一般社団法人日本二輪車普及安全協会がバイクに関わる安全啓発を目的とした5回目のシンポジウムが開催した。4つの講演の中から原付バイク通学を行う山梨県立巨摩高校の取り組みと現状、生徒と保護者への安全意識調査結果、さらには山梨県教育委員会の取り組み、講演後に行われた講師陣によるディスカッションの模様について紹介する。
●文/写真:田中淳麿(ヤングマシン編集部)
1.【環境】南アルプス市の伝統校、県立巨摩高校
昨年の第四回シンポジウムに続いて、山梨県の県立高校が登壇し原付バイク通学の実情を伝えてくれた
バイク通学を行っている山梨県立巨摩(こま)高校は、県西部の南アルプス市にあり、校舎から富士山や八ヶ岳を望める景色のよい立地。大正11年(1922年)に第三高等女学校として設置され、峡西南地域の中核校として令和4年には創立100周年を迎えた歴史ある伝統校だ。
登壇した山梨県立巨摩高校教頭の小澤幸生さん。前年度まで山梨県教育委員会におられ、県の取り組みにも詳しい
学生の65%は市内から通っているが、南アルプス市には電車の駅がないため、通学方法の割合は以下となっている。
●通学方法の割合
| 徒歩 | 自転車 | 原付バイク | バス | その他 |
| 4.5% | 66.2% | 6% | 12% | 11.3% |
自転車とバイクで通う生徒が7割以上もいるので、校内の駐輪場も広く、原付バイクは40台、自転車は360台ほどを駐められる。
2.【条件】原付バイク通学の許可条件とは?
巨摩高校の原付バイク通学への許可条件。 学校から直線距離で5.5km以遠に自宅があるというのが原則だ。
山梨県では多くの高校で原付バイク通学が認められているが、その許可条件は各校によって様々だ。巨摩高校の場合は、まずもって「免許取得許可=通学許可」とする規定がある。つまり、免許を取ってよいのは学校に通学する場合のみということになる。
また許可するにあたっての条件は「学校から5.5km以遠に自宅がある」というのが原則で、年に2回、春(4月または5月)と秋(9月)に通学許可式を行っている。
原付バイク通学をする場合には以下の条件もある。
①他手段よりも15分早く登校する(8:15までに登校)
②バイクはカブまたはスクーター型
③バイクの改造は禁止
④ヘルメットはフルフェイス型
⑤許可ステッカーをバイク・ヘルメットの後方に貼付
他の交通手段より早く登校するのは、他手段生徒との交錯など校内での危険性を考えてのことだ。
3.【安全】講習会とマナーアップ運動、事故・違反状況
安全運転講習会は年2回開催されている。上図の講習会開催時には新基準原付で参加する生徒の姿も見られた。
安全運転講習会は年に2回開催されている。その目的は、バイク運転技術の維持と向上、交通ルールの確認と規範意識の高揚とされている。
巨摩高校は隣に小笠原自動車教習所があるため、会場に困ることはない。指導も教習所の指導員が行い、一本橋、ブレーキング、スラローム、交差点(右折など)などの課題で実技講習を行っている。なお指導には生徒指導部の職員も立ち合う。
また、県教育委員会高校教育課が主催する通学時マナーアップ運動も年3回(4月、6月、11月)行われており、6・11月の運動では保護者も街頭に立って自転車・バイク通学をする生徒に注意喚起を行っている。
交通ルールとマナーの徹底を目指した通学時マナーアップ運動は年3回行われている。
なお、自転車とバイクの通学中の交通事故・違反の状況は4~7月で以下となっている。
4~7月の巨摩高校での事故・違反状況と県全体での状況(右下の表)。
事故状況については毎月、県警本部交通企画課から情報をもらい、県全体の状況も踏まえて生徒指導部が様子を見ながら指導を行っている。
4.【調査】原付バイク通学生徒と保護者の安全意識
今回、小澤教頭は4月の通学許可式で通学が認められた生徒9名とその保護者に安全意識等に関するアンケートを行った。許可式では小澤教頭と生徒指導主事からの話、担当からの諸注意などがあった。
アンケート結果はグラフにまとめられ、詳しい説明を受けることができた。生徒・保護者の母数は小さいものの定性的な意見としてとても参考になるため、なるべく多く引用させて頂く。
※引用した図は文字が読みやすいよう筆者が画像補正したもの
(1)原付バイクでの通学理由、家族との会話
●通学理由
【生徒】自転車と比べると「時間的な短縮がなされる」いう意見が多い。「自分自身と家族の負担を軽減できる」という理由も。【保護者】「子供の通学時間の短縮」と「本人、家族の送迎・通学等の負担軽減」が1番多い。
女子生徒を持つ保護者には「自転車・バスでは不安」ということで、不審者対策として原付バイク通学を考えた家庭もあった。
巨摩高校では不審者対策という点について特に原付バイク通学許可の規定には設けていないが、認める場合の一つの要素としては認識しているそうだ。
●家族との会話
【生徒】家族に対して「責任を持って原付バイク通学をする」ために「交通ルールをしっかり守る」、「交通事故に遭わないようしっかり注意する」など話している。【保護者】子どもに対して「バイクで通うからには責任を持つように」などの話をしていた。
この結果について小澤教頭は、保護者の事故への心配や安全運転への思いについて、子どもたちは4・5月の段階では十分にはくみ取れていないようだと語っている。
(2)バイク購入時に重要視、準備したこと
●バイク購入時に重要視したこと
【生徒】【保護者】巨摩高校では、通学用バイクは家族や知人から譲り受けて使う生徒が多く、バイクへのこだわりはほとんど見られなかった。
●原付バイク通学時に準備したこと
【生徒】「家族や知人からアドバイスをもらった」が半数に上った。【保護者】自由記述の回答となっており「安全に通ってもらいたい」「時間に余裕をもって安全に」という声が多かった。
(3)校則での交通関係規程について
【生徒】「免許取得と通学許可がセット」であることについては理解を示している。
【保護者】法律では16歳から免許取得が可能であることから免許取得規定(校則)について考え直してほしいという意見もあった。
多くの保護者は現在の規定に理解を示しているが、上記のように「取得・通学条件に合わず無免許運転をするくらいなら、指導・管理をして免許取得を許可すべき」という意見もある。ただ、巨摩高校としては、警察、弁護士らとも協議したうえで規定を継続しているとのこと。
(4)原付バイク通学への生徒本人と家族の気持ち
●生徒本人はどんな気持ちか?
