自工会が2023年に調査したところによると、ライダーの6割は電動バイクを“欲しくない”と回答したという。様々なSNSのコメントなどを見ても、否定的な反応は同様の割合かもっと強い印象がある。実際にエンジン大好きなライダーが電動バイクに乗ったらどう感じるのだろうか?
●文:ヤングマシン編集部(ヨ)
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エンジンみたいな気持ちよさはないでしょう? って、確かに違う乗り物だけど……
2023年にはホンダが同社初のパーソナル向け電動バイク「EM1 e:」を発売し、2024年にはカワサキが国産初のスポーツタイプ電動モーターサイクル「ニンジャe-1」「Z e-1」を発売した。
これらにともないメディアの人間も電動バイクに試乗する機会が増えてきたわけだが、エンジン付きの乗り物が大好きで、縦置きクランク90度V型2気筒というクセ強エンジンを搭載するモトグッツィV7(2013年型)を所有する筆者のようなおっさんにとっては、素直に受け入れていいもんなのか戸惑いを禁じえない部分もある。
バイクは、いわばエンジンを懐に抱えて走るような乗り物で、クルマなどに比べるとエンジンの重量や出力、振動による影響がよりダイレクトに感じられる。その根幹にあたるエンジンの代わりにモーターとバッテリーを搭載する電動バイク(EV)とはどういう乗り物なのか。
EVはバッテリーの生産などでCO2を排出する側面があり、トータルで見ればカーボンニュートラルに近づいているのか疑問視する意見もある。また、エンジンも低燃費の追求などでより低コストかつ高効率になりつつあり、近い将来に全てが完全なEVに置き換わるとは思えないが、そうした話はさておき、シンプルに乗り物としてどうかというところにフォーカスしたいと思う。
ここ数年でいくつかのEVモデル試乗を経て感じてきたことは、以下のようなものだった。
1)静か!
当たり前だがエンジンには吸気音/排気音/メカノイズがあって、モーターにはわずかなメカノイズくらいしかない。
メインスイッチをONにし、スターターボタンを押してもメーターの表示が“READY”とか“GO!”とかに変わるだけ。そこからスロットルをひねれば、これまた静かに走り出す。音といえばモーターまわりの小さな『キュィーーン』というギヤ鳴りだかインバーター音? だかがある程度だ。
じゃあこれがつまらないかというと、意外とそうでもない。エンジンの音がなくなったぶん、走ると風の音やロードノイズ、車体の振動音などがクリアに聞こえ、周囲の交通の音にも敏感になる。こちらが音を発しないことで歩行者などに気づかれにくくなったとしても、ライダー側は周囲を観察するためのリソースが増す感じだ。
乗っているバイクの音で聞こえてくるのは、モーターの音、ドライブチェーンの音(機種による)、タイヤのロードノイズ、路面の凹凸によるボディの振動などだ。ブレーキをかければ摺動音もする。
バイクの挙動を感じ取りながらライダーは操作で働きかける……というライディングの面白みはEVにもしっかり備わっており、ある程度パワーのあるEVなら加減速もちゃんと楽しい。
2)意外とパワフル!
2002年にヤマハがリリースした電動スクーター「パッソル」が筆者にとって初めてのEVだったが、これは原付一種なのにちょっとタイミングを取れば簡単にウイリーもできるような代物だった(もちろんクローズドの安全な場所で)。
その後に続く製品では、安全に配慮してか穏やかな発進加速になっていたが、0回転で最大トルクを発生できるモーターの特性からすると、剥き出しでパワーを出せば原付一種でもかなりパワフルなのだなと驚いた記憶がある。同クラスでは2023年にホンダEM1 e: に試乗したが、こちらは原付一種ということで空冷4ストローク単気筒のスクーターと同等くらいな印象だった。
2010年代前半にZEROモーターサイクルのネイキッド(機種名は失念)に試乗し、速道路を不安なく走行できる動力性能を体感。6~7年前に乗ったBMWのCエボリューションはかなりのスタートダッシュで、体感的には750ccクラスくらいのパワフルさだった。
そして2024年のニンジャe-1だ。コイツはeブーストというギミックが付いていて、ボタンを押すと一定時間だけ加速力/最高速が強化される。車格は原付二種だが、eブースト使用時には400ccクラス並みのスタートダッシュに驚かされた。
例外的なのはエネルジカEGO+だが、これはそもそも171psの最高出力で0-100km/h加速は2.6秒というモンスターEV。“意外と”どころではないパワフルさで、ちょっと引くくらい速かった。
いずれにも共通するのは、ゼロ発進からのスタートダッシュの強力さだ。高回転域になるにつれてトルクは減衰していき、穏やかにパワーが落ちていく。
3)涼しい!
