FZR750[0W74]からYZF750[0WF1]まで

【ヤマハ8耐ワークスマシン 一挙紹介】鈴鹿8耐・栄光のTT-F1マシン[1985-1993]#ヤマハ編-02

ヤマハのスターライダーがドラマチックなレース展開を演じた1985年の物語に続くのは、TT-F1レギュレーションで製作されたワークスマシンの紹介編だ。ケニー・ロバーツと平忠彦が走らせたFZR750[OW74]をピックアップし、それに続くマシンも掲載していこう。

※ヤングマシン2016年8月号より復刻

ワークス8耐レーサー YAMAHA FZR750[0W74]1985:テック21伝説の幕を開けた水冷直4ワークスレーサー

ヤマハ初の水冷直4でありデビュー間もないFZ750をベースに、専用設計のアルミデルタボックスフレームやF.A.I.で武装。シリンダー前傾角(対地)を45度→35度にしてホイールベースを短縮している。

エンジン搭載角をFZよりも立て、コンパクトに仕上げた0W74。ケニーのライディングがその卓越した旋回性を一層引き出した。
水冷新時代に向けたコンパクトなFZ750のエンジンは前面投影面積の縮小にも成功した。リヤタイヤは決勝で使われた18インチのほかにTカーやサブチーム用の17インチも存在。
アッパーカウルには、俗に「水中メガネ」とも呼ばれる独特の直線的な形状が与えられた。
後に市販車FZRにも採用されるF.A.I.=フレッシュエアインテークがパワーアップに貢献。
コクピットは回転計と水温計に油圧計も加え、長丁場のレースで万全を期す。燃料タンクはクイックチャージャー対応の耐久仕様だ。

ベースマシン YAMAHA FZ750[1AE(海外)/1FM(国内)1985]:ジェネシス思想の原点モデル

重厚長大化するビッグバイク開発に背を向け、コンパクト&ハイパワー=スポーティを追求して登場。ヤマハ初となる水冷750ccエンジンはDOHC5バルブや前傾角45度+ダウンドラフトキャブといった先進的な機構を採り入れ、US仕様では110psを発生。フレームも前傾エンジンの低重心を最大限に活かすように作られ、このトータル設計思想は「ジェネシス」としてヤマハのバイク作りの根幹となった。

【YAMAHA FZ750[1AE(海外)/1FM(国内)]1985】■全長2225 全幅755 全高1165 軸距1485 シート高780(各mm) 車重209kg(乾)■水冷4スト並列4気筒 DOHC5バルブ 749cc 77ps/9500rpm 7.0kg-m/6500rpm 燃料タンク容量20L■タイヤサイズF=120/80R16 R=130/80R18 ●当時価格:79万8000円
前傾エンジンは吸排気経路の効率化と車体の低重心化、前後重量配分の最適化にも貢献。
’86年のAMAデイトナ200マイルレースではE・ローソンのライディングで優勝。このときの仕様は今なおFZ750カスタムのお手本だ。

憧れのテック21カラー

[FZR250]当時人気の4気筒250cc、FZR250に’88年7月、限定色としてTECH 21カラーを追加。
[チャンプRS]原付もレーシーに。テック21仕様はほかにYSR50などにも展開された。

ヤマハ ワークス8耐レーサーと公道市販モデルを一挙紹介!

※各車の写真は図の下方にあります。

1984年の空冷マシンにはじまった耐久レーサーの歴史。

空冷4気筒のXJ750EがXJ750Rに[1981-1984]

[XJ750E/XJ750E-II・公道市販モデル]’81年5月に登場したコンパクトなXJ650がベースの空冷直4シャフトドライブ車がXJ750Eだ。’83年4月にカウル付きE-IIを追加。
[1984 XJ750R(0U28)・ワークス8耐レーサー]チェーンドライブ化したXJ750Eエンジンをアルミフレームに搭載。

まったく新しいジェネシス思想の水冷4気筒が登場[1985-1986]

[1985/4 FZ750・公道市販モデル]XJ650&750で好評だった「軽量・コンパクト・高性能」路線を、完全新作のジェネシス水冷エンジン&車体で新次元に引き上げた。
[1985 FZR750(0W74)・ワークス8耐レーサー]FZ750ベースのエンジンをアルミデルタボックスフレームに搭載。
[1986 YZF750(0W80)・ワークス8耐レーサー]車名をYZFに変更。前年のFZRをベースに戦闘力向上を図った。

