ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキという日本の二輪メーカーが手を組み、共同で二輪など小型モビリティ用水素エンジンの技術を研究開発する「水素小型モビリティ・エンジン技術研究組合」が発足することになった。一昨年から起きていた動きではあるが、その概要や枠組みが固まり、経産省の認可も取得。ここから本格的に水素エンジンの共同研究がスタートすることになる。
●文:ヤングマシン編集部(Nom)
何が何でもエンジンを残し、日本の技術を繋ぎたい
2035年にガソリンで走るエンジン車の新車販売をすべて禁止にすると、カーボンニュートラル(以下CN)達成手段をバッテリーEV(以下BEV)一辺倒で推し進めていたEUが、環境によい合成燃料(e-FUEL)を使用するエンジン車の販売を認めると3月25日に発表。EUのEVシフトにも変化が生じ、エンジン車が将来的に存続する可能性が高まっています。
そして日本でも、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの二輪メーカー4社が水素エンジンの基礎研究を目的とした「水素小型モビリティ・エンジン技術研究組合(Hydrogen Small mobility & Engine technology 略称HySE=ハイス)」の設立に向け、経済産業省の認可を取得。普段はコンペティターである4社が、共同で従来と同じ内燃機関を使用する水素エンジンの開発を行っていくことを5月17日に発表しました。
ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、実はこの4社共同開発の話は一昨年の11月に岡山国際サーキットで二輪4メーカー+トヨタの代表が記者会見して発表した流れを受けてのもので、あれから1年半、実際にどうやって共同開発を行っていくのかを隠密裏に4メーカーの担当者がときには合宿をしながら協議を続け、今回の発表にこぎつけたのだそうです。
同じ二輪メーカーと言っても、文化もバックグラウンドもそれぞれ違う企業が、共同で何かをすることは簡単なことではありません。というよりも、口で言うは易し、行うは難しの典型のようなものですが、それをあえてやると決めたのは日本の二輪メーカーが長年培ってきて、現在でも世界で50%近いシェアを持つ、世界に誇れる「エンジン=内燃機関」を何とかして残したいという強い決意の表れなのです。
四輪とは違い、バッテリーを搭載するスペースが限られているバイクは、大型モデルまでBEV化するのは困難だと言われていて、化石燃料以外の燃料で現行の内燃機関を使用することでCN社会を実現する「マルチパスウェイ」が求められています。我々ライダーにとっても、内燃機関が存続する可能性を高めるこの動きは大きな光明です。
基礎研究を4社合同で行い、その先は独自開発領域に
では具体的にこのHySEで何をしていくかというと、4メーカーで共同して水素を燃料とする小型モビリティ(つまりバイク)向け内燃機関と、水素を入れるタンクや燃料供給系構成要素などの基礎研究を行っていきます。1社1社が単独で研究開発するよりも、各メーカーで役割分担して研究開発を行い、そこで得られた知見や技術を4メーカーで共有。その知見・技術を生かしながら各メーカーそれぞれが独自の水素エンジン車を開発するというのが将来像となります。
とはいえ、水素はガソリンに対して燃焼速度が早く、着火性が高いことに起因する異常燃焼が起きやすく、燃焼生成物として出る水によるサビなどの問題や、オイルに水が混入するエマルジョンという現象、水素の搭載スペースが限られることによる航続距離の問題など、現時点で3つの課題がありますが、これに関しても今後の研究開発中にさらなる課題が見つかる可能性もあるといいます。
とはいえ、まずは前代未聞の4メーカー共同での研究開発に大きな期待を抱かずにはいられません。
「ジャパンモビリティショー」で何かが見られるかも?!