「自転車より楽に通学できる」「通学時間が短縮され、その分を勉強に費やせる」「安全運転を心がけたい」といった回答が寄せられた。
●生徒は「家族はどんな気持ちでいる」と思うか?
「バイク通学は親も不安だろう」「親も安全運転を望んでいるだろう」ということを生徒自身も感じている。
●保護者はどんな気持ちでいるのか?
「交通事故が心配だ」という声も多いが、子どもの意思を尊重して「自ら希望して選択したことなので、責任感を持って通学することを期待している」という様子も伺えた。
小澤教頭はこうした質問をした理由について、原付バイク通学をする生徒が「自分以外の他者がどんな気持ちでいるのか」を理解してもらう、そこに思いを馳せてもらう、いわゆるメンタルリーチ(意識の範囲拡張)で客観的に自分の行動を捉えるということを促すため、と語った。
(5)今後免許を取得する人へのアドバイス
●生徒から後輩へのアドバイスは?
「しっかり免許取得への手続きを踏む」「安全と交通ルールについてしっかり勉強すべき」「説明・プレゼンなどで家族にしっかり理解してもらうこと」など生徒自身の実体験を踏まえた回答となっていた。
小澤教頭はシンポジウムで話をするにあたり県教育委員会指導主事にも相談をして、生徒・保護者へのアンケートを対象の生徒・保護者だけでなく、他の生徒や教職員も含めた校内の交通安全意識の高まりにつなげていけるのではといった助言も頂いたそうだ。
5.【討論】ディスカッションではモペッドにも言及
第2部としてパネルディスカッションが行われ、講師陣の間でクロストークが行われた。
講演後に行われた講師陣4名によるディスカッションの内容にも触れたい。興味深かったのは、ペダル付き電動バイク(原付免許で乗れる電動モペッド)について。
ペダル付き電動バイクは定格出力0.6kW以下であれば原付免許で乗れ、小型・軽量なものは一般小型原動機付自転車と呼ばれて保安基準も策定されている(道路運送車両法)。
ペダル付き電動バイクの通学利用への許可について聞かれた小澤教頭は「今のところイメージができない」とし「生徒からもほとんど相談がないし、昨年度までいた県教育委員会でもそういう話はほぼなかった」と述べた。
ディスカッションで他講師の質問に答える小澤教頭。
また胸部プロテクターの装着義務について問われた小澤教頭は「(規定において)必ずつけなければならないとはなっていない」と回答。
さらにドライブレコーダーの装着について聞かれた際には「免許取得理由が通学理由に限られ、移動ルートが一定なこともあり『ドラレコを着けて』という話にはなっていない。部活で他校との練習試合に行くという場合もなくはないが、慣れた道以外を走ることがあまりないので、各家庭でも必要性は高まっていないという印象」と回答した。
6.【私感】幅広い世代の声と子どもたちの自主自律
地域の名勝「中野の棚田」と南アルプス市の街並み。
山梨県は公共交通の不便さもあって、全国的な三ない運動実施期にも高校生の原付バイク通学が行われてきたという歴史がある。
前述の通り免許取得の条件や安全管理は各校ごとにまちまちだが、地域住民の中には自分もかつては原付バイク通学をしていたという保護者も多いだろう。
巨摩高校には「通学利用者でなければ原付免許が取れない」という規定があり、それに対する生徒と保護者の意見にも様々なものがあった。
個人の移動と交通安全は地域の課題であり、少子高齢化や過疎化の影響を受ける公共交通と道路環境の変化に都度対応していくことが求められる。
原付バイクで高校に通うこと、保護者や学校、地域が一体となって安全管理をすることについては、幅広い世代の意見に耳を傾けるべきで、定期的な意識調査は効果的だろう。
子どもたちの自主自律とQOLのバランス、そこに生涯教育としての交通安全教育をどう関わらせていくのか。原付バイクというパーソナルモビリティがどう貢献できるのか、今こそ思考を深めるべきではないだろうか。
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