●試乗:丸山浩 ●まとめ:田宮徹 ●写真:真弓悟史
ついにこの日がやって来た。日本では2017年モデルを最後にラインアップから消えていたスズキ・ハヤブサが、3代目に生まれ変わり、いよいよデリバリーが開始される。日本の地に舞い降りた最強の猛禽類を、ヤングマシンは逃すことなく捕捉。メインテストライダーの丸山浩による超速攻詳細試乗を敢行だ!
低回転域からの「ズヴォ~~」が気持ちいい!
最初に朗報! 既存のハヤブサファンよ、安心すべし。3代目になっても、ハヤブサはやっぱりハヤブサのままだ。歴代モデルが誇ってきた乗り味の方向性は、少しも変っていなかった。といってもそれは、進化していないということではない。“らしさ”は継承するが、先代からの徹底したアップデートがもたらす走りの楽しさには、最新型フラッグシップならではのものがある。
ハヤブサの“主戦場”とされてきたのは、言うまでもなく高速道路。1999年型として登場した初代は市販車ストック状態で初めて実測300km/hを超え、2008年型としてデビューした2代目は当時の量産市販二輪車最高出力となる197馬力をマークしたのだから、超高速の世界を意識するなというほうが無理な話だ。
とはいえ日本の公道でその領域に到達することは、法的にもモラル的にも許されるわけがない……のだが、そもそもそんな走りをしなくても気持ちいいというのが、ハヤブサのエンジン。最高のパフォーマンスを発揮できる回転域よりもはるか下、3000回転くらいからのむずがゆくて“うずうず”してしまうような領域での加速感。ハワイ島キラウエア火山のマグマが止めどもなく湧き出るような壮大な盛り上がりを中低速域の加速だけで楽しめてしまうのだ。
だから街中でも、トバさなくても満足できる。低回転域から「ズヴォ~~」と立ち上がる1339ccという大排気量に由来したトルクこそがハヤブサであり、新型はこれをもっとも大切にしている。
フィール抜群のシフターが気持ちよさを加速させる!
今回は新旧直接比較ができなかったので、新型のエンジン開発でとくに重視されたという低中回転域のパワー&トルクが、先代と比べてどれほど体感的な差があるのかは、次回のテストで評価する楽しみに取っておきたい。エンジン特性を表わすパワー&トルクの曲線では一目瞭然の差なのだが、先代のエンジンでも低中回転域で十分すぎるほどの力強さを感じていたので、同じ環境で比べてみないことには正確なインプレッションはできない。
ただし、乗り比べるまでもなく明らかに違う部分もある。それが、双方向クイックシフトシステムがもたらすメリット。ただでさえ快感なハヤブサのエンジンが、スパスパと入るシフターのおかげでさらに気持ちよさを増している。先代にこの機構はないので比べようもないのだが、スズキ旗艦スーパースポーツのGSX-R1000Rに搭載されているものと比較しても、タッチと変速のスムーズさは際立っていて、開発陣がかなり制御に磨きをかけてきたことが足裏から伝わってくる。せっかくシフターが標準装備されていても、その精度が低ければ、かえってエンジンの気持ちよさを阻害する要素ともなりかねない。それでは変速ショックのせいでオーナーも大ショック。しかし新型ハヤブサにその心配は無用だ。
ちなみにこのシフターは、市街地走行などでかなりエンジン回転数が落ちたときですら使えてしまう。モードは「1」と「2」に切り替えられるが、どちらでもその傾向にある。ただし、やはりキレのよさでは高速道路がピカイチだ。
また、新型ハヤブサには量産二輪車初のシステムとして、ライダーが40~200km/hの範囲内で任意に上限を設定できるアクティブスピードリミッターが搭載されているが、こちらの作動も不快感は皆無。上限に達したときにリミッターが唐突に作動するような感覚はなく、ごく自然に加速をやめる。スロットルひと開けですぐ200km/hを超える乗り物だけに、自制心を保つために設定しておくのもいいだろう。
バンクの天才、前後輪“ベッタベタ”の接地感!
さて、相手がメガスポーツツアラーということで、まずは高速道路のインプレッションからお届けしたが、新型ハヤブサの楽しさは、そのポテンシャルをかなり持て余すことになる制約が多い高速道路よりも、むしろワインディングにあるかもしれない。なにって、じつに自由自在。よくもまあ、こんなに重くて巨大でホイールベースも長いバイクが自分の意思どおりに動くものだと、タイトな峠道を走らせていて感動さえ覚えるほどだ。
まず、よく寝る。例えばコーナーへのアプローチで、進行方向を意識するだけで車体がバンクを開始するような感覚。そしてその状態でほんの少し待つと、あとは勝手に車体が旋回していく。GSX-R1000Rのようなスーパースポーツは、「寝る」ではなく「寝かす」のイメージ。この点において新型ハヤブサとスーパースポーツは完全に異なる。
そして、よく寝るだけでなく前後輪の接地感が非常に高い。伊豆などによくある狭くてツイスティな峠道でタイトターンを切り返しても、途中でマシンがふわっと浮き上がる瞬間がなく、前後輪が「ベタッ、ベタッ……」と地面を捉え続けながら曲がっていく。これが、とにかく気持ちいい!
