【DIY道楽テツ】溶接に慣れたころにやってくる5つの罠〈ゼロから始める100V溶接機3日間集中講座その3〉

「溶接、出来てたハズなのに?」「アレ? 下手になった?」そう思ったあなたは自分を責める前にチョット待って! それは溶接機による小トラブルかもしれません。溶接に慣れたころにやってくる5つの罠、100V溶接機 3日間集中講座その3をお届けいたします~!
●文/まとめ:ヤングマシン編集部(DIY道楽テツ)
溶接に慣れたころにやってくる5つの罠
良好な溶接(上)が、不安定な溶接ビード(下)に・・・
これまで出来ていた溶接が、なぜか思い通りにできなくなる。「ジューーーッ」っていう連続音でまっすぐなビードが引けていたのに、「ジジッジジッジジジッ」と不安定になったり、もっとひどい状態になると「パンパンパンッ」という断続的なアーク(火花)になって、まともな溶接ができない状態。
こうなるともうサイアク
こんな時の原因は、溶接機の強さ調整ではなく溶接機側の問題であることがほとんどで、その原因は大きく分けて「溶接チップ」または「溶接ワイヤー」にあります。
※なお、ここからの話はアース接続状態が良好で溶接機の強さ調整が適正であることを前提としています。詳しくは「100V溶接機 3日間集中講座その1」をチェックしてみてくださいね。
まずは溶接チップから溶接不良の原因をチェック!
この半自動溶接機は、溶接ワイヤーがケーブルを通ってきて先端の「溶接チップ」から出てきます。つまり、溶接ワイヤーがこのチップで引っかかってしまうと、著しい溶接ビードの悪化を招いてしまうのです。
なぜ引っ掛かりが発生するか?
それは考えるまでもなく、溶接チップが過酷な環境に晒されているからです。
溶接アークの高熱、そして飛び散るスパッタ(火花)…! 新品の頃は綺麗な艶を放つチップも、いくら銅とはいえ溶接の熱で劣化して、スパッタが付着しはじめると穴が埋まってしまったり、ワイヤーに引っかかってしまうようになります。そうやって良好なビードが引けなくなってくると、よりスパッタが発生して余計にチップを痛める、という悪循環になってしまうんですよ。そうなったらもうチップを交換するしかない!
「スパッタ付着防止剤」ちょんっとつければOK
それを防ぐアイテムが「スパッタ付着防止剤」(※詳しくは100V溶接機 3日間集中講座その2参照)。これを塗布することでスパッタの付着を防止してくれるだけでなく、チップの劣化を軽減することができます。
溶接チップを劣化させる原因のもう一つは内部の「穴の変形」
使用する溶接ワイヤーの太さに応じて、溶接チップも専用品があります。0.6や0.8、0.9といった0.1ミリ単位で精密加工されている部品なのですが、長く使っていると当然ワイヤーとの摩擦で摩耗します。穴が広がった分、抵抗が少なくなっていいのではと思われるかもしれませんが、実はそれが落とし穴。
ワイヤーに電気が通っていて、その電気のスパークの熱で溶接をするわけですが、その電気がワイヤーに流れ込む場所がこの溶接チップなのです。つまり、チップの穴が拡大してちゃんとワイヤーに接していないと、つまりはアース不良と同じ現象を起こしてスパークしなくなってしまったり、「パン パン パン」と断続的になってしまったりもするのです。
穴が拡がっているの見えますか?こうなるともうアウト
潰れてもダメ、傷ついてもダメ、そして広がってもダメ… 一見すると長く使えそうな部品なのですが、その実は消耗品。自動車工場などのロボット溶接に使われているチップなどは、1時間に一度交換するほどのスピードで消耗していきます。
とは言っても安い部品ではないので、少しでも長く使いたいという気持ちはわかるのですが、溶接の初心者であればあるほど、むしろケチらずに交換するべき部品でもあります!
できてたはずの溶接がうまくできないと思った時は是非溶接チップから交換してみてください。驚くほどスムーズな溶接ができて感動するはずです。あっ、交換した時はたった付着防止剤をお忘れなく~!
溶接チップが良好であれば、ワイヤーを疑ってみる
溶接に慣れたころにやってくる罠その3と4は「溶接ワイヤー」に関係しています。ずっとワイヤーを交換しておらず、長い間放っておいて久しぶりに溶接して何かおかしいと感じたら、ワイヤーをチェックしてみてください。
ワイヤーが光り輝いていればいいのですが…
こんな感じにサビが発生していたら、アウト!!!
