カワサキGPZ900Rは、1984年に登場し、2003年に生産を終了したロングセラーモデル。「ニンジャ」の愛称を持つ最初のマシンでもあり、2024年で生誕40周年を迎える。生産終了から20年が経過するが、多くのライダーに愛され、いまなおカスタムも人気。ここで紹介するMC.ジェンマが手がけた2台は、GPZ900R系エンジンの最終形ともいえる1200cc仕様を搭載。カスタムの世界ではまだまだ新しいパーツやアイデアで進化し続けている。
初代ニンジャを現代のアイテムで最大限に楽しむ
GPZ900Rが生産終了にならずにもう少し生産され続けていたら、こんな乗り味になっていたのかもしれない…。東大阪にショップを構えるMC.ジェンマが制作したGPZ900Rに乗ってそう思った。
GPZ900Rとはいったものの、エンジンはどちらもGPZ900R直系の純正最終形態ともいえる1200ccが搭載され、内部もチューニングが施されている。しかし、ZRX1200ダエグまで続いたこのエンジンパーツも、少しずつ部品がなくなっているのだという。
撮影のために2台のニンジャを取り回していると、とても軽い。各部の整備が行き届いていてフリクションが少ないことはもちろんだが、GPZ900RのエンジンよりもZZRやZRX に搭載された1200系のエンジンの方が重量が軽く、それも影響しているのだという。足まわりに奢られた機能パーツは、取り回しの時点からタッチがよく、それが走りの楽しさを期待させる。
GPZ900Rカスタムにおいて、エンジン積み替えは邪道…、そんな声もあるが、信頼性やパフォーマンスでは新しいものが優位。さらに積み替えに必要な細かいアイテムをケイファクトリーが用意しているため、MC.ジェンマのようなプロショップの手にかかれば、コストはそれなりにかかるものの、それほど作業は大変ではないのだという。
40年の年月を感じさせない、現代風のハンドリングが気持ちいい
シャーシで今回の2台に共通しているのは、ピボット位置(スイングアームの取り付け位置)を20mm下げていること。この加工についても、MC.ジェンマ経由でケイファクトリーが担当。ケイファクトリーでは、この加工に合うステップやリヤサスペンションのリンクも用意している。
知るほどにGPZ900Rカスタムはここまで熟成しているのかと感心する。この加工は最新の17インチラジアルタイヤを履きこなすためのもの。元々、GPZ900Rの後輪は18インチで、前輪は1989年までが16インチで、それ以降は17インチを採用。それを前後17インチにして、ハンドリングを追求しているのだ。
昔はやみくもに17インチ化したバイクがたくさんあった。純正流用のスイングアームやホイールを履き、無理やりリヤサスペンションを伸ばして姿勢を確保。ワンオフ部品やその場合わせのパーツも多く、乗り味も微妙だった。しかし、ケイファクトリーはそれらに必要なパーツをすべて用意。スイングアームのタレ角やキャスター&トレールの数値を最適化した。MC.ジェンマはケイファクトリー製のこうしたパーツを積極的に採用し、GPZ900Rを仕上げている。
そしてそんなパーツの開発には、元カワサキのテストライダーである齋藤昇司さんが参画。齋藤さんはカワサキのテストライダーを引退後、ケイファクトリーのテストを担当。今回の2台の取材も齋藤さんの走行確認に同行させていただいた。
僕はピンクのGPZ900Rで、齋藤さんは黒いGPZ900Rで走り出す。エンジンは振動やザラツキが少なく、FCRキャブレターも低中速域がとても扱いやすい。走り出した瞬間から安心感に溢れ、いい意味でカスタムバイク特有の違和感がない。GPZ900Rと一体となった齋藤さんの走りは安心感に溢れ、それがGPZ900Rカスタムの完成度の高さを思わせる。
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GPZ900Rはまだまだ走り続ける!
「この黒いGPZ900Rは歴代NO.1。乗りやすい」と齋藤さん。実はこのバイクは、カスタムが進化していく過程で何度か齋藤さんがテスト走行し、ブラッシュアップしているのだという。僕が乗ってきたピンクのGPZ900Rは少しサスペンションが硬め。2台のバイクを交互に乗り比べながらサスペンションをアジャスト。齋藤さんは、サスペンションをソフトな方向へと振っていく。
「僕が仕上げるとどうしてもサスペンションを硬めにしてしまうんです。それを齋藤さんがアジャストしてくれます。もちろんサスペンションだけでなく、アドバイスは多岐にわたります。ハンドルの角度やシートの感触など、厳しいことを言われることもありますが、そこを改善していくと、安心して長く楽しめるGPZ900Rに仕上がるんです」とMC.ジェンマの石田さん。
「何か現象があったら伝えているだけです。たとえば、スロットルが重いからリターンを軽くした方が良くなるとか、そういう所ですね。また、サスペンションはハードにせず動かす方向へ。あとはカスタムだけでなくメンテナンスも大切。ステアリングステムやブレーキキャリパーなどをきちんとメンテナンスすれば、乗り味も変わります」と齋藤さん。
ピッチングモーションをライダーがきちんと作れるサスペンションに仕上げていくと、旋回中の自由度が向上。立ち上がりでスロットルを開けると、リヤタイヤが路面を掴む感覚も強まっていく。少しのアジャストでバイクとライダーの一体感が高まっていく。齋藤さんのアドバイスは的確だ。
今回のGPZ900Rは2台ともオーナーさんのバイク。石田さんはオーナーさんのキャリアや乗り方を想像し、車高やステムのオフセットの数値も変更。齋藤さんに相談しながら、各パーツをバランスさせていく作業を繰り返しているのである。
今年、生誕40年を迎えるGPZ900R。まさか、こんな現代的な乗り味のニンジャに出会えるとは想像もしていなかった。これはとても嬉しい驚きである。GPZ900Rはまだまだ走り続ける。
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