昭和50年(1975年)に自動二輪免許の限定条件『中型に限る』が誕生し、400ccを上限とした“中免”バイクが若者世代の中心になった。ガラパゴス化へと舵を切っていったが、だからこそ個性的なマシンが多く登場したと言えるのかもしれない。
●文:ヤングマシン編集部
- 1 400ccでも4気筒が主流に。250ccには2台の革命車が現れる
- 2 HONDA CB400FOUR──美しき孤高のヨンフォア
- 3 KAWASAKI Z400FX──待望のDOHCで4発ヨンヒャク再始動
- 4 YAMAHA XJ400──ヤマハ国内モデル初の4気筒車
- 5 YAMAHA SR400/500──43年もの歴史を紡いだ国産初のビッグシングルスポーツ
- 6 閑話休題……ホンダの名作レジャーバイクも次々登場
- 7 モトコンポ──初代CITYのオプションにも
- 8 CT110──世界が愛したサバイバルカブ
- 9 MONKEY Z50J──前代未聞の金メッキバイク
- 10 YAMAHA RZ250/350──驚愕のレーサーレプリカ誕生
- 11 HONDA CBX400F──飛ぶように売れた新世代ヨンヒャク
- 12 HONDA VT250F──“打倒RZ”の銘作VT現る
- 13 SUZUKI GSX400FSインパルス──標準でヨシムラ管が付いていた
400ccでも4気筒が主流に。250ccには2台の革命車が現れる
多気筒化を突き進んでいく大型バイクと歩調を合わせるように、中免ライダーに向けた高性能車も百花繚乱の時代を迎える。空冷4気筒の400ccが花形となっていくなか、消えゆくはずだった2ストロークの救世主としてヤマハRZ250/350が登場。黙って見過ごすはずもなかったホンダは、2年遅れて4ストロークV型2気筒エンジンを搭載したVT250Fを登場させた。空前のレーサーレプリカブーム、その前夜と言える時代。生ガスとオイルの匂い、白煙を振りまきながら、ディーゼル車の黒煙にケチをつける、そんなライダーたちが街にあふれていた。昭和55年は任天堂の携帯型ゲーム機・ゲームウォッチが流行し、ジョン・レノンが凶弾に倒れた。昭和57年には読売新聞朝刊で「コボちゃん」の連載がはじまっている。
中免とは、正確には自動二輪免許に含まれる中型限定自動二輪のことで、1975年より施行されたもの。それまでは自動二輪免許に排気量の制限はなかった。この頃の名残りで現在の普通二輪免許を中免と呼ぶ向きもある。ちなみに、1975年~1995年の“中型に限る”時代は、中免のまま大型バイクに乗っても限定条件違反になるだけだったが、1996年に普通二輪免許と大型二輪免許が分離したことから、現在は普通二輪免許所有者が大型バイクを運転すると無免許運転扱いになる。
HONDA CB400FOUR──美しき孤高のヨンフォア
まだ中型免許の区分がなかった時代。販売に苦しんだ狭間排気量車のCB350フォアをベースに、当時海外で流行していた魅惑のカフェレーサースタイルを盛り込むことで人気に火が着いた名作がCB400フォアだ。低いコンチハンドルにロングタンク、さらには鋲打ちしたダブルシートに管楽器のように美しい集合マフラーなどを装備し、’74年12月に発売。優秀なデザインに国境はなく、美しく生まれ変わったヨンフォアは日本国内のみならず、世界中で高く評価された。だが’75年秋には 400cc以下に限定された中型免許が導入され、ホンダは408ccだったヨンフォアに慌てて398cc仕様を追加することになった。
KAWASAKI Z400FX──待望のDOHCで4発ヨンヒャク再始動
ヨンフォアの殿堂入り以降、400クラスの4気筒は消滅した。しかし、4発を望むライダーは多く、その声にいち早くカワサキが動いた。’79年春に投入されたZ400FXは、新設計のDOHC4気筒を搭載し、クラストップの43psをマーク。車重は重かったが、キャストホイールに前後ディスク、セルのみの始動方式など最新の装備を誇った。マークII風の角Zデザインをはじめ、輸出仕様のZ500をベースとする大柄な車体も好評で、これが起爆剤となって後の400cc市場は加速度的に急成長、発展を遂げたのである。なお、FXのエンジンとスタイリングは’80年代の終わりにゼファーへと受け継がれ、転生を果した。
YAMAHA XJ400──ヤマハ国内モデル初の4気筒車
カワサキのFXで火ぶたが切られた400cc4気筒ウォーズに、 2番目に参入したのはヤマハだった。FXに遅れること約1年、XJ400はやはり空冷2バルブDOHCエンジンを搭載していた。しかも、エンジン幅をコンパクトに抑えるために先進の背面ジェネレーターを採用し、馬力の面でもFXを凌ぐ45psを叩き出した。また、FXの硬質なフィーリングとは異なり、XJには滑らかに吹け上がる特性が与えられていた。剛のカワサキに対し、柔のヤマハ。サスペンションも乗り心地が良く、それでいて鈍重さを感じさせない、スポーティなセッティングだった。ヤマハが国内に初投入した4気筒は、かくして好調な滑り出しを見せた。
