’21モトGP開幕:’20シーズン振り返り

モトGP2020プレイバック〈スズキGSX-RR|開発者インタビュー・後編〉

●文:ヤングマシン編集部(高橋剛) ●情報提供:スズキ

新型コロナ禍の影響を受け、変則的なシーズンとなってしまった’20年のモトGPにおいて、創立100周年/世界GP参戦60周年という節目の年を迎えたスズキがライダー&チームタイトルを獲得。’12~’14年に参戦を休止した後に復帰してから、5シーズンでの快挙を成し遂げた。スズキのモトGPプロジェクトリーダー・佐原伸一氏/テクニカルマネージャー・河内健氏/エンジン実験グループ・辻村定之氏へのインタビューを通じて、この輝かしいシーズンを振り返る(後編)。

走る/曲がる/止まる──バイクの基本性能を追求

──エンジンに関しては例年通りドライバビリティとリニアリティを高めた、とのことですが、何か大きなビッグステップはありましたか?

辻村:今のスズキのモトGPエンジンはかなりまとまっていますので、バランスを崩さずエンジン馬力を大幅に向上するのは難しい。大まかな方向性としては、メカニカルロスの徹底的な低減を目指しました。クランクケースのデザインはわりと大きく変更しましたが、それもメカロス低減が目的です。正直、秘策ではありません(笑) クランクケース内のオイルの撹拌損失低減といったような地道な努力を重ねて、できるだけロスを減らした、というのが実際です。

佐原:彼は控えめに言ってますが(笑)、ジョアンもアレックスもテストの段階から「パフォーマンスが上がってるね」と評価してくれたんです。今のモトGPでは、ライダーが体感できるほどのパフォーマンス向上はなかなか得られるものではありません。よく頑張ってくれたと思いますよ。

──フレーム、スイングアーム、カウリングなど車体の変更点は?

河内:’19年はアルミフレームにカーボン材を貼って剛性を調整しましたが、’20年はカーボン材なしで同等の剛性を得つつ、もう少しブレーキングスタビリティを高めました。スイングアームはコーナリングの正確性を高め、ライダーが思ったラインをより確実に選べるようにしました。ただ、スイングアームはシーズン中にも新旧を比較しており、どちらかというと前年型のスイングアームを使ったレースの方が多かったですね。カウリングについては、例年と同じようにいかに最高速を犠牲にせずウイリーを抑えるかが設計目標です。なおかつ、軽快なハンドリングを妨げないよう留意しました。シーズン始めはいくつかの仕様があって決めるのが難しいぐらいでしたが、最終的には控えめなところというか、「大きくは変わらないが、確実によい」という諸元に落ち着きました。

──エンジンと同様に、車体もこれまでと同じ流れを突き詰めていったということでしょうか?

河内:そうですね。車体づくりの目標としては、コーナリングスピードを維持しながらブレーキングスタビリティを高めたいし、しっかりトラクションさせて加速もさせたい、という全部取り(笑) ’20年のGSX-RRは全体的にバランスよく仕上がったと思います。

──とかく尖った性能が求められるレースにあって、バランス追求型のGSX-RRがタイトルを獲るということが、本当に可能だったんですね。

佐原:我々のスタイルは、得意なサーキットをより強くしていくというより、弱いところを改善し苦手をなくすやり方です。それが結果的にバランスを高め、強さにつながったのでしょう。結局のところ、バイクの基本性能は走る/曲がる/止まるで決まります。スズキは常に、この3つをバランスよく高めることを最重視しています。これはレーシングマシンでも量産車でもまったく同じです。その結果、ライダーが操作しやすいバイクになっている。

’20シーズンはいつもと違うタイミングでレースが行われました。いつもなら温かい時期に行われるはずのレースが寒かったり、その逆もあったりで、難しい状況でした。また、ミシュランタイヤの仕様変更もあった。そういう中でもセッティングが出しやすかったり、安定した性能を発揮できたのは、走る/曲がる/止まるがバランスよくまとまっていたからだと思っています。

“100%”はない。明日からまた実直な開発が進む

──今のモトGPはレギュレーションの縛りが厳しく、技術的なビッグステップがなかなか踏めない状況です。だからこそスズキの着実な進歩が強さとして発揮できたのでしょうか?

佐原:おっしゃる通りだと思います。何かに特化して大きく進化/改善させるのではなく、元来のバランスのよさや基本性能の高さを崩さないように、全体的によくしていったことが今年の環境に合っていたのでしょう。

河内:7月の暑いヘレスでレースをしたり、後半戦にはいつもより寒い中でレースが行われたりと、不確定要素が多いなか、2人のライダーがこれだけ安定した結果を出してくれた。GSX-RRの間口の広さ、ストライクゾーンの大きさは示せたと思います。

それは我々がずっと求めてきたこと。さまざまな状況下でもライダーが存分に力を発揮しやすいマシンづくりを心がけてきました。そういう意味では、’20シーズンの混乱した状況は我々にとってプラスとまでは言わないまでも、ライバルメーカーより対応しやすかったのかな、とは思います。

──同じサーキットでの連戦という今までにない開催パターンもありましたが、1週間で大きくコンディションが変化していましたね。

河内:同サーキットでの1戦目は、前年のデータを参照しながらセッションを進めました。2戦目は、ある程度ベースセッティングは出ているだろう、と見込みで臨みました。1戦目によかったセッティングをもとに、微調整すれば済むかと思っていましたが…。路面コンディションの変動が想像以上に大きくて、そううまくはいかなかったですね。

──そういった難しいシーズンを通して安定した好成績を残せたのは、やはりGSX-RRのバランスのよさが武器になったということでしょうか?

河内:そう思いたいですね(笑) ライバルメーカーがどれぐらいセッティングに苦労してたのかはわかりませんが、我々はベースのセッティングがある程度のレベルで仕上がっていて、いつ、どこのサーキットに行っても80点ぐらいでは機能したのかなあ、と思っています。

──また”80″という数字が出てきました。”80″がうまくGSX-RRを言い表しているんですね。

佐原:そうかもしれませんね(笑)。

──ミル選手とリンス選手のマシンに対するリクエストが似ていたことも幸いしましたか? 2人がまったく違うタイプだったら難しさもあったのではないかと思います。

河内:そうですね。2人の好みがまったく違うと、それぞれにとってベストなマシンをつくるのは難しかったかもしれません。ただ、’15年にモトGPに復帰して以降、スズキはチーム内の二人のライダーに対してどちらがエースと公言したことは一度もないんです。ふたりのライダーを同じように扱い、切磋琢磨しながら結果を出す、というやり方をしてきました。ですので、ジョアンに特化したマシン、あるいはアレックスに特化したマシンをつくるということを、スズキでは行っていません。「こういう方向だろう」という日本の開発陣の読みが当たって、両方のライダーにうまく受け入れてもらえた、ということですね。

──では最後に、来季に向けての目標を教えてください。

佐原:’20シーズン同様に、毎戦表彰台争いをしたいと思っています。年間ランキングの目標はもちろんチャンピオン獲得ですが、今年果たせなかった2位の座も奪取したいですね。

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