
独創的なマシンでファンを魅了し、日本のレースシーンを牽引し続けてきたモリワキエンジニアリング。数々の斬新なもの作りの原動力は、創業者である森脇護氏(現・取締役名誉会長)の考え方や姿勢にある。理屈を考え、 工夫して問題を解決する面白さ。それがモリワキイズムなのだ。
●文:ヤングマシン編集部 ●写真:真弓悟史 モリワキエンジニアリング YM Archives
【モリワキエンジニアリング取締役名誉会長・森脇護氏】1944年、高知県生まれ。愛車だったホンダCB72のチューニングをヨシムラに依頼し、それをきっかけにPOPこと吉村秀雄氏に師事し、チューニングを学ぶ。1973年に鈴鹿でモリワキエンジニアリングを創業。日本初となるアルミフレームのレーシングマシンなど、他にはない独創的なもの作り多くのファンを獲得。2023年に社長の座を譲り、現在は名誉会長。
身近なクラスが誕生し、レース人気が一気に爆発
モリワキが創業した1973年当時というのは、国内レースの人気は高くなかったんです。メーカーのレース活動は海外のGPが中心で、レーシングマシンと言えば2サイクル。2輪レースなんか誰も知らないって感じで、全日本でも観客席よりピットの方が人が多かったぐらいですよ。
そんな風潮が変わってきたのが1978年、第1回の鈴鹿8耐です。オヤジ(POP吉村)が量産車の改造をいろいろやっていたこともあり、メーカーのワークスマシンを打ち破ってヨシムラが優勝、モリワキが3位に入った。これを雑誌とか新聞がバーッと、ものすごく取り上げてくれたんです。当時のメーカーは量産車のチューニング経験がないから、この分野なら我々が圧倒的に速かった。「メーカーvsヨシムラ&モリワキ」みたいな、わかりやすい対決構図もよかったんでしょうね。
POP(左)は義父でもあり、ヨシムラが再渡米した際には国内からその挑戦を支援するなど、師弟という以上の密接な関係だった。
そして、8耐の前座で鈴鹿4耐が始まった1980年頃から、レース人気は一気に広がりました。普通のライダーは国際格式の8耐に1000ccで出るなんて考えにくいですけど、4耐のように、ノービスライダーが400とか250で出られるとなれば違ってきますよね。手が届く、面白そうなレースができたぞってことで、予選に700台とか800台とか集まりましたからね。
自分が125のチューニングを一生懸命やっていたのも、あまり大きくないバイクで、安全に若いライダーを育てることに興味があったからです。けっきょくライダーがダメだったら、いくらバイクを作っても勝負にならないですよ。自分たちが8耐に連れてきたグレーム・クロスビーの能力があまりにも凄かったことで、そう考えるようになりました。
自分もライダーとしてレースに出ていた経験があるので、能力のあるライダーを見抜けるんですよ。ワイン・ガードナーも、雨の難しい路面状況のレースで走り方がひとり全然違ったんですよ。で、レースの後に「お前は世界チャンピオンになれる能力があるよ」って話をして。その翌年に「デイトナに出ないか?」と誘ったら、彼は引っ込み思案でね。「考えとく」みたいな返事だったんですが、その時のガールフレンドが背中を押す感じで「行くしかないよ!」って言ってくれて。彼とはそうやって始まったんです。
後にGP500で世界チャンピオンとなる、W.ガードナー(左)を見出したのも護氏。モリワキは世界への扉でもあった。
元々は愛車でレースに出るべくヨシムラの門を叩いた護氏。レース経験が優れたライダーを見抜く目に繋がっている。
分からないことを考え、解決するのが面白い
で、いいライダーを見つけたら、いいバイクを作らないとダメじゃないですか。ある時、タイムが出ないライダーのバイクを「ちょっと貸せ」と走らせたことがあったんですが、こんなもんでよく乗ってたな! ってぐらいウォブル(振れ)が出る。その原因を知らないと速いバイクは作れないですよね。ピボットの締め付けトルクを少しいじるだけで、操安性に影響が出る。そんな些細なことからオリジナルフレームを製作する大胆なことまで、散々やりましたよ。
