
ニッポンがもっとも熱かった“昭和”という時代。奇跡の復興を遂げつつある国で陣頭指揮を取っていたのは「命がけ」という言葉の意味をリアルに知る男たちだった。彼らの新たな戦いはやがて、日本を世界一の産業国へと導いていく。その熱き魂が生み出した名機たちに、いま一度触れてみよう。この記事ではカワサキZ650の主要構成パーツについて解説する。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:山内潤也/YMARCHIVES ●取材協力:ZEPPAN UEMATSU
次世代を見据えた新技術を随所に投入
’73年から開発が始まったZ650は、当初は”Z1ジュニア”と位置づけられていた。とはいえ、単なるスケールダウンをヨシとしない開発陣は、次世代を見据えた新技術を随所に投入。
結果的にZ650のエンジンとシャーシは、ほとんどが専用設計となった。 中でも注目すべきは、兄貴分と同じDOHC2バルブ並列4気筒という形式を踏襲しながら、大幅な軽量化と静粛性の向上を達成したエンジンだろう。
その象徴と言えるのは、プレーンメタル支持の一体鍛造クランクと、ハイボチェーンによる1次減速だが(Z1/2シリーズは、クランクがボール/ローラーベアリング支持の組み立て式で、1次減速はギヤ式)、インナーシム式とされたバルブリフターや、トロコイド式のオイルポンプなども、当時のカワサキにとっては新しい技術だった。
一方のシャーシに関しても、フレーム形式は兄貴分と同じスチール製ダブルクレードルだが、一新されたパイプ径やステアリングヘッド周辺に設けられた補強からは、Z1/2シリーズとは異なる思想が感じられる。
また、軸間距離を短めに設定しながら、キャスター/トレールを兄貴分より安定指向としている点も(27度/108mm。同年のZ900は26度/90mm)、Z650ならではの特徴と言えるだろう。
言って見ればZ650には、Z1/2シリーズより先進的な要素が存在し、このモデルで培われた思想と機構は、以後は形を変えながら、Z1000J系やGPZ900Rなどにも導入されていくこととなったのである。
ENGINE:小型軽量化と静粛性に配慮
Z1/2シリーズほど膨大な余力はなかったけれど、Z650のエンジンも、当初から排気量拡大を意識して開発。
’80年以降のカワサキは、Z650の発展・派生機種としてさまざまな738ccモデルを発売し、アフターマーケット市場では、排気量が800cc前後となるボアアップピストンが数多く登場した。
Z750ツインと共通の5速ミッションは、Z400FX用パーツを用いて6速化することも可能。角型シリンダーヘッドカバーの採用は、兄貴分より3年早かった。
【750ccを上回る最大トルク】クランクの右に点火系、左に発電系を配置する構成は、兄貴分と共通。最高出力は控えめな64psに設定されたが、最大トルクは同年のZ750フォアを上回る5.8kg-mだった。
クランクケース内は4軸構成。トロコイド式オイルポンプはクラッチ後部に配置。
ボディ側面に3本のリブが刻まれたキャブレターは、強制開閉式のミクニVM24SS。エアクリーナーダクトとの締結部には、ネジ式のスチールバンドではなく、スプリングを使用する。
エンジンマウントは5点リジッド。前後の取り付け位置は兄貴分と同様だが、下2点のマウント(矢印部)はZ1/2系よりかなり前方となる、ポイント・ジェネレーターカバーの前部に設置。
FRAME&CHASSIS:扱いやすさと運動性能を重視したシャーシ
基本構成は兄貴分を踏襲するZ650のフレームだが、Z1/2シリーズのパイプがトップチューブ:φ32mm/タンクレール:φ28.6mm/ダウンチューブ:φ31.8mmだったのに対して、Z650はφ38/28.6/28.6mmを選択。
肉厚に関しては、Z1/2シリーズは1.8~2.3mmを部位に応じて使い分けていたものの、Z650は1.8mmが主流だった。登場時はブッシュ式だったスイングアームピボットの支持は、‘78年のB2からニードルローラーベアリング式に変更される。
【J系を彷彿とさせる補強プレート】ホイールベースを短く設定しつつも、十分な安定感と剛性を確保するため、ステアリングヘッド後方には巨大な補強プレートを設置。この構成は’80年以降のZ1000J系的で、シンプルなZ1/2とは隔世の感がある。
前後ホイールとサスはZ1/2系と同様で、F:140、R:80mmのサスストロークも兄貴分に準じる。ブレーキは、F:φ245mmディスク+片押し式1Pキャリパー、R:φ180mmドラム。
シートは右ヒンジで開閉。兄貴分は吸気音低減のため、シート下のエアボックスを拡大していたが、Z650にそうした雰囲気は感じられない。
トレール成分に寄与するステアリングステムのオフセットは、兄貴分より10mm少ない50mm。このパーツはZ1/2のトレール量を増して安定性を高めるために、流用されることも多かった。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
