無限に加速するかのようなスーパーチャージドエンジンを抱くスポーツツアラーのニンジャH2SXが、国産量産バイク初のレーダーシステムを搭載してリニューアル! 数々の電脳装備は、単なるギミックか、それともバイクの未来を切り開く神器なのか!? ヤングマシンメインテスター・丸山浩による試乗インプレッションで、その性能を紐解く。
●まとめ:ヤングマシン編集部(伊藤康司) ●テスト:丸山浩 ●写真:山内潤也 ●外部リンク:カワサキ
電脳化に磨きをかけたサイバーツアラー
スーパーチャージドエンジンを搭載する唯一無二のマシン・ニンジャH2から派生したスポーツツアラーのニンジャH2SX。’18年の登場以来、上級グレードのSEや電サス装備のSE+などラインアップを拡充してきたが、’22年型で大きくモデルチェンジ。
ユーロ5対応に伴いエキゾースト系を刷新し、エンジンもミッションやクラッチを最適化。トルクデマンド機能付きのFI‐ECUはボッシュ製10.3ME新型ABSと協調し、6軸計測可能な新型IMUも装備して、電子サポートをいっそう緻密でスムーズに進化させている。
そして本車の最大のトピックは、ボッシュ社のARAS(アドバンスドライダーアシスタンスシステム)を、国産量産モデルで初めて搭載したところ。すでに欧州車ではドゥカティ/BMW/KTMが採用しているが、システムのハードは共通でも、ソフトの設定は各二輪メーカーに委ねられるので、フィーリングは車種ごとに異なるという。
同じくボッシュ社が開発したスマートフォン連携のインフォティメントシステムのマイスピン(カワサキスピン)も装備。さらにSEが装備する電子制御サスペンションもアップグレード。そんな電脳化が一気に加速したニンジャH2SXSE(以下SX)の実力を確かめてみよう。
まずはARASだ。ミリ波レーダーで前走車や周囲の動を監視し、ACC(アダプティブクルーズコントロール)/FCW(フォワードコリジョンワーニング/前方衝突警告)/BSD(ブラインドスポットディティクション/死角検知)の三種の機能が備わった。
なかでも試乗前から興味が大きかったのがACCだ。じつは四輪では10年以上の歴史があるが、初期の国産車はかなり保守的だった。車間距離や割込み、カーブなどの状況変化が大きいと、すぐに制御を切ってドライバーに委ねる。安全優先なのは理解できるが、あまり頻繁にACCが解除され、再起動の操作を繰り返すのはストレスになり、結果的に使わなくなることも…。また既存の二輪車のクルーズコントロールも、深夜などかなり道路が空いた状況でないと実用的でないのも事実だ。
しかしそんな疑念は、高速道路でACCをオンにしてすぐに消し飛んだ。本当に“使える”のだ。まず前走車にキッチリ追従し、前走車の速度が急に落ちて車間が縮まると、相応に強くブレーキが利いてキチンと減速し、機能を継続。さっさと解除して“あとはライダーよろしく”にはならないのだ。比較的カーブがキツい区間でも必要以上に減速せずにしっかり追従する。車間距離は3段階で選べ、どれもが状況や気分で使い分けるのにちょうどいい。
FCWは、あくまで衝突警告であって、四輪のような自動ブレーキではないが、これも安全に対して有用な機能だ。ちなみにACCも1/2速なら30km/hまで対応するが、それ以下になると機能が解除され、停止するまで自動でブレーキが利くわけではない。そしてBSDは、SXのミラーはかなり視界が広く死角が少ないため、検知してミラー内のLEDが点滅した時は、たいてい車が映って見えている。とはいえ、車線変更のタイミングで真横近くまで急接近されたときはミラーに映らないので、やはり有効な機能だ。
欧州向けスポーツツアラーとしての真価
モデルチェンジによる価格差は、標準車で20万9000円、電サス付きの上級グレードで14万3000円。これがすべて新装備のARASの値段というワケではないだろうが、機能と実用性の高さ、スポーツツアラーの装備としての有用性を考えると十分に納得のできる価格差だ。そもそも高価格なバイクだから、というわけではなく仮に70万円の250ccがARAS装備で85万円になったとしても私ならそちらを選ぶ、と言えるほど優秀なのだ。
そしてエンジンや制御系も多岐に渡って進化/リファインされているが、じつは高速道路の巡行やワインディングを流している時点では「もう少しスーパーチャージャーの特性を出してもいいんじゃないか」と感じていた。ライディングモードをスポーツ/ロードで切り替えても、大きな変化を感じなかったのもその一因かもしれない。
ところがワインディングで回転を上げた走りをしたら、完全に評価が変わった。8000rpm+αほど回すと、ヒュルヒュル、パシューッとSCサウンドを響かせ、俄然アグレッシブ。スポーツだとレスポンスとメリハリが良く、そもそもこのマシンはヨーロッパのハイスピードツーリングに向けた設定で作られた、と認識。ツアラーではなく“スポーツツアラー”なのだ。
その特性をさらに増強しているのが、SEが装備するブレーキと電サスだ。まず200psに見合った絶妙なコントロール性のブレーキは、クルマで言えばポルシェのように秀逸。これはブレンボのキャリパー&マスターの威力で、とくにブレーキ初期が素晴らしい。そして奥でギュゥーっと粘るのは電子制御サスペンションでカバーしている。スポーツツアラーやGTマシンとして最強のセットだ。
その電子制御サスペンションは、普段は柔らかくソフトに動くが、高速域や急な入力にはギュッと締めて巨体を収束させる。また前述の“回してスポーティな走り”をすると、ロードではスロットルの開け閉めでピッチングが大きいが、スポーツではシャキッと締まる。この変化は見事で、統合型のライディングモードの設定と合わせて「カワサキのテストライダー、しっかりテストして味付けしているな~」と感心させられる。
――都内の移動や休日のツーリングで3点ボックス付きのバイクが欠かせない私としては、ニンジャH2SXSEは次期マシンとして確実に候補に挙げられる1台となった。嬉しくもあり悩ましい存在である。
専用アプリ投入で、スピンの使い勝手が爆上がり
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