
ニッポンがもっとも熱かった“昭和”という時代。奇跡の復興を遂げつつある国で陣頭指揮を取っていたのは「命がけ」という言葉の意味をリアルに知る男たちだった。彼らの新たな戦いはやがて、日本を世界一の産業国へと導いていく。その熱き魂が生み出した名機たちに、いま一度触れてみよう。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦)
超えるべき指針はトライアンフ・ボンネビル
’54年に第一号車として、2スト60ccスクーターを手がけたカワサキが、2輪事業に本腰を入れるようになったのは’60年代に入ってからである。
もっとも、当初の業績はまったく芳しいものではなく、’60年代中盤のカワサキは早くも2輪事業からの撤退を検討しているのだが、そんな状況を打破したのが、’66/’67年にデビューした250/350cc2スト並列2気筒のA1サムライ/A7アベンジャーだった。
カワサキにとって初の本格的なスポーツモデルだったにもかかわらず、革新的なロータリーディスクバルブ吸気を採用したA1/A7は、この分野をリードしていたホンダCB72/77やヤマハYDS/YM、スズキT20などを凌駕する31ps/40.5psの最高出力を獲得。そしてA1/A7の開発を通して手応えを感じたカワサキは、さらなる躍進を目指して、500SSマッハIIIの開発に着手するのである。
日本車勢を指針としたA1/A7に対し、世界最速を目標に据えた500SSの仮想敵は650ccのブリティシュツイン勢や、500/600ccフラットツインのBMW、883ccのハーレーXLだった。中でもカワサキがもっとも意識していたのは、4スト並列2気筒を搭載するトライアンフ・ボンネビルで、当時の内部資料にはハッキリとその車名が記されている。
もっともそれはカワサキに限った話ではなく、当時は世界中の2輪メーカーが同じような意識を持っていたのだ。とはいえ、基本設計が’30年代に行われたトライアンフツインは、この頃にはすでに性能的な限界に達しており、’60年代後半以降はボンネビルを踏み台にするかのように、各社が躍進を遂げていくこととなった。
’66年に活動を開始したアメリカンカワサキが、来るべき時代を見据えた大排気量車を開発するにあたって本社に要求したのは、①ゼロヨン13秒以下、最高速200km/h以上 ②末端価格1000ドル以下 ③今までの日本車にはない斬新なデザイン、の3点である。いずれも無謀にして欲張りな要求だが、開発陣の努力でこの3点をクリアしたからこそ、マッハIIIは歴史に名を残す名車になれたのだろう。
【量産モデルとは 細部が異なるN100】 ’68年11月5日に書かれたマッハIIIの寸法諸元図。左上にはコードネームのN100という車名が記されている。この時点での前輪は3.25-18で、軸間距離は1396~1397mm。
不発に終わった4ストと大成功を収めた2スト
’60年代中盤までのスポーツバイクの主力だった並列2気筒と比較すると、並列3気筒の美点は、高回転高出力化が望めること、トルク変動と振動を少なく抑えられることなどだ。
並列4気筒に対しては、小型軽量化が実現しやすいことや、部品点数が少なくて済むことがメリットとなる。もちろん、’60〜’70年代の2輪メーカーで、そういった事実を把握し、並列3気筒車を開発したのはカワサキだけではなかった。
ただし不思議なことに、当時の4スト並列3気筒は、いずれも高評価を得られずに終焉を迎えている。
具体例を挙げるなら、’68年にデビューしたトライアンフ・トライデント/BSAロケットIII、’72年から展開が始まったラベルダ1000/1200シリーズ、’76年に登場したヤマハGX750は、失敗作とは言い切れない資質を備えていたものの、ホンダCB750フォアやカワサキZ1/Z2といった並列4気筒車には、セールス面でまったく太刀打ちできなかったのだ。
それらと対照的だったのが、2ストのカワサキ・マッハシリーズ、そしてスズキGTシリーズである。500ccを起点として750/350(後に400)/250ccを生み出したマッハに対して、GTは水冷の750ccを旗艦に据えつつ、空冷550/380ccモデルを展開。
両社の並列3気シリーズは世界中の2スト好きライダーから熱烈な支持を集め、いずれも好セールスを記録することとなった。
ちなみに、’70年代のカワサキとスズキは、500/750SSとGT750をベースとする2スト3気筒車で世界中のレースに参戦し、数々の栄冠を獲得している。
当初のカワサキが開発した市販レーサーのH1RとH2Rは、量産車と同じ空冷方式を採用していたものの、後に発展型として登場したH1RWとKR750は、マッハシリーズのエンジンレイアウトを維持しながら水冷化を実現。最高出力は、H1RW:100ps、KR750:115psに達していた。
もっとも、H1RWとKR750で得た技術が量産車のマッハシリーズに反映されることはなかった。その背景には、自社の旗艦を4スト並列4気筒のZ1/Z2にスイッチ、というカワサキの事情があったのかもしれないが、排気ガス汚染による環境問題が表面化した’70年代中盤、2スト大排気量車の存続は難しくなっていたのである。
左右非対称デザインをあえて強調するべく、マッハIIIの初期のカタログでは右斜め後ろのカットが多用された。
【レースでも活躍】’70年以降のカワサキは、マッハをベースとする市販レーサーH1R/H2Rを発売。ただし同社のテストライダーだった清原明彦は、鈴鹿のレースにあえてノーマルで参戦し、観客を沸かせた。
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