佐藤寿宏のレース通信[全日本開幕から、いろいろあった怒濤の1か月]

いろいろありすぎた全日本ロードレース開幕戦SUGO

スポーツランドSUGOにおける全日本ロードレース開幕戦、そして第2戦岡山に向けてのテストや“もて耐”と、コロナ禍を受けつつも活動再開にこぎつけた日本レース界。おなじみ寿さんこと佐藤寿宏のレース通信では、この1か月を振り返ります。SUGOでの悲しい事故もありました……。

ディフェンディングチャンピオンが開幕2レースで痛恨のノーポイント

前回の寿通信から早1か月。あれからSUGOの事前テストがあり、全日本SUGO開幕戦、第2戦岡山テスト、もて耐と飛び回っておりました。その間、11月1日に延期になっていた鈴鹿8耐の中止が発表され、そこに、もともと入っていた全日本鈴鹿ラウンドが復活する動きもありました。チームによって、いろいろ事情はありますが、ただでさえ少なくなっていたレース数が増えることはいいことだと思いますし、JSB1000以外のクラスもひとクラスずつ土曜日にレースをして、レース数を増やせばいいと思うんですけどね。こちらもオフィシャルさんの数が足りないなど、各サーキットで事情はあるみたいです。

っというわけで、MFJ SUPERBIKE・全日本ロードレース選手権は、鈴鹿MFJグランプリが復活したので、コロナ禍の中、2020年シーズンは、全5戦で争われることになりました。8月9日(日)・10日(月・祝)に行われた開幕戦SUGOは、初日、2日目と梅雨が戻って来たような雨に見舞われました。日曜日にレース1が行われたJSB1000クラスは、波乱の展開になりました(トップ写真)。オープニングラップから中須賀克行と野左根航汰が何度もポジションを入れ替えるバトルを繰り広げ、いきなりヒートアップ! 2周目の1コーナーでは、野左根が中須賀のインに入るものの、クロスラインを取った中須賀は、2コーナーで前に出て行きますが、アクセルを開けたところでハイサイド転倒……。右肩を脱臼骨折してしまい、レース2も欠場を余儀なくされてしまいました。

鈴鹿ラウンドが復活したとはいえ、10回目のタイトルを狙っていた中須賀にとって、余りにも痛いダブルノーポイントとなり、連覇は限りなく赤信号に近い黄信号になってしまいました。一方、チームメイトの野左根は、自身初となるダブルウインを達成し、初タイトル獲得に向けて好スタートを切りました。ニューCBR1000RR-RをデビューさせたHonda勢は、レース1でKeihin Honda Dream SI Racingの清成龍一が、レース2でMuSASHi RT HARC-PRO. Hondaの水野涼が2位に入り面目を保ちましたが、ファクトリー体制のヤマハに対し、キット車で臨んでいるHonda勢との差は明らかでした。CBR1000RR-Rが、どれだけ進化していけるかがカギを握っていると言えるでしょう。

その後に行われた岡山国際サーキットでの事前テストは、気温37度、路面温度は60度を超える酷暑で行われました。みんな“鈴鹿8耐より暑い!”と言いながら走っていましたが、ここでも野左根がトップタイムをマーク。右肩の様子を見ながら走った中須賀が2番手につけ、ここでもヤマハファクトリーが1-2でしたが、3番手に続いた清成が僅差で続いて降り、早速、その差を縮めてきていました。ただ、これは清成のライディングによるものも大きいと言えるでしょう。水野や渡辺一馬も続いており、どこまでヤマハに迫ることができるでしょうか!?

岡山国際サーキットに新設されたバイク用シケイン。

また、岡山国際には、新たにモーターサイクルシケインが設けられました。これは、昨年3月にモスエスで転倒し近藤湧也が亡くなり、4輪のスーパーGTでも多重クラッシュが発生したことを受け安全性の向上を目的にランオフエリアの拡張が行われました。シケインは、2輪専用ですが、かなり狭く、1000ccに関しては、モスエスへの進入スピードも、あまり変わっていないようです。ライン取りが変わり、ちょうど全開状態で進入していくことになってしまい逆に危険な要素が増えているという意見もありました。ラップタイムは、昨年までのコースレコードが中須賀の持つ1分27秒178というものでした。今回のテストで野左根がマークしたのが1分31秒576なので、約4.5秒プラスされることになりそうです。

ST1000/ST600/J-GP3はどうなる?

