それでも「普通の人にできないことをやってのける」へのリスペクトは変わらない

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.155「昔のGPマシンのほうが好きだ、と小声で言ってみる」

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.155「昔のGPマシンのほうが好きだ、と小声で言ってみる」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第155回は、2026シーズン開幕が近づきつつあるMotoGPの、進化し続ける技術と人間の役割の変化について。


Text: Go TAKAHASHI Photo: APRILIA, DUCATI, YAMAHA

ミシュラン パワーGP2

マルケスですらマシン差をひっくり返せない時代

ヤマハが2026年型YZR-M1を発表しました。直線的なフロントウイングの形状など、ドゥカティ・デスモセディチにやや寄せてきた感がありますね(笑)。一方、アプリリアの2026年型RS-GPはハの字に垂れ下がったナマズヒゲタイプのフロントウイング。分類するならBMW M1000RRに近い形状です。コーナリング時のダウンフォースを考えるとこちらの方が有利とも言われていますね。エンジン開発が制約されている今、相変わらず空力パーツは“昭和ライダー”の僕には未経験ゾーンです。

令和も8年になった今、老害になりかねないので小声でこっそり言わせていただくと、正直、空力パーツがない昔のGPマシンの方が僕は好きです(笑)。空力パーツの効果はともかく、やっぱりガタイが大きい。「バイクはできるだけ軽量コンパクトな方がいい」と、どうしても思ってしまう昭和のおじさんは、大きい物体がのっそりと動いているより、小さい物体がキビキビ動いている方が好みです。

ですが、これは本当に好みの問題。最近のMotoGPしか知らない若い世代からしてみれば、空力パーツ付きのマシンの方がカッコよく見えるでしょうから、あくまでも小声でこっそりと……(笑)。ただ、昭和おじさんがマシンの見た目以上に気にしてしまうのは、最高峰の二輪レースから人間の要素が減りつつあることです。

MONSTER ENERGY YAMAHA MOTOGP

DUCATI LENOVO TEAM

APRILIA RACING

技術が欠かせないモータースポーツですから、マシンはどんどん進化していくのが宿命です。でも昔は……、と言い出すとこれまた老害かもしれませんが、昔はもっと人間──つまりライダーのテクニックが占める割合が多かったのは確か。マシンのレベルがもうひとつでも、「最後はオレが何とかしてやる」と、ライダーが何とかタイムを出す。そういう「腕の見せ所」がありました。

でも今は、天才中の天才であるマルク・マルケスでさえドゥカティに乗らなければ勝てない時代です。かつてのように新人がとんでもない走りでいきなり優勝したり、突如として現れたワイルドカード参戦のライダーがトップを走ったり……といった大どんでん返しはほとんど望めません。

これは二輪に限らず、四輪も同じです。F1が技術的にめちゃくちゃ先鋭化しているのは、皆さんもよくご存じだと思います。1989年にアイルトン・セナが鈴鹿で出したタイムは1分34秒7でしたが、今や1分26秒台。8秒差がいかに大きいかは、モータースポーツ好きの皆さんならよく分かるでしょう。

ですが、スムーズに走るATの現代F1と、挙動は不安定でもドライバーの頑張りが分かりやすいMTの昔のF1で、どちらが感情移入しやすいかと言うと……、どっちなんでしょうね? MotoGPはF1ほど大きな技術的な変化はなく、いまだに純粋な内燃機関+6MTですが(笑)、それでも「人間のスポーツ」という側面が薄れつつあるような感覚はあります。

ただ、どんなに変化しても、やはりヨーロッパでのモータースポーツ人気は不動です。先日、僕が住んでいるモナコ周辺を舞台に、WRC開幕戦であるラリー・モンテカルロが開催されましたが、驚くほどの人手の多さでした。F1人気はもちろんのこと、MotoGPも大いに盛り上がっていて、うらやましい限りです。

ヨーロッパに長く住んでいて思うのは、こちらでは「普通の人にはできないことができる人」に対するリスペクトが強いことです。それが多少リスキーでも、普通ならできないようなことをやると、高く評価されます。モータースポーツはまさにそれ。非日常のスピードの中で見せるマシンコントロールは、ヨーロッパの人たちの大好物なんです。

もちろんリスクはありますが、そこは個人主義。危ないかどうか、やるかどうかは本人が決めることであって、周りがとやかく言うことではない、という考え方が徹底しているんです。自分が好きなことをとことん追求しやすい環境だな、と思います。

変わり者を評価する文化がヨーロッパにはある

そういえば、マーベリック・ビニャーレスが8の字の練習をやっていて話題になりましたね。僕はポケバイ時代から8の字が大好きで、1日中飽きずにやり続けていました。もともとはポケバイ仲間のボス格のお父さんに勧められて始めたことでしたが、楽しくて仕方なかったんです。

8の字で身に付くのは、「スロットルを開けない我慢」です。速く走るためには、スロットルを開けない待ちの時間を作ることがめちゃくちゃ大事。でも、速く走りたいと、どうしてもスロットルを開けたくなりますよね。

8の字で早くスロットルを開けてしまうと、姿勢が十分に整わないまま加速体勢に入るので、次のコーナーに対してはらんでしまいます。すると切り返しての次のコーナーがさらにキツくなる……という悪循環に陥ります。これを防ぐには、とにかく我慢。スロットルを開けず、姿勢が整うのを待つことなんです。

この地味〜な練習が、僕は大好きでした。毎回同じことばかりやることが、苦ではなかったんです。GPライダーになっても、基本は同じ。速く走るためには我慢が必要ですし、毎年同じコースを飽きることなく走り続けなければなりません。変わり者ですよね(笑)。

でも、その変わり者のやっていることをきちんと評価してもらえるのが、ヨーロッパのいいところです。いろいろ大変なことがありながら僕がモナコに住んでいるのも、そういう考え方が自分の肌に合っているから、という面もあります。

左がトプラック・ラズガットリオグル。右のジャック・ミラーもキャラクター性の強さが知られている。

こちらも変わり者……と言っていいのか分かりませんが、今年MotoGPにデビューするトルコ人のトプラック・ラズガットリオグルには注目です。スーパーバイク世界選手権でチャンピオンを獲得し、速いライダーであることはもちろんですが、エクストリームライダーばりのマシンコントロール術がMotoGPにどう生かされるのか、ちょっと楽しみです。

ただ、最初の話に戻りますが、ドゥカティの技術的優勢は今年も変わらなさそう。そこにマルケスですから、関係者の間ではすでに「今年も、また……」と囁かれています。誰か、大どんでん返しを見せてほしいものですが……。

YAMAHA YZR-M1[2026]

DUCATI DESMOCEDICI GP26[2026]

APRILIA RS-GP[2026]

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