BMW Motorrad Japan ジェネラル マネージャー

「ディーラーは在庫を持たない」「売るのは“体験”」BMW Motorrad Japan 大隅 武さんに聞く【TOPインタビュー】

「ディーラーは在庫を持たない」「売るのは“体験”」BMW Motorrad Japan 大隅 武さんに聞く【TOPインタビュー】

新型コロナウイルスの影響による、生活様式の変化に パースポーツのS1000RRや普通二輪免伴って’21年から始まった国内出荷台数が数十年ぶりに40万台を超すというバイクバブルも、’23年には落ち着きを見せ始め、’24年の国内出荷台数はコロナ禍前の水準である約32万台まで減少している。その中にあって、BMWモトラッドは非常に好調な販台数で推移していて、昨年は過去最高の5986台を販売し、今年も6月の時点で3099 台・シェア24.9%と長年、輸入車のトップに立つハーレーダビッドソン(3296台・シェア26.4%)のすぐ後ろにまで迫っている。今年1月に、BMWモトラッドの責任者に就任した大隅さんは、’98年の入社以来、BMWの二輪部門一筋の生え抜きの方で、そういう方が二輪の責任者に就くのは初めてのこと。長年、BMWの二輪ビジネスをつぶさに見てきた大隅さんに、BMWモトラッドの現状を説明していただいた。


●取材/文:ヤングマシン編集部(Nom) ●写真:BMWモトラッド、編集部 ●外部リンク:BMW MOTORRAD

【大隅 武(おおすみ たけし)】’74年12月26日、静岡県浜松市に生まれる。父親の仕事の関係で、中学2年生のときにアメリカ・カリフォルニア州に引っ越し、高校卒業後に日本に帰国。12歳ころからオフロードなどバイクを楽しみ、16 歳の時にバイクの免許を取得。大学卒業後の’98 年4 月にBMWジャパン(ビー・エム・ダブリュー株式会社)に入社、モトラッド部門(モーターサイクル・ディビジョン)に配属される。’98年8月からマーケティングを担当し、’15年からセールスマネージャー。今年の1月1日にジェネラル・マネージャーに就任。

今年の1月から6月までにニューモデルなどを11 機種投入した

大隅さんは、’98年にBMWジャパンに入社以来、ずっとモトラッド部門で勤務され、我々メディアと接する機会の多いマーケティング担当として働かれてきた方。

BMWの楽しさ、素晴らしさを長年にわたって訴求され、自らもBMWに乗って日本各地を走り回ってきた。

そんな生粋のBMW乗りがモトラッドの責任者に就かれたとあって、今後のモトラッドのさらなる躍進を大いに期待してしまう。

「BMWモトラッドの販売台数は順調に伸びていて、現在は世界での販売台数が21万台程度になっています。日本でも、昨年は過去最高の5986台を販売し、今年も6月時点で累計3099台を販売しています。

私が入社した’98年頃はR1100RT、R1100GS、R1100RSがメイン車種でしたが、それらのモデルが進化を続け、Rシリーズは排気量が1300㏄となり、スーパースポーツのS1000RRや普通二輪免許で乗れるC400系のスクーターやG310シリーズ、ヘリテージ系のR nine T やR18といったこれまで我々が商品を持っていなかったセグメントに新しい商品を次々と投入することで成長してきています。今年も、1月から6月までに11の新型車やモデルチェンジ車、特別仕様車を導入しています」

大隅さんが入社した’98年当時、世界でのBMWモトラッドの販売台数は約6万台、日本では2400台前後で推移していたそうなので、現在は約3倍の台数まで成長したことになる。

「以前は、二輪はBMWグループの四輪事業の下に位置付けられていましたが、10年ほど前にロールス・ロイス、MINI、BMWと並んでモトラッドという独立したブランドとして確立されました。そこからグループ内での立ち位置が明確になり、大きく成長してきたんだと思います」

今から約30年前のBMWモトラッドのラインナップは、R1100GS(上)、R1100RT(下)のように大柄なツーリングモデルばかりだった。ボクサーエンジンを搭載するRシリーズは、1150 → 1250 → 1300と排気量を拡大しながら、より軽く、よりスポーティに進化してきた。

年間販売台数は、ご覧のように右肩上がりに伸びてきている。’19年に5000台を超えてからさらにそのスピードは加速していて、今年は上半期で3000台を突破。最新の7月時点の数字では、3476台、シェア24.2%とトップのハーレーダビッドソン(3953台・27.6%)に迫っている。

