
ホンダが「前二輪揺動三輪車」にまつわる特許を登録していたことがわかった。発行日は3月2日とけっこう前だが、単に3輪バイクを実現するというようなものではなく、3輪ならではの自動ブレーキ対応やロール制御技術を開発しているようだ。
●文:ヤングマシン編集部(ヨ)
コーナリング中の自動ブレーキでも車体姿勢をキープできる
ヤングマシン2019年1月号掲載のCG。2015年の東京モーターショーではホンダが「ネオウイング」を初披露していた。
ホンダが3輪バイクを開発しているという噂は、2015年あたりから出たり消えたりしつつ、最近は気配が消えつつあった。しかし、どうやら開発は続いている可能性があるようだ。ホンダが登録した「前二輪揺動三輪車」にまつわる特許が、去る2023年3月に発行されたのだ。
4輪に始まった運転支援の充実ぶりが2輪にも波及し、最近ではレーダーを使ったアダプティブクルーズコントロール(ACC)が実現。パワーモードやサスペンションの電子制御なども、登場初期から比べれば制御の細やかさが相当にレベルアップしている。
ただ、バイクはライダーが跨って乗るもので、車体を傾けて走ることから、不意の強い加減速はご法度とされてきた。もちろんACCは前車に追従して走ることから、ある程度の加減速はするものの、基本的にはゆったりスロットルを開けたり閉じたりで、挙動が乱れる可能性がある緊急的なブレーキの作動までには至っていない。
これはライダーなら直感的に「そりゃ実現は難しいよね」と思う代物で、たとえばカーブで車体が傾いているときに自動ブレーキが作動したとしたら挙動が乱れ、ライダーが振り落とされんばかりに安定性を失うのではないかと想像してしまう。特に怖そうだなとイメージしてしまうのはフロントタイヤの挙動で、タイヤがグリップを失ったり、急激な減速で車体が立ってまっすぐ行ってしまうシーンが容易に想像できる。
これを解決する(ためだけではないのだろうが)技術として一定の回答になりそうなのが、前2輪の3輪バイクということのようだ。
この特許では、まず前2輪のロールを補助する「揺動補助装置」というものがあり、これで車体の傾きを制御する。車両の姿勢状態(どれだけ傾いているか等)にもとづいて姿勢制御トルクを演算し、旋回状態であるかどうかを判断するとともに、直進状態であれば車両を直立キープしつつ自動ブレーキを作動、また旋回状態と判断すれば、車体の傾斜を維持するトルクを発生しながら自動ブレーキを作動させる。
普段は2輪と同じようにステアリングを自由にし、ライダーの意思どおりに動くようにしておきつつ、制御が必要な際には自立ロールトルク(車体を直立させる)、またはロール維持トルク(車体の傾斜を保つ)を発生させるわけだ。カーブの途中でロールを維持するということは、走行ラインを可能な限り乱さないように制御する、ということに繋がるはず。
これらの制御は、走行速度が上がると低くなり、下がると高くなるという。車速が上がると安定するバイクの特性を生かし、低速の不安定なところで積極的に介入するということだろう。
『3輪バイクに自動ブレーキを搭載することが望まれるものの、車体が左右に傾くため、自動ブレーキの作動時にはライダーがバランスを取るために複雑な操作を必要とする』という課題に対し、ロール制御を加えることでライダーの負担軽減し、自動ブレーキ実装へのハードルを下げることが可能になるというわけだ。
ホンダが2021年末に公開した自立バイク「ライディングアシスト2.0」をご記憶の方もおられるだろうが、これと同じような立ちゴケしない姿勢制御技術を盛り込むことも可能だろう。
実際にこうした3輪が市販化される可能性があるのか、それがいつになるのかは何とも言えないが、こうした技術によって誰もが、例えば足が不自由な場合であっても安全にバイクライフを楽しめる、そんな扉が開く日を心待ちにしたい。
ホンダが第44回東京モーターショー2015に出展したNEOWING(ネオウイング)。水平対向4気筒エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステムや、前輪に独自のリンク機構を採用すると謳っていた。
エンジンのシリンダーの前傾角などからNC750系の車体をベースにしている模様。これに独自のリンク機構を備えたフロントまわりをマウントしている。
左右にリーディングリンク式のサスペンションを備え、それを並行リンクで支持する。平行リンクのアッパーアームに揺動制御機構を設けている。ロワーリンクのところの左右のロッドはステアリング用か。自動ブレーキについては今回の特許で詳しく解説されていない模様。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
自然な乗り味を重視。操る楽しみは奪わない 空車状態のバイクがスタンドなしで直立している。ライダーが乗り込むと、2km/hの極低速でも倒れることなく旋回していく…。栃木県のテストコースでホンダが報道陣に[…]
未来の新車を大胆に予想(×妄想)することでおなじみの『ヤングマシン』。2018年はヤマハのLMWフラッグシップとしてナイケンが登場し、大きな話題を呼んだ。続く2019年はホンダが3輪市場に手を打ってく[…]
オートクラッチ操作とマニュアル操作を自在に切替可能? 2021年6月にお伝えした『クラッチもバイワイヤ! ホンダの新たな特許、指1本で軽々操作できる……だけじゃない?!』という記事を覚えている方はいら[…]
