
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第151回は、ドゥカティのファクトリーチームで圧勝したM.マルケスと、陰に隠れてしまったバニャイアについて。
Text: Go TAKAHASHI Photo: Michelin
ときには諦めるしかないことも
ドゥカティのファクトリーチームであるDucati Lenovo Teamのマルク・マルケスがチャンピオンを取り、チームメイトのフランチェスコ・バニャイアがランキング5位に終わった2025シーズン。どうやらバニャイアは’25年型デスモセディチがどうしても合わなかったようですが、ドライな言い方をすれば「当たりもあれば、外れもある」というのがレースというもの。今年は「仕方なかった」と諦めるしかないですね。
僕は’99年にアプリリアのファクトリーライダーとして世界グランプリ500ccクラスに参戦しました。4気筒エンジンが主流の中、Aprilia RSW-2 500というそのマシンはV型2気筒をチョイス。いろんな面で攻めた設計で、参戦初年度こそポールポジションを獲得したり、表彰台に2度立ったりしましたが、結局はモノになりませんでした。アプリリアは翌’00年を終えたところでこのマシンを取り下げ、最高峰クラスから撤退することになります。
正直、RSW-2は僕にとってはまったく好みのマシンではありませんでした(笑)。せっかくのVツインエンジンなのに、エンジン搭載位置が悪かったからだと思うのですが、とにかく操縦性が重くて曲がらない! こうなるともう、諦めるしかありません。ダメなものはダメ。ネガティブに聞こえるかもしれませんが、「どうにかしのぐ」ということしか考えていませんでした。
’00年に至っては、チームメイトのジェレミー・マクウイリアムズおじさんの方が好成績でしたからね。マクウイリアムズおじさんは2回表彰台に立ちましたが、僕はゼロ。ランキングも彼が14位で僕が16位と完敗でした。が、当時チーフエンジニアだったジジ・ダッリーニャは、そんな僕のことも見捨てないんです。成績ではチームメイトに負けていた僕の話もしっかり聞き、コメントを評価してくれました。
加藤大治郎と激戦を繰り広げた2001年、バレンシアGPにて。奥で立っている人物が当時のジジ・ダッリーニャ。
繊細な感性のペッコが落ち込むのは理解できる
そんなこともあって、僕が’02年をもって引退すると決めた時にジジが「ウチに帰っておいでよ」と声を掛けてくれたのは、うれしかったですね。ジジとは今も親しく付き合っていますが、「絶対に見捨てない」という心意気は尊敬できます。だから、というわけではありませんが、ここはバニャイアも堪えどころ。あまりジタバタせずに、また自分に合うマシンが回ってくると信じて待つしかないのかな、と思います。
それにしてもマルケスの戴冠は、圧倒的でしたね。シーズンを通してここまで圧勝するとは思っていませんでした。バニャイアが落ち込むのも理解できます。何でも乗れてしまう人がチームメイトになると、自分が不調に陥った時に不安ばかりになるものです。実はマクウイリアムズおじさんがあまり深く考えずに何でも乗れてしまうタイプだったので、僕もバニャイアの気持ちが痛いほどよく分かります。
でも、不安要素がちょっとでもあると、結局は思うようには乗れないもの。そこで無理をして大ケガするぐらいなら、「ビリでもしょうがないかぁ」と達観しつつ、苦しい中でひとつでもいいから「いいところ」と見つけるのが得策です。そうやって少しずつでもポジティブさを積み重ねておけば、いざチャンスが来た時にバンと勝つことができるんです。それよりも、無理をして大ケガをしては、元も子もありません。
僕自身がケガをしてしまったエピソードはまた次回に。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 元世界GP王者・原田哲也のバイクトーク)
1度しか獲れなかったチャンピオン、でも得たものは大きかった 前回の続きです。これは僕の失敗談ですが、’95年、オランダGPの予選でのこと。すでにいいタイムを出していた僕に対して、監督のウェイン・レイニ[…]
今のマルケスは身体能力で勝っているのではなく── 最強マシンを手にしてしまった最強の男、マルク・マルケス。今シーズンのチャンピオン獲得はほぼ間違いなく、あとは「いつ獲るのか」だけが注目されている──と[…]
