
ヨシムラが歴史的名車の動態保存を目指して本格始動させる「ヘリテージパーツ・プロジェクト」。その象徴的存在として製作されたヨシムラGSX-R750「#604コンプリート」は、604万円からオークションスタートというプライスが話題となっているが、本当の主役となるのは数多くの眠ってしまっている油冷GSX-Rたち。彼らを復活させて末永く乗り続けてもらうことが目的なのだ。
●文:宮田健一(ヤングマシン編集部) ●外部リンク:ヨシムラ・ヘリテージパーツプロジェクト
歴史遺産・油冷GSX-Rを完調状態で後世に
バイクブーム全盛期だった1980年代から、はや40年以上。とっくに純正パーツの供給も途絶え、そのまま埋もれ去っていく当時の車両は数知れず。その一方で「愛車とともにこれからも走り続けたい」という熱い思いを抱き続けているユーザーの数も、けっして少なくはない。こうしたユーザーに応えるべく動き出したのが「ヨシムラ・ヘリテージパーツプロジェクト」だ。
このプロジェクトは、廃盤になった純正パーツの復刻/ヨシムラパーツ/コンプリートマシンの3つの柱で構成され、日本が誇るバイクたちを文化遺産として後世に伝えていくのが大きな目的。その第1弾として選ばれたのがカワサキZ1と、ヨシムラのアイコン的存在として活躍した油冷エンジンのスズキGSX-R750(1985〜87年型)だ。
ヨシムラの「ヘリテージパーツプロジェクト」は3段構え。まずは廃盤となった純正部品をヨシムラが復刻/再生産する①の「純正互換パーツ」。レストア需要の高まりに対し、ユーザーの長期的な車両維持を支援する。そして②の「ヨシムラパーツ」では、マフラー/エンジン/シャーシパーツなど車種別設計のヨシムラ製パーツを拡充し、ユーザーの「愛車をもっと楽しく走らせたい」という想いをサポート。 それらを活かしつつ社外のカスタムパーツも併用し、ヨシムラの手でコンプリートカスタムされたマシンが③となる。
レーシングチューンのイメージが大きいヨシムラだが、注目すべきはこのプロジェクトが送り出すパーツが“安心して乗り続けていけること”に主眼を置いていることだろう。ヨシムラパーツも当時そのままの復刻ではなく、マシンの耐久性を第一に考えて再設計したものを作っていくと言う。
純正互換パーツは現時点での対象を油冷GSX-R750に絞っており(Z1は社外品が充実しているため対象としない)、外装/エンジンパーツ/シール&ゴムパーツ類といった、走り出すために不可欠かつ要望の高いものから送り出していく方針。もちろん純正同等以上の品質をしっかり発揮できるようサプライヤーとの調整が進められている。以下では油冷GSX-R750のヘリテージパーツプロジェクトを解説していこう。
①純正互換パーツ
廃番部品の復刻第1弾は、エンジン&外装パーツを中心に全42点を鋭意開発中。ピストン&ピストンリングにカムチェーンといったエンジンパーツや外装類、インテークパイプやダストシールといったゴム類も揃っている(詳細はヨシムラHPを参照)。カウルは塗装済みとなる模様だ。
ヨシムラのWEBサイトに掲載される42点の復刻予定パーツのリスト。いずれも開発中のため発売時期や価格は未定。続報を待て!
②ヨシムラパーツ
ヨシムラパーツでは、TMR-MJNキャブ/エキゾーストシステム/ST-1カム/フォーククランプASSY/ハンドルバー/ステップなどが油冷GSX-R用に新作される予定。これは次で紹介するコンプリート車製作に必要といった理由も含まれている。
TMR-MJN32キャブ/ステップKIT/オイルキャッチタンク/フェンダーレスKITは、いずれも本プロジェクトに合わせた販売予定の開発中製品。
アルミのパルサーカバー(2万6620円)/スタータークラッチカバー(2万9480円)/3色が用意されるステムナット(3850円)は既発売品。ST-1カムは開発中で、現在の状況に合わせたものとなる予定。
サプライヤー各社の協力のもと、ハーネス/アクスルシャフト/カムチェーン&テンショナーなども発売予定。コンプリート車にはこれらも組み込まれている。
オーリンズ製フロントフォークはコンプリート車専用だが、フォーククランプASSY/ハンドルバー/アクスルシャフトなどは単品販売予定だ。
③コンプリートマシン
ここまでで紹介した純正互換パーツとヨシムラパーツに加え、社外パーツを併用して製作されるのがコンプリートマシンで、2025年3月の東京モーターサイクルショーで発表された「#604コンプリート」がその第一弾。程度良好な中古車をベースに、1986年のAMAスーパーバイクに参戦した辻本聡車をモチーフとするヨシムラ独自のカスタムが施されている。
YOSHIMURA GSX-R750 #604 COMPLETE MACHINE
「今後も愛車に長く乗っていけるパーツを用意していきます」
【ヨシムラジャパン 商品実験課 石原武明さん】このプロジェクトは、ユーザーが愛車に長く乗ってもらうために始めたものです。そのため#604コンプリートについては、内部をしっかり再調整しつつも、それ以上のチューニングは抑えて耐久性を重視しました。発売予定のヨシムラパーツ群も、公道で長く乗っていけることを前提とした設計になっています。純正互換パーツについても、ヨシムラとして出す以上、純正と同等かそれ以上の品質をクリアすべくサプライヤーさんと鋭意調整中です。期待していてください。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(カスタム&パーツ | ヨシムラ)