今年の上半期にはニューモデル、マイナーチェンジモデル、特別仕様車など上の9車種に加え、R1300RT、R 12G/Sの計11車種を発表。写真を見て分かるように、実にバラエティに富んだラインナップだ。

R80G/Sをオマージュしたデザインのボディに、空冷1200㏄ボクサーツインを搭載したR 12G/S。F:21、R:18インチタイヤを採用した本格的オフロードモデルである。往年のスタイルながら、電子制御などは最新だ。

RTも水冷1300㏄ボクサーツインを搭載し大きく進化。ボディはコンパクトになり、さらに快適性と操縦性を向上。前後シートにシートヒーターを採用するなど、ツーリング性能も大幅にアップしている。

二輪部門にスーツにネクタイ姿のスタッフは誰ひとりいない

以前のBMWのイメージは、言葉は悪いが「上がりバイク」で、ベテランライダーが乗るバイクととらえられていたように思う。しかし、そのイメージが大きく変化した。

「今はブランドとしても非常に若々しく、ダイナミックでスポーティなイメージに変わってきたと思います。昔はラインナップを見ても、年配の方が乗るツーリングバイクというイメージが強かったです。今は本社も日本も社内の雰囲気が変わり、二輪関係の部署でスーツにネクタイ姿の人は誰もいません。我々はライフスタイルを提供しているので、ビジネススーツは必要ないという考えです。現在のBMWモトラッドのブランド・スローガンは『Make Life A Ride』。バイクに乗ることで、豊かな人生を送ってもらいたいというメッセージです。我々は、体験を売るという考えを大切にしているのです。

店舗に関しても、先日オープンしたモトラッド・ミツオカ堺さんでは、ショールーム内にファイヤープレイスという焚火のようなオブジェを設けて、ブランド体験をしてもらえる空間を作っています。ショールームを、ただモデルを見るだけの場所ではなく、『フィールルーム』と呼んでブランドを感じてもらう場所にしていきたいと考えています。そのため、倉庫のようにバイクを詰め込むのではなく、試乗車をゆったりと展示し、いつでも気軽に試乗できるような店舗作りを進めています」

ブランドを訴求する仕掛けをした、ゆったりした店舗&ショールームを作るのには今年の1月から導入した新たな販売方法も貢献する。

「ストックロケーターという、店舗には在庫を置かず、お客さまは希望のカラーも含めて車種をウェブで検索してご注文すれば、千葉県にある我々の倉庫からそのお客さまが希望するディーラーさんに配送するというシステムを導入しました。店舗にあるのは、基本的に試乗車だけということになります。現在、日本には64の拠点がありますが、例えば『赤いGSが欲しい』と東京のお客さまが言ったとして、東京には在庫がないけど北海道や大阪にはある、というケースがあったとします。そうなると、在庫があるディーラーに車両を融通してもらうのですが、そのディーラーまで営業担当が取りに行って、東京のディーラーまでバイクを運ぶことになるんです。それはあまりにも非効率だということで、このシステムを導入しました」

ストックロケーターを導入後も、特にトラブルは生じていなくて、注文から店舗に到着までの時間も、開梱されて整備待ちの状態の車両であれば首都圏で2~3日でディーラーに到着し、4~5日で登録ができるそうだ。北海道や九州などの遠隔地は輸送に6日ほどかかるそうだが、趣味で楽しむバイクであれば、それくらいの時間は十分待てるはずだ。

先日オープンしたモトラッド・ミツオカ堺のショールームには、焚火のオブジェを配置した団らんスペースが設けられている。ブランドを感じてもらえるスペース作りを目指している。

ディーラーは在庫を持たず、お客さまはウェブで希望の車種をオーダーすると、指定したディーラーにBMWモトラッドの倉庫から配送されるストックロケーターシステム。ショールームには基本的に在庫はなく、試乗車があるだけだ。

初開催から20年のモトラッド・デイズ今年はピンクのTシャツを用意した

BMWは二輪各社の中でも、非常に積極的にイベントを行っている。その象徴が、今年で開催20年目を迎える「BMW MOTORRAD DAYS JAPAN」だ。

20周年を記念して、今年は大隅さんが着ているピンクのTシャツを用意(半袖4000円、長袖4500円)。今年から、将来にわたって持続可能な開催を目指して入場料をいただくことにしたとのこと。

