カワサキ ニンジャZX-25R完全解説

ニンジャZX-25R開発者インタビュー【250ccの新たな価値を創造|前編】

  • 2020/10/9
ニンジャZX-25R開発者インタビュー【250ccの新たな価値を創造】

世界中で話題を集めた250cc4気筒・ニンジャZX-25Rがついに発売された。2輪史に名を残すことが約束されたニューモデル、それを生み出したカワサキのキーパーソン3名に開発秘話を聞くことができた。前編はまず開発プロジェクトリーダー・山本哲路氏の話から。

「ZXR250のハイパワーとバリオスの日常性。相反する2つをうまく両立できました」

250cc並列4気筒を搭載するネイキッド・バリオス-IIの生産を’07年に終えた翌’08年、並列2気筒のニンジャ250Rを発売し、今日に続くフルカウルスポーツクラスを切り拓いたカワサキ。SBKの欧州ラウンドで併催されるWSS300クラスが盛り上がりを見せるなど、今や各社が積極的に注力するジャンルとなっている。

その一方で、レースが2気筒マシンで行われている以上、今後4気筒が復活することはないという空気が蔓延していたのも事実。そんな中、’19年の東京モーターショーで完全新設計の水冷並列4気筒を搭載した「ニンジャZX-25R」がワールドプレミアを果たした。速報を掲載した本サイトにアクセスが殺到したことからも、期待値の高さが分かるというもの。

世界中が待ち望んだ新しいニーゴー4発、その誕生した背景について、まずは開発リーダーである山本哲路氏に話を聞いた。

ニンジャZX-25R開発者インタビュー【250ccの新たな価値を創造】
[写真タップで拡大]

【山本哲路氏川崎重工業株式会社 モーターサイクル&エンジンカンパニー ニンジャZX-25R開発リーダー。エンジン設計のエキスパートで、直近ではW800やニンジャ250/400を担当。4気筒を設計するのは初めてでありながらプロジェクトリーダーに抜擢された。

カワサキは’08年にニンジャ250Rを発売し、’13年と’18年にモデルチェンジを行ってます。これが日本をはじめ各国で好評を博して、特に東南アジアでは”ラグジュアリースポーツ”という地位を確立することができました。しかしその一方で、さらに上位版を望む声が集まってくるようになりました。特にインドネシアのお客様からの要望が大きく、そのような声と、かつての250cc4気筒を味わってほしいという開発サイドの思いが合致して、ついに商品化が叶ったという流れです」

上位版であれば、たとえばIMUを追加してサスペンションの電子制御化など、現行の2気筒エンジン車をベースにアップグレードすることも可能だったはずだが、あえてそうしなかった。

「ニンジャ250との差別化を図るのであれば、装備を豪華にするよりもエンジンから変えた方がいいとの判断ですね。それに、2気筒の次は4気筒だという期待の声もありましたから」

開発リーダーとして、またエンジン設計でもこのニューモデルに関わっている山本氏。担当に指名された時はどんな気持ちだったのだろうか。

「プロジェクトリーダーになるのが初めてでしたので、プレッシャーはもちろんありましたが、それよりもカワサキらしいモデルに携われるというワクワク感の方が上回っていましたね」

そんな山本氏、過去に担当したのはW800やニンジャ250/400などで、4気筒は初めてだったとのこと。ちなみに、バリオス-IIに搭載されていたのは’91年型以降のZXR250のエンジンがベースで、当時のニーゴー4発では最もショートストロークだった。今から30年も前の設計であり、当然ながら当時の開発スタッフは残っていない。まさしく手探りでのスタートとなった。

「開発にあたり、まずこだわったのはエンジン性能です。250cc4気筒らしい超高回転高出力を目指すはもちろんなのですが、その一方で低中回転域での日常的な扱いやすさも犠牲にしたくない。要はZXR250のような速さと、バリオスみたいな使い勝手の両立ですね。どちらか一方ではなく両立させる。これにはこだわりました」

ニンジャZX-25R開発者インタビュー【250ccの新たな価値を創造】

タイで開催された発表会で展示されたカットエンジン(写真提供:Webike THAILAND) [写真タップで拡大]

ZXR250は、4メーカーで最後発となる’89年に登場し、’91年のモデルチェンジの際にエンジンをショートストローク化している。そして、’93年にメーカー出力自主規制を受け、最高出力が45㎰から40㎰に減じられた。令和2年の現在、当時よりも排ガスや騒音規制がはるかに厳しくなっていることからも、特にエンジンの開発は非常に大変だったことが想像に難くない。

「そうですね。とはいえ、まず目標に掲げたのはZXR250の性能を超えることでした。そのために、最初に決めるべきボア径を、当時よりも吸気バルブを大きくしたかったことから、ZXR250のφ49mmからφ50mmへと拡大しています。1気筒あたり約62ccで、各パーツは小さくなるし、ポートも細くなりますから、超高回転高出力を狙うからには少しでも吸気バルブを大きくしたかった。当時も苦労したようで、ステムの一部を細くしたウエストバルブを使っていましたから。
それと、主要3軸のレイアウトについては、ZX-10Rを含む昨今のスーパースポーツの主流である三角形配置も検討しました。その上でディメンションなど総合的に見て、昔ながらの直線配置でいいという結論に至りました」

ZX-25Rが採用したボア×ストロークはφ50mm×31.8mm。狙いが異なるので単純比較はできないが、1気筒あたりの排気量が2割以上も小さいスーパーカブ50がφ37.8mm×44mmなので、それよりもストロークが短いことになる。いかに小さな部品が詰め込まれているか想像できるだろう。

「バルブ径は吸気側がφ18.9mm、排気側がφ15.9mmで、吸気側はウエストバルブとし、排気側は耐熱性に優れるインコネルという素材を採用しています。それと、燃焼室は機械加工によって形状を整えていますし、また吸気ポートの出口についても、2段階に加工することでバルブシートとポートの段差を滑らかにしています。通常のモデルでここまで仕上げることはありませんね。そうした地道な積み重ねもあって、日本仕様で45ps(インドネシア仕様で50ps)という最高出力を達成することができました。ZXR250を超えられたのは実に嬉しいですね」

なお、クランクシャフト単体での慣性モーメントはZXR250よりも低いが、FI化その他によって要求される発電量が増えたことから、ACGを含んだクランクマスは同等という。

〈次のページは…〉補機類のチューニングで日常域の扱いやすさを追求
固定ページ:

1

2