開幕戦SUGOで、初開催となったST1000の最初の勝者となった高橋裕紀選手。

こちらは全日本ロードレース開幕戦SUGOで新型CBR1000RR-Rを走らせる清成龍一選手。

今シーズンより始まったST1000クラスは、開幕戦は高橋裕紀が貫禄の勝利。岡山ラウンドにスポット参戦する山口辰也との対決が楽しみなところです。

ST600は、2018チャンピオンの岡本裕生が開幕戦を制しました。2番手を走っていた2019チャンピオンの小山知良は電気系トラブルで9位までポジションダウン。2人のチャンピオンを中心に今シーズンも展開されそうですが、岡山テストでは、荒川晃大がトップタイム。2番手に阿部恵斗、3番手に横山尚太がつけるなどティーンズライダーの台頭も楽しみな要素となっています。

J-GP3クラスでは、開幕戦を圧倒した村瀬健琉と、昨年は、そのコーチを務めていた小室旭との師弟対決に注目です。

シリーズ第2戦は、9月5日(土)・6日(日)に岡山国際サーキットで開催されます。

Team T2y with NOBLESSE FAMILYの山口辰也選手は岡山ラウンドにスポット参戦の予定。

モトバムから参戦する荒川晃大が岡山テストではトップタイムを記録。

岩﨑哲朗選手の葬儀には約1300人が参列しました

ようやく開幕した全日本ロードレース選手権ですが、悲しいアクシデントが発生。新設されたST1000クラスの最初のレースで、岩﨑哲朗選手が還らぬ人になってしまいました。こわもてですが優しく、その口調は、栃木なまりで朗らかで、いつも笑顔でいました。コースに出れば、アグレッシブで熱い走りを見せてくれました。残念ながら即死状態だったらしく、苦しまないで逝けたようです。兄の拓朗さんは「哲朗は、病院嫌いだから、よかったかもしれないな」と語っていました。お通夜でRS-ITOH時代に6年間メカニックを担当した大須賀健輔さんに、こんなエピソードをお聞きました。それは、J-GP2にスイッチしたシーズンに予選で転倒し、左腕の骨が明らかに折れているのに、病院に行きたくないと言ってレースを走ったこともあったそうです。

哲朗のレースで一番記憶に残っているものと言えば2012年第6戦SUGO、ST600のレースでしょう。予選ではコースレコードでポールポジションを獲り、決勝でもトップを走り続け、初優勝まであと500mというところで転倒。奇しくもシケインというのが、運命なのでしょうか…。前述の大須賀さんが「あのとき勝っていたら、今までレースは続けていなかっただろうね」と言っていましたが、その通りだと思いました。

全日本J-GP2クラスが終わることが決まったとき、哲朗は、レースを続けられるか悩んでいましたが、最後の“夢”として2016年から二人三脚でチーフメカニックとして支えてくれていた坂本崇さんと共に鈴鹿8耐に出場することを目指すことを決めました。そして、この“夢”を小倉クラッチが全面的に応援してくれることも決まっていました。

ボクが昨年の12月、セパン8耐の現場にいるときに哲朗は、オートサロンでチームの体制発表をやるとメッセンジャーで連絡をくれました。ST1000クラスに若手を起用して2台体制で参戦し、チームとしては、2021年の鈴鹿8耐を目指すと言うものでした。

今年の1月に幕張メッセで開催されたオートサロンの小倉クラッチブースで行われた発表会に取材に伺ったのですが「まさかことぶきさんが来てくれると思っていなかったのでマジうれしかったっす」と後でメッセージをくれました。

そして「自分としての“夢”はチャンピオンなので、2020年が最後です。そして10年も助けてくれている坂本さんを8耐に連れて行くことが本当に叶えられるかもしれません」と語っていたのですが…。

日光市の斎場で行われた葬儀には、約1300人が参列。お通夜では「まだ夫はSUGOを走り続けています。みんなでチェッカーフラッグを振ってあげてください」と喪主の妻・美幸さんの希望もあり、モニターに哲朗の車載映像が映し出されると、岩﨑3兄弟の長男・拓朗さん、三男・朗さんが待ち受けるようにチェッカーフラッグを振りおろしました。このとき朗さんが振っていたのが、初めてエビスサーキットの耐久レースに出たときのもの、拓朗さんが振っていたものがSUGOのときのものでした。あらためてゼッケン70の由来を拓朗さんに聞いてみたところ「7が哲朗のラッキーナンバーなのですが、バランスやかっこよさで“70”にしたそうです」と言うものでした。

寂しくなるけれど、みんな前を向いて歩いているので、哲朗が全てをかけて愛したオートバイロードレースのために、自分のできることをやっていこうと思っています。みんなを見守っていてくださいね。

参列者でチェッカーフラッグを振り、岩﨑のゴールを見届ける。

斎場には沢山の花が届けられた。岩﨑選手の人柄が偲ばれる。

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