「1回目は北海道のルスツ(編注・現在のルスツリゾート)で’05年に開催しました。歌手の吉川晃司さんが来てライブを行ったので、女性ファンが観光バス2台に乗って駆け付けたりしました。ただ、北海道じゃ本州などから行ける人が限られちゃうので、別の場所にしようと長野県の白馬47を見つけました。本社が開催しているMOTORRAD DAYSの開催場所であるドイツのガルミッシュ=パルテンキルヘンと雰囲気がとてもよく似ていて、ここがいいんじゃないかと思って始めました。途中、コロナの影響で’00年と’01年は開催できませんでしたが、ディーラーさんからもお客様からも『あれだけはやってほしい』という声をたくさんいただきました。そんな声に支えられて20年。人で言えば『成人』です。

今年は20周年ということで、ピンクのTシャツを用意しましたので、ぜひ会場で着用(編注:ディーラーでも購入可)していただきたいですね」

2回目から長野県白馬村のHAKUBA 47 Mountain Sports Parkで開催されているBMW MOTORRAD DAYS JAPAN。参加者は、白馬までのツーリングを楽しみ、夜はバーベキューで旧友との再会を楽しむ。スキー場ならではの開放的な雰囲気が何よりの魅力だ。

土曜日に行われるスキー場のゲレンデを駆け上がるヒルクライムコンテストがメインイベント。GSだけではなく、さまざまなモデルが急こう配のゲレンデを駆け上っていく。やるほうはもちろん、見るほうも大興奮のイベントだ。

今年から新たな試みもスタートする。それが『DISCOVERY RIDE JAPAN 2025プレミアムツアー』だ。大隅さんが言う『体験を売る』施策だ。

「体験を提供したいという思いで企画しました。今年の11月に2回、四国で3泊4日のパッケージで開催します。ツアーの旅程や詳細はウェブサイトで確認できて、参加申し込みもウェブからでき、10月17日まで申し込みが可能です。今回は四国ですが、日本には景色が良くてバイクで走ると楽しく、文化やおいしい食べ物がある場所がたくさんあります。そういうところを、ツアーガイドと一緒に回って、いろいろ体験していただきたいと思っています」

「体験を売る」施策のひとつが、今年の10月に開催するDISVOVERY RIDE JAPAN。3 泊4日で四国を700㎞あまり走り、非日常感に浸れるツアーだ。ガイド、伴走車も付くので誰でも安心して参加できる。詳細はウェブで。

⬆まだBMWモトラッドになじんでいない方のために用意したSTART-BMWMOTORRAD.JP。100年超の歴史を持つブランドストーリーを分かりやすく解説している。

S1000RRの登場以来、BMWモトラッドはロードレースにも積極的に参戦している。EWC(世界耐久選手権)には、ファクトリーチーム(BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAM・現在ランキング3位)がフル参戦していて、8月3日に開催される鈴鹿8時間耐久レースはEWCの第3戦に当たるため、3人のライダーで構成されるファクトリーチームがやってくる。

「今年は、過去に8耐で4勝しているマイケル・ファン・デル・マーク選手が出場するのでとても楽しみです」※取材時

今年の鈴鹿8 時間耐久には、EWCに参戦中のファクトリーチームが参戦。8耐4勝の実績を持つマイケル・ファン・デル・マークを含む3人のライダーが予選・決勝とも5 位となり、残念ながら念願の表彰台獲得とはならなかった。

イベントにツーリング、そしてレースと全方位でバイクの楽しさを訴求しているBMWモトラッド。ただ、まだまだブランドに対して敷居が高いと感じている方もいるようで、そんな人たちのために昨年の春にスタートしたのが「START-BMWMOTORRAD.JP」というサイトだ。

「敷居が高いと感じている方に、もっと気軽にブランドに触れてもらいたいという目的で、若い方や初心者の方にも分かりやすいように、ブランドストーリーをクマのキャラクターを使って解説しています。また、目的を選択すると、自分に合ったBMWを探せるマイバイクファインダーというコーナーもあります。分かりやすいという評判もいただいています」

大型のツーリングバイク一辺倒だった時代は今は昔で、現在のBMWモトラッドは乗って楽しいバイクをさまざまなセグメントへ、多彩な排気量モデルを提供している。この勢いが続けば、国内で輸入車トップメーカーになるのもそう遠くないかも知れない。

大隅ジェネラルマネージャーの提言

  • 「体験を売る」という考えを大切にする
  • ショールームではなく「フィールルーム」に
  • START-BMWMOTORRAD.JPで敷居を下げる

※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。