パフォーマンスもプライスも“ちょうどイイ”ミドルクラスは、世界的にも大きな人気を集めている。そんなミドルの魅力を45年も昔に確立したザッパーが、いま蘇る! ひと目で「Zが来た!」と知らしめる伝統のスタイルと、いまどきの電子デバイスを一切持たない潔さ。カワサキZ650RSのスポーツ性を、丸山浩が高速&ワインディングで徹底検証!!
●文:ヤングマシン編集部(伊藤康司) ●写真:富樫秀明 ●外部リンク:カワサキ
回す快感に浸れる、パワフルで洗練された2気筒
ザッパーといえば、個人的にはメタリックのグリーン(キャンディエメラルドグリーン)のイメージが強く、好みでもある。実際、発売前のティーザーやビデオでも新旧のグリーンが登場していた。ところが先だって開催されたモーターサイクルショーではグリーンが展示されず、今回の試乗は贅沢にも50周年記念車が届けられた。新生ザッパーを象徴する色だけに、展示車や試乗車に回す余裕がないほどグリーンが人気なのかもしれない。
ともあれ、佇むZ650RSを前にすると、水冷2気筒エンジンをはじめ、ベースとなったストリートファイター系のZ650という“全然違うモノ”を、よくぞこのスタイルにまとめ上げたと感心する。これはZ900RSの時にも感じたが、しっかり「Z」になっており、カワサキの上手さを痛感する。
特に今回の試乗車である50周年記念車は、いわゆる“火の玉”カラーが施され、光が差すと細かなラメがキラキラと輝きを増し、いっそうZらしさを満喫することができる。
Z900RSよりワンサイズ小さく絞り込まれているものの、実際に跨ると想像以上にシートが高く腰高なイメージは、ベースとなるZ650の足着きの良さとは対照的で少なからず戸惑う。
そしてエンジンの音。いまやミドルクラスの2気筒では270度クランクが主流といえるが、Z650RSは懐かしさを感じる180度クランクで、アイドリングだとポコポコポコ…と、かなり牧歌的なサウンドを奏でる。昔ながらの“Zは4発!”というファンには違和感があるだろう。
ところが、いざ走り始めると印象は一変。2000rpm以下の極低回転では少しハンチング気味になる時もあるが、3000〜4000rpmになるとしっかりトルク感がある。そこからさらに回していくと、レッドゾーンの1万rpmの少し手前、9500rpmまですこぶる元気良く伸びていくのだ。さすがに最後の500rpmではレスポンスが落ちるが…昔の2気筒エンジンでそこまでは無理。しっかり洗練された現代のツインとなっている。
おそらくバランサーなども効果的に機能しているためだろうが、振動もキチンと対策されている。もちろん振動がないわけではないが、昔の2気筒だと“いらない振動”がもっとあった。
そして前述したアイドリングのポコポコとのどかなサウンドも、中回転以上も回せばたちまち“バイーンッ!”とパルス感のあるサウンドに変貌。もちろん4気筒とは異なるが、元気なミドルを感じるには十分以上だと思う。
懐かしいツインビートを刻み、軽快にワインディングを駆け抜ける
そして初見では腰高に感じた高めのシートにも、しっかり理由があった。今回の試乗に帯同したZ650は、着座位置が低くライダーがエンジンに近いため、ワインディングではスポーツ性の高さが光った。しかし、シート座面とステップの間隔が近いため、ヒザの曲がりが相応にキツい。
じつはZ650RSもフレーム(シートレール後端部以外は、基本的にZ650と共通)に対するステップ位置はZ650と変わらないが、シートの座面が高い分ステップとの間隔が広く、ヒザまわりに余裕がある。そのためハンドル位置も含めたライディングポジションはツーリングでも疲労しにくい。オプションでハイシートも用意されているので、もし足着き性に難がないのならば、こちらもおススメだ。
クラス分けするとミドルに分類されるとはいえ、排気量や免許からいってもZ650RSは“大型バイク”だ。しかも王道のZをオマージュしたバイクだけに、やはり大型バイクならではの所有感も大切。その意味でも、街乗りからツーリング、ワインディングまで、大型バイクに乗っているフィーリングを存分に味わえる、上手くまとめたライディングポジションと言える。
そんなライディングポジションも大きく影響するハンドリングは、ひとことで言えば「おおらか」で、Z650より意識的に落ち着かせているように感じた。とはいえ兄貴分のZ900RSよりずっと軽快で俊敏…でも行き過ぎていない味付けは、このバイクのキャラクターにキチンと合致した秀逸な部分だ。
面白いのがブレーキで、ベースのZ650がペタルディスクなのに対し、Z650RSは普通の丸型。他のパーツは共通のはずだが、ブレーキ効力の立ち上がりがZ650より鋭くなっていて、タッチのフィーリングも向上していると感じた。反面、リヤブレーキはABSの介入が早く、もう少しリヤを引きずりたい、使いたい、と思った。このあたりはZ900RSもフィーリングが似ているので、カワサキが考える特性なのだろう。
Z650RSはワインディングでスロットルを大きく開けて高回転まで引っ張ったり、とにかく回して楽しめる。反対にZ900RSは現実的にはパワーが有り余って回し切れない。その意味では、公道でのスポーツ性はZ650RSの方が優位、とも考えられるが、キチンと「おおらかさ」も持たせている。そんなザッパーの立ち位置の作り方こそが、カワサキの秀でた部分だ。
総括:外見と伝統のプラスαによって、ここまで楽しくなってしまう!
カワサキは「Z」というブランドを、すごく大切にしている。そしてブランディングを絶対にハズさない上手さがある。これは以前、ゼファーでも感じていたが、今回はフレームもエンジンも、かつてのZとまったく異なるZ650がベースにもかかわらず、見事なまでにザッパーを再現している。あまり詳しくない人でも、ひとめで「Zが来たっ!」と感じるはずである。
たとえばアナログ式の二眼メーター。流行りのスマホ連携こそ外されたが、これが退化かといえば、そうではないと思う。アナログメーターは視界の隅で全体のスケールを見るだけで、数字を読まなくても速度や回転数はもちろん、増減の過程も認識しやすい。そしてモーターやギヤを用いた機械駆動は、ともすれば液晶パネルより高コストだったりする。そんな「機能と質」は、Zが大切にしてきた部分だ。
思いのほか高いシートも、ツーリングでの快適性や威風堂々としたポジションや乗り味に貢献。座面が広くクッション性が高いタンデムシートは、大切な人を乗せてツーリングに行きたくなるだろう。ちなみにオプション(50周年車は標準装備)のグラブバーは、いかにも昭和なスタイルだが、じつに握りやすく機能としては満点だ。
昔からのファンやマニアの中には、エンジンが4気筒でないことに異論を唱える方もいるだろう。しかし、いざ目にして跨り、走ってみれば、どんな世代やキャリアの人に対しても間口の広いバイクだと理解できる。それはZ900RSとの37万4000円のプライス差にも表れていると思う。
誤解を恐れずに言わせてもらえば、Z650RSは「色と形が気に入れば買ってもいい」数少ないバイクだ。それもカワサキZたる所以だろう。
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