その①NSRの「形式」を判別する方法<後編>
前編で解説した3代目に続く、4代目となるNSRは‘90年登場のMC21型。ハチハチ最強のイメージが強いNSRですが、趣味や嗜好を除けばMC21=歴代最良のNSR、というのが業界の定説。「MC21でNSRは完成した」とホンダの開発者も認めているほどです。
MC21型(‘90〜93年式)
そんなMC21の特徴点ですが……。
①への字型スイングアーム「ガルアーム」の採用
②リヤタイヤ径の17インチ化(MC18まではリヤ18インチ)
③異型2灯ヘッドライトの採用
④フレーム形状の変更
歴代でMC21が最良と呼ばれる理由は、まずはコーナリング性能の高さにあります。フレームの剛性が非常に高く、乗り手によってはやや曲がりにくいとされるMC18に対し、フレームに適度なしなやかさを持たせ、さらにリヤタイヤを17インチ化することで「誰が乗ってもよく曲がる」マシンへと変貌。ちなみにNSR専門誌・プロスペックでは‘93年のWGP250王者・原田哲也さんに全年式のNSRを試乗してもらっていますが、MC21試乗後の第一声は「(ヤマハの)TZみたいによく曲がる!」でした。
さらに、エンジンの潜在能力も向上。ガルアームの採用でチャンバー取り回しの自由度が増した上、PGMも「3」へ進化してより高知能化しています。現に完調なMC21をリミッターカット(ハチハチほどではないにせよ、簡単なハーネス加工で可)してシャシーダイナモに載せると、ハチハチ同等の57〜8ps程度を発揮する上、ピークパワー発生後の出力低下も少ない、いわゆる「オーバーレブ特性に優れた」特性となっています。パワフルな上にパワーバンドが広い、言わば’88のパワーと‘89の扱いやすさを両立させているのがMC21です。
MC18とMC21の識別方法
全体的に剛性バランスを改めたため、フレーム形態が全く異なります。見てすぐわかるのはフレーム・メインチューブの厚みの違いでしょう。たっぷりと分厚いMC18に対し、MC21はかなり薄っぺら。先述したとおり、フレームの横剛性をMC18よりも下げることで、コーナリング時に適度にねじれる剛性バランスとされています。それでいてメインチューブの上下高を拡大することで、ブレーキング時に必要な縦剛性はキープする構成なのです。
過去のNSRの美点をすべて集約したような存在のMC21は、歴代で初めて1年ごとのモデルチェンジを行わず、‘93年までの4年間作られたNSRでもあります(その間にごく細かな仕様変更はあり)。レプリカブームも下り坂に差し掛かった時期ですが、それでも生産台数は約4万3000台、現在の登録台数も1万2000台程度と、今も昔も最も数の多いNSRがMC21です。
MC28型(‘94〜99年式)
NSRの最終型となるのが5代目・MC28。すでに中型クラスの人気がネイキッドに移行した時期に誕生したこの車両は、走行性能的な部分はほぼMC21を踏襲しつつ、様々な NEWフィーチャーが投入されたのが特徴。MC21からの主な変更点は下記となります。
①片持ち式スイングアーム「プロアーム」採用
②PGMカードキーシステムの採用
③新型フロントフォーク/キャリパーの採用
④アッパー/タンク/テールカウルの変更
⑤デジタル速度計の採用(回転系は指針式)
まずは最大の特徴となる片持ちスイングアーム「プロアーム」ですが、VFR400R(NC24/30)やVFR750R(RC30)などですでに採用済のメカ。見た目の格好良さは抜群で、MC21以前のNSRをプロアーム化するカスタムも定番です。もっとも、MC21のガルアームがヤマハの特許に抵触したため、スイングアームを変更せざるを得なかった、という裏事情もあるようですが……。
また、MC28が世界で初めて採用したカードキーシステムは、通常の鍵に代えて電磁結合式のカードを使用するもの(始動自体はキック)。このカードには点火時期などのエンジン制御データが収められており、HRCが販売していたレース用カードを使えばエンジン性能を向上させることができます。MC21までで言うところのリミッターカットが、HRCカードを差し込むだけで完了するわけです(でも、速度計が不動になるので公道走行は不可)。
そうしたNEWフィーチャーが贅沢に投入された反面、公称出力は自主規制の関係で45→40psにダウン(ダイナモ実測値もほぼスペックどおり)し、速度リミッターなしで最高速度を180km/h程度に抑えるため、ギヤレシオも全体的にショート化されています。つまり、MC28をMC21リミッターカットくらいの仕様に仕立てようとすると、出力を規制するために口径が絞られたノーマルチャンバーを加工(一般的なのは社外チャンバーへの交換でしょう)し、ミッションまわりをMC21用に交換。さらに点火系に細工して進角させ(理想的にはHRCカードの使用)……と、結構いろいろ手を入れる必要があります。自主規制の強化という足枷がはめられた結果、潜在能力を開放するにはちょっとばかり手間が掛かってしまうのがMC28と言えます。
とはいえ、ロスマンズ(‘94年式SP)やレプソル(‘96年式SP)といった人気カラーを擁し、プロアームのカッコよさや‘92年式NSR500を模した外装デザインなどにファンが多いのも事実。さらに、新型のキャブレターや、「4」へ進化したPGMのさらなる高知能化などでエンジンはさらに扱いやすくなり、25mm短くなった燃料タンクや幅広化されたシート、やや前進したステップでライポジも快適になっています。Fキャリパーは新型となり、Fフォークもより進化したダンパー構造をSPに与えるなど、細部に至るまで熟成&高級化がほどこされた、最終型にふさわしいNSRと言えるでしょう。レプリカブーム後の登場だけに生産台数は6000台少々と少ないのですが、5000台弱がいまだ登録されているという事実からは、オーナーが大切に維持している傾向が伺えます。
MC21とMC28の識別方法
さてさて、先述したとおり「プロアーム化」はNSRの定番カスタムなので、フレームの基本構成がほとんど同じMC21をプロアーム化されると、MC28との区別がつかなくなってしまいます。そんなときの判別方法ですが、これもMC18同様にスイングアームピボット周辺を見てください。
MC21とMC28のテールカウルを見比べると、MC21は前端部がフレームに達しておらず、少しだけシートレールが覗いています。対してMC28はカウル前端がフレームに沿うように延長され、シートレールを完全に覆っています。このテールカウルの取付ボルトを受けるためネジ穴が、MC28フレームには増設されているのです。
加えて、カードキー化されたためにキーシリンダーを持たないMC28では、フレームのヘッドパイプ裏に穴を開け、そこに電磁式ハンドルロック機構を収めています。外からは見えませんが、ここもMC21/MC28フレームの重要な差異です。
……さくっと5タイプのNSRを解説するつもりだったのですが、かなり長々と書き連ねてしまい恐縮です。ちなみに次回は各年式のカラバリを紹介予定。現存するNSRの外装なんて、年式違いのものが装着されていて当然という状況ですので、そのへんを見抜く方法をお伝えしたいと思います。
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