昭和的 原付黎明期のDNAを令和に再構築

【速報】原動機付自転車、令和に新生!! スズキ「e-PO」はシンプルさと便利さを突き詰めた新しい電動モペッドだった【試乗インプレッション】

スズキは、ジャパンモビリティショー2023で参考出品した原付一種カテゴリーの電動バイク「e-PO(イーポ)」のメディア向け試乗会を開催した。電動アシスト付き自転車をベースにモーターだけの走行を可能にしたe-POは、ユーザーにどんな新しい価値を提供してくれるのだろうか?


●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:スズキ

電動アシスト自転車をベースにした原付一種の電動モペッド

スズキが「e-PO(イーポ)」のメディア向け試乗会を開催した。まだプロトタイプの段階ではあるが、WEBヤングマシンを含むバイクメディアや新聞社などを招いて試乗させてくれたので、どんな乗り物だったのかをお伝えしたい。

ベースになったのはパナソニックサイクルテックの「OFF TIME」。バッテリー容量8.0Ahで走行距離30~53km(モードによる)を実現し、価格は15万8000円。

e-POは、パナソニックサイクルテック製の電動アシスト自転車「OFF TIME(オフタイム)」をベースに電動モペッドとしたもの。フル電動で漕がずに走ることができるだけでなく、電動アシスト自転車よりも強いアシストを得ながらペダル走行もできる。さらに、人力のみで走ることも可能だ。スペックの決定や品質基準はスズキが作り、車両および制御の開発はパナソニックが行なった。

最大の特徴は原付一種になっていることだろう。試乗したのはプロトタイプの車両で、かつクローズドコース。とはいえすでにナンバー登録されており、車両的には堂々と公道を走ることができる。その場合の制限速度は30km/hで、二段階右折が必要といった原付ルールが適用されるわけだ。こうした製品は他にも市場に存在するが、e-POは日本の大手メーカーが開発したというのも大きなトピックと言える。

まず多くの方が気になるであろう動力性能について。バッテリー容量は16Ahを搭載し、定格出力は250Wと電動原付バイクの上限である600Wの半分程度だ。最高出力は未公表ながら、馬力に換算するとおよそ0.7psになるという。これは昭和27年(1952年)にスズキが初めて発売した、自転車用補助エンジンを搭載した「パワーフリー」の1.0ps/4000rpmに近い数値と言える。

昭和時代のスズキの原付一種

【パワーフリー】スズキの二輪車メーカーとしての原点となった自転車用補助エンジンは空冷2サイクル単気筒36ccで、最高出力は1.0ps/4000rpm。湿式多板クラッチの2弾トランスミッションを搭載した。当時価格は3万6000円。登坂試験で箱根峠に挑んだところ無事故で難なく走行し、性能の優秀さを実証したというエピソードがある。1954年の「E3型」まで進化したほか、1953年に60cc・2.0ps/4000rpmのダイヤモンドフリー(3万8000円)も登場している。

【スズモペットSM1】1954年に発売された自転車用補助エンジンMF型(ミニフリー号)をプレスフレームの車体に搭載して50cc完成車としてまとめたもの。50cc空冷2サイクルエンジンの出力は2.0ps/4500rpmで変速機構はない。クラッチ操作でエンジン駆動とペダル駆動を切り替えることができた。前輪にボトムリンク式、後輪にピボット式の本格的なサスペンションも装備。二次駆動に当初はチェーンではなくVベルトを採用していた。当時価格は4万5000円。


※モペッドはヨーロッパを発祥とするペダルの付いた原動機付き自転車(Motor + Pedal)のことだが、日本では和製英語としてモペットと呼ばれていた

実際の加速力はどうかというと、もっともパワフルなモードに設定してもらって一般的な公道に近い試乗コースをフル電動、ようするにモーターの駆動力のみで走ったところ、スロットルを全開まで捻ってもかなり穏やかな印象だ。幹線道路などではちょっと心もとないかもしれないが、一方で自転車や歩行者も行きかうような生活道路では『これで十分』と感じる。

フル電動での最高速は35km/hちょい。筆者よりも体重の軽いジャーナリストのNomさんは39km/h出たというから、体格による空気抵抗の大きさや体重にけっこう左右されそうだ。

面白いのは電動アシスト走行だろう。モード切替は必要なく、ペダルを漕げば自動的にアシストモードに移行して人力1:モーター補助3の割合でアシスト力が発生する。これは電動アシスト自転車の1:2よりも明らかにパワフルで、しかも電動アシスト自転車が24km/hでアシストゼロになるのに対し、40km/h程度までアシストしてくれる。