YAMAHA SR400/500──43年もの歴史を紡いだ国産初のビッグシングルスポーツ
2021年以前に免許を取得したライダーなら誰もが知っているであろう、バイク界のスタンダードモデルがSRだった。その源流は’75年登場の名オフロードモデル・XT500で、SRはそのタフな空冷ビッグシングルをロードスポーツ向きにリメイクして’78年に誕生。フレームはダウンチューブをドライサンプのオイルタンクとしたセミダブルクレードルで、GKダイナミックスによる飽きのこない美しいフォルムをまとう。中型免許用に500からストロークを短縮して作られた400は、初登場の’78年からファイナルエディションが発売された’21年までの43年間を生き残ったロングセラーモデルとなった。
閑話休題……ホンダの名作レジャーバイクも次々登場
この頃は、遊び心にあふれるレジャーバイクも多数登場している。特にホンダは個性豊かな原付、原付2種をリリースし、のちにプレミア価格が付くようなエポックメイキングなカワイイやつらが街中を闊歩した。ここにその一部を紹介したい。
モトコンポ──初代CITYのオプションにも
ハンドルとシートを折り畳み式としてクルマへの積載を簡単にした持ち運べるジャーバイク。ガソリンやオイル等の液漏れ防止機構を備える。
CT110──世界が愛したサバイバルカブ
スーパーカブをベースに、オフロード走破性を高めたトレッキングモデル。海外における「ハンターカブ」のペットネームでも愛されている。
MONKEY Z50J──前代未聞の金メッキバイク
長い歴史の中、様々なカラーがあったが、中でも人気が高いのがゴールドの’84年リミテッド。’96年にもゴールド仕様が販売された。
YAMAHA RZ250/350──驚愕のレーサーレプリカ誕生
2ストレプリカの祖であり、低迷期の250ccクラスの救世主となったマシンがRZである。’70年代の日本国内の250ccは、400ccの格下グレードと見なされる傾向が強く、さらには排ガス規制の影響で2ストには逆風が吹いていた。しかし、ヤマハ陣営は「最後の2ストスポーツを造る」意気込みで技術の全てを盛り込んだRZ250を完成させる。ロードレーサーTZ250をベースとした2スト水冷並列2気筒は環境規制をクリアしながら、リッター当たり140psのハイパワーを実現。ロードスポーツ初のモノサスに流麗なデザインを持ち、RZ250は大ヒットに。250&2ストが息を吹き返したほか、後のレーサーレプリカの先駆けとなり、空前のバイクブームを巻き起こししていくことに。
HONDA CBX400F──飛ぶように売れた新世代ヨンヒャク
’81年11月、ヨンヒャク4気筒戦線についにホンダが介入。CBX400Fを解き放つ。 さすがに最後発だけあり、エンジンは空冷DOHC4バルブを採用した超コンパクトな並列4気筒を新開発。馬力はクラストップの48psに到達した。 さらにエア加圧式フロントフォークやリンク式モノショック、中空アルミスイングアーム、鋳鉄ディスクのインボードブレーキなど、最先端のメカニズムを満載。性能も非常に優れており、当時人気のあったSS400やTT‒F3といったレースでも高い戦闘力を発揮した。 ストリートでも扱いやすく、しかも高性能でスタイリッシュ。CBXは飛ぶように売れ、見事に成功を収めたのだった。
HONDA VT250F──“打倒RZ”の銘作VT現る
RZ250の対抗馬としてホンダが放った、NR500のDNAを持つこだわりの4ストスポーツ。250クラス初の水冷Vツインは4バルブとされ、RZと同じ35psを1万1000rpmという超高回転域で発生。スムーズエンジンとスリムな車体は非常に扱いやすく、’84年登場の 2型と共にヘ大ヒット。’85年には累計生産10万台を突破した。
SUZUKI GSX400FSインパルス──標準でヨシムラ管が付いていた
2気筒のGSX400Eで培ったハイテクのDOHC4バルブを、400マルチで初採用したGSX400Fが’81年に登場。さらに’82年7月、上級モデルのインパルスが追加された。ヨシムラと共同開発した4in1を標準で備え、最高出力は45→48psにアップ。オイルクーラーやアルミスイングアーム、セパハンなど走りを重視したアイテムも多く盛り込まれた。
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