’80年代、世は空前のバイクブームに沸き、鈴鹿8耐も一気にヒートアップ。特に、750ccのTT-F1規定となった’84年以降、栄誉や責任感や恐怖からなる「必勝」の思いが交錯し、8耐は特別なレースとなっていく。本企画では、あの時代をけん引したホンダ、ヤマハ、ヨシムラ・スズキ、カワサキ、それぞれの「ある年」に焦点を当てて振り返ってみる。
※ヤングマシン2016年8月号より復刻
ひとつのレースが社会現象となった
混沌の黎明期から、大いなる発展期へ――。’80年代半ばからの10年間、鈴鹿サーキットは夏が来るたびに、華々しく燃え盛った。
’84年、全日本ロードレースにTT-F1クラスが誕生した。排気量の上限こそ750ccと定められていたが、エンジン、車体ともに改造範囲は広かった。各メーカーは文字通り技術の粋を尽くし、威信を懸けてレースに臨んだ。
熱波はもちろん、鈴鹿8耐も飲み込んだ。国内最大の2輪レースとしてすでにその名を馳せていた鈴鹿8耐は、メーカーが技術力を研鑽し、披露する最高の舞台だった。チューンナップを極めたTT-F1マシンが、真夏の鈴鹿サーキットに勢揃いした。
レーシングライダーにとっては、世界各国から注目を集めるレースでの活躍は、大きなステップとなる。鈴鹿8耐での好成績をきっかけに、グランプリに昇り詰めたライダーも多かった。
「耐久」と名の付くレースは、長距離・長時間を走り抜いてゴールするために、ペースを抑えるのが定石だ。しかし鈴鹿8耐では、マシン、ライダーともに常に限界を極め、常にプッシュし続けなければ勝つことができない。耐久レースの常識を覆すあまりのハイペースぶりに、世界耐久選手権のライダーたちも「8耐はスペシャルすぎる」と舌を巻き、「スプリント耐久」という独特な呼ばれ方をした。
特殊なスタイルではあったが、ハイレベルでもあった鈴鹿8耐は、日本のモーターサイクルレースファンを熱狂させた。この時代、世界グランプリ、そして全日本ロードも大いに盛り上がったが、鈴鹿8耐は特別だった。
年に1度の祭典であること。世界レベルのライダーが集うこと。技術の粋を尽くしたマシンが居並ぶこと。多くの要因はあったが、結局は「本気」の二文字に尽きた。本気の戦いが、観客が魅了する。シンプルなことだった。
昨年(2015年)、久々に現役GPライダーが参戦した。ポル・エスパルガロとブラッドリー・スミスは、めざましい速さとともに本気で勝ちを狙う姿勢を見せた。もちろんヤマハも本気だったから彼らを招聘したのだし、チームメイトの中須賀克行もいつも以上に本気だった。本気のヤマハが勝った昨年の鈴鹿8耐は、シンプルに面白かった。
本気の戦いは、いつだって面白いのだ。──今年もまた、きっと。
1985年 FZR750〈TT-F1 耐久仕様〉
TT-F1は、市販車のエンジンケースを使い、排気量変更などさえしなければ、ほぼ何でもありという規定だった。’84年のTT-F1初年からファクトリー参戦を開始したヤマハは、’85年にFZ750ベースのファクトリーレーサー・FZR750を投入。テック21カラーのFZR750は、平忠彦/ケニー・ロバーツが演じたドラマチックなレース展開によって、鈴鹿8耐の歴史を代表する一台となった。
2015年[WINNER]YZF-R1〈スーパーバイク 耐久仕様〉
現在のスーパーバイク規定では、4気筒車の排気量は1000ccまで。市販車のシャーシ/ エンジンを用い、コスト削減のために改造範囲や使用パーツ、電子制御ソフト等が制限される。ヤマハは’15年、’02年以来13年ぶりにワークスとして8耐に参戦。モトGPライダーのエスパルガロとスミスに全日本王者・中須賀を加えた布陣により、見事に優勝を遂げた。
●文:高橋 剛/飛澤 慎/沼尾宏明/宮田健一 ●写真:鶴身 健/長谷川 徹/真弓悟史
メーカー別・鈴鹿8耐の戦い
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