[〇] KTMの本気が伝わる。サーキットで不満なし
長らくKTMオンロードのミドルクラスを担当してきた690デュークにも、足回りをグレードアップした”R”モデルが存在した。サイレンサーの変更などでパワーも微増していたが、このたび790デュークの上位モデルとして登場した「890デュークR」は、数字が異なることからも分かるように、排気量を上げてまで最高出力を高めてきたのだ。
【’20 KTM 890DUKE R】主要諸元■軸距1482±15 シート高834(各mm) 車重166kg(乾燥) ■水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブ 890cc 121ps[89kW]/9250rpm 10.0kg-m[99Nm]/7750rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量約14L ■ブレーキF=Wディスク R=ディスク ■タイヤF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 ●色:橙 ●価格:146万5000円
クロモリ鋼フレームをコーポレートカラーのオレンジとし、790デュークとの差別化を図った上位モデル。差額は23万8000円で、排気量アップと前後ショックのフルアジャスタブル化、ブレンボ採用を考えるとお買い得だ。
75度位相クランクを採用する水冷並列2気筒は、ボアとストロークの両方を変更して排気量を91ccアップとし、最高出力を103→121psへと高めている。パワーモードはレイン/ストリート/スポーツ/トラックの4種類で、トラックはレスポンスやトラクションコントロールなどを細かく設定できる。モードごとの違いはかなり明瞭で、レインではドライ路面でもバンク中にスロットルをラフに開けると、トラコンの介入を知らせるインジケーターが点滅する。基本的な特性としては、どの回転域でも明らかに790よりもパワフルで、蹴り出すようなトラクションを感じさせながらも、回転上昇は驚くほどにスムーズだ。万能的に扱いやすいのはストリートモードだが、それでも開け方次第で脱兎のごとく加速する。
75度位相クランクを採用する790デュークの水冷並列2気筒を基に、ボアを2.7mm拡大、ストロークを3.1mm伸長して排気量を799→890ccに。合わせてシリンダーヘッド/カム/バランサーも専用品に。
車体も優秀だ。調整機構を加えるなどグレードアップした前後ショックは、わずかな段差ですら作動性の良さが分かるほどスムーズで、ダイヤモンドタイプのクロモリ鋼フレームとのタッグにより、サーキット走行すら思う存分楽しめる。これを支えているのが、標準装着されているミシュランのパワーカップ2で、このタイヤはサーキット90%:公道10%という使い方を想定して設計されていることからも、890デュークRのコンセプトが分かるだろう。
ブレンボのスタイルマキャリパーとMCSマスターを組み合わせたブレーキセットも素晴らしい。高い速度域からのコントロール性と、それを何度繰り返しても熱ダレしないというタフネス性は、まさにレーシングブレーキだ。コーナリングABSのサポートも絶妙であり、サーキットでもカットする必要性を感じないなど、進化のほどを痛感した。
前後キャリパーは790デュークのKTMオリジナルからブレンボに変更。フロントマスターをレシオ可変式のMCSとし、さらに前ディスクをφ300→320mmへ。標準装着タイヤはミシュランのパワーカップ2だ。
前140mm、後ろ150mmというホイールトラベル量はそのままに、WP製のショックユニットを前後ともをフルアジャスタブル(リヤは圧側減衰力2ウェイ)に。
790よりも低いテーパーハンドルを採用、位置の微調整システムをそのまま継承する。890のメーターにはアンチウイリーモードとABSモードが表示される。
灯火類はLEDで統一。テールランプとリヤウインカーはナンバーホルダーに装着されており、容易に外せるのが特徴だ。
外装は790と共通で、グラフィックが異なる。最低地上高は20mm上がっているが、シート高は9mmアップに抑えられる。
790よりもハンドル位置が低く、ステップも後方にあり、前輪荷重を稼ぎやすい。足着きはご覧のとおりで、このクラスのネイキッドとしては腰高だ。[身長175cm/体重62kg]
[△] 街乗りがメインなら790の方が楽かも
同日に最新の790デュークにも試乗したのだが、わずかにアップライトなライポジと優しいエンジン特性により、街乗りメインなら私は790を選ぶ。裏を返せば、それだけ差別化されているわけで、公道だけでなくサーキット走行も楽しみたいのであれば890を強く推す。
[こんな人におすすめ] このエンジンとフレームは傑作。今後が楽しみだ
KTMのパラツインに試乗するのは今回が初だが、75度という独自の位相角を採用しながら不思議なほどスムーズで、しかも表情の変化も楽しい。排気量を上げてまで構築したかった890デュークRの世界観、存分に味わってほしい。
●まとめ:大屋雄一 ●写真:真弓悟史 ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
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