2022年8月には新世代GSX-R1000と思われるエンジンの特許情報が公開され…… スズキは国内の公式HPで、リッタースーパースポーツ「GSX-R1000R」および軽二輪スクーター「バーグマン200[…]
動力伝達を切断することなく変速できるシームトランスレスミッション コンマ1秒のラップタイムを競うレースの世界では、昔から無駄のないシフトワークがライダーに必要なスキルとされてきた。できるだけ素早くシフ[…]
最新の関連記事(メカニズム/テクノロジー)
ヤマハ発動機と三菱重工業は、200kgの貨物を搭載可能な中型マルチコプター型無人機(以下、中型無人機)の開発に向けた共同研究を行っていることを発表した。 パワーユニットには、ヤマハが2023年にコンセ[…]
スズキは、5月から7月にかけて横浜・名古屋・オンラインで開催される「人とくるまのテクノロジー展 2025」(主催:公益社団法人自動車技術会)に出展する概要を発表した。 今回のスズキブースでは、2025[…]
ヤマハ発動機は、5月21日(水)~23日(金)にパシフィコ横浜で開催される国内最大級の自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2025 YOKOHAMA」(主催:公益社団法人自動車技術会)に出展し、同[…]
そもそも「過給機」とは 世界最大規模の2輪車ショーといわれるEICMA(ミラノショー)。2024年11月に開催された同ショーにおいて最大級の注目を集めたのは、ホンダが初公開した電動過給機付きV型3気筒[…]
トレッドのグルーブ(溝)は、ウエットでタイヤと接地面の間の水幕を防ぐだけでなく、ドライでも路面追従性で柔軟性を高める大きな役割が! タイヤのトレッドにあるグルーブと呼ばれる溝は、雨が降ったウエット路面[…]
最新の関連記事(ホンダ [HONDA])
ガチの原付二種ライバルを徹底比較! 原付二種と呼ばれる、50cc超~125cc以下のバイクはユーザーメリットが多い。任意保険は4輪車などに付帯させるファミリーバイク特約が使えるし、自動車税も90cc以[…]
TSRのEWCレーサーをイメージさせるCBR250RR用スリップオン 2023年の世界耐久選手権(EWC)からコラボレーションを開始した「F.C.C. TSR Honda France」と「アールズ・[…]
専用ロゴがファン心をくすぐる 1975年に初代GL1000が誕生してから50年が経つホンダのプレミアムツアラー、ゴールドウイング。2018年のフルモデルチェンジでは、フロントにダブルウィッシュボーンサ[…]
ホンダCBR600RR(2020) 試乗レビュー 排気量も気筒数も関係ない、コイツがいい! 仕事柄、しばしば「スーパースポーツが欲しいんですけど、リッタークラスとミドルクラスのどっちがいいと思います?[…]
”デカ猿”の衝撃:ホンダ「モンキー125」【初代2018年モデル】 発売は2018年7月12日。開発コンセプトは、楽しさをスケールアップし、遊び心で自分らしさを演出する“アソビの達人”だった。原付二種[…]
人気記事ランキング(全体)
情熱は昔も今も変わらず 「土日ともなると、ヘルメットとその周辺パーツだけで1日の売り上げが200万円、それに加えて革ツナギやグローブ、ブーツなどの用品関係だけで1日に500万円とか600万円とかの売り[…]
正式発表が待たれる400ccオフロード/スーパーモト スズキは、昨秋のEICMA(ミラノショー)にて、新型400ccデュアルパーパスモデル「DR-Z4S」およびスーパーモトモデル「DR-Z4SM」を発[…]
660ccの3気筒エンジンを搭載するトライアンフ「デイトナ660」 イギリスのバイクメーカー・トライアンフから新型車「デイトナ660」が発表された際、クルマ好きの中でも話題となったことをご存知でしょう[…]
カワサキUSAが予告動画を公開!!! カワサキUSAがXで『We Heard You. #2Stroke #GoodTimes #Kawasaki』なるポストを短い動画とともに投稿した。動画は「カワサ[…]
止められても切符処理されないことも。そこにはどんな弁明があったのか? 交通取り締まりをしている警察官に停止を求められて「違反ですよ」と告げられ、アレコレと説明をしたところ…、「まぁ今回は切符を切らない[…]
最新の投稿記事(全体)
[1996] ゼファーχ(ZR400-G1):4バルブ化でパワーアップ 1996年3月20日発売 ネイキッド人気でしのぎを削るライバル車に対抗し、カワサキの空冷4気筒で初の4バルブとなるχ(カイ)が登[…]
日本を代表する3000m級の高峰絶景が楽しめる北アルプス山脈(飛騨山脈)。その雄大な北アルプス山脈の絶景が楽しめるのが、長野県小川村を横断する「小川アルプスライン」だ。約12kmにわたる全ルートとスポ[…]
1万4000人が詰めかけたブルスカ2025 山下ふ頭の特設会場は横浜ベイブリッジを臨む広大なもので、世界限定 1990台限りのアイコン コレクション「ファットボーイ グレイゴースト」のお披露目をはじめ[…]
『ヤングマシン電子版7月号』WEBマガジンの閲覧も読者プレゼント応募も”無料”! 現在、当サイトのトップページに掲載中の『ヤングマシン電子版7月号』において、豪華商品が当たる読者プレゼントを実施中だ![…]
Paceプロジャケット 豊富な安全装備と快適な着心地を高次元でバランスした、ワインディングやロングツーリングに最適なライディングジャケット。腕と肩のトリムには、スチールとプラスチックを組み合わせたコン[…]
- 1
- 2