レーサーも採用したコンパクトでパワフルな2ストローク

まだ買えるスペシャルもある! 【2ストロークエンジンの仕組みを知ろう!】

かつてのレーサーレプリカで大人気を誇り、原付スクーターなどにも多く採用された2ストロークエンジン。大排気量車が珍しかった1960年代には、国産バイクの6~7割が2ストロークだった。しかし厳しさを増す排出ガス規制など環境性能に対応できず、21世紀を迎えるとほとんど消滅……。そんな2ストロークって、どんな構造だったのか?


●文:伊藤康司 ●写真:関野温

構造がシンプルな2ストロークエンジン

4ストロークと比較すると圧倒的に部品点数が少なく、構造がシンプル

上図は2ストロークエンジンの中でもシンプルな構造のピストンバルブ方式の構成図。2ストロークは、4ストロークエンジンと異なり吸気や排気のバルブを持たず、シリンダーの側面に「ポート」と呼ぶ孔が開いていて、そこから混合気(キャブレターやFI(燃料噴射装置)で、空気とガソリンを混ぜて作ったガス)を吸い込んだり、燃焼後の排気ガスを排出している。

クランクケースはトランスミッション等とは別室の、密閉された構造になっていて、クランクケースからシリンダー側面の掃気ポートに繋がる通路が設けられる。混合気をいったんクランクケースに吸い込んで一次圧縮を行うためだ。

このクランク室の密閉と一次圧縮を行う構造のため、クランクシャフトを潤滑するためのオイルを混合気に混ぜて供給している。そして混合気と一緒に燃焼するため、排気ガスに白煙となって排出されるのだ。

2つの行程で1回爆発、だから2ストローク

構造がシンプルなので、爆発する工程もシンプル。

2ストロークエンジンはピストンが「上がる→下る」の2つ行程で1回爆発する。1つの行程で2つの動作を行うので少々難解だが、その仕組みを見てみよう。

吸気&圧縮
ピストンが上昇していくと、密閉されたクランクケース内が負圧になるため、吸気ポートから混合気を吸い込む。そしてシリンダー側面の排気ポートと掃気ポートをピストンが塞ぎ、さらにピストンが上昇することでシリンダー内の混合気が圧縮される。

爆発&排気
圧縮した混合気に点火プラグの火花で着火して爆発。その爆発エネルギーでピストンが押し下げられる。そしてピストンが下がる過程で吸気ポートを塞ぎ、密閉されたクランクケース内に吸い込んだ混合気が圧縮される(一次圧縮)。またピストンが下降して掃気ポートと排気ポートが開くと、クランクケースで一次圧縮された混合気がシリンダーに流れ込みながら、爆発・燃焼した後の排気ガスは排気ポートから排出される。

2ストロークのメリットとデメリット

前述した構成図や行程図からわかるように、2ストロークエンジンは構造がシンプル。そのため軽量・コンパクトに作れ、部品点数も少ないため製造コストも抑えられる。そして2行程=クランクシャフトが1回転するごとに1回爆発するので、単純に比較するとクランク2回転で1回爆発する4ストロークより2倍のパワーを得られることになる。これこそが2ストロークの大きなメリットで、かつてのGPマシンでも採用されたワケだ。

……とはいえ行程図を見ながらよく考えると、ピストンが下がっていく爆発行程では、開いている吸気ポートから混合気がキャブレター側に逆流(吹き返し)するのでは、と感じる。さらに排気行程では、掃気ポートから入ってきた混合気が排気ガスと一緒に出て行ってしまうような気もする……。

2ストロークエンジンのチャンバー

その疑問は両方とも正解。そのため2ストロークエンジンは進化の過程で、吸気ポートに混合気が吹き返さないように逆流を防止する「リードバルブ」が備わった。そして排気側には、膨張した排気ガスを跳ね返して未燃焼の混合気を抑える「チャンバー」が装備されるようになった。さらに70年代の後半には、回転数によって排気ポートの高さを可変するデバイスも登場した(ヤマハのYPVSなど)。
 
これらの技術的な進化によって軽量・ハイパワーを誇った2ストロークエンジンは、レーシングマシンはもとより原付スクーターから250クラスのスポーツバイクにも数多く採用された。
 
とはいえ混合気の吹き返しや未燃焼ガスの排出に加え、構造的にエンジンオイルの燃焼による白煙などにより、厳しさを増す排出ガス規制への対応が難しくなってきた。

そして燃費の悪さも加わり、平成11年排出ガス規制が施行された1999年には多くの2ストロークスポーツバイクが生産を終了。さらに平成18年排出ガス規制(2006年)によって、2ストロークの原付スクーターなども姿を消し、2ストロークエンジンは国内の公道を走るバイクとしては実質的に消滅したのだ。

現在も販売される2ストロークバイク

国産の2ストロークバイクは消滅した……と書いたが、じつはヤマハとカワサキがモトクロッサーやエンデューロマシンをラインナップしている。とはいえクローズドコース専用の競技車両なので、ナンバー取得や公道走行はできない。

しかし輸入車のKTMや傘下のハスクバーナでは、日本国内でもナンバーが取得できるエンデューロモデルを販売している。公道走行できるようにユーロ5に対応しているからだ。2ストロークの新車を公道で楽しめる、穴場といえるバイクなのだ。

KTM 250 EXC SIX DAYS
欧州のエンデューロレースはセクション移動に公道を使うためユーロ5に対応し、日本でもナンバー取得が可能。

ヤマハ YZ250
クローズドコース専用の競技専用モデル。ヤマハはYZ65~YZ250、キッズ用のPW50まで数々の2ストロークのオフロードモデルを用意。カワサキもKX65~KX112まで2ストロークのオフロード競技車両をラインナップする。

プレミアムな2ストロークのロードスポーツが新登場!

排出ガス規制をクリアして公道を走行できる2ストロークの現行バイクは、KTMなど極々一部で、かつて2スト250ccレプリカを楽しんだ世代には寂しい限り。

ところがつい最近、もう絶対に世に出ないと思われていた2ストロークのロードスポーツが、イタリアのヴィンスモータースから発売された。2軸クランクの20度V型2気筒249.5ccの2ストロークエンジンは75psを発揮し、ギロチン式スライドバルブで吸気量をコントローするFI(燃料噴射装置)や、かつての2スト250レプリカの1/10ほどしかエンジンオイルを消費しない電子制御オイルポンプなどにより、欧州の排ガス規制ユーロ5をクリアしているのだ。

手作りの少量生産メーカーゆえ、プライスは990万円(ストラーダ)と超高額でおいそれとは手にできないが、2ストロークでも最新技術を投入すれば規制をクリアできることを証明。その存在価値は非常に大きい。これを機に国内メーカーも2ストロークを復活してくれれば……と夢が広がるバイクだ。

Vins Duecinquanta ヴィンス ドゥエチンクアンタ
イタリアのヴィンスモータースが、独自開発した2ストロークエンジンを搭載するスポーツバイクのドゥエチンクアンタを発売。また同エンジンはイギリスのランゲンテクノロジー社に供給され、こちらからはネイキッドスタイルのモダンなカフェレーサーとして販売される。日本では2社ともにモータリストが正規代理店となり購入が可能だ。


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