サビはダメです。絶対。即時、使用を中止してください。
サビは溶接の大敵だからです。溶接ができません。または、溶接できたと思ってもぶくぶく泡立ってしまい、中身がスカスカになってしまうのです。しかもそれだけじゃありません。
サビが発生したワイヤーはトーチケーブルの中にサビの粉をまき散らしてしまうのです。
こうなるともう大変。新品ワイヤーに交換しても引っかかりの原因になってそれだけで溶接不良に繋がってしまうので、サビびてるとわかったら絶対に使用しないでください。最悪の場合、ケーブルのインナーチューブを引っ張り出してコンジットクリーナーなどで洗浄しなければならなくなってしまいます。
ワイヤー交換に潜む罠
DIYレベルなら、溶接ワイヤーを交換するのはワイヤーを新品交換する時ぐらいかもしれませんが、鉄とステンレスを入れ替えたりする上級者などの場合は、交換の時に注意が必要です。
交換の際には、一度ワイヤーを引き抜くのですが、引き抜いたワイヤーをぞんざいに扱ってしまうと割と簡単に折れ曲がってしまうのです。この「曲がり」が非常にやっかいな存在で、これをそのまま使ってしまうと、ケーブルの中で引っかかり、ワイヤーが動かなくなってしまうこともあります。
そんなわけで、もしワイヤーが曲がってしまった場合はもったいない気持ちも分かりますが、曲がった部分の手前からカットしてできるだけまっすぐなワイヤーを使用するようにしてください。結果としてトーチを長持ちさせるコツでもあります!
5つ目の罠は知らぬ間に迫ってくる…
溶接に慣れた頃にやってくる罠その5は、溶接面の…「保護プレート」に関係しています。
旧式の溶接面は、この保護プレートとして巣ガラス(透明のカットガラス)が入っていて遮光ガラスにスパッタが付着するのを防いでいるのですが、巣ガラスは面白いほどスパッタが付着するので、現役時代は一日に一回ペースで交換しなければなりませんでした。なんていったって、すぐに見えなくなってしまうので。
その点、今の溶接面はプラスチックのプレートが安価に手に入るようになって、以前の巣ガラスと違ってスパッタが付着することは皆無です。でも、そのかわり、熱のせいなのかガスのせいなのか、気づかないうちに曇ってくるのです。
この「曇り」、最初の頃は洗剤で水洗いすることによって落とすことはできるのですが、徐々に曇りが落ちなくなって、気がつくとぼんやりぼやけた視界になっていきます。
実はこれが曲者なのです。
これも消耗品とわかっていても「まだ使える、まだ使える」と思っているうちに気がつけばかなり曇っているなんてこともよくある話。
溶接は強い光を発生するので、プレートに曇りがあると光が拡散してしまって、視界をボヤけさせてしまいます。
イメージですが、こんな感じ。
例えば車で走っている時、夜の雨の日、ガラスが曇ってしまったときに対向車がハイビームで走ってきたような状態。
溶接の溶融池(プール)が見えてないと溶接は難しいです。母材がどれくらい溶けているか? をしっかり見たいのに、肝心な場所がボカシがはいってしまうと、まっすぐな溶接や、強固な溶け込みは熟練工でも難しいものです。
本当にいつの間にか曇っているものなので目が慣れてしまって全然気にならなくなっていたとしても、思い切ってホームプレートを交換してみたら「びっくりするほど溶接がキレイにできた!」という実例は過去になんども立ち会っています。
溶接は「耳」が7割、「目」が3割ですが、やっぱり見える見えないの差はあまりにもデカいです。
溶接に慣れた頃にやってくる罠1~5まとめ
罠と解決策をおさらいすると次のとおりです。
- チップがスパッタで潰れる(スパッタ付着防止剤を使用)
- チップが広がりすぎた(チップを新品交換)
- ワイヤーがサビびてる(使用禁止)
- 折れ曲がったワイヤーを装着してしまった(曲がったワイヤーは切除)
- 溶接面 汚れてない?(交換して視界はすっきりと!)
いかがでしたでしょうか?
実はコレ、プロの世界では日常のメンテナンスの話なんです。溶接チップのメンテナンスと交換、ワイヤーの管理やケーブルの掃除、そして溶接面の保護プレート管理は、仕事の区切りに一通りやる作業なのです。
毎日溶接機を使っていればその変化が分かりやすいのですが、時々しか溶接をやらないサンデーDIY溶接ともなると、なかなか気づけない小さなトラブルなので、思い出した時にでも定期的にチェックしてみてください。
この記事が皆様の参考になれば幸いです。
今回もご一読ありがとうございました~!