そうやって、知恵を使って速いバイクを作るのが面白いんです。オヤジがスズキGS1000をチューニングし始めたころ、ヨシムラは1978年のデイトナで、当時スズキのファクトリーライダーだったスティーブ・マクラフィンを乗せたんですよ。で、もうひとりのヨシムラライダーのウェス・クーリーはカワサキZ1で、その車体は自分が改造したんですけど、コーナーが全然速いうえに直線でも振られない。エンジンはマクラフィンのGSの方が速いのに、全然負けずにバトルできたんですよ。最後はクーリーのオイルクーラーに石が当たってオイルが漏れてリタイヤでしたが、あのトラブルがなければ勝てたと思いますね。
そのZ1はフレームを改造し、補強やトレールを増やしたりしていたんですけど、車体に問題があれば解決したいじゃないですか。車体が振れるのはなんで? フロントからコケるのはどんな時? これが分からない、あれはなんで? って、疑問は次々に浮かんでくる。すべての物事は理屈ですから、現象があれば原因は必ずある。だから、分からないことって自分にはごっつ面白いんです。物事の理屈を考え、工夫してものを作る。ずっとそれの繰り返しで50年間やってきましたからね。
1981年に世界初の大型二輪用アルミフレームをレースに投入したモリワキ。独自の理論に基づくオリジナルレーサーは速さと美しさ、そして独創性でファンの心を捉え続けてきた。
勝ち負けよりも大切にしたいこと
「日本はもの作りの国」とよく言われますが、最近は専門家や大きな工場でないと、何もできないような雰囲気になってきました。若い人たちも、大学の研究室やメーカーなどの大きな組織に属していないと、最先端のもの作りに関われない…そんな空気を感じることがあります。
でも、必ずしもトップを目指すことだけが正解ではないと思うんです。大きな舞台に立つことだけがすべてじゃない。自分の手を使って楽しみながらものを作ること。その中で自然と身につく力や経験こそが、じつは何よりも大事なんじゃないかと思います。手を動かして試行錯誤した経験って、ずっと頭の中に残るし、確かな積み重ねになりますから。
今はどうしても“勝ち負け”や“結果”が重視されがちですが、それだけを目標にしてしまうと、ものづくりの本当の楽しさや面白さを見失ってしまう気がします。もちろん目標を持って取り組むことも大切です。でも、それよりもまずは“夢中になれる時間”を持つこと。そうした中でこそ、人は育ち、成長していくと思うんです。だからこそ、年齢や経験に関係なく、誰もがのびのびともの作りに取り組める環境をつくりたい──。そう思って、これまでやってきました。
車体理論の第一人者であるとともに、ライダーを育てる名伯楽の顔も知られる護氏。宮城光/八代俊二/樋渡治(敬称略)などなど、モリワキから巣立った名ライダーは数多い。
たとえばレースの世界で言えば、全員が同じ条件で走れる”イコールコンディション”のような場。老若男女を問わず、それぞれが自分のペースで取り組んでいる様子を見て、「なんだか楽しそうだな、自分もやってみたいな」と感じてもらえる。そんな雰囲気を広げていけたらうれしいですね。同じ条件の中で、それぞれが自分なりの工夫や知恵を生かして少しずつ前に進んでいく。その過程があるからこそ、もの作りは面白いし、長く続けたくなるんです。
バイクも、排気量が小さくても十分に面白いし、心が動く瞬間がたくさんあります。ケガのリスクも少ないから、誰にでも開かれた世界だと思うんです。これからのもの作りって、そういった“誰でも楽しめる”という部分が、ますます大切になっていく気がします。そして今も尚護(護氏の長男で現モリワキ会長)がそういうことをやろうと言ってくれているので、これから先も、もっと自由でワクワクするもの作りができることを楽しみにしています。
護氏が野鳥や草花の愛好家なのは有名。進化が生み出した生物の構造や造作には、バイクにも生かせる数多くのヒントがあるという。
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