新型コロナ禍の影響を受け、変則的なシーズンとなってしまった’20年のモトGPにおいて、創立100周年/世界GP参戦60周年という節目の年を迎えたスズキがライダー&チームタイトルを獲得。’12~’14年に参戦を休止した後に復帰してから、5シーズンでの快挙を成し遂げた。スズキのモトGPプロジェクトリーダー・佐原伸一氏/テクニカルマネージャー・河内健氏/エンジン実験グループ・辻村定之氏へのインタビューを通じて、この輝かしいシーズンを振り返る。
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確実な選択が培った”究極の扱いやすさ”
──まずはチャンピオン獲得おめでとうございます。率直なお気持ちをお聞かせください。
佐原(プロジェクトリーダー):’20年はスズキ創立100周年で、なおかつ世界選手権に出始めてちょうど60周年。そういう節目の年で結果を出せたのは嬉しいことです。チャンピオンを獲ったことで会社が今まで以上に元気になったらいいな、と。実際、社内でもメールや電話がたくさん届き、活気づけに役立ったものと信じています(笑)
レースを振り返ると、シーズン開始が7月までずれ込んだうえに、初戦は両ライダーともノーポイントと決して理想的ではなかった。ただ、ウインターテストでは二人とも調子がよかったので、落胆はしていませんでした。スタートのつまづきを取り戻しながら、シーズンが進むにつれてだんだん成績も安定し、ジョアン(ミル選手)の成長も相まって、最終的にはチャンピオンを獲得できました。開発に関わったみんなの苦労が報われたのが本当によかったですね。
──チャンピオンが決まった第14戦バレンシアGPを、佐原さんはどちらでご覧になっていましたか?
佐原:私は全戦帯同していたわけではなかったので、バレンシアGPは家でテレビ観戦していました。妻と一緒に観てたんですが、そりゃあ嬉しくて声を上げましたよ(笑) 社内の有志がオンライン上で集まって、それぞれがテレビやパソコンで観戦しながらつながっていたんです。いろんな人からメッセージやお祝いの声が寄せられて、盛り上がりました。
──現地からはどんな連絡があったんですか?
結果の良し悪しにかかわらず、レース後は必ず現場の河内から連絡をもらうことになっていました。現地ではいろいろセレモニーが行われている合間で慌ただしかったんですが、電話で「よかったね」と。
──淡々としていらっしゃった?
佐原:そんなこともないですよ(笑) でもあの時点ではまだ最終戦が残っていましたからね。アレックス(リンス選手)のチャンピオンシップ2位も狙っていましたし、コンストラクターズタイトルの可能性も残っていたので、「まだ仕事は終わっていないぞ」という気持ちもありました。
──河内さん、バレンシアGPの現場はどんな様子でしたか?
河内(テクニカルマネージャー):みんなできるだけ普通に仕事をしようとしていたようですが、大なり小なり緊張していたと思いますね。でも、ライダーにはあまりそういう姿を見せたくないので、なるべく平静を装ってました(笑)
──チャンピオンに王手を掛けていたミル選手は?
河内:私が見ていた限りでは、ごく普通にしていましたね。もちろん多少は緊張してたと思いますが、特に違いは感じなかったですね。
佐原:テレビでは「あぁ緊張してるんだろうな」という表情に見えましたけどね(笑) チームスタッフもライダーもみんな緊張してるから、現場ではお互いに気付かないものなのかも(笑)
──テレビ画面では、河内さんはいつも通り冷静で落ち着いていたように見えましたが…。
河内:チャンピオンを決めてくれた時は、もちろんとても嬉しかったですよ。でも私は感情があまり表に出ないタイプなんです(笑)
佐原:泣きました?(笑)
河内:いえ、そこはノーコメントで。チームスタッフは涙を流してましたが(笑) スズキは’15年にモトGPに復帰して以降、ライダーもチームもマシンもじっくりと育ててきました。その成果としてチャンピオンを獲得できたのは、もちろん嬉しかったです。でも、それと同時にこの大事なレースを転倒などで失うことなく、しっかりチャンスをものにできたということに非常にホッとしていました。
──辻村さんは現地にいらした?
辻村(エンジン実験グループ):私は日本で観ていました。私自身はエンジン実験という立場でチャンピオンを目指して頑張ってきましたが、いざ現実となるとなかなか信じられなかったのが本当のところです(笑) 会社に行ってまわりの人たちに「おめでとう」と言ってもらえて、ようやく実感できました。日々、目の前のトラブルや問題点を改善し、自分たちで「ここを良くしていこう」と思ってトライした結果がチャンピオンにつながったのかなあ、と、嬉しかったです。
──佐原さん、書面回答では「目標達成度は80%」とのことでしたが、残り20%はどんな点だったんですか?
佐原:最終的にアレックスがランキング2位になれなかったこと、そしてコンストラクターズタイトルも逃してしまったことでしょうか…。レースをしている限り100%はあり得ません。これからさらに上を目指していくうえで、現時点ではまだ80%ぐらい。まだまだ改善すべきところもあります。ただ、ライダーやスタッフの頑張りと、それによって’20年シーズンに得られた成績には100点をつけたいですね。
河内:結果だけ見ればバチッとうまく行ったように見えるかもしれませんが、こうするべき、ああするべきという課題は常に抱えています。いま見えている”チャンピオン獲得”は素晴らしい結果と自負していますが、一方でまだまだ反省点や改善すべきところはたくさんあるんです。
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