欲をかきすぎると自滅する 快進撃を続けている、ドゥカティ・レノボチームのマルク・マルケス。最強のライダーに最強のマシンを与えてしまったのですから、誰もが「こうなるだろうな……」と予想した通りのシーズン[…]
「自分には自分にやり方がある」だけじゃない 前回に続き、MotoGP前半戦の振り返りです。今年、MotoGPにステップアップした小椋藍くんは、「あれ? 前からいたんだっけ?」と感じるぐらい、MotoG[…]
MotoGPライダーが参戦したいと願うレースが真夏の日本にある もうすぐ鈴鹿8耐です。EWCクラスにはホンダ、ヤマハ、そしてBMWの3チームがファクトリー体制で臨みますね。スズキも昨年に引き続き、カー[…]
最新の関連記事(モトGP)
バニャイアにとって「新しいモノはいいモノ」じゃなかった MotoGPマシンがあまりにも速くなりすぎたこともあって、再来年にはレギュレーションが大きく改定されることになった。 エンジンは850ccに、空[…]
1度しか獲れなかったチャンピオン、でも得たものは大きかった 前回の続きです。これは僕の失敗談ですが、’95年、オランダGPの予選でのこと。すでにいいタイムを出していた僕に対して、監督のウェイン・レイニ[…]
KTMの進化ポイントを推測する 第17戦日本GPでマルク・マルケスがチャンピオンを獲得した。ウイニングランとセレブレーションは感動的で、場内放送で解説をしていたワタシも言葉が出なかった。何度もタイトル[…]
今のマルケスは身体能力で勝っているのではなく── 最強マシンを手にしてしまった最強の男、マルク・マルケス。今シーズンのチャンピオン獲得はほぼ間違いなく、あとは「いつ獲るのか」だけが注目されている──と[…]
本物のMotoGPパーツに触れ、スペシャリストの話を聞く 「MOTUL日本GPテクニカルパドックトーク」と名付けられるこの企画は、青木宣篤さんがナビゲーターを務め、日本GP開催期間にパドック内で、Mo[…]
人気記事ランキング(全体)
経済性と耐久性に優れた素性はそのままに、ブレーキ性能を向上 ホンダはタイで、日本仕様のキャストホイール+ABSとは別ラインになっているスーパーカブ110(現地名:スーパーカブ)をマイナーチェンジ。新た[…]
※走行写真は欧州仕様 航続距離はなんと362km! ヤマハは、2025春に開催された大阪モーターサイクルショーにて「オフロードカスタマイズコンセプト」なる謎のコンセプトモデルをサプライズ展示。従来型の[…]
125ccクラスは16歳から取得可能な“小型限定普通二輪免許”で運転可 バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原[…]
500km/hの速度の鉛玉も防ぐ! SHOEIがキャリーケース事業をスタートする。これまでに培ってきたヘルメット製造技術を活かした新規事業で、GFRPを用いた質感と堅牢性、強固なフレーム構造による防犯[…]
充実してきた普通二輪クラスの輸入モデル この記事で取り上げるのは、日本に本格上陸を果たす注目の輸入ネオクラシックモデルばかりだ。それが、中国のVツインクルーザー「ベンダ ナポレオンボブ250」、英国老[…]
最新の投稿記事(全体)
コスパ全開の冬用インナーがここまで快適になるとは 冬用フェイスカバーと聞けば、息苦しさ/ムレ/メガネの曇りといった不安が先に立つ。それに対しカエディアのバラクラバは、通気性を確保したメッシュパネルと高[…]
1インチセンサー搭載で夜間の峠道も鮮明に記録 ツーリング動画において、画質と画角の広さは非常に重要である。本機は画期的な1インチの360度イメージングエリアを採用しており、低照度環境でもノイズの少ない[…]
火の玉「SE」と「ブラックボールエディション」、ビキニカウルの「カフェ」が登場 カワサキモータースジャパンは、ジャパンモビリティショー2025で世界初公開した新型「Z900RS」シリーズについてスペッ[…]
Z1100とZ1100 SEもZ900RSシリーズと同日発売 ジャパンモビリティショーで上級モデル“SE”が日本初公開され、国内発売日とスペックの正式発表を待つのみだったがZ1100シリーズの全容が明[…]
2025年モデルで排気量アップしたニンジャ1100SX カワサキモータースジャパンは、スポーツツアラー「ニンジャ1100SX」シリーズを2026年モデルに更新。標準モデルとSEモデルそれぞれにニューカ[…]
- 1
- 2






