商品ではなく「こんなこと、できたらいいな」を描く 今回は見た瞬間にハートを鷲掴みにされてしまったモトクロス系のお気に入りバイクカタログをご覧になっていただきたい。 まずはアメリカホンダ製作によるモトク[…]
ヤマハXJ400:45馬力を快適サスペンションが支える カワサキのFXで火ぶたが切られた400cc4気筒ウォーズに、2番目に参入したのはヤマハだった。FXに遅れること約1年、1980年6月に発売された[…]
手軽な快速ファイター 1989年以降、400ccを中心にネイキッドブームが到来。250でもレプリカの直4エンジンを活用した数々のモデルが生み出された。中低速寄りに調教した心臓を専用フレームに積み、扱い[…]
マイノリティ好きにはたまらない2スト250で3気筒、走りに刺激はなかったけれど海外でもファンが少なくなかった! カワサキが世界進出の勝負球として、500ccで2ストローク3気筒のマッハIIIをリリース[…]
空冷エンジンのノウハウを結集【カワサキ GPz1100[ZX1100A]】 航空機技術から生まれたハーフカウルとレース譲りのユニトラックサスを装備。デジタルフューエルインジェクション効果を高めるために[…]
最新の関連記事(カワサキ [KAWASAKI])
手軽な快速ファイター 1989年以降、400ccを中心にネイキッドブームが到来。250でもレプリカの直4エンジンを活用した数々のモデルが生み出された。中低速寄りに調教した心臓を専用フレームに積み、扱い[…]
マイノリティ好きにはたまらない2スト250で3気筒、走りに刺激はなかったけれど海外でもファンが少なくなかった! カワサキが世界進出の勝負球として、500ccで2ストローク3気筒のマッハIIIをリリース[…]
空冷エンジンのノウハウを結集【カワサキ GPz1100[ZX1100A]】 航空機技術から生まれたハーフカウルとレース譲りのユニトラックサスを装備。デジタルフューエルインジェクション効果を高めるために[…]
11/1発売:カワサキ カワサキ ニンジャH2 SX SE カワサキの最高峰スポーツツアラー「ニンジャH2 SX SE」の2026年モデルが、11月1日に発売された。スーパーチャージャー搭載のバランス[…]
11/1発売:カワサキ W800 カワサキが50年以上にわたり培ってきた「W」ブランドの最新進化系「W800」の2026年モデルが11月1日に発売される。この国産クラシック系の旗艦モデルは、美しいベベ[…]
人気記事ランキング(全体)
空冷エンジンのノウハウを結集【カワサキ GPz1100[ZX1100A]】 航空機技術から生まれたハーフカウルとレース譲りのユニトラックサスを装備。デジタルフューエルインジェクション効果を高めるために[…]
月内発売:SHOEI 「GT-Air 3 AGILITY」 優れた空力特性とインナーバイザーを兼ね備えたSHOEIのフルフェイスヘルメット「GT-Air3(ジーティーエア スリー)」に、新たなグラフィ[…]
背中が出にくい設計とストレッチ素材で快適性を確保 このインナーのポイントは、ハーフジップ/長めの着丈/背面ストレッチ素材」という3点だ。防風性能に特化した前面と、可動性を損なわない背面ストレッチにより[…]
「特殊ボルト」で困ったこと、ありませんか? 今回は「でかい六角穴のボルト」を特殊工具なしで外してみようというお話。 バイクを整備していると時々変なボルトに出会うことがあります。今回は古い原付オフロード[…]
点火トラブルって多いよね 昔から「良い混合気」「良い圧縮」「良い火花」の三大要素が調子の良いエンジンの条件として言われておりますが、それはそのまま調子が悪くなったバイクのチェック項目でもあります。その[…]
最新の投稿記事(全体)
関東のおすすめバイク神社一覧 ライダーのセーフティライドを支えるのは、交通ルールを遵守した適切なオートバイの乗り方と、愛車への深い理解、周囲の交通環境を確認して事故を未然に防ぐ観察眼などがあります。 […]
出力調整を極限まで最適化&他技術との連携で相乗効果 キャブやFIスロットルボディの吸気量を決めるバタフライの開閉をワイヤーで繋がったスロットルグリップで人間が直接調整していたのが旧来の方式。これに対し[…]
商品ではなく「こんなこと、できたらいいな」を描く 今回は見た瞬間にハートを鷲掴みにされてしまったモトクロス系のお気に入りバイクカタログをご覧になっていただきたい。 まずはアメリカホンダ製作によるモトク[…]
ヤマハXJ400:45馬力を快適サスペンションが支える カワサキのFXで火ぶたが切られた400cc4気筒ウォーズに、2番目に参入したのはヤマハだった。FXに遅れること約1年、1980年6月に発売された[…]
手軽な快速ファイター 1989年以降、400ccを中心にネイキッドブームが到来。250でもレプリカの直4エンジンを活用した数々のモデルが生み出された。中低速寄りに調教した心臓を専用フレームに積み、扱い[…]
- 1
- 2










































