毎年のようにバイクが集まっていると注目の「年越し宗谷岬」。極寒、凍結路面、ホワイトアウトと過酷な自然環境になぜわざわざバイクで行くのか? アラフィフ2人が実際に挑戦、体験したレポートです。
●寄稿: 野間 恒毅(Tsunetake Noma) ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
今できることを来年できる保証はない!
アラフィフとなって身に染みて感じることがある。それは健康のこと。あれだけ見えていた視力が落ち、眼鏡が手放せない。ツーリングが好きで毎週出かけていたら、美味しい土地のものを食べすぎていることもあるのだろう。運動不足で知らず知らずのうちに筋力はおち、体重は増えるばかりだ。
人生100年時代と言われるが、ではバイク人生は何年だろう? アラフィフのバイク乗りに残された時間は有限だと、同年代の訃報を聞くたびに思う。今できていることが来年できなくなる。今健康にバイクに乗れているのは何かの奇跡なのだ。
そんな気持ちでいた2019年2月、あるブログが目に留まった。それが「年越し宗谷岬ツーリング」だった。
北海道年越しツーリングへ行ってきました!!(2018-2019) – バイクとキャンプと!
冬の北海道にバイクでいく? 一体何を考えているのか? 当初さっぱり理解できなかった。気温は10度以下でも寒くて乗りたくないバイクに、マイナス20度の世界。道路は積雪、凍結し、風が吹けば一瞬でホワイトアウト。自動車ですら危険なこの走行環境を生身の身体をさらす二輪で走るなんて狂気の沙汰でしかない。寒い、怖い、ちっとも楽しそうに思えない。ところが情報を集めてみると毎年通っている人も多いという。
だからこそ興味がわいた。なぜそこまでして人は冬の宗谷岬を目指すのか?
行って確かめてみよう、ではいつやるか? 来年か? 3年後か? いや今できることが来年、3年後にできる保証なんてどこにもない。やれることは今やらなきゃダメなんだ。ということで2019年末は宗谷岬アタックをしよう、そう決めた。
仲間探し
勢いづいて決めたはいいが、なにぶんオフロードもろくに走ったことがない陸サーファーならぬ、オンローダー。キャンプは好きだが全部夏装備。テントなんてメッシュのスケスケ、寝袋も3シーズン用だ。マイナス温度で野営とか考えられないし、吹雪の中バイクが故障したり、自損事故になったらそれこそ遭難だ。これは初回を一人で行くのはリスクが高すぎる。実際きっかけになった主婦ライダーも旦那さんがレンタカーで伴走、ホワイトベースさんも2台体制で挑戦している。
仲間だ、仲間がいる!
そう考えて早速Facebookで呼びかけるも惨憺たる結果。
「冬、しかも北海道? 何考えているの?」
「私はコタツに入ってネットから応援します」
というごくごく常識的な反応がほとんどだった。それどころか
「雪道をバイクでノロノロ走られたら危険、迷惑だ!」
とネガティブな反応も。
そんな中、モータースポーツ系ショップ「ミュルサンヌ」を営む奥津さんが名乗りをあげた。
最初はみんなと同じく「冬の北海道、そんな寒いところバイクでいくなんて考えられない、いくならぬくぬく温かい自動車でいくよ」
と言っていたのだが、「そういえば、オレ、トリッカー欲しかったな」と思い出し、これを機に買ってしまったのだった。しかもトランポとしてステップワゴンを出してくれるという。これで北海道までの足も確保できた。そうしたら今度はマシンだ、マシンがいる!
マシン選び
バイクは持っていたが、オフロード用はない。であれば今回のために調達しよう。色々と調べると年越し宗谷岬で主流なのはカブ、そしてオフロードバイクでその中でもセローが人気のようだ。その理由は足つき性のよさ。滑りやすいというより、普通の靴では立つことができないような凍結路、ミラーバーンがそこかしこにある北海道では、足がつくことが一番大事。我々は足を出して踏ん張れるよう靴にはアイゼンを装備し、万全を期したほどだ。
今回私は予算の都合、足つき性、そしてデザインの好みからホンダFTR223の中古車を購入した。ホワイトベース公式さんがFTRで行っていたというのも安心材料の一つであった。
走行装備
マシンを購入したからといってもそのままいけるはずはない。年越し宗谷岬は冬山登山と同じく、きちんとした装備を前もって準備しないといけない。命にかかわる大問題だからだ。ここは先人たちのブログ、動画を大変参考にさせてもらった、改めて感謝の気持ちを表したい。
まずは何はなくともスパイクタイヤ。
125cc以下の原付はスパイクタイヤが禁止されていないため、スパイクタイヤが市販されている。ただこれはピンの数が最低限であり、「増しピン」といって追加するのがもはや常識のようだ。
125cc以上の自動二輪の場合、四輪と同様にスパイクタイヤの使用は乾燥路で禁止されており、製品は市販されていない。そのためスパイクタイヤは自作するか、ショップに依頼して作ってもらう必要がある。私は今回自作することを選択。
今回フロントは路面をつかみそうなブロックの柔らかいトレールタイヤ、リアは逆にブロックが硬く、雪でもしっかりトラクションがかけられそうなエンデューロタイヤを購入。
ピンの種類やピンの打ち方については先人のブログや動画を参考に、ドリルで下穴をあけチップピンをミュルサンヌ奥津氏が自作した工具でグリグリと押し込んで打った。
ピンの数だが当初は最低限でいいだろうと1ブロックおき、1本あたり150本程度だったが、ピンの数は多ければ多いほどいい、という話をきき最終的にフロント300本、リア250本の合計550本を打ち込んだ。ただゴムの柔らかいトレールタイヤを選択したフロントは結果的に下穴が長すぎてピンがめり込み、センターのピンが効かず怖い思いをしたのでタイヤ選択は次回再考の余地がある。
防寒装備
関東の冬でも凍えるのに、マイナス10度が当たり前。場合によってはバナナで釘が打てるんじゃないかという極寒になることもあるというだけに、防寒装備はしっかりと行いたい。
まず絶対に必要なのはハンドルカバーとグリップヒーターである。
むしろこの2つさえ装備してしまえば、グローブはなんでもよい。実際今回私が使ったのはグリップヒーターの熱をよく伝えるようにと、薄手の自転車用を使ったが結果的には熱が伝わりすぎて低温やけどしたほどだ。
ハンドルカバーは冷気が入ってこないもの、取付がしっかりできて入り口が狭い方が温かい。レバーやスイッチ周辺に隙間があるようであればガムテープなどで予め隙間を埋めた方がいい。手を入れる場所が狭いと出し入れがしにくく、厚手の冬用グローブだとかえって危険に感じるため前述のような薄手のグローブとの組み合わせをお勧めしたい。
また防風装備もあったほうがいい。
まずはウインドシールド。オフロードバイクはウインドシールドがなく、冷風が直接上半身とヘルメットを直撃し長時間の走行で身体を冷やしてしまう。そのため高めのウインドシールドを装着し、冷風はヘルメットの上半分に逃がすようにした。
膝下も同じ理由からレッグシールドを装着したいが汎用品はほとんど見当たらない。そのためミュルサンヌ奥津氏が今回オリジナルで製作した「FRPレッグシールド」を装着。防風、防寒効果はもちろん、前輪が巻き上げた泥や汚れから靴や裾を守ってくれた。
さてここで勘のいい読者の方はお気づきであろう。ハンドルカバー、ウィンドシールド、レッグシールド・・・そう、これらはスーパーカブの定番装備なのである。カブが年越し宗谷岬で多く使われている理由は、経済性、足つき性だけでなくその合理性、機能美にもあるのだ。
最後に服装であるが、これは人それぞれである。
私は通常使っているバイク用の冬用ジャケット、パンツ、インナーパンツ、アンダーウェアに電熱インナージャケットを装備。ミュルサンヌ奥津氏は雪山登山用のモンベル製品で身を固めた。宗谷岬ではワークマンのイージスも人気があり、よくみかけた。
このように防寒装備をするとマイナス10度程度であれば「冷たい、つらい」とはならずちょっと「寒いかな?」程度になるため気持ちに余裕がでる。あとは使い捨てカイロ、白金カイロをズボンのポケットと、靴に入れれば出発前はむしろ暑くて仕方ないほどだ。
半年以上かけて準備
バイクの購入は3月、その後モトクロスレッスン、ロングツーリングや林道走行をこなしてバイクとダートに慣れた。スパイクタイヤ製作や電熱装備は11月から準備開始。出発前日まで作業を行いギリギリ間に合った格好だ。
(つづく)
今回初めての年越し宗谷岬チャレンジ。あまり欲張らず、リスクを抑えるためにバイク2台をトランポ(ステップワゴン)に積み大洗から苫小牧までフェリーを利用、雪のある富良野まで移動。そこからバイクを出して自走[…]
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