バッテリーとモーターも発熱はするが、ライダーが熱さを感じるほどのことはない。家に帰ればすぐにカバーをかけられるし、真夏でも走れば自転車のように涼しい。まあ冬は熱源がないので寒いわけだが……。
4)航続距離が気になる……
充電できるスポットはガソリンスタンドほど普及していないので、残りどれくらい走れるか(航続可能距離)、そして充電する場合はどこでどのように充電するのかをある程度常に意識させられる。
言ってみれば、バッテリー残量と航続可能距離が数字としてリアルに減っていくことに対してある程度の耐性が必要になるわけで、ここをあまりストレスに感じると楽しめる時間が短くなるかもしれない。
ただしこれは使い方によって全く印象が変わるもので、たとえば配達などのビジネス用途やクローズドコースでのファンライドなど、狭いエリアを走って必ず同じ地点に戻ってくるような使い方なら交換式バッテリーがとても有用だ。ある程度走ったらバッテリーを交換してしまえばよく、ストレスフリーでライディングを楽しめるはず。
また、街乗りのみであれば航続距離50kmもあれば十分で、使ったらその都度充電しておけばいいだろう。ただし、自宅で充電するのが難しい場合は微妙かもしれない。
筆者の場合、1990年代に航続距離100kmあるか微妙な2ストのオフ車(部分的にキットパーツ入り)を普段使いしていたことがあるので、それと同程度の使い勝手だなぁと思ったりもした。ちなみにそのオフ車はとてもシートが硬く、100kmを一気に走り切るのはかなり苦痛だったのを覚えている。
ツーリングに行こうと思うなら話は変わってくる。やはり100kmくらいは無充電で走ってほしいし、航続可能距離もかなりシビアに意識しなければならない。
はっきりツーリングでも実用的と言えるレベルなのはエネルジカだろう。回生ブレーキが使える街乗りなら420km、高速道路で200kmの航続が可能で、かつチャデモの急速充電対応だから、一般道と高速道路を交えて往復300kmくらいのツーリングは(途中1~2回の急速充電を挟むとしても)十分に射程範囲。ただし、まだ大衆的と言える価格ではないので、一部のエンスージアストのみが楽しめる乗り物ではある。
航続距離をもって「EVはとてもツーリングに使えない」という声もあるが、ガソリン車でもツーリングに全く不向きなバイクは存在するし、EVでもちゃんと使えるものはある。十把ひとからげにEVだから or ガソリンだからと決めつけることに意味はないと思う。
5)それなりに重い
交換式、または取り外して充電可能なバッテリーであれば、その重量を実感しやすい。ホンダのモバイルパワーパックe:は10.2kg/1個、ニンジャe-1が2個搭載するバッテリーは11.5kg/1個あり、普通の大人なら大丈夫でも、華奢なタイプの人にはちょっと負担だよなぁ……と思うことも。
取り外しできないタイプも車重増の主な要因はバッテリー重量で、ハイパワーなエネルジカEGO+は車重260kgとハヤブサ並みだ。ただしバッテリー搭載位置には自由度があるので、低重心かつマスの集中した造りにはできるように思う。
いずれにしても、航続距離を求めれば車重と価格に跳ね返ってくるのは間違いない。バッテリーに革命的な進歩があれば車重と航続距離の課題を解決できるとして、そんな大容量バッテリーを急速充電しようとすれば巨大なインフラ整備も必要になる。
重さという意味では、押し歩きにモーターならではの抵抗がわずかながらある点も見逃せない。変速機やクラッチを持たず、後輪とモーターが繋がりっぱなしゆえにモーターの抵抗はそこそこ影響があり、特にハイパワーになればなるほど押し歩きが負担になってくる。それを見越して、ニンジャe-1/Z e-1はウォークモード、EGO+は押し歩きモードを搭載し、ともに前進/後退が可能だ。極低速での取り回しをモーターでサポートしてくれる。
まとめ
出はじめの頃のEVは制御が不自然なものもあったが、最新世代は音が静かなこと以外、ほぼ普通のバイクだ。スロットル操作に対する反応は違和感が全くなく、どちらかというと、静けさゆえに感じ取りやすくなった車体固有のクセのほうに意識が行く。
充電の方法や頻度など、使い勝手の部分ではEVを意識せざるをえないが、走っているときに気後れするようなこともなかった。
いずれも乗ってみないとなかなかリアルなところがわからないことが多く、それでいて世の中に試乗機会が少ないというのが問題なのかもしれない。ネット界隈で見かける「エンジンの音がしないのはつまらないからダメ」的な論も「乗ってみてから言えばいいのに……」と思う反面、実際にはそれもなかなか難しいのが悩ましいところだ。
というわけで、電動バイクに肯定的でも否定的でも、なにかしらの機会に一度は試乗してみてほしい。『乗り物好き』が楽しめる要素はなにかしら感じ取れるはずだ。
筆者個人の見解を最後に述べると、やっぱりエンジンは大好きである。特に縦置きクランクのようなスロットルの開閉で左右に車体が揺れるシロモノであるとか、吸排気音が加速とシンクロして楽しめるクロスプレーンの音であるとか、さらに普通の並列4気筒の突き抜けるような高回転サウンドなども大好物。でも、だからといって電動バイクがつまらないとも思わないし、それはそれで魅力があると思っている。ガソリン車と電動車はつぶし合うような関係ではなく、人それぞれが好きなものを選ぶための選択肢が増えているにすぎないのだ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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