
2023年からスタートしたロイヤルエンフィールドの『鉄馬フェスティバルwithベータチタニウム(以下、鉄馬)』への参戦。昨年はコンチネンタルGT650で僕(筆者・小川勤)が参戦し、今年からはハンター350が4台参戦してパワーアップ。そのハンター350のエースに抜擢されたのが女子大生ライダーの中山恵莉菜さんだ。5月4日(予選)/5月5日(決勝)に開催された鉄馬の“ネオクラシック350”クラスを戦ったハンター350の模様をレポートしよう!
●文:小川勤 ●写真:ロイヤルエンフィールド ●外部リンク:ロイヤルエンフィールド
ハンター350が鉄馬の“ネオクラシック350”クラスに参戦!
午前9時すぎ。鉄馬の開催数日前にHSR九州を訪れると、すでに単気筒エンジンの快音が轟いていた。コースを見ると、ビタッとロイヤルエンフィールドのハンター350に伏せた中山恵莉菜さんの姿が見える。彼女はこの日、HSR九州を90周走ることになる。とにかく走って走って走り回る。
これが中山さんとの出会いだった。「いつもはもっと走ってるんです」と、ヘルメットを脱いだその笑顔に疲れはなく、どこまでも清々しい。だが、バイクや自分の走りに納得が行っている様子はなかった。
「取材するのでよろしくお願いします」と挨拶をすると、「アハハハ」と笑いが止まらない。「ホントですか…、私でよければ…、ちゃんとできるかな…」 戸惑いを感じつつも、とにかく笑いが止まらず、常に笑顔。皆が今回のプロジェクトのライダーに中山さんを推薦する理由がすぐにわかった。彼女はとても生き生きとした色で皆に映る。そして、皆の心を一瞬で掴むのだ。
中山恵莉菜さんは、大学4年生。バイク好きのお父さんの影響により、高校生の頃からレースを走り、兄弟全員がレーサーという環境で育った末っ子。ふだんは岡山国際サーキットでNSF250Rを駆り、クシタニ西宮店でアルバイトをし、全日本ロードレースのクシタニのレーシングサービスも回り…と、大学4年生とは思えないレース漬けの日々を送る。
レース歴が長い彼女だが、市販車もカスタム車でのレースもじつは今回が初めて。バイクを仕上げる単車工房モトジャンキーのメンバーとも初めてだが、モトジャンキー代表の中尾さんはもちろん、メカニックの松見さん、さらに中尾さんの奥さんや娘さんともすでに仲良し。明るい性格と天性の求心力で、周囲の大人をどんどん味方にしていく。
「これまでは家族の影響でレースを走ってきたのですが、どこか仕事のような感じでした。プレッシャーも大きく、苦しいこともありました。でも、ハンター350でのレースは本当に楽しい。レースだけでなく、鉄馬の雰囲気、チームそしてロイヤルエンフィールドを通じて繋がった人々との出会いもよかったです」と中山さん。
【ロイヤルエンフィールド ハンター350】空冷の350cc単気筒エンジンを搭載するモデルで、ロイヤルエンフィールドのラインナップのうち唯一前後に17インチホイールを履くスポーツネイキッド。6100rpmで20psを発揮。65万7800円〜
マシンを制作するモトジャンキー代表の中尾さんと。中尾さんが中山さんに合わせたマシン作りを進める。中山さんを推薦してくれたのは、Jトリップの森賢哉さん(写真右)。当然、中山さんのハンター350レーサーを支えるのはJトリップ製だ。
鉄馬はハンター350とGB350が参戦できる“ネオクラシック350クラス”を新設!
