
7月20日、カワサキは鈴鹿8耐の会場にて、ニンジャH2 SXをベースとする水素エンジン試験車のデモ走行を披露した。量産2輪メーカーが水素エンジンを搭載したバイクを製作し、その走行シーンを公開するのは世界的に見ても初めてのことだ。
●文:ヤングマシン編集部 ●写真:箱崎太輔/編集部
カーボンニュートラル時代にエンジンを残す
今回、鈴鹿で走行シーンを公開したのはニンジャH2 SXがベースの研究車両(車名は未定)。カーボンニュートラルに電動だけでなく、さまざまな選択肢を用意して対応していこうとする“マルチパスウェイ”の一環として、水素燃料エンジンの可能性を追求しているものだ。
現状ではまだ開発が始まったばかりだが「電動やハイブリッドもやっているカワサキだが、エンジンも独自の魅力である鼓動感や胸のすく加速感といった、ファンな部分を残しつつカーボンニュートラルに対応させていきたい。2030年初頭にはユーザーに届けられるよう開発を進めていく」とのこと。
【カワサキ・水素エンジンモーターサイクル】
注目のエンジンはH2 SXの998cc直4スーパーチャージドユニットがベースで、インジェクターを水素に対応したものに変更し、これを燃焼室への噴射式として使用する。エンジン自体は同じくカワサキ製の4輪バギーに搭載して開発を進めてきたもので、過去には小池百合子東京都知事を乗せてデモランも行っている。このエンジンを改めて2輪に搭載し直したのが今回のトピックだ。
H2 SXをベースとしつつ、かなりフューチャー方面に振られた独特の外観も特徴。このデザイン自体は2023年12月の投資家向け説明会で公開済みだが、今回の新情報として、車体後部に搭載される25L✕2個の水素タンクはトヨタの燃料電池車「ミライ」と同じものを活用していると明かされた。
このあたりは国内2輪メーカー4社を筆頭にトヨタも参与的に加わる「HySE(小型水素モビリティ・エンジン研究組合)」での繋がりを活かしたものと言える。今回の車両を製作したのはカワサキだが、水素タンクにHySEのロゴが刻まれているのは、そうした共同研究の成果もPRしているわけだ。
エンジンは前出のようにH2 SX用のSCユニットがベース。とはいえボア・ストロークや圧縮比、SCの過給圧などはSTDから不変とされる。リヤのナンバープレート上のリッドを開けると水素の補給口が現れる。
もうひとつ今回の車両で目を引くのは、H型のヘッドライトに代表される超未来的な外観デザイン。アフターバーナー的な処理?の巨大な水素タンクとも相まって「何かスゲエの来た!」感に満ちている。反面、コクピットは研究車両らしい追加メーター程度でSTDの面影が強い。
水素エンジンの走りは「普通やん!」
エンジンの出力や車両重量は非公開だが、航続距離は走行条件にもよるものの、実験の初期段階である現状でも100km以上を実現しているとのこと。水素タンクなどの追加装備は“大人がタンデムしたぐらい”とのことで、実用の範疇といえる重量に収まっているようだ。
走行は鈴鹿サーキットの東コースを1周というわずかな時間だったが、キュルキュルとセルスタートで始動したエンジンのサウンドはガソリン車と何ら変わらない印象。ガチャリという、カワサキらしい音とともに1速にギヤを入れ、スルスルと走り出した際の排気音も至って普通の内燃機関だ。
デモランを行ったライダーの印象も「(ガソリンエンジンのように)普通やん!」というもので、従来のバイクと同様なファンを持つバイクを、水素燃料でも作れる可能性が十分あると考えていいだろう。今後はさらなる高出力化や低燃費化、どんなバイクに搭載すると水素エンジン特徴が活かせるのかなど、製品化へ一歩踏み込んだ模索を行っていくとのことだ。
あくまでもデモランのため、観客に手を振りながらのゆっくりとした走行だったが、その気になればもっと元気よくも走れるという。
(左から)カワサキモータースの水素プロジェクト担当で、川崎重工業の執行役員も務める松田義基さん、カワサキモータースの先行開発部長・市聡顕さん、そしてテスト走行を担った同社のテストライダーさん。松田さんはカワサキのモトGPマシンの、市さんはニンジャH2のプロジェクトリーダーだった方なのでご存じの方も多いハズ。
カワサキ・水素モーターサイクルの走行シーンを動画で見る!
【動画】カワサキの水素エンジンモーターサイクルが走行を披露!!
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