東京モーターショー2019開発者インタビュー

ベンリィe: /ジャイロe: 開発者に聞く「電動×積載力で、新たなユーザー層も生まれると想像しています」

東京モーターショー2019で、ホンダが電動のビジネススクーターを2機種同時に世界初公開。このうちベンリィe:は、「Honda e: TECHNOLOGY(ホンダイーテクノロジー)」という新展開の一環として、2020年春には市販予定だ。そのビジョンを開発陣に聞いてみた。

TEXT: Toru TAMIYA

『Honda e: TECHNOLOGY(ホンダイーテクノロジー)』で社会をリードする

ホンダは「存在を期待される企業」であり続けるため、2030年にありたい姿を「2030年ビジョン」としてまとめて、環境面では「カーボンフリー社会の実現をリードする」という方針を掲げている。東京モーターショー2019のプレスカンファレンスで、ホンダの八郷隆弘社長は、「移動と暮らしの価値創造を具現化する、エネルギーマネジメントを含めた高効率電動化技術を、新たに『Honda e: TECHNOLOGY(ホンダイーテクノロジー)』と定め、今後、商品や技術を通じて一貫したコミュニケーションを展開していきます」と宣言。ショーで世界初公開されたジャイロe:とベンリィe:は、このコンセプトに基づいて開発された電動ビジネススクーターだ。

両機種とも、2018年11月から企業や事業主や公官庁などにリース販売されているPCXエレクトリックにも採用されている、ホンダモバイルパワーパック2個を動力源としたEVシステムを採用。PCXエレクトリックは原付二種クラスに相当するが、今回のビジネス2機種は定格出力0.6kW以下の原付一種クラスとすることで、ガソリンエンジンを搭載した既存のベンリィやジャイロシリーズと同様に扱えるようになっている。八郷社長は前述のスピーチにおいて、「ベンリィe:は来年春の発売を予定していますが、これに合わせて、二輪車のコネクテッドサービスを開始します。メンテナンス通知サービスなど、事業主であるお客様と二輪車、そしてホンダがつながることで、業務でお使いいただく際の安心、安全をさらに向上させていきます」とも語っている。そのあたりの展望も含めて、ベンリィe:の開発責任者を務めた武藤裕輔さんと、ジャイロe:の開発責任者である前田康幸さんにお話をうかがった。

仕事の道具としての厳しい要求に応えるため、妥協なく開発

【左】HONDA GYRO e:[市販予定車]/【右】HONDA BENLY e:[市販予定車]

編集部:リヤまわりの機構が違うので、それぞれに開発責任者がいらっしゃるのは当然なのかもしれませんが、ベンリィe:とジャイロe:では共通する部分も多いのではないかと想像しています。この2機種、どこが同じでどこが大きく違うのでしょうか?

武藤さん:ひと目でおわかりいただけるように、リヤ部分は完全に異なります。フロントまわりは、可能な部分は共通化していますが、ベンリィe:はリヤブレーキがフットペダル式で、ジャイロe:にはチルトロック(車体を任意の傾き角で立てながら停車できる機構)のレバーを装備するなど、細かい部分は異なります。そして電動の基礎となる部分は2機種で共通化。PCXエレクトリックと同じホンダモバイルパワーパックを、ベンリィe:とジャイロe:でも2個採用して、これを動力源としています。

編集部:モバイルパワーパックは、PCXエレクトリックと同じと考えてよいのでしょうか?

武藤さん:基本のシステムは同じなのですが、部品や制御は進化しています。とくに制御の部分では、スムーズな発進加速や求める出力特性を得るために、熟成にかなり力を入れました。もちろんPCXの段階でも、それらはクリアできていると自負していますが、ベンリィやジャイロというのはビジネス用途で導入されることが非常に多い機種。仕事の道具ということになれば、お客様からの要求もさらに厳しいものになると考えています。そこに応えるため、妥協ない開発を進めてきました。

編集部:PCXエレクトリックと同様に、バッテリーは着脱式ですよね?

武藤さん:はい、着脱式となっています。毎日使用されるようなモデルですから、着脱機構にもこだわり、ストレスなく実施できるように配慮しています。充電時はバッテリーを車体から取り外して、専用の充電器を使用するシステムで、充電は2個同時。充電器は、よりビジネスユースにマッチした専用充電器の導入を検討しています。充電時間は約4時間という想定です。

モバイルパワーパックを採用し、PCXエレクトリックとシステムを共有することで利便性を高めていく。※写真はPCXエレクトリック

編集部:車体は既存のガソリンエンジン車がベースですか?