動画解説はこちら↓
(↓)YouTube動画のほうでは映像付きで解説しているのでよかったら参考にしてください♪
私のYouTubeチャンネルのほうでは、「バイクを元気にしたい!」というコンセプトのもと、3日に1本ペースでバイクいじりの動画を投稿しております。よかったら遊びにきてくださいね~!★メインチャンネルはコチラ→「DIY道楽」 ☆サブチャンネルもよろしく→「のまてつ父ちゃんの日常」
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(DIY道楽テツ)
かつてバイク乗りに親しまれていた「解体屋」文化 ボロボロのバイクが無造作に山に(比喩ではなく本当に山積み)なっていて、客は工具を片手にその山に登って部品を剥ぎ取ってきたり、バラした部品を集めてその場で[…]
いざという時に役に立つ小ネタ「結束バンドの外し方」 こんにちは! DIY道楽テツです。今回はすっごい「小ネタ」ですが、知っていれば間違いなくアナタの人生で救いをもたらす(大げさ?)な豆知識でございます[…]
オフロードヘルメットは花粉症に強い! バイク乗りにとって苦しい季節がやってきますね~。そう、“花粉症”でございます! 目がかゆくてショボショボするし、ひどくなると視界がぼやける。そして鼻が詰まると平衡[…]
ガソリン漏れトラブルは突然に これは先日実際に起こった出来事です。 ガソリンを携行缶からバイクのガソリンタンクに注入しようとしたら・・・ボタボタボタッ・・・。 「!!!!」 携行缶のノズルの根元からガ[…]
チューブレスタイヤのビード落としは難しいよね!? タイヤレバーを使ったタイヤ交換、いわゆる手組でタイヤの脱着ができるという方でも、チューブレスタイヤとなると腰が引いてしまう、そんな方も多いのではないで[…]
最新の関連記事(メンテナンス&レストア)
論より証拠! 試して実感その効果!! 老舗カー用品ブランド・シュアラスターが展開するガソリン添加剤「LOOP」シリーズ。そのフラッグシップアイテムである「パワーショット」をさまざまなバイクやクルマに実[…]
マジックフォームとは? 「マジックフォーム」とは、シャンプーを泡状にして広範囲に噴霧する、プロのような洗車を自宅でも実践できるアイテムです。 泡噴射ができるフォームガン2種(蓄圧タイプ/高圧タイプ)と[…]
自分のミスではないアクシデントで運命を分ける空気圧! タイヤの空気圧は大事……わかっちゃいるけど、つい面倒でチェックが疎かになりがち。 しかし脅かすワケではないけれど、実は空気圧が適正に保たれていない[…]
メンテナンスで覚えて、カスタムで楽しむモンキー&ゴリラ 今回登場するのは、88ccにボアアップした初期型Z50J-IIIゴリラ(1978)。排気量アップに合わせてキャブセッティングを行う必要性があると[…]
かつてバイク乗りに親しまれていた「解体屋」文化 ボロボロのバイクが無造作に山に(比喩ではなく本当に山積み)なっていて、客は工具を片手にその山に登って部品を剥ぎ取ってきたり、バラした部品を集めてその場で[…]
人気記事ランキング(全体)
オーディナリーホワイトとアーティザンレッドの組み合わせ カブハウスのSNSでスーパーカブC125の新色が公開された。詳細は記されていないが、1958年以来の“Sシェイプ”デザインに新たなカラーデュオを[…]
Z1、GPz900R、Ninja ZX-9Rから連なる“マジックナイン”の最新進化系 カワサキは昨秋、欧州でZ750→Z800に連なる後継車として2017年に948cc並列4気筒エンジンを搭載したスー[…]
通勤からツーリングまでマルチに使えるのが軽二輪、だからこそ低価格にもこだわりたい! 日本の道に最適なサイズで、通勤/通学だけでなくツーリングにも使えるのが軽二輪(126~250cc)のいいところ。AT[…]
オイルの匂いとコーヒーの香り。隠れ家へようこそ。 56designが4月12日に奈良県奈良市にオープンさせる「56design NARA」。以前から要望が多かったという、同社初となる関西圏の新店舗だ。[…]
自分のミスではないアクシデントで運命を分ける空気圧! タイヤの空気圧は大事……わかっちゃいるけど、つい面倒でチェックが疎かになりがち。 しかし脅かすワケではないけれど、実は空気圧が適正に保たれていない[…]
最新の投稿記事(全体)
1位:ホンダ「CB1000ホーネット」試乗インプレッション エンジンが抜群に気持ちいい! ホンダが2025年1月23日に発売した新型モデル「CB1000ホーネット/SP」は、ダブルアールこと「CBR1[…]
スマホで各種申請書を作成、二次元バーコード経由でプリントアウト可能に 自動車検査登録手続きのデジタル化を推進する国土交通省は、関東運輸局にて2025年2月より「登録手続き申請書メーカー」を運用開始した[…]
時代に合わせて生き続けた、愛すべきヤマハの象徴 スポーツバイクにおいて、スペックが重要な指標のひとつなのは間違いない。しかし1000ccで200psオーバーが当たり前の近代において、最高出力が25ps[…]
ツーリングだと腰より肩のほうがカーブで効くと思いがち、でも大きくアクションするほど不確実(遅れる)になるので要注意! ツーリング先のワインディングで、腰を落としたりズラして攻めるのはリスキーでやらない[…]
カワサキモータースジャパンは、2025年3月に開催予定の「第41回大阪モーターサイクルショー2025」「第52回 東京モーターサイクルショー」、4月に開催予定の「第4回名古屋モーターサイクルショー 」[…]
- 1
- 2