完成車メーカー「ヨシムラ」への布石 油冷エンジンを搭載するGSX-R750の開発に深く関わり、デビューイヤーの1985年から3年連続で全日本TT-F1クラスでチャンピオンを獲得したヨシムラ。すでにレー[…]
懐かしのスタイルに最新技術をフル投入! 2025年3月の東京モーターサイクルショーで詳細が発表されたヨシムラヘリテージパーツプロジェクト。対象機種は油冷GSX-R750とカワサキZ1となっており、GS[…]
2024年は鈴鹿8耐3位そしてEWCで二度目の王座に ポップが切り拓き、不二雄が繋いできたヨシムラのレース活動はいま、主戦場をFIM世界耐久選手権(EWC)へと移し、陽平がヨシムラSERT Motul[…]
ポップ吉村は優しくて冗談好きのおじいちゃんだった ヨシムラの新社長に今年の3月に就任した加藤陽平は、ポップ吉村(以下ポップ)の次女の由美子(故人)と加藤昇平(レーシングライダーでテスト中の事故で死去)[…]
スズキと連携しつつ互換パーツをリプロダクト これは東京モーターサイクルショー3日目、3月24日にヨシムラブースで開催されたトークショーで発表されたもの。登壇した加藤社長は「油冷GSX-Rはヨシムラファ[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
随所に専用部品を投入したZシリーズ初のR仕様 Z1000の派生/上級機種として’78年に登場したZ1‐Rは、評価がなかなか難しいモデルである。まず当時の流行だったカフェレーサーの手法を取り入れながら、[…]
“思い出の1台”に乗りたい バイクメーカーがニューモデルを開発する際は、ユーザーがそれを受容できるか、あるいは新たなマーケットを作り出せるかが重要。レーサーレプリカもネイキッドも、それがウケると分かっ[…]
日本の免許制度を考慮してナナハン4気筒と同時開発 GS750の弟分。世間にはそういう見方をする人がいるけれど、’76年から発売が始まったGS400を弟分と呼ぶのは、少々語弊があるのかもしれない。なんと[…]
50レプリカのフルサイズからミニバイクレースを経てデフォルメフルサイズへ! VR46カラーのTZR50……実はヨーロッパで1997年から2012年まで生産されていたイタリアのミナレリ製エンジンで、現地[…]
一線から退くことすらファンが許さなかった「革新モデル」 世界最速を目指したZ1発売から10年余り、ついにカワサキは水冷4気筒エンジンを搭載するGPz900Rを1984年に発売。北米モデルはNinja([…]
人気記事ランキング(全体)
125ccクラス 軽さランキングTOP10 原付二種は免許取得のハードルも低く、手軽に楽しめる最高の相棒だ。とくに重要なのは「軽さ」だろう。軽ければ軽いほど、街中での取り回しは楽になるし、タイトなワイ[…]
コンパクトで使いやすいワイヤーロック ヘンリービギンズの「デイトナ ワイヤーロック DLK120」は、質量約90gの軽量設計で、ツーリング時の携行に適したポータブルロックです。ダイヤルロック式のため鍵[…]
日本仕様が出れば車名はスーパーフォアになるか ホンダの名車CB400スーパーフォアが生産終了になって今年ではや3年目。入れ替わるようにカワサキから直列4気筒を搭載する「Ninja ZX-4R」が登場し[…]
どうする? スクーターのエンジンがかからない ※これはまさに、筆者が直面した実話です。我が家のスクーター(TODAY)に乗ろうと思って、車庫から引っ張り出しました。ちょっと久しぶりですね。エンジンをか[…]
50レプリカのフルサイズからミニバイクレースを経てデフォルメフルサイズへ! VR46カラーのTZR50……実はヨーロッパで1997年から2012年まで生産されていたイタリアのミナレリ製エンジンで、現地[…]
最新の投稿記事(全体)
PROGRIP専用の信頼接着剤 デイトナ(Daytona)の「グリップボンド PROGRIP 耐振ゲルタイプ専用 12g 93129」は、PROGRIP用に設計された専用接着剤です。容量は12gで、初[…]
日本仕様が出れば車名はスーパーフォアになるか ホンダの名車CB400スーパーフォアが生産終了になって今年ではや3年目。入れ替わるようにカワサキから直列4気筒を搭載する「Ninja ZX-4R」が登場し[…]
エンデュランス バイクETCケース 汎用 EK395HANA1の概要 エンデュランスのETCケース EK395HANA1は、材質にSUS304を採用した黒塗装仕上げで耐久性と防錆性に配慮された製品です[…]
FLHXSE CVOストリートグライド:CVOでは唯一となるバットウイングフェアリング フラッグシップモデルを象徴するバットウイングフェアリング。そのアイコンを持つ最上級仕様が「CVOストリートグライ[…]
コンパクトで使いやすいワイヤーロック ヘンリービギンズの「デイトナ ワイヤーロック DLK120」は、質量約90gの軽量設計で、ツーリング時の携行に適したポータブルロックです。ダイヤルロック式のため鍵[…]
- 1
- 2