当初は、正会員が前述の4メーカーで、これにレースで実際に水素エンジン車を走らせ、水素の活用に関して高い技術知見を持つトヨタ自動車が研究管理特別組合員として、液化水素運搬船などを運用している川崎重工が事業管理特別組合員として加わってスタートし、タイヤやパーツなどのサプライヤーや、海外の二輪メーカーの参加も募っていく予定とのこと。
これは、一緒に研究開発する仲間を増やしていくことで、CNの実現に向けた動きを加速させようということなのです。
まだスタート地点に就いたばかりで、具体的な成果の発表時期などはまったくの未定のようですが、ヤマハ発動機の日髙祥博社長は、今年10月に開催される「ジャパンモビリティショー」では何らかの成果を見せてくれるものと期待して、研究組合にハッパをかけていくとのことでしたので、まずは10月のジャパンモビリティショーに期待しましょう。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
ドローンへの搭載を想定した「αlive RX」、水素エンジン技術の「αlive H2E」 ヤマハのカーボンニュートラル技術を間近で見られる機会が訪れる。2023年5月24日~26日にパシフィコ横浜で開[…]
より操作に忠実な過給機付きエンジンを実現する! ホンダがアフリカツインに過給機を搭載?! そんなニュースが現実味を帯びてきたかもしれない。2020年の特許公開時には海外メディアを中心に話題となったが、[…]
昨年11月に二輪事業本部に電動開発部を新設した 昨年の9月13日、ホンダは「二輪事業の取組みについて~電動化を中心としたカーボンニュートラルの実現〜」という内容の記者会見を行った。その中身は、'40年[…]
’23年はEWCの王座奪回が目標、鈴鹿8耐は日本人ライダーを起用したい 昨年7月、数か月前から噂されていたモトGPからの撤退を表明したスズキだが、同時にFIM世界耐久選手権(以下EWC)へのワークス参[…]
水素燃料を使うと、超ハイレスポンスエンジンが出来上がる!? カーボンニュートラルに挑みつつも、我々ライダーが大好きな内燃機関も新規開発を進めるとEICMAで発表したカワサキ。4輪のトヨタを筆頭として、[…]
最新の関連記事(ニュース&トピックス)
GWのもてぎには、激レアな“働くクルマ/バイク”が大集合! 国内有数のサーキットとして知られる「ツインリンクもてぎ」から複合レジャー施設へと生まれ変わった「モビリティリゾートもてぎ」は、いまでは多くの[…]
近年、昔バイクに乗っていて改めてバイクに乗るようになった方や、女性ライダーの増加など、バイクを利用する方、ツーリングを楽しむ方が増えている。 パイオニアが実施した調査(※2022年11月のインターネッ[…]
2輪ユーザーの“電動バイク”への意識とは? ①80%がその存在を知っている【認知状況】 ”名前と特徴は知っている”レベルの認知度はかなり高く、前回(2021年)調査の72%から増加の80%に(赤枠内参[…]
伝説のバイク屋「湘南ジャンクヤード」 「湘南ジャンクヤード」という名前をご存知だろうか。店は知らなくともネットで聞いたことがあるという方も多いかもしれない。「解体屋以上バイク屋未満」とか「西のオートコ[…]
気筒あたり8バルブ、2本のコンロッドを備え、シート下2本出しマフラーはタンブリーニも参考にしたという…… ホンダのドリームバイクといって思い浮かべるのはどの機種だろうか。2015年のRC213V-Sも[…]
人気記事ランキング(全体)
どうもアイキョウです。ワークマンにはさまざまなレインウェアがあります。 雨の日でも通勤でバイクに乗るならワークマンのバイカーズという製品がオススメです。ワークマンレインウェアの中では高額な5800円な[…]
330円の万能ソケット買ったので試してみたい いつ頃からだろうか?100円ショップが100円だけではなくなってしまったのは。工具のコーナーも例外ではなく、100円、200円、500円、ものによっては1[…]
――はじめに、津久井高校の県内の位置付けや特色を教えてください。 熊坂:県立高校に移管される前も含めると、明治35年に始まった学校なので120年を超える歴史があります。全日制と夜間定時制の2課程ありま[…]
※2024年3月にWEBヤングマシンで大きな反響を呼んだ記事をあらためて紹介します。こちらは第3位の記事です(初公開日:2024年3月11日)。 バイクはオービスに引っかかることはない!? ウワサの真[…]
リスクの高いスポーツは社会に受け入れられない……? 3月末、日本にいた僕は東京モーターサイクルショー(TMS)にお邪魔しました。会場を回りながら肌で感じたのは、「レース、やばいぞ……」ということでした[…]
最新の投稿記事(全体)
トルクが凄ぇ! でも意外なほど普通に走る 2294ccの直列3気筒エンジンを搭載した初代ロケットIII(現在はロケット3)を初めて目の前にしたとき、こんな大きなバイクをまともに走らせられるんだろうかと[…]
精度向上と新たなシール開発で、今なお進化を続けるチェーン技術 芸術家であり科学者でもあったレオナルド・ダ・ヴィンチが15世紀に考案し、19世紀に現在とほぼ同様の形態で実用化されたローラーチェーンは、バ[…]
車体や外装だけでなく…メーターまでワンオフだ!! カワサキ・ニンジャZX-10Rエンジンをオリジナルのアルミフレームに搭載した“最強”のカタナ。兵庫県でECUチューニングなどを手掛ける10ファクトリー[…]
330円の万能ソケット買ったので試してみたい いつ頃からだろうか?100円ショップが100円だけではなくなってしまったのは。工具のコーナーも例外ではなく、100円、200円、500円、ものによっては1[…]
コースレコード更新、セカンドベストで2日目のポールポジションに 全日本ロードレース選手権第2戦が栃木県・モビリティリゾートもてぎで行われました。極寒だった開幕戦鈴鹿から、ようやく暖かくなってきましたが[…]
- 1
- 2