じつはこの「コーナリングが楽しい」という長所は、先代から継承された要素。というより初代も、じつはコーナリングが魅力的なマシンだったのだ。初代のメディア向け試乗会は、たしかスペインのカタルニアサーキットで最初に実施され、「なんでこんなマシンでサーキットを……」と思いつつ参加したら、コーナーでの意外なファンライド性能に驚かされた記憶がある。しかしその後、300km/h超とか197馬力という特徴がフィーチャーされすぎ、あるいはツアラーとして認識されることが多くなった結果、ハヤブサオーナー以外はちょっと忘れていただけのこと。「曲がる楽しさ」は、新型ハヤブサが先代比最高出力アップを意識せずに誕生したという背景も考えたら、これからもっと注目を集めて然るべきポイントとなるに違いない。
加速が旋回のジャマをしない!
この新型ハヤブサにはSDMS-α(スズキドライブモードセレクターアルファ)が採用され、パワーモード、アンチリフトコントロール、双方向クイックシフト、エンジンブレーキコントロール、モーショントラックトラクションコントロールが、モード選択により統合的に切り替わる。このうちパワーモードは、もっともシャープなスロットルレスポンスを持ちすべてのスロットル開度で最大のエンジン出力が得られる「1」、中間スロットル開度までは「1」よりスロットルレスポンスがマイルドな「2」、フルスロットル時の最大出力を「2」より絞ったもっともマイルドな出力特性の「3」が用意されている。
「3」にすると、コーナーの立ち上がりでスロットルを開けても穏やかで、そこからよりワイドオープンしても加速はマイルド。気持ちよくもペースを抑えられるという利点がある。ただし、もっともシャープな「1」でもコントロール性は秀逸。スロットル開けはじめで唐突にドンと加速力が立ち上がるわけではなく、クランクの慣性マスを利用し、加速する際は「ググッゥ……」とリヤタイヤが地面にトラクションをかけて捉えるのがまず先で、そこから「ズヴァーン!」と車体が前に突進する。
例えば同じような馬力を誇るスーパースポーツを同様のシャープなレスポンスのモードで走らせた場合、コーナーの立ち上がりでスロットルを開けた瞬間に車体が起きてしまいがちで、大きな加速を得るためにはまずコーナーでしっかり向きを変えて……というのがセオリー。対して新型ハヤブサは、加速が旋回のジャマをせず、車体がバンクした状態のまま最大限に後輪が路面をグリップしながら加速していくイメージだ。スーパースポーツのセオリーとは異なるが、なんにせよ自分の運転がうまくなったのではないかと錯覚するほど、パワーモード「1」を自分の制御下に置ける。ただし、車体は重量級であり、パワーユニットが生む加速力はとてつもないので、調子に乗ってトバしすぎることだけは避けたい。
ちなみに、SDMS-αにはプリセットされたモードが3タイプあり、このうちパワーモードが「1」にセットされているのはモード「A」となる。「3」にセットされているのは「C」だが、こちらを使うと、峠を流すレベルで走らせるのに一役買うが、やはりワインディングの醍醐味を、このハヤブサで味わうなら、コントロール性の高さと気持ちよさという点から、ライディングスキルに関係なくぜひ「A」を試してみることをオススメしたい。
透明感のあるABSと、自然な電子制御介入!