都内は季節外れの猛暑日だったが全力で漕いでみたところ、メーター読みで46km/hまでいけた(※クローズドコースです)。ここまでくると乗り手の脚力次第になるが、合流や右左折でやむを得ず危険を避けなければならないような場面では、+αのスピードを得ることができるということになる。

全力で漕ぐの図(猛暑日)。

また、今回は平坦な道路のみだったが、上り坂では7段ギヤを生かして力強い登坂も可能とのこと。一番低いギヤでは発進加速も力強くなるが、平坦路の一般的な状況であれば頻繁に使う必要はないかもしれない。

このほか人力のみで走るモードもあるが、こちらはバッテリーの残量が少なくなったときに使う非常用と考えてよさそうだ。

“原付=原動機付自転車”の『こういうのでいいんだよ』を具現化

動力性能は前述のような感じでありつつ、車体のフィーリングは基本的に自転車だ。折り畳み自転車としてはかなりしっかりした剛性感が印象的だが、サドルやハンドルバーなど乗り手が触れる部分の感じは普通に自転車である。

ライディングポジションはコンパクトなシティサイクルのもの。シート(サドル)は高さ調整が可能なので、ペダルの漕ぎやすさに合わせると足着き性ではカカトがやや浮く程度に。ハンドル位置は変わらないので、シート高を上げると上半身の前傾はきつくなる。【身長183cm/体重81kg】

フロントにはディスクブレーキを採用するが、これは制動力向上というよりも雨天などでも安定した性能を確保することとコントロール性の向上がメインだという。このほか、やや太めのタイヤや保安部品を装着していることも一般的な自転車と異なるが、体感上でさほど大きな違いはなかったように思う。

バイク乗りの感覚で率直に言えばちょっと物足りない……となりそうなものだが、そうでもない。

まず原動機付自転車がどういう乗り物かといえば、手軽で近距離の移動に適していて、通勤通学や買い物のアシなどの移動手段として重要なポジションを占めている。廉価で買えること、置き場所を大きく取らないこと、軽く小さく取り回しに優れていることなどが利点だ。そして最も手軽に取得できる原付免許で運転でき、普通自動車免許があればこちらも付随して運転可能である。

つまり、入手しやすく扱いやすく、そしてトラブルなく日々の使用に応えてくれることが求められるのが原動機付自転車(原付一種)だ。

そうした目で見たとき、e-POは最小限の要素でシンプルさと利便性を追求した原付であり、その姿はかつてスズキがパワーフリー号で庶民の移動手段を拡大していった“原点”に重なるように思えてくる。これをモーターサイクル的な視点で評価することにあまり意味はないといっていだろう。

e-POの航続距離はおよそ20kmだといい、自転車とバイクの中間くらいの近距離移動に最適。かつ置き場所は最小限で済み、軽量コンパクトなバッテリーは取り外して充電するのも大きな負担にならない。e-POは必要な要素以外を削ぎ落していった結果、「こういうのでいいんだよ」を具現化したような原動機付自転車になったのだと思う。

都市で生活するサラリーマンをイメージして開発したというが、幅広いユーザー層にフィットしそう。

自転車に動力が付いた、という観点から見ればe-POは運転していて気持ちいい乗り物になっているし、軽量とはいえ70kg以上ある原付スクーターに比べれば車重23kgのe-POは圧倒的に気軽だ。方向転換は足を着きながらであれば回転半径1m以下にできるし、大人の腕力なら持ち上げて180度反対に向けることも可能。交通ルール的に走っていい場所であれば、どんな狭い道でもストレスを感じることなく入っていけそうだ。

公道を走れる動力付き自転車という、言ってみれば温故知新の昭和的コンセプトが令和に蘇ったようなもの、それがe-POと言えるのかもしれない。昭和の時代に原付は庶民の足を一変させ、のちに電動アシスト自転車がその役割の一部を担っていったわけだが、このe-POは令和の時代の新しい原付カテゴリーを創造していく、いわば原動機付自転車のリボーンになる可能性があるといったら大げさだろうか。

通勤通学や買い物など便利に使うもよし、スローライフ的にトコトコ走る足として使うもよし。バイク乗りから見ても、削ぎ落され研ぎ澄まされた原動機付自転車のコンセプトは、改めて魅力的に映った次第だ。個人的にはママチャリ派なので、そうしたスタイルの登場にも期待したい。

違法電動自転車の駆逐や、高校生の通学利用などにも

e-POのようなコンセプトの原付に期待したいことも述べていこう。

まずひとつは、都内でもよく見かける違法な電動自転車の駆逐だ。明らかにペダルを漕いでいないのに50~60km/hも出ている電動自転車(もちろんナンバーなんか付いていない)に乗り、ヘルメットも装着せず車道を走っている運転者を一刻も早く取り締まってほしいというのは、多くのライダーやドライバーが思っていることだろう。また、そうした違法な電動自転車は機械としての信頼性も高いようにはけっして思えない。

きちんとナンバーを取得して原付として乗れる国産品のe-POのような原付が普及することによって“良貨が悪貨を駆逐する”現象が起こることを期待したいのである。

また、e-POのように交通や社会へ溶け込みやすそうな原付であれば、高校生の通学利用などにも一石を投じる可能性があると感じた。一部の高校では遠距離の学生に原付での通学を認めているところもあるが、静かで周囲へのインパクトも小さいe-POなら、さらなる広がりも期待できるのではと思う。

自転車スタイルの原付は令和に再び普及する?

確かにぱっと見は自転車が普通に走っているように見える。これは見慣れてもらうしかないかも。

スズキがe-POの公道走行調査を行なった際、四輪ドライバーから「電動アシスト自転車が車道を30km/hで走っている」と誤認されたらしい事象があったようだ。現代では原付といえばスクーターやスーパーカブなどの姿が一般的であり、自転車のような姿で原付ナンバーが付いている乗り物に馴染みがないことは理解できる。

また、電動キックボードに代表される新カテゴリーの『特定原付』の存在も、自転車スタイルの原付一種を紛らわしく見せそう。特定原付は形状の異なるナンバーが付いているとはいえ、小さい自転車の姿をしたものも多いからだ。

これらはe-POが実際に発売されて、自転車スタイルの原付一種が普及していくことで解消されていくものだとは思うが、まずは色々な乗り物が公道には混在しているのだという事実を、改めてドライバーもライダーも再認識する必要があるのかもしれない。

SUZUKI e-PO[Prototype]

発売時期や価格については未発表。市販することを前提に開発を進めているという。

SUZUKI e-PO[Prototype]

SUZUKI e-PO[Prototype]

e-PO(公道走行調査車両)
全長×全幅×全高1531×550×990mm
軸距1144mm
最低地上高173mm
シート高780-955mm
装備重量23kg
モーター形式直流ブラシレスモーター
定格出力0.25kW
変速機方式外装7段シフト
バッテリーNKY594B02・リチウムイオンバッテリー(25.2V-16Ah)
バッテリー質量約2.5kg
充電器スタンド型 交流100V
充電時間約5.0時間
充電器質量約1.0kg
タイヤサイズ前18-2.125
タイヤサイズ後20-2.125
ブレーキ前ディスクブレーキ(ワイヤー式)
ブレーキ後ローラーブレーキ
※スペックは公道走行調査車のもの

スズキ e-PO のディテール

ドライブユニットはパナソニックサイクルテック製で、ベースモデルのオフタイムと同じもの。

バッテリーはオフタイムの8Ah(ベーシック仕様)に対し、e-POでは16Ahを搭載する。航続距離は約20kmだという。

フロントブレーキはワイヤー式のディスクに換装。

リヤブレーキは自転車で一般的なローラーブレーキだ。

小ぶりなヘッドライト。灯火類はフルLEDだ。

ナンバープレートは保安部品とともにマウントされる。

7段ギヤはシマノ製。

ロックは後輪側にある。

ハンドルバーはフラット形状。ミラーは左右とも装備する。

シートは高さ780-955mmの範囲で無段階に調整可能。

左手側にウインカースイッチとホーンボタン。

スロットルはグリップの内側半分だけ回る。ギヤチェンジも右手で操作。

バッテリーを外すにはまず後輪ロックをかけてキーを抜き……

キーを差してバッテリーロックを解除。

外したバッテリーは16Ahのものでも軽々と持てる。重量は約2.5kgとのこと。

メーターは小さくシンプル。速度や距離、パワーモードを表示する。

折り畳むときに使うロック解除レバー。かなり固い。

こちらはハンドル側のロック解除レバー。

ちなみに今回の青い車両はチームスズキCNチャレンジのピットバイクとして使用されたもののようだ。

折り畳んだe-POをスズキの軽自動車「スペーシア」に搭載した例。コンパクトなだけでなく、ガソリン漏れの心配がないのもメリットだ。

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