 「バイクに興味はあるけれど、何から手を出せばいいかわからない」。そんな若い世代に向けて、スズキは極めて現代的なアプローチをとった。ホロライブD[…]
ネオクラシックKATANA唯一の不満点 令和2年排出ガス規制への適合や、電子制御システムS.I.R.S.の搭載により、現行KATANA(8BL-EK1AA)の完成度は極めて高い。150psを発揮する水[…]
釣り人のための機能を追加した、Kawasakiのジェットスキー 日本を代表するバイクメーカーとして知られるKawasaki(カワサキモータースジャパン)は、2輪車だけでなく、ジェットスキー(水上バイク[…]
CB500スーパーフォアと瓜二つ! ホンダが「モーターサイクルショー2026 Hondaブース特設サイト」内でティーザーを公開。タイトルを『Next Stage 4 You』とした動画が貼りつけられ、[…]
車種専用設計で実現する自然なフィッティング PCXやPCX160のようなスクータータイプは、一般的なネイキッドバイクと異なり、ハンドルバーの多くがカバーで覆われている。そのため、市販の汎用クランプバー[…]
最新の投稿記事(全体)
過去最大規模で展開されるトライアンフブース 2026年のモーターサイクルショーにおいて、トライアンフは両会場で大規模なブースを展開する。東京会場ともなると、400平方mmという出展面積は国内外メーカー[…]
手ぶらで参加可能! 人気のホンダ車をレンタル 本レッスンの特徴は、バイクを所有していなくても参加できる点。カリキュラムにはレンタル車両を使用するため、NC750X、GB350、Rebel250、CB2[…]
月内予定:SHOEI「X-Fifteen MARQUEZ 9」 MotoGPで通算7度目のワールドチャンピオンに輝いたマルク・マルケス選手の最新鋭レプリカモデル「X-Fifteen MARQUEZ 9[…]
アルピーヌがこだわり抜いたRRパッケージへ 現在のアルピーヌはルノーのスポーツ部門、ルノースポールを吸収合併した「組織」となっていますが、V6ターボをリリースした1984年当時は単純にルノーの子会社と[…]
波状路を制する者は、大型バイクのすべてを制す 実はあのガタガタ道には、数百キロの鉄の塊を指先一つで操るための「究極のライディング・エッセンス」がこれでもかと凝縮されているのです。そしてそれが公道走行に[…]
- 1
- 2










































