電動ビジネスバイク・ジャイロe:のモーターやバッテリーなどを転用した、ホンダ初の小型船舶向け電動推進機(船外機)のプロトタイプが島根県松江市とのタッグで実証実験を開始。「水上のカーボンニュートラル」の実現を目指し、松江城のお堀を巡る観光遊覧船「堀川遊覧船」に搭載して商品性や耐久性を検証していくという。
●文:ヤングマシン編集部(マツ) ●写真:編集部/ホンダ
水上のカーボンニュートラルは二輪の技術で推進する
「船外機」とはご存知のとおり、船舶に取り付けるパワーユニット。ホンダだけでなく他の国内二輪メーカーも参入しており、現状ではエンジン搭載モデルが大勢を占めている(そのうち2割はなんと! まだ2ストロークも残っているというから驚く)。
今回ホンダが製作したのは、モーター+バッテリーによる電動式船外機のプロトタイプ(ホンダは電動推進機と呼称)。同社としては初の試みであり、まずは遊覧船で実際の使い勝手や耐久性を検証していこう…というのが、島根県松江市とのタッグで8月からスタートした実証実験の概要だ。
なんだ、バイクは関係ないじゃん…と思うなかれ。この電動推進機のモーターや制御系はホンダの電動ビジネスバイク・ジャイロe:用なのだ。となればバッテリーもホンダの電動バイクではおなじみのモバイルパワーパックe:(以下MPP)で、これを2個使用する。ホンダは2050年のカーボンニュートラルを目指しているが、船外機では二輪の電動化技術でそれを目指していくとのこと。つまり、水上を走っていても魂は二輪ということだ?!
二輪の既存パーツを上手く転用しつつ、フレームまわりは小型船外機のトップメーカー・トーハツ製(=ホンダからは大型船外用エンジンを供給している関係だ)とした構成は「電動推進機をいちはやく世の中に出すため」の策だそうで、水上のカーボンニュートラルに向けたスピード感の現れと思えるし、ホンダはMPPを二輪以外の機器にも展開する構想を持っているから、今回のプロジェクトはその一環という見方もできるだろう。
この実証実験が行われるのは松江城のお堀を巡る堀川遊覧船で、定員12名の船が1周3.7kmのコースを50分ほど掛けて廻っており(速度は4〜5km/h程度)、現在は222cc・2気筒(9.9ps=7.4kW)のエンジン船外機を使っている。今回導入される電動推進機は4kWと半分強の出力だが、特性的に低速トルクが強く加速力は同等で、スイッチ操作で即座にプロペラが逆回転するので減速性も優れる(エンジン船外機は後退ギヤに入れ替えるのでタイムラグが生じる)。仮に堀川遊覧船の船外機を全てを電動に置き換えたとすれば、年間47トンのCO2を削減できる計算になるという。
乗客目線だと、電動化にはメリットしかない!
今回は電動とエンジン船外機を乗り比べる機会を与えてもらった。まずはエンジン船だが、これだけ乗っていれば特に気にならなかった騒音や振動が、電動に乗り換えるとあまりにも少なくて驚かされる。エンジン船ではマイク&スピーカー越しに会話していた船頭さんと地声で話せるなど、堀川遊覧船での船外機の電動化は、乗客としたらメリットしか感じなかった。船頭さんも手が痺れにくくて楽だというし、常に同じルートだからバッテリー消費量も計算しやすい。電動モビリティの投入環境としては理想的だろう。
松江市は地域創生のためにカーボンニュートラルを推進しており、今回のタッグもホンダが‘21年に電動推進機のコンセプトを発表した際、松江側から声掛けしたことがきっかけ。実証実験は8月からスタートしており、関係者による試験運転を終えた後は営業運転にも供される予定。静かな船から眺める国宝の城は、きっと少し違って見えるハズ?!
エンジン船外機は4輪エンジンベースも!!
取材会場には普段あまり目にすることのない、ホンダのエンジン船外機も展示されていた。写真は4輪アコード用の2.4L直4エンジンがベースの「BF135」(数字は馬力を示す)で、クランク垂直置き(?!)となるエンジン搭載方法も独特ながら、排ガスをプロペラ中心から排出して推進力にも利用することや、冷却に湖水(海の場合は海水)を利用することなどなど、二輪や四輪のエンジン知識だと驚かされることしきり!
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