2021年12月10日、国土交通省とNEXCO各社、そして首都高速道路から、高速道路料金の割引設計やETC専用料金所の設定について発表がありました。相変わらず値上げの方針にはサッサと対応して、割引などユーザーがメリットを受けられるものについてはわかりにくく作っている印象がぬぐえません。各関係者はどのように考えているのでしょうか?
●文: Nom(埜邑博道)
交通の分散化を図るとはいうが、使いにくい割引プランのままでは……
今年の8月に、「社会資本整備審議会 道路分科会 国土幹線道路部会」が発表した中間答申において、繁忙期は休日割引等の適用を除外し交通の分散を図るとともに、観光需要の平準化を図る、という今後の高速道路料金についての方針が示されました。
簡単にいうと、お正月やお盆、大型連休などは休日割引を適用すると交通集中が起こって高速道路の渋滞が激化してしまうので、割引を止めることで利用者の減少を図るということです。
そして、12月10日、国土交通省は令和4(2022)年の1月1日~3日は休日割引の適用除外をすることを発表し、それを受けてNEXCO各社も同様の発表を行いました。つまり、来年の正月三が日は休日割引がなくなってしまったわけです。
中間答申で示された案通りのことが早速、行われたわけですが、そうなると気になるのは来年は1月1日〜3日以外にも休日割引が適用されない日がどれだけ設定されるのかということ。お正月やお盆、そしてGWなどの大型連休しか休みがなかなか取れない人にとっては、高速道路料金の休日割引が適用されないとかなりの支出アップに直結してしまいますから、多くの人にとって大きな関心事であるに違いありません。
さらに、そういう方々は休日割引が適用されなくても、その日程でしか帰省や旅行ができないのであれば当然、これまで同様に高速道路を使用する可能性が高いと思われます。となると、国交省が想定している「渋滞激化の緩和」に果たして本当に効果があるのかも大きな疑問です。
国土交通省高速道路課の担当者によると、今回の休日割引除外については先の中間答申を受けてのことで、渋滞の激化を避けるために行うものである。ただし、この割引除外によってどれだけ交通量が減るのかは具体的には算定はしていないし、この施策によって完全に渋滞が解消するとは思っていないとのこと。
とはいえ、中間答申が示された以上、国交省としては早急に提示された案を推し進める必要があり、今回の決定に至ったとのことでした。従って、1月1日~3日以外に、お盆やGWの割引除外についても検討を進める方針だそうです。
また、そもそも休日割引は観光需要を促進するのが目的なので、曜日にかかわらず利用することができるNEXCO各社が用意している「周遊割」の拡充を求めていくことで、休日割引と合わせてトータルでの高速道路の割引制度を考えて行きたいとのことですが、ただでさえガソリン代の高騰などで出費が嵩んでいるいま、ユーザーにとっては厳しい方針が明確に示されたと言えるでしょう。
また、クルマの「周遊割」に相当するのはバイクの場合「ツーリングプラン」となりますが、これも以前書いたように期間が短いうえ、設定されるコースも「周遊割」よりも非常に少ないのが現状です。また、使用する上でのさまざまな制限もあってユーザーが使いやすい設計になっていない部分もありますから、この点についても改善をお願いしたいところです。
国交省の担当者も、利用者にとって使いやすい割引サービスにしていきたいとのことですから、単にプランを拡充するだけでなく、ぜひ利用しやすさにも力点を置いてもらいたいと思います。
46%アップが急激な負担増じゃないって? 首都高の料金上限が4月1日から大幅増
そして国交省と同じ12月10日、首都高速道路株式会社も2022年4月1日からの首都高速道路の上限料金の引き上げと、ETC専用料金所の拡充を発表しました。
まず上限料金の引き上げですが、首都高速道路(株)のリリースによると、
・首都高速道路は、2016年4月に対距離料金制度へ移行したが、料金の激変緩和のために上限料金(二輪車1090円、普通車1320円・料金距離35.7km超)を設定したが、(中略)利用距離が長くなるほど他の高速道路より首都高速道路が割安な場合があって、依然として都心部に渋滞が発生している状況
・そこで、都心部の通過交通をこれまで以上に抑制する必要があることを踏まえ、より公平な料金体系のさらなる前進に向けて、首都高速道路の長距離利用において上限料金の見直しを行い、急激な負担増を避けるため、新たな上限料金(55km超 二輪車1590円、普通車1950円、35.7km以内は従来と同様の料金でそれ以降55kmまで距離料金を加算)を設定する
・上記料金はいずれもETC搭載車の場合で、現金の場合は距離にかかわらずバイク1590円、普通車1950円の一律料金とする
とのことです。
とても回りくどい説明ですが、要するに現在は首都高速道路を35.7km以上走行した場合に上限料金が適用されていますが、来年の4月1日からは35.7km以上走行すると普通車の場合、1km毎に29.52円ずつ加算され、55kmを超えたところで新たに設定される上限料金が適用されるということです。
この上限料金についても、現在はNEXCO各社の高速道路よりも首都高速道路の方が割安になっている状況を是正して公平な料金設定を実現することが目的だが、急に完全距離制を導入すると現在よりも大幅に料金がアップするため、新たな上限料金を導入することで、急激な負担増を避けたという説明になります。
