
ホンダは2023年5月18日に新型車「CL250」を発売。そして6月中旬にプレス向け試乗会を開催した。そこに参加してきた試乗インプレッションはすでにお届けしているが、現地では開発者に話を聞くこともできたのでお伝えしたい。見た目はレブルに似ているが、そこに込められた意味とは?
●文:宮田健一 ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:ホンダ
ベースはレブル250/500だが、最初からCLを計画したわけではない
YM──CL250/500はどういった背景から登場したのでしょうか。レブル250/500からの派生機種ですが、レブルの開発当初から既にこういった展開を考えていたのでしょうか。
試乗会にて対応してくれた開発者のみなさん。インタビュー取材はこのうち小数賀さんと山崎さんにお願いした。
小数賀──私も山崎も実は’17のときからレブルに携わっておりまして、当初そうした計画はなかったと記憶しています。ただ、レブルはアメリカ市場に合わせたクルーザーモデルでしたが、当時からこの丸みを帯びたオーソドックスなデザインはカフェレーサーやスクランブラーなど他のモデルにも絶対に合うよね、そういったモデルに乗ってみたいね、といった話を開発者の間でよくしていたんです。ここをこうしたらいいんじゃない? なんて感じで、自然と頭の中で青写真のようなものがイメージできていったんです。レブルのマイナーチェンジの際には採り入れることができませんでしたが、今回CLで実現できたアイデアもいっぱいありました。レブルをベースに他のモデルも作れると考えた若手有志たちで社内プレゼン用の試作モデルを製作したりもしました。それからしばらく経って、ようやく会社の方針でレブルのコンポーネントを利用した新規モデル開発の指令が下って出番が来た! という次第です。
YM──’18年には既にCLらしきステップやフレームの特許が公開されていましたよね。
小数賀──あれはまだCL開発が決まる前でした。あの特許は有志による試作モデルで、せっかく作ったものだからみんな特許を取ってしまえと。CL開発が正式に決まった後、あのときの特許が使えるぞと活用させてもらいました。
ホンダは’18年3月にステップ関係の特許を出願。使用された図面にはレブル500のエンジンと車体を用いたスクランブラーらしきモデルが描かれていた。アップマフラーをはじめ、スクエアな形状のタンクやフラットなダブルシートを備え、シートレールなどがレブルと異なる。しかも発明者のひとりはレブルの開発リーダー・三倉圭太氏だった。
自分が欲しかったからこの形になった
YM──なぜネオクラ系でもカフェレーサーではなくスクランブラーを選んだのでしょうか。
小数賀──CT125ハンターカブが大ヒットするようにアウトドアブームが背景にあったり、ホンダにはカフェレーサータイプとしてGB350Sもありますし……といった理由もありますが、やっぱり最終的には“自分たちが一番乗りたいものだった”というのが本音です。最初にレブルを見たときから、このデザインをベースにしたスクランブラーが欲しくてたまらなかったんです。
オレンジがCL250で、青はCL500。後者の試乗インプレッションはヤングマシン9月号(7月24日発売)でお届けする予定だ。
YM──そこで“CL”を名乗りつつもレブルに寄せた感じが全面に出ているんですね。
山崎──レブルの丸目でフレーム剥き出しの飽きの来ないデザインは、スクランブラーにも合うと思いました。
小数賀──開発が始まったとき、まだCLという車名は決まっておらず、開発チームでは“スクランブラー250/500”と呼んでいたんです。新しいCLシリーズは過去のモデルのスタイリングなどを再現したモデルではありませんが、高い機動力や幅広い路面コンディションで楽しめる特性、既存の価値観を押し付けられることのないバイク本来の自由さ、といった共通性から、その名を受け継ぐことになったのです。
レブルはライバルじゃない
YM──スクランブラーとして違いを見せるために心がけた部分はどのあたりでしょうか。
山崎──長めの足まわりやアップマフラーも譲れない部分でしたが、シートレールをループに至るまで水平基調でいかにキレイに見せるかということも重要なポイントになっていました。本当はこの部分を継ぎ目のない1本パイプで実現したかったんですが、パイプが長くなりすぎると生産が難しくなる。そこで、乗車したときにちょうど足で隠れるあたりのシート形状を工夫することで、うまく溶接痕が見えないようにしました。他にもレブルと比べてフレーム補強板を目立たなくしたりしてCLの雰囲気を追求しています。