エンジンではなく車体ディメンションに由来するような旋回特性においても、やはり新型ハヤブサはスーパースポーツとは異なる。現代の一般的なスーパースポーツは、しっかりフロントブレーキをかけて前輪に荷重して一次旋回し、そこからスロットルを開けて二次旋回に移行するというのがセオリー。対して新型ハヤブサは、ずっとリヤタイヤを重視して旋回している感覚がある。つまり、コーナー進入時でもリヤの接地感が消えない。そのこともあり、スーパースポーツよりもはるかにリヤブレーキを多用できる。
このとき、素晴らしいのがABSの制御。かなりハードにリヤブレーキをかけてアンチロック機構が介入したときも、その作動は極めて緻密かつ自然で、ABSに“透明感”があると表現したくなるほど卓越している。もっともこれはABSに限ったことではなく、前述のシフターを含め、トラコンやアンチリフトコントロールなど、すべてに言えること。電子制御が密かにどれほど守ってくれているのかは、カスタム設定できるSDMS-αのユーザーモードですべてをオフまたは介入を弱めた状態をつくり、「A」と乗り比べてみればすぐに理解できるだろう。電子制御によるサポートがほぼカットされたとき、新型ハヤブサはとんでもない世界にライダーを昇天させる。腕に覚えのあるライダーは、サーキット走行の際にでも挑戦してみたら楽しいだろうが、くれぐれも無理は禁物。モード「A」の制御でも、十分すぎるほど楽しさは引き出せるのだから。
徹底的に長所を伸ばした3代目
前後輪がベタッと接地した感覚でコーナーを駆け抜けるハヤブサは、前後のピッチングを旋回力につなげる現代スーパースポーツの走りとは一線を画すバイク。スポーツバイクのトレンドは、長い歴史の中で徐々に前輪荷重を重視する傾向になってきた。だから、ハヤブサをアルティメット“スポーツ”あるいは“スポーツ”ツアラーと定義した上でハンドリングを評価するなら、リヤを重視したその特性を「古臭い」と表現できるのかもしれない。
しかし、私はそう思わない。ワインディングあるいは公道をメインのフィールドと考えたとき、新型ハヤブサが提案するのは、そもそもスーパースポーツとは異なるコーナリングの楽しみ方。スーパースポーツに疲れたライダーが新型ハヤブサのハンドリングに出会えば、むしろこの前後輪が路面に吸いつくような安心感のある旋回特性を、新しい魅力として受け入れられるはずだ。その個性や方向性は、初代や先代も大事にしてきたもの同様。この感覚を大事にしてきたから、これまでハヤブサに乗った多くのライダーが虜となって長く愛してきたのだ。そして新型は高度な電子制御システムによりその長所をさらに伸ばしてきた。つまり、新型ハヤブサのコーナリング特性は、「古臭い」のではなく「最新のリヤ乗り」なのだ。
トバさなくても味わえる高速道路での気持ちよさも、じつはこう見えてハンドリングマシンなのも、遠くから眺めたときに車体のシルエットから受ける印象も、根本的にはすべてこれまでと同じ。すべてが現代的に洗練された新型でありながら、「やっぱりハヤブサっていいよな……」とも思わせてくれるところが、3代目の魅力である。
ライディングポジションは……
両足をステップバーのちょうど前側に真っすぐ下ろすことができ、ほんの少しカカトが浮く程度でほぼ両足の裏を接地させられる。車体はボリューム感たっぷりだが、低い位置に乗っているという感覚から、安心感を得やすい。シートに対してハンドルが遠いのは、これまでのハヤブサと同じ。結果的にかなり前傾を強いられるのだが、新型のセパレートハンドルは絞り角と垂れ角が絶妙に設計されていて、手首への負担は少ない。ロングツーリングにも使えて、ワインディングも楽しめるライディングポジションだ。唯一、市街地でUターンするときだけは、ハンドルを切ったときにどちらか一方のグリップがかなり遠くなり、フルロックでクイックに……というのはちょっと難しい。良好な足着き性を活かしながら、ゆっくり確実に取り回してあげたい。
丸山浩が、どうしても言いたかったこと
私は“テストライダー”なので、本来ならルックスに関する評価はユーザー個々にお任せしたいのだが、本当は新型ハヤブサで私が一番素晴らしいと評価したいのは“デザイン”だ。これまでのハヤブサに感じてきたのは「なんじゃ、こりゃ!?」。もっとも、その「なんじゃ、こりゃ!?」は多くの人々からハヤブサが愛される要素にもなってきたと思うのだが、とはいえ詳細なディティールには粗雑さも……というのが正直な感想だった。
今回の新型は、シルエットとしてはいかにもハヤブサのままなのだが、近くで眺めてみると細部まで徹底的にデザインが煮詰められている。これまで、ハヤブサは遠くから眺めて楽しむものと思っていたが、新型はぜひとも近くで愛でたい。サイドカウルのダクト部に配されたトリム状のクロームメッキパーツなんて、太陽光に照らされながら大空を滑空する隼をイメージさせ、本当に最高だ!
そして、ディティールまで徹底的にこだわりながらデザインしながらも、全体のシルエットとしてはどこか“ずんぐりむっくり”した愛すべきハヤブサのイメージを完全に保っているという点に、感心してしまうのだ。
速報映像はコチラ!
SUZUKI HAYABUSA /隼[2021 model]
【SUZUKI HAYABUSA /隼[2021 model]】主要諸元■全長2180 全幅735 全高1165 軸距1480 シート高800(各mm) 車重264kg(装備)■水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 1339cc 188ps/9700rpm 15.2kg-m/7000rpm 変速機6段 燃料タンク容量20L■タイヤサイズF=120/70ZR17 R=190/50ZR17 ●価格&色:215万6000円~(黒×金、白×青)、216万7000円(銀×青) ●発売日:2021年4月7日
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