
昨年のミラノショーでワールドプレミアされ、今春のモーターサイクルショーで日本のユーザーにもお披露目されたホンダの新生ストリートファイター、CB1000ホーネット。久しぶりにリッタークラスでホーネットを名乗るにあたって、どんなバイクを目指してきたのか?開発者に話を聞いた。
●文:ヤングマシン編集部(マツ) ●写真:川島秀俊/編集部/ホンダ
やっぱりホーネットは直4だ?!
今回お話を尋ねたのは本田技研工業株式会社・二輪事業本部 ものづくりセンター 完成車開発部の萩元雅史さん。CB1000ホーネットではパッケージングや外装設計などの完成車設計を担当されている。
YM:まずはCB1000Rホーネットという車両の、コンセプトや狙い所を教えて下さい。
ホンダ:コンセプトは「まわりに見せつけろ、自慢のパフォーマンス&アグレッシブ・ピュアスタイル」です。今回、リッタークラスで改めてホーネットを名乗るにあたり、ストリートファイターらしい高い走行性能と、日常の使いやすさを高次元でバランスさせることに主眼を置いています。それが歴代ホーネットの特徴ですので。
YM:ホンダさんがリッタークラスでホーネットを名乗るのは2001年のCB900ホーネット以来となります。この機種のメイン市場は欧州と思いますが、やはり彼の地ではホーネットのブランドイメージは高いのでしょうか?
ホンダ:はい。欧州の期待も高いですし、直4のホーネットとして出させていただくので、その期待に答えるべく開発しています。
YM:後ほど関連性を伺おうと思っていますが、ひと足先にブランドを復活させた2022年のCB750ホーネットは新開発の並列2気筒エンジンでした。やはり“ホーネットは4気筒”というイメージは強いのでしょうか?
ホンダ:そうですね。期待しているお客様も多いので、その期待に応えるべく開発しています。
YM:スズキGSX-S1000やヤマハMT-10、カワサキZ900、BMWのS1000R、トライアンフのスピードトリプルなどなど、リッタークラスのストリートファイターは強者揃いの超激戦区です。
ホンダ:もちろん、そうした競合車も視野に入れています。
【ホンダ CB1000ホーネット】2023年のミラノショー(EICMA)で登場した新生ホーネット系のトップモデル。SC77・CBR1000RRの4気筒エンジンをスチール製ツインスパーフレームに搭載し、スロットルバイワイヤーやスマホ連動メーターなど必要十分な電子制御をしっかり投入。日本導入も間近との情報だ。
価格はCB1000Rよりもかなり安い?
【ホンダCB1000R】2018年に登場したCB1000Rは、SC57系のCBR1000RR用エンジンをスチール製のバックボーンフレームに搭載。2021年にはヘッドライト変更やスマホ連動メーター投入などマイナーチェンジ。■車重213kg(装備) ■水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブ 998cc 145ps/10500rpm 10.6kg-m/8250rpm ■タイヤF=120/70ZR17 R=160/60ZR17 ■価格:167万900円(ブラックエディションは171万6000円)
YM:そんな中で、ホンダさんはこのクラスにCB1000Rというモデルをすでに投入しています。CB1000ホーネットはその後継なのでしょうか?
ホンダ:狙い所は異なります。CB1000Rはネオレトロ系の車両として、ベテランや上質さを求めるユーザー様向けです。CB1000ホーネットは過去に存在した同シリーズを引き継ぐ存在で、コンセプトとしては別の車両です。
YM:CB1000Rの後継ではなく、改めて1000ccクラスにホーネットシリーズを展開していく、ということですか?
ホンダ:そうです。走りと実用性をバランスさせるという狙いや、デザインの方向性も異なります。ホーネットは英語でスズメバチという意味です。燃料タンクまわりのマスのあるセクションから、ウエスト(=シート)まわりをキュッと絞り、そしてテールセクションに向けてまた膨らむ。この抑揚の効いた、グラマラスなスタイリングはホーネットならではです。
YM:となると、CB1000Rは継続販売されるのでしょうか?
ホンダ:そこは申し訳ありません。私には分かりかねます…。
YM:CB1000Rとは路線が違なるということですが、価格帯もCB1000Rとホーネットでは異なると考えていいですか?
ホンダ:はい。詳細にはまだお答えできませんが、そこは明確に違います。
YM:シリーズ機種となるCB750ホーネットとはどんな関係になりますか?
ホンダ:排気量は違いますが、抑揚の効いたスタイリングや操っての楽しさなど、狙い所は同じです。それがホーネットとしての共通項となります。
YM:以前、CB750ホーネットの開発者さんにインタビューした際に「コストパフォーマンスを重視し、価格はかなり頑張った」という話を尋ねています。ホーネットとしての狙いが同じとなると、1000ccでもコスパはかなり重視していると考えていいですか?