YM──最大のライバルはレブルということになりそうですね。
山崎──ライバルというよりも同系のデザインで味付けの好みに対するメニューを拡大したと捉えてください。目玉焼きはソース派ですか醤油派ですかみたいな(笑)。さらに塩派やマヨネーズ派の方もいらっしゃると思いますので、今回はカスタマイズで幅を広げることも重視して、クロススタイル、ツアースタイルの2つを提案させていただきました。この他にも発売と同時にサードパーティによるカスタムパーツも多数設定しました。これらをヒントに色んな可能性を引き出してほしいというのが我々の願いです。
YM──たしかに今回はカスタムへの力の入れ方が凄い。
山崎──シートレール後方にボルトで穴をふさいだだけのボスが左右2個ずつ付いているのを御覧いただけましたか? これはオプションパーツを後から装着するために用意したもので、今までならノーマルで機能していない部分はなるべく外から見えないように設計していたんですが、今回は敢えて目立つようにしました。「ここ装着場所に使えそうじゃない?」とサードパーティメーカーやユーザーの皆さんも巻き込んで、いろんなカスタムの可能性を広げてもらいたかったからなんです。先ほどのシートレールのように隠すべきところと、このボスのように見てもらいたいところ、そのメリハリをハッキリさせているのもCLの特徴です。
タンデム部分の下あたり、グラブバーなどが取り付けられそうな位置にボルトが2本見えるだろうか。また、ループ状のシートレールはシートに隠れる位置に溶接を持ってきているのがわかる。
YM──オプションのゼッケン風サイドカバーなんて、クロススタイルだけでなくセパハンにしたカフェレーサーカスタムにも合いそうです。
山崎──まさにそういった感じで、皆さんがカタログを見つめながら自分なりのカスタムを想像してもらうのが、我々の狙いなんです。バイクの入口に立った人たちに、ぜひそういった楽しみも体験してもらいたいなと思っているんです。想像しているだけで楽しくてたまらないですもんね。
とにかく最初のハードルを下げたかった
YM──カスタムと言えば、純正オプションのフラットシートが税込1万2540円とリーズナブルなのに驚きました。シート高が30mmもアップするのに足着き性やハンドリングの高さも印象的。こちらを標準で設定していても良かったような気もするのですが……。
「CL250 クロススタイル」として展示されたアクセサリー装着車。このブラウンのシートがフラットシートだ。パーツ類はセット販売ではなく全てバラ買い可能なので好みに合わせて選べる。
小数賀──CLはまず第一に、これからのバイク文化を担っていく世界中の若い人たちに乗ってもらうことを考えたバイクなんです。なので日本だけでなく欧州もシート高は共通としました。これはカタログスペックとしての“シート高”を一番に意識したから。たしかに我々としてもフラットシートでも手軽さや乗りやすさには自信を持っています。しかし、バイクに興味を持ったばかりの若い人たちには「790mm」という数字からしか足着きを想像できないと思うのです。そこに+30mmの「820mm」と書いてあったら、それだけで「手強い」「自分には無理そう」と思ってしまいがちですよね。そんな先入観を避けたかったからなんです。
それよりもCLの手軽さ感に引かれてまずはショップに足を運んで実車に触れていただくことが大事だと考えました。そこでフラットシートも試していただき、人によっては「あれ、+30㎜なのに意外と乗りやすいんだ。しかもこれ安くていいんじゃない?」と新しい発見につなげてもらうのもいいのではと。
タイヤがバイアスだったレブルからCLではラジアルに変わっているのも、そうした“分かりやすさ”の一環です。スクランブラーらしいスタイルを演出するのに最もベストなトレッドパターンを持っていたこのタイヤがラジアルだったこともありますが、もうひとつは初心者にはラジアルの方がより走りが得意だと直観的に読み取っていただけるのではと考えました。アップマフラーもエキパイ部分までアップにするべきかと悩んだのですが、足着きや熱さ防止を考えた結果、手軽に乗ってもらえる現在の取りまわしを選んだのです。
YM──なるほど、CLはこれからバイクに入ってくる人たちをとても大事に考えているバイクなんですね。
小数賀──開発にあたっては、自身の嗜好や身の回りのカルチャーをSNSなどを通じてグローバルに受発信するソーシャルネイティブな現代の若者世代に対して、彼らの楽しみをさらに拡張できるモーターサイクルになることを目指しました。そのコンセプトは“Express Yourself=あなた自身を表現しよう”。世界中の若者たちがCLのある生活を自由に楽しんでいただけたら幸いです。