ワークスからのフィードバックがベースモデルを進化させ始める[1987-1988]

[1987/3 FZR750・公道市販モデル]FZ750直系エンジンをFZR1000と同じデルタボックスフレームに搭載。F.A.I.も装備。
[1987 YZF750(0W89)・ワークス8耐レーサー]EXUP 採用、歴代唯一の片持ちリヤアーム車。ウィマー/マギー組が8耐初制覇。
[1988 YZF750(0WA0)・ワークス8耐レーサー]市販FZR750をベースに熟成。レイニー/マギー組が8耐を2連覇。

伝説の市販車、オーダブリュ・ゼロワン(OW-01)が誕生![1989-1991]

[1989/4 FZR750R(OW-01)・公道市販モデル]ホンダ・RC30に対抗するホモロゲーションマシン。国内は200万円で500台の限定販売となった。ワークスYZF勢が全滅した’89年8耐で3位表彰台を獲得。
[1989 YZF750(0WA6)・ワークス8耐レーサー]ファクトリー勢は3台体制で3連覇に臨むも全車ゴールに届かず。
[1990 YZF750(0WB7)・ワークス8耐レーサー]エンジンが高回転&小型化。ローソンと組んだ平がついに8耐を制した。
[1991 YZF750(0WD7)・ワークス8耐レーサー]マギー/チャンドラー組が転倒するも復帰して2位表彰台を獲得。

スーパーバイク前夜、TT-F1ワークス8耐レーサーが最後の輝きを見せる[1992-1993]

[1992/3 YZF750SP・公道市販モデル]’94年からのスーパーバイク規定に合わせ、国内ではSP仕様のみを350台限定販売。
[1992 YZF750(0WE7)・ワークス8耐レーサー]マギー/マッケンジー組が終盤トップに迫るも届かず2位に。
[1993 YZF750(0WF1)・ワークス8耐レーサー]TT-F1規定の最終型。K・ロバーツJr.も参戦し、8位に。

難波江行宏のマニア流チェック「水冷5バルブ前傾エンジンの冒険」

’85年のFZ750発売後、メーカー系のチューニングパーツも市販を開始。翌年のリザルト欄にはFZの名が多数確認出来ます。各コンストラクターもオリジナルのシャーシを開発し8耐に臨んでいますが、その中に異彩を放つマシンが本戦に登場します。

ダイシン・DICレーシングは2台のFZ750をエントリー。ゼッケン#34=藤本泰東/鈴木博組は、ダイシンのお家芸とも言える後方排気に改造され、同社オリジナルのアルミフレームに搭載。まさにダイシンチューンの集大成的マシンで、本戦結果は62位、21周リタイヤでした。なお、後方排気については、エキゾーストパイプのストレート化による排気抵抗の減少により、効率的な燃焼が得られると言われており、同社は2スト、4ストともに幾つかのエンジンを後方排気にモディファイしています。中でも4ストのホンダ・CBXと2ストのヤマハTZをベースとするマシンは全日本選手権に参戦して注目されました。

理論的な有用性を語る者が多い技術でも、実践するとなると幾多の問題が山積します。それをあえて実行する姿には、ある種の感銘さえ覚えます。

[1986 FZ750 DIC.RT #34]ダイシンチューニングの集大成的なマシンだった。

DICのもう1台(ゼッケン#33車)は通常の前方排気。フロントキャリパーはブレンボ、前後ディスクとリヤキャリパーはスズキ、ホイールはスズキ用マービック、フロントフォークはTZ、スイングアームと乾式クラッチはSUGOとバラエティーに富んだパーツを使用。多数のアルミ角パイプを組み合わせたオリジナルフレームは、当時、7N材(アルミ合金)の入手が難しかったための構成と思われる。

[1986 FZ750 DIC.RT #33]

前後片持ち――2輪でこの言葉を聞けば、誰しもあの“elf”が脳裏によぎります。鈴鹿8耐にHONDA elf(RS1000)が現れた2年後の’85年、再び前後片持ちマシンが鈴鹿に登場。それがFZエンジン搭載のリーマンLMR-1です。設計はルマンにも出走したレーシングカー・シグマMC73を手掛けたエンジニアで、4輪の長所を2輪に組み込んだ先進的野心作だったが、残念ながら予選通過ならず。

[1985 FZ750 TEAM YDS(リーマンLMR-1)]

●文:高橋 剛/飛澤 慎/沼尾宏明/宮田健一 ●写真:鶴身 健/長谷川 徹/真弓悟史

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