今回、中山さんが参戦する“ネオクラシック350クラス”は、ハンター350とGB350のみが参戦できるクラス。2023年まではGB350のワンメイクだったが、2024年からハンター350の参戦が可能となり、中山さんの参戦が決まった。
予選当日。多くの方が中山さんに声をかける。気がつけばモトジャンキーのチーム員のみんなも、まるで彼女の友達のようだ。中山さんは、自然にピットの一員になり笑っている。その笑い声の響きはとても心地よく、レース前のチーム員をリラックスさせているような気がした。
「カッコいいバイクを速く走らせるのは楽しいけど、難しい。モリワキさん、そして金子さんにも緊張します。でも予選はリラックスして挑めました。あまりタイムを意識せずに走ったら、自己ベストに近いタイムが出ました」と中山さん。
ライバルは、モリワキのGB350を駆り2連覇している金子美寿々さん。「速い子が来るって聞いて緊張してました。この日のために体重を5kg落としてきました…」と金子さんは中山さんをライバル視しつつも、コースで中山さんを引っ張ってくれたりと、とても優しい。
予選は、金子さんに続くクラス2位。5月の鉄馬は土曜日が予選、日曜日が決勝。これから夏の匂いが強まっていきそうな絶好の天気の中、ゆったりとした時間がHSR九州に流れる。
今回、『ネオクラシック350クラス』は入門に最適ということで、中山さんの他にも3台のハンター350がエントリー。中山さんのバイク以外はほぼノーマル。それでもレースを楽しめるのがハンターの魅力なのだ。
写真右から、『ネオクラシック350クラス』に参戦した松見直樹さん、中山恵莉菜さん、阿部晃平さん、菅野貴さん。全車ピレリ製のスーパーコルサを装着し、ブレーキパッドをベスラ製に交換。阿部さんと菅野さんはスリップオンマフラーも装着。
中山さんはハンター350最上位でゴールするものの、モリワキ金子さんには届かず
決勝日の朝、HSR九州には続々とロイヤルエンフィールドのユーザーが集まってくる。2023年からスタートした『ロイヤルエンフィールドミートin HSR九州(詳細は別記事にて)』も2回目の開催。ロイヤルエンフィールドのテントではアパレル販売や新車の展示が行われた。
鉄馬では2023年から『ロイヤルエンフィールドミートin HSR九州』を同時開催。多くのファンがレースを観戦。
「多くの方がロイヤルエンフィールドの旗を振って応援してくれるのが嬉しかったんですが、すごく緊張もしました」と中山さん。
決勝、スタートを決めた中山さんは1コーナーで金子さんをパス。しかし、バックストレートで抜かれてしまう。そこからクラスの異なるバイクに戸惑い、なかなか思い通りのレースができない。そうこうしているうちに、金子さんははるか先へ…、金子さんはGB350で3年連続の優勝を決めた。中山さんは2位。
「私、怒ってるんです。自分に怒ってるんです。あー、もう。レース展開を考えていたのに対処できませんでした。異なるクラスとの混走がこんなに難しいとは。もう少し金子さんに絡めるかもしれなかったのに…」と中山さん。
決勝中、コーナリングスピードが速い中山さんは、パワーが勝る他のクラスのバイクを抜くのに苦戦していた。
「でも、今までのレースで一番楽しかったかもしれません。レースって楽しんでいいんだって思いました。自分の中のレースのスタンスが変化したような気がします。ロイヤルエンフィールドのハンター350がレースの価値観を変えてくれました。
来年は就職。レースは趣味にしたいと思っていたのですが、これからも楽しいレースを続けていきたいですね。結果だけでなく、バイクを仕上げる楽しさや人との繋がりを大切にしたレースをしたいと思いました。鉄馬とハンター350がそれを教えてくれました。来年も出たいですね」と中山さん。
まだ悔しさは消えていないが、彼女の目は未来を見据えていて、それは今回のレースウィークでいちばん大人びた横顔だった。
スタート直後にネオクラシック350クラストップに立った中山さんだが、その後のレースを上手く組み立てることができなかった…。しかし、ハンター350と鉄馬の楽しさを存分に味わった。
ハンター350は4台無事完走!
ネオクラシック350クラスの後方では、ハンター3台による熾烈な(?)戦いが行われていた。
コースを知り尽くし、走り込んでいる松見さんは1分29.688をマークし、30秒切りに成功。レースキャリアは豊富だが予選日が初HSR九州となった菅野さんは、走行ごとにタイムアップ。さらに阿部さんは、菅野さんに引っ張られる形でベストラップを更新。
レース後も「あそこのコーナーは…」「来年までにステップを…」などなど話は尽きない。3台は後方での争いだったが「レースを楽しんだ」ということにおいて順位は関係ないのだ。そして、この3台に関しては、レース後は保安部品を装着して街乗り仕様に戻す。これも大切なファクターだろう。
最初から前後ホイールに17インチを履くハンター350は、比較的低コストでレース参戦ができるマシン。ロイヤルエンフィールドが掲げるスローガンのひとつである「ライドピュア」を体現できるマシンであることを今回の鉄馬で証明することができた。
ネオクラシック350クラスの後方ではハンター350同士の戦いが繰り広げられていた(写真左)。ノーマルハンター350最上位はモトジャンキーのスタッフである松見さん。しかし、熟成が進むノーマルGB350に届かず…。
初HSR九州となった菅野さん(写真左)は、イベントやレース会場でベスラのブレーキパッドの普及活動を行う。もちろんハンター350にもベスラ製のパッドを装着し、自らテスト。大分のロイヤルエンフィールドディーラーであるコイマールガレージのメカニックである阿部さん(写真右)は、自らマシンを仕上げ、ロイヤルエンフィールドの楽しさを体現し、お客様に伝える。
決勝日に兵庫県に帰らないといけなかった中山さんの代わりに2位表彰台に立ったのは、モトジャンキーの中尾さん。この後、炭酸水ファイトでずぶ濡れに…。金子さんは王者の貫禄!
2024年の「鉄馬フェスティバルwithベータチタニウム」参戦の模様を動画でも公開!
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