2020年1月17日、ホンダから新宿郵便局へ最新電動バイク「ベンリィe:」の納車セレモニーが行われた。セレモニーで使用されたベンリィe:は原付二種だが、原付一種バージョンも合わせて都内4局で3月までに200台が導入されるという。これが社会インフラ整備につながっていく理由とは?
郵便ベンリィe:は2019年度中に200台、2020年度中には2000台程度へ
2017年3月に発表された「日本郵便とホンダの協業」が、ついに形になって現れてきた。2020年1月17日に郵便配達仕様「ベンリィe:(BENLY e:)」の納車セレモニーが行われ、2020年度内に都内4局で200台を導入することも併せて発表された。社会にとってなくてはならない郵便配達業務に電動バイクを使うことで二酸化炭素の排出量を削減し、地球環境に配慮した企業活動の一環として持続可能な郵便・物流事業を推進していくという。
2020年4月に法人向け販売がはじまるベンリィe:だが、郵便配達仕様は1月17日より稼働するということで、これが実際に法人業務で使用される第1号ということになる。導入スケジュールは2019年度中の200台に加え、業務上の実用性を見ながら2020年度中に2000台程度までを検討。導入初月に配備されるのは、新宿郵便局をはじめ日本橋、渋谷、上野の計4局だが、東京都をはじめとして首都圏の近距離配達エリア、一部の地方主要都市の郵便局にも配備していく。
こうした導入スケジュールに従い、2020年度末には東京都内における郵便配達用バイクの2割が電動バイクになる予定だ。また、全国で稼働する郵便配達用バイクはおよそ8万5000台だといい、2020年度中に2000台が追加されれば、およそ40分の1が電動バイクという構成となる。
ちなみに、当初の200台のうち原付二種バージョンのベンリィe:は150台、原付一種バージョンは50台の導入となる。ランニングコストは非公開ながら、オイル交換不要なことや電気代はガソリン代のおよそ半分とのことで、コスト面でも導入の効果はありそうだ。なお、東京都から電動バイク導入の助成金を受けられるかどうかは現在検討中だという。
[Topic]郵便局が電動バイク普及のカギを握っている?
さて、2017年3月に「日本郵便とホンダの協業」が発表された中には気になる文言があった。それは「郵便局への充電ステーションの実証実験」というものだ。
電動バイクのみならず、電動四輪車を含むEV全般の普及に対し障壁となっているのは、「充電をどうするのか」という問題だ。「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」ではヤマハE-Vinoの航続距離29km/満タン充電まで約3時間という公称スペックが番組進行上でアクセントとして利いていて、これが面白みを生んでいるのは間違いない。しかし実生活において、特に頻繁にある程度の走行距離を運用したいユーザーにとっては、明らかに不足だろう。これは航続距離よりも、充電に時間がかかることのほうが気がかりだ。
たとえば200km以上の航続距離を実現したとするなら、充電の頻度は激減する。四輪の世界がまさにそうで、まだまだ数少ない充電の拠点をつないでいけば、それなりに長距離のドライブも実現できる。だが、いずれ充電しなければならないタイミングが来たときには、急速充電を利用したとして数十分の充電タイムが必要になる。1時間に1度の休憩を取るのであれば、その都度5~10分程度の充電で済むだろうが、都合よく充電できる拠点を1時間毎につないでいけるものなのかはルート次第ということになるだろう。
電動バイクにおいても同様で、たとえばBMWのCエボリューションなどは160kmと十分な航続距離を持ってはいるものの、郊外に出るならば充電できる拠点探しと充電タイムの確保は必須となる。つまり、自由気ままかつ気軽な使用をしたいライダーにとって、電動バイクはまだまだ都市部を中心とした近距離移動の道具以上のものにはなっていない、ということなのだ。
そこで、なぜ郵便局が普及のカギを握っているのか、という本題に入るわけだ。
そもそも電動バイクの普及には、交換式バッテリーの採用と規格統一が大きな力になる。交換式バッテリーであれば、運転したいそのタイミングで、フル充電のバッテリーを搭載することができる。ガソリン車でいうなら、走り出したいときに燃料満タンでスタンバイといったところだ。また、統一規格を採用すれば、車種やメーカーを問わずに同じバッテリーを使うことができ、コストダウンにもなる。
ここでキモとなるのは、交換式バッテリーを交換できる拠点が必要だ、ということ。いくら交換式バッテリーでも、個人ユーザーが自宅で複数個のバッテリーを所有するのは現実的ではないし、交換のたびに帰宅しなければならないのでは意味がない。あくまでも、ガソリンスタンドを探すのと同じ程度の気軽さで、フル充電で用意されたバッテリーに交換したいのである。つまり、全国に一定以上の密度で充電ステーションを整備する必要がある、というわけだ。
こうした方式でもっとも成功しているのは、台湾のGogoroだろう。街中に設置された充電ステーションに行けば、いつでも満充電のバッテリーが専用スロットに差さっていて、これを自車のバッテリーと交換すれば、すぐに走りだすことができるのだ。スマホの専用アプリで台湾全体で1200か所以上もある充電ステーションから最寄りを探し、使用済みのバッテリーを空きスロットに差せば、代わりの充電済みバッテリーが提供される。車両価格には2年間のバッテリー交換料金も含まれており、少なくともガソリン代に相当する“電気代”を気にせず走ることができる。ちなみに、日本では石垣島でレンタルバイクとして利用可能だ(料金は24時間までで4500~6000円)。
この方式の実現に国内でもっとも近いのは、「モバイルパワーパック」と名付けた交換式バッテリーを利用するPCXエレクトリックをはじめとした電動バイクをラインナップするホンダだろう。そう、読者はとっくにお気づきだろうが、郵便配達仕様のベンリィe:はモバイルパワーパックを採用しており、バッテリー交換は郵便局で行う。これを一般に開放することができれば、現状で全国8万5000台の郵政カブ(ガソリン車)を運用している規模に相当するだけの社会インフラが、一気に整備できてしまう可能性を秘めているのだ。
2019年4月には日本のバイク4メーカーが「電動二輪車用交換バッテリーコンソーシアム」を共同で発足させ、共通バッテリー規格の早期策定に向けて協働を開始している。すでにモバイルパワーパックを発売しているホンダが、この共通規格に対して先行者的な立場となっているのは間違いないだろう。同年秋の東京モーターショーではヤマハが電動スクーターのコンセプトモデルを発表したが、これのバッテリーがどうなっているのかはとても興味深い。
内燃機関を搭載したバイクにおいて世界で大きなシェアを持つ日本メーカーが共同で交換式バッテリーの規格を定めていくことは、有象無象も跋扈するアジア諸国の電動バイクマーケットに対しても、ルール作りという面で大きな影響力を発揮できる。各国政府による法律の整備と健全な市場の育成は、インフラでスタンダードの地位を獲得すること以上に急務なのだ。
今回の納車セレモニーでは、この充電ステーション構想について多くは語られなかったが、郵便局を充電ステーション配備の拠点としていくことは、協業の目的のひとつとして引き続き検討する方針だという。車両価格や、1回充電あたりの走行距離に課題はあるものの、電動バイク普及に向けた動きは、静かに、着々と進んでいる。
郵便配達仕様『ベンリィe:(BENLY e:)』はSTDと何が違う?
さて、ここからはお楽しみの車両解説だ。郵便ベンリィe:は、スタンダード仕様との主な違いとして郵便カラーの採用、リヤボックスとフロントバッグ装着、そして配達業務特有の使用に対応するため右側スイッチボックスにウインカースイッチを配置している。また、オプションのグリップヒーターも装備しているようだ。
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