前田さん:ベンリィe:はそういう扱いになるかと思いますが、ジャイロe:については、ベンリィe:と基本部が共通のフロント部を用いています。リヤ2輪構造のユニットに関しても、既存のジャイロシリーズがエンジンと一体型なのに対して、ジャイロe:はモーターと組み合わさることになるので、完全に異なっています。

編集部:そもそも、現行のジャイロシリーズは荷台部もリーンする構造なのに対して、ジャイロe:はかつてのジャイロアップのように、低床でリーンしない荷台ですもんね。ところで、車体を下からのぞき込んでも、どこにモーターがあるのかわかりづらいのですが……。

前田さん:ベンリィe:はホイールサイドにモーターを配置していますが、ジャイロe:はリヤの両輪間にモーターを置き、その後方にあるデフを介して両輪に駆動力を伝えています。ベンリィe:は、ギヤを介して減速して後輪に力を伝えていますが、ジャイロe:は減速の次にデフがあると考えていただくと、違いがわかりやすいかと思います。ガソリンエンジンを搭載した既存のジャイロシリーズから、デフの使い方などは踏襲しています。

ジャイロe:のモーターを外から視認することは難しいが、駆動輪の間にデフ機構内蔵。従来のエンジン車とも構造は異なるという。

モーターを使ってバックできる機構はアドバンテージになる

編集部:ベンリィやジャイロというのは、配達業務や営業販売などで、かなり過酷な使われ方も予想されるシリーズです。電動モデルでこれらを展開することに対して、アドバンテージまたは不安に感じていることはありますか?

武藤さん:ガソリンエンジンを搭載した既存のベンリィシリーズでも、これらの機種がどのように使われているかということは、当然ながら我々としても把握しています。タフネス性ということに関しては、既存のガソリン車に勝るとも劣らないと自負しています。また、発進時のトルク性能に優れるというのが、EV車の大きな特徴。荷物を積載した状態でも、エンジン車よりスムーズに発進できると思います。さらに、今回の2機種は電動による後退も可能です。荷物を積載した状態でも力を使わずにバックできるというのは、ガソリン車にはない大きな魅力になると思います。

前田さん:ジャイロe:についても同様です。3輪スクーターのジャイロシリーズには長い歴史があり、その中で多くのノウハウを蓄積してきました。それらを投入しながら、モーターのメリットを活かしてスムーズな発進と便利な後退ができるモデルになっています。具体的な数字は申し上げられないのですが、既存のジャイロシリーズよりも走行性能の面では使いやすいと思います。

編集部:プレスカンファレンスでは八郷社長が、2020年の春に発売するとアナウンスされていました。こちらは通常の販売となるのでしょうか、それともPCXエレクトリックのようなリース販売になるのでしょうか?

武藤さん:販売方法などに関しては現在検討中です。

編集部:二輪車のコネクテッドサービスに関する言及もありましたが?

武藤さん:そちらもまだ詳細は発表できないのですが、とくに法人のお客様については、走行状況などをフィードバックして、より効率に優れる配達などに活かせるようなシステムを検討しています。

編集部:既存のガソリンエンジン車よりも、スタートダッシュ力や燃料費削減といった要素以外に優れている点はありますか?

武藤さん:まず大きいのは静粛性。例えば、これらの電動モデルを新聞配達に使用していただくことで、真夜中の住宅街に響くエンジン音がなくなります。そしてEV車は排ガスがないので、巨大倉庫などの屋内でも使用していただけます。

前田さん:ジャイロシリーズは、完全な屋内ではなくてもそれに近いような環境の市場で使用されることも多い機種です。そのようなシーンでも、周囲に与える影響が減らせるというメリットがあると思っています。

武藤さん:もちろん静粛性というのは、屋内でもメリットになります。ガソリンエンジン車では導入したくても環境的に厳しかったシーンでも、電動モデルならお使いいただける可能性があると想像していますが、そのときにベンリィe:やジャイロe:は積載力に優れるというもうひとつの大きな特徴が備わっていて、電動と積載力の融合により、これまでとは異なる新たなユーザー層も獲得できるのではないかと期待しています。

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