
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第138回は、遅ればせながら開幕戦タイGPのまとめです。
Text: Go TAKAHASHI Photo: DUCATI, Michelin
マルケスがファクトリーマシンを手に入れたら……
MotoGP開幕戦・タイGPで優勝したマルク・マルケスは、圧巻の強さでしたね。7周目に、タイヤの内圧が下がりすぎないよう弟のアレックス・マルケスを先に行かせましたが、相当な余裕と自信がないとできないことです。実際、23周目にアレックスを抜いてからは、まったく寄せつけることなくトップでチェッカーを受けました。
ドゥカティのファクトリーマシンを手にして、マルケスの安定感がグッと増したようです。去年はシャカリキという感じで、いつ転んでもおかしくないようなライディングでしたが、タイGPでは転ぶ気がまったくしませんでしたし、「ブレーキングで突っ込みすぎてオーバーラン」という、去年のマルケスがしばしば見せていた危なっかしいシーンもほとんどありませんでした。
ドゥカティに乗り慣れたマルケスが、さらにファクトリーマシンを手に入れたら、とんでもないことが起きてしまうかもしれない」と思っていましたが、まさにそれが始まったような感じ。あまりにも気が早いので言いたくはありませんが、チャンピオンの文字も見えてくるほどの強さでした。
ドゥカティに移籍してから身体のアクションが元の積極的なスタイルに戻っていったM.マルケス。
チームメイトのフランチェスコ・バニャイアの心中やいかに……といったところですが、バニャイアもリヤのグリップ不足を訴えながらしっかり3位表彰台に立ちましたからね。走りの安定度合いはマルケスにも負けていませんでしたから、この後、バニャイアが得意とするコースで、マルケスとどんな戦いを繰り広げるのか、早く見たいですね。
アプリリアとKTMは明暗⁉ 日本メーカーはホンダに良い兆しが……
小椋藍くんが決勝5位、マルコ・ベゼッキが6位ということは、アプリリア勢のマシンも悪くないようです。となると、エースのホルヘ・マルティンの欠場が本当に残念。たらればですが、もし今回のタイGPにマルティンが出走していたら、藍くんより上のポジションを走っていたことは間違いありません。マルティンがドゥカティ勢に割って入れば、レースはもっと面白くなったはず。マルティンのカムバックを待ちたいところです。
復活と言えば、気になるのはKTM。経営的なゴタゴタはMotoGPには関係ない、とアピールしていますが、タイGPではペドロ・アコスタが転倒してしまうなど、あまりいいところが見られませんでした。アコスタやブラッド・ビンダー、エネア・バスティアニーニ、そしてマーベリック・ビニャーレスと、実力のあるライダーを揃えるKTMだけに、復活に期待しています。
そして同じく「復活」という点で気になるのは、日本メーカーですが……。ヤマハはテストでは速さを見せ、期待度も高かったのですが、決勝ではもうひとつ。サテライトチームのジャック・ミラーが上位を走ったものの、ファクトリーのファビオ・クアルタラロが下位に沈みました。「決勝で結果を残すのが、レースというスポーツ」ですからね。まだまだ課題が多く残っていると思います。
一方のホンダ。こちらもリザルトだけ見るといまひとつですが、僕はジョアン・ミルの転倒にポジティブさを感じました。ミルが「これならイケる!」と勢いに乗っていたからの転倒は、フィーリングが向上しているからでしょう。ホンダのマシンが、ミルに「攻めてみよう」「無理をしよう」と思わせているんです。
ただ、これが続くと「やっぱりダメか」と、ライダーの気持ちもダウンしてしまいます。転倒は転倒なので、原因をしっかりと見極め、続かないように断ち切ることが大事だと思います。
ジョアン・ミル。
このヤマハとホンダの差は、実は結構大きなものです。前回のコラムにも書きましたが、1周だけ速くても仕方がない。同じように、テストや予選で速くても仕方がない。レースとは、決勝をできるだけ高い順位でフィニッシュし、さらにシーズンを通してできるだけ多くのポイントを獲得する、というスポーツだからです。
はっきり言って、1発のタイムを出すことよりも、ハイペースを持続することの方がずっと難しい。終盤になると、タイヤグリップは必ず落ちてくるものです。それでもペースを落とさないようにするには、いろいろな工夫や努力が必要です。
ものすごく簡単に考えると、「予選はソフトタイヤを履いて、決勝はハードタイヤを履けばいい」となりますが、そううまくは行きません。ハードタイヤではそもそものペースが上げられない可能性があるし、ハードだから最後まで保つとも限らないんです。タイヤチョイスだけの問題ではありません。
ライダーは、周回するごとに刻々と変化していくタイヤや路面の状況に合わせたライディングをしなければなりませんし、それを見越したセッティングも必要になる。ダイナミックなように見えますが、レースはかなりのクレバーさが求められるスポーツなんです。
ライダーは、速く走りたい生き物です。ライダー心理としては、テストやフリー走行、予選などで1発速いところを見せたくなる気持ちも、僕だって分かります。しかし、レースというスポーツの最終目的は、年間チャンピオンの獲得です。1発の速さを見せつける必要はどこにもないんです。
走行セッションのすべてを、決勝レースのために使う。徹底的に、チェッカーフラッグだけを見据える。簡単なように思えるかもしれませんが、これは本当にクレバーでなければできません。
メーカーは、決勝で勝てるマシンを作らなければならない。ライダーは、決勝で勝つための組み立てをしなければならない。チームは、ライダーのコメントを受けて決勝で勝てるセットアップをしなければならない。
そして決勝中は、終盤までタイヤのグリップを保たせながら、ハイペースを維持しなければならない。これらすべてが高い精度で噛み合った時に初めて、結果が残せます。これを、今年で言えば22戦で繰り返しながら、さらに精度を高めていくわけです。
前回のコラムでは小椋藍くんの素晴らしさについて書きましたが、かいつまんで言えば、初戦から決勝を見据える組み立てができた、ということに尽きます。彼は、レースというものを本当によく理解できているライダー。Moto2チャンピオンは伊達ではありません。だから楽しみで仕方がない。
今年はMoto2に佐々木歩夢くんと國井勇輝くん、Moto3は山中琉聖くんと古里太陽くんが参戦しています。タイGPではまだ苦戦していましたが、MotoGPの藍くんの活躍を目の当たりにして、「オレも!」と気合いが入っていることでしょう。その気合いをクレバーさに結びつけて活躍してくれることが、今から楽しみです。
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