今回の休日割引除外と同様に、この料金値上げも渋滞の激変緩和処置のひとつとのことですが、ユーザーからしてみれば値上げをすることで首都高速道路を使用しにくくして、その結果、首都高の交通量が減ることを単に狙っているとしか感じられず、その減った分が他の高速道路だけでなく一般道に流れて、一般道の渋滞が激化することまでは考えが及んでいないのではと思ってしまいます。実際、2020東京オリンピックの際に首都高料金を1000円上乗せした結果、首都高の渋滞は緩和されたけれど、一般道の混雑は増えたという事実も記憶に新しいことです。
また、急激な負担増を避けると言いながらも走行距離55km超の上限料金は、バイクは500円・約46%アップ、普通車は630円・約48%アップ、特大車にいたっては2430円・約50%アップという大幅な値上げとなっています。
ここまで大きな値上げをされた場合、たとえば携帯電話だと別の会社に移行しようと考えるでしょうし、それ以外のことやモノでも別の会社の商品やサービスを選ぶことにしようと思うのが当然です。しかし、首都高速道路は独占サービスですから、他に乗り換えることができないわけで、ユーザーにとっては避けることが難しい直接的な痛手になってしまいます。
今回の上限料金引き上げについて、首都高速道路(株)の広報担当者に聞いてみました。
・今回の見直しの目的は、首都圏の高速料金を統一し、公正な料金体系を実現するために首都高の料金を改めるのが目的。首都高は完全な距離性をとっておらず、上限料金が決められているため、NEXCOの料金と比較すると首都高が割安という歪みが生じている。
・今回の見直しは、首都圏の高速料金を統一して公正な料金体系を実現するため首都高の料金を改め、将来的にNEXCOと同等の料金設定にするためのステップである。
・現在、上限の35.7km以上の走行は全体の14%にあたるが、上限を55kmに上げると全体の3%にまで減少するため、いま以上に幅広く多くの利用者に料金を負担していただくことになる。
つまり、上限料金を引き上げることで首都高の割安感を緩和し、都心部の通過交通を抑制するとともに、首都高料金を是正して将来的にNEXCOと同等の料金に揃えるための段階的処置だというわけです。
とはいえ、前述のように値上げ幅はどの車種区分も40%以上と大幅なものになるのですが、その点についてはあくまでもNEXCOと同等の料金にするためのステップであると主張するだけで、値上げ幅が大きすぎないかという問いには一切、明確な回答がありませんでした。
目的(=値上げ)が優先で、それがユーザーにどんな影響を与えるかについてはまったく考慮されていないようでした。
公平、公正で分かりやすい料金設定であることは必要とは思いますが、そのために首都高速道路の利用をためらうほどの大幅値上げが本当に適切なことなのかはなはだ疑問です。
このあたり、いつも感じてしまうNEXCO各社と同様の庶民感覚というか、一般企業感覚のなさが露呈してしまっていると言わざるを得ません。
最終的なゴールはNEXCOと同等の料金ということですから、現状の首都高速道路の最長区間である「さいたま見沼→並木 86.6km」は将来的に2980円(普通車)になる可能性が高いということ。4月1日からの1950円からさらに1030円もアップするわけで、今後も首都高料金はどんどん上がっていくことでしょう。
新たに34カ所の料金所がETC専用に、そして2025年には約9割がETC専用になる
また、2022年4月から首都高速道路の料金所のうち、新たに34カ所(3月1日から5カ所、4月1日から29カ所)がETC専用になることも発表されました。
これは、近年のETC普及率の拡大(96.7%・2021年9月現在)などや社会情勢の変化などを受けて、料金所でのキャッシュレス化、タッチレス化の一層の推進を図るというものです。
ちなみにこのETC専用料金所は、2025年度中に全料金所の約9割に拡大されるということです。
ご存知のように、バイクのETCの普及はクルマに比べて大幅に少ないのが現状です。これはもちろん、ETC機器自体と装着の費用がクルマよりも割高であるのが原因のひとつですが、複数台所有している方がよく使うバイクだけにETCを付けているケースや、旧車など6V電源の車両は物理的に装着できない場合もあります。
そういう状況があることを、首都高速道路(株)はあまり深くは理解していないようで、「現在、首都高を利用したバイクの90.2%はETCを装着していて、まだ装着していないライダーには十分に広報活動を行うことと、ETC車載器購入助成キャンペーンの実施でバイクのETC機器装着率を上げていく」方針とのことです。
首都高を使う、使わないは別として、利便性や安全面でもバイクにETCは必要な装備だと考えますが、外的要因によって強制的に付けざるを得なくなるのは違う話だと思います。
首都高速道路も行政サービスのひとつなのですから、少数者を切り捨てるのではなく、救済する方策も用意してことを進めるべきではないでしょうか。
来年、34カ所の料金所がETC専用になる際、誤ってETC専用の入り口に入ってしまった車両のためにサポートレーンというものが用意され、そこで係員の指示に従えば首都高を利用することができるとのことなので、すべての料金所がETC専用になったときもこのサポートレーンは残しておいてもらいたいものです。
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