ホンダ:CB1000Rと比べればそちら寄りとお考えください。
【ホンダCB750ホーネット】新開発の755cc並列2気筒エンジンを搭載し、2022年秋に登場したCB750ホーネット。XL750トランザルプとはエンジンやフレームの基本を共用する兄弟車だ。現状では日本へは未導入。
エンジンベースがRR-Rではない理由
【ホンダCBR1000RR SP(SC77)】フレームやエンジンなどは従来型(SC59)の構成を受け継ぎつつ、ほぼすべてに手を加えたSC77型。世界初のチタン製燃料タンクなどで当時クラス最軽量の195kg(STD)を達成。上級仕様のSPにはオーリンズ製電子制御サスペンションやブレンボキャリパーも投入された。
YM:CB1000ホーネットのエンジンベースはSC77型のCBR1000RRです。最新型のRR-Rではなく、一世代前のエンジンを選んだのはなぜですか?
ホンダ:RR-Rは明確にサーキットユースに割り切った車両ですが、一世代前のSC77はサーキットを主眼としつつ、ストリートも意識した車両でした。ホーネットは日常域とワインディング、トータルの楽しさを追求する車両ですので、開発チームとしてはRR-RよりSC77エンジンのほうが適していると判断しました。
YM:まだ正式なエンジンスペックが発表されていません。世界初公開となった昨年のミラノショー(EICMA)でも「110kW(≒150ps)/100Nm(≒10.2kg-m)」以上としか明かされていない。具体的にどのぐらいの出力/トルクになりますか?
ホンダ:まだお答えできませんが、ご期待いただければと。
YM:SC77型のCBR1000RRは192ps/11.6kg-mを発揮していました。CB1000ホーネットの「150ps以上」とはだいぶ開きがありますが…。
ホンダ:そこは…ご期待ください(笑)。ただし、ホーネットは日常の使いやすさやワインディングなどにおける中低速域の楽しさを重視しているので、けして最高出力だけを追う車両ではありません。ドライバビリティなどを含めて出力を最適化しているとお考えください。
YM:エンジンはSC77から何を変更していますか? FIなどの制御系は当然異なると思いますが、内部パーツも違うのでしょうか?
ホンダ:はい。動弁系やピストンを見直しています。
YM:ピストンというと…圧縮比が違うのでしょうか?
ホンダ:その詳細も現状ではお伝えできません。
YM:いろいろ突っ込んでばかりで申し訳ありません。それなのに、またまたCB1000Rとの比較を聞きたくなってしまうのですが(笑)。CB1000Rはバックボーンで、CB1000ホーネットはツインスパーと、同じスチールフレームでも形態が異なります。
ホンダ:まずはエンジンの吸気方式の違いに依ります。CB1000Rは吸気レイアウトがサイドドラフト式で、シリンダーヘッド後方にエアクリーナーを置けますが、CB1000ホーネットはダウンドラフト式となるため、エアクリーナーはシリンダーヘッド上に置くことになります。それに見合ったフレーム形態が必要になることと、さらに出力に合わせた高い安定性を得るための最適な剛性などをトータルで検討した結果、ホーネットではツインスパーを選択しました。
CB1000Rの特徴が背骨状の角パイプをメイン部材とするスチール製バックボーンフレーム。剛性を高めすぎず、ストリートに適したしなりをもたせるのがねらいだが、吸気方式がサイドドラフト式でないと採用は難しい。
あえて装飾を抑え、造形を引き立たせる
YM:グラフィックなどを用いない、単色のボティカラーのせいもあるかもしれませんが、車両全体としてはシンプルな仕立てというか、あえて派手派手しさを抑えているようにも感じます。
ホンダ:それはCB1000ホーネットの狙いでもあります。装飾的に彩って見せるのではなく、ホーネットのグラマラスなスタイルを最大限に引き立たせたかったんです。細部の造形で目を引くのではなく、スタイリングやボディラインの魅力を最大限に表現するため、あえてデコラティブな装飾は抑えています。
YM:シンプルな仕立ては狙いなんですね。個人的には金色のブレーキキャリパーとか黄色いサスペンションのグレードが追加されるのでは…なんて思ってしまいました。
ホンダ:なるほど(笑)。
YM:フレームのスイングアームピボットまわりも平らな板状というか、かなりシンプルな仕立てです。
ホンダ:はい。ですが、シートに近い部分はギューッと絞り込むなど、そういう部分で抑揚を表現しています。ここの絞り込みは足着き性にも貢献していて、初めてビッグバイクに乗るようなお客様、ミドルクラスからのステップアップでも違和感のない取り回しを実現しています。
YM:ミドルからのステップアップはかなり意識されているのですか?
ホンダ:もちろん意識しています。とはいえ走行性能も高いので、ベテランの方にも十分に楽しんでいただけます。
YM:かなり幅広いユーザー層を意識されているんですね。
ホンダ:何度も言うように、ホーネットというバイクは日常の使いやすさと高い走行性能の両立が伝統で、今回もそこにチームとして注力しています。ですのでぜひミドルクラスの方々にも乗っていただいて、高い出力の楽しさなど、新しいバイクの魅力を体感していただきたいです。
YM:高い出力の楽しさ!! その数値をどのあたりに設定されるのか、とても楽しみです。ありがとうございました。
ワールドプレミアの場となったEICMAでは白、赤、銀の3色が展示されていたCB1000ホーネット。日本に導入されるカラーは現状未定だが、MCショーに展示された白はほぼ確定か。
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