山崎——CL250/500のコンセプトである“Express Yourself”というのは、実はレブル250/500と同じです。クルーザーとスクランブラーでカタチは異なっていますが、自分のライフスタイルにに寄り添えるマシンという意味では変わりはないんです。オーソドックスなスタイルとなったことで、よりその部分が広くなったCLでバイクの世界を楽しんでもらいたいと思っています。
小数賀 巧さん 本田技研工業 ものづくり統括部 商品開発部 スタッフエンジニア CL250/500・LPL代行
PCXなどスクーターを経て’17初代からレブルシリーズを担当。新CLシリーズでは春に海外赴任となったLPL(開発責任者)の後を受けてLPL代行となった。専門分野はライポジや各種諸元などをユーザーに合うよう最適化する商品設定だ。
山崎翔大さん 本田技研工業 ものづくり統括部 商品開発部 アシスタントチーフエンジニア CL250/500・DPL
NC700シリーズ初代でシートを担当するなどした後、250・300(海外版)・500・1100とレブルシリーズに従事。専門分野は電装系以外を除いた完成車設計で、CLではDPL(開発部門リーダー)として全体に携わった。
HONDA CL250[2023 model]
通称名 | CL250 |
車名・型式 | ホンダ・8BK-MC57 |
全長×全幅×全高 | 2175×830×1135mm |
軸距 | 1485mm |
最低地上高 | 165mm |
シート高 | 790mm |
キャスター/トレール | 27°00′/108mm |
装備重量 | 172kg |
エンジン型式 | 水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ |
総排気量 | 249cc |
内径×行程 | 76.0×55.0mm |
圧縮比 | 10.7:1 |
最高出力 | 24ps/8500rpm |
最大トルク | 2.3kg-m/6250rpm |
始動方式 | セルフ式 |
変速機 | 常時噛合式6段リターン |
燃料タンク容量 | 12L |
WMTCモード燃費 | 34.9km/L(クラス2-2、1名乗車時) |
タイヤサイズ前 | 110/80R19 |
タイヤサイズ後 | 150/70R17 |
ブレーキ前 | 油圧式ディスク(ABS) |
ブレーキ後 | 油圧式ディスク(ABS) |
乗車定員 | 2名 |
価格 | 62万1500円 |
色 | 橙、灰、白 |
発売日 | 2023年5月18日 |
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
CL250の写真をまとめて見る 見た目はレブルっぽい……? でも跨るとその意味がわかる 思った以上にレブルだよなぁ……。CL250/500が正式発表されたとき、多くの方がそう思ったに違いない。僕もその[…]
記事中のCL250の写真をまとめて見る まずは、いいところをまとめて復習! CL250は、クルーザーのレブル250をベースとしながら、ストリートスクランブラーとして仕立てられたもの。シンプル極まる“素[…]
全部揃えるならクロススタイル=10万4940円、ツアースタイル=24万8490円 ホンダは、正式発表したCL250用に同車の魅力と利便性を高める各種アイテムを一挙リリースすることを発表した。マシン本体[…]
ガード類を特盛り、サスは調整機構で万能さをアップ! 国産250クラス唯一のスクランブラーとして、予約が殺到しているCL250。5月18日の発売日もいよいよ迫ってきた。 CL250の大きな魅力の一つがカ[…]
23YM CL500 471cc並列2気筒エンジンは46psを発揮、ロングストロークのサスペンションと大径フロントタイヤを採用 ホンダはブランニューモデルのスクランブラー「CL500」を正式発表した。[…]
最新の関連記事(CL250)
250ccクラスは16歳から取得可能な“普通二輪免許”で運転できる バイクの免許は全部で7種類ある。原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制[…]
250ccクラスは16歳から取得可能な“普通二輪免許”で運転できる バイクの免許は全部で7種類ある。原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制[…]
250ccクラスは16歳から取得可能な“普通二輪免許”で運転できる バイクの免許は全部で7種類ある。原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制[…]
CL250は『これ1台で良い』とポジティブに思えるバイク! 大パワーや豪華装備の大型バイクに乗り慣れると、250ccっていう排気量のバイクは感覚的に『メインバイク』だと思えなくなってしまいがちです。私[…]
『Wheels and Wavesフェスティバル』でCL500/CL250のカスタム16車が競演 ホンダは、フランスのバスク地方ビアリッツで6月12日~16日に開催された『Wheels and Wav[…]
最新の関連記事(レブル250/Sエディション)
250ccクラスは16歳から取得可能な“普通二輪免許”で運転できる バイクの免許は全部で7種類ある。原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制[…]
さとみ(すとぷり)がアンバサダーに就任! 日本二輪車普及安全協会は、2025年3月かいさいの「第41回 大阪モーターサイクルショー2025」および「第52回 東京モーターサイクルショー」の開催概要を発[…]
6速MT仕様に加えEクラッチ仕様を設定、SエディションはEクラッチ仕様のみに 2017年4月に発売され、翌年から2024年まで7年連続で軽二輪クラスの販売台数で断トツの1位を記録し続けているレブル25[…]
250ccクラスは16歳から取得可能な“普通二輪免許”で運転できる バイクの免許は全部で7種類ある。原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制[…]
250ccクラスは16歳から取得可能な“普通二輪免許”で運転できる バイクの免許は全部で7種類ある。原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制[…]
人気記事ランキング(全体)
いざという時に役に立つ小ネタ「結束バンドの外し方」 こんにちは! DIY道楽テツです。今回はすっごい「小ネタ」ですが、知っていれば間違いなくアナタの人生で救いをもたらす(大げさ?)な豆知識でございます[…]
V3の全開サウンドを鈴鹿で聞きたいっ! ここ数年で最も興奮した。少なくともヤングマシン編集部はそうだった。ホンダが昨秋のミラノショーで発表した「電動過給機付きV型3気筒エンジン」である。 V3だけでも[…]
1978 ホンダCBX 誕生の背景 多気筒化によるエンジンの高出力化は、1960年代の世界GPでホンダが実証していた。多気筒化によりエンジンストロークをショートストトークにでき、さらに1気筒当たりの動[…]
ファイナルエディションは初代風カラーでSP=白×赤、STD=黒を展開 「新しい時代にふさわしいホンダのロードスポーツ」を具現化し、本当に自分たちが乗りたいバイクをつくる――。そんな思いから発足した「プ[…]
ガソリン価格が過去最高値に迫るのに補助金は…… ガソリン代の高騰が止まりません。 全国平均ガソリン価格が1Lあたり170円以上になった場合に、1Lあたり5円を上限にして燃料元売り業者に補助金が支給され[…]
最新の投稿記事(全体)
オートレース宇部 Racing Teamの2025参戦体制 2月19日(水)、東京都のお台場にあるBMW Tokyo Bayにて、James Racing株式会社(本社:山口県宇部市/代表取締役社長:[…]
Schwabing(シュヴァービング)ジャケット クラシックなフォルムと先進的なデザインを合わせた、Heritageスタイルのジャケットです。袖にはインパクトのある伝統的なツインストライプ。肩と肘には[…]
新レプリカヘルメット「アライRX-7X NAKASUGA 4」が発売! 今シーズンもヤマハファクトリーから全日本ロードレース最高峰・JSBクラスより参戦し、通算12回の年間チャンピオンを獲得している絶[…]
小椋&チャントラの若手が昇格したアライヘルメット まずは国内メーカーということで、アライヘルメットから。 KTM陣営に加入、スズキ、ヤマハ、アプリリアに続く異なる4メーカーでの勝利を目指すマー[…]
王道ネイキッドは相変わらず人気! スズキにも参入を熱望したい 共通の775cc並列2気筒を用い、ストリートファイターのGSX-8S、フルカウルのGSX-8R、アドベンチャーのVストローム800系